このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

─ 錆 ─


蒸気機関車のボイラは鉄でできている。鉄の容器に水を入れておけば、容器は錆びてしまう。 蒸気機関車といえども、物理・化学の法則から逃がれることはできない。錆びるがままにして おくとボイラ水は錆びだらけになってしまうし、構造材が薄くなって圧力に耐えられなくなる おそれが出てくる。(たいていの場合、ピンホールといって、針で突いたような孔があいて、 蒸気が漏れ、圧力が上がらなくなる。)
「錆びる」というのは金属が酸素と化合して酸化物となること。ボイラの場合は水に溶け込ん だ空気の酸素が錆びの原因となる。「給水温め器」の解説で、熱の有効利用と説明したが、実 はボイラ本体に給水する前に予熱することは、溶存酸素を追い出して、錆び防止になっている。 これに加えて、ボイラへの給水に、清缶剤といって薬剤を投入する。蒸気機関車の場合はラン ボード(ボイラ横の点検通路)上に薬剤を入れる箱が設置されている。投入する薬剤にどんな ものが使われているか不明だが、通常、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ剤 を投入する。ボイラ水をだいたいPH(ペーハー)11ぐらいの弱アルカリに保つと鉄の錆を防ぐ ことができるとされている。
このアルカリ剤は、「蒸留」によって濃縮する残留固形物を泥状(「かまどろ」という)にし て排出しやすくする効果もある。前回(「蒸留」)の解説の写真に写っている蒸気機関車の泥 溜はこの「かまどろ」を分離するために設けられている。

工場、火力発電所や暖房用のボイラは「ドレン」といって、送り出した蒸気が水となってボイ ラ室に戻り、タンクに貯められる。これを再度、ボイラに給水するので、「残留固形物」は濃 縮しにくい。ただし、設備を循環するうちに設備側から錆びが流入するのと、注入する薬剤が 濃縮するので、その対策が必要となる。
新規注入する水は「軟水器」といって、イオン交換樹脂を通して、カルシウム化合物を除去す る装置を通す。これに脱酸剤を加えて、溶存酸素を除去する。設備のトラブル防止、維持のた めに、水質調整は欠かせない。

蒸気機関車の場合は川や井戸の水をそのまま給水するし、蒸発した水はどんどん煙突から出て いくので、常に新しい水をボイラに注入する。
定期点検で、煙管の燃焼ガス側の煤を煙突ブラシで掃除する話は整備の回顧録などで見ること があるが、水室側もさぞかし大量のかまどろが出たことであろう。
(参考文献:蒸気機関車メカニズム図鑑/グランプリ出版刊)

※写真は参宮線の旅客列車。1973.1.撮影。

このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください