このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

─ クランク軸 ─


ピストン、連接棒、クランク軸の機構はピストンの往復運動を回転運動に変えるエンジンの屋台骨をなす部分である。 中でもクランク軸は各ピストンに発生する力を集約する部品であり、精度や強度を要求される部分でもある。 鉄道車両用機関のクランク軸は自動車用と比べると回転数が低く、大きな回転力を扱うから、充分な強度が得られるよう、 クロム、モリブデンあるいはニッケルといった元素を含む合金鋼を使う。
長い棒状の材料を曲がりくねったクランク軸の形にするには鍛造という工程を経る。これは真っ赤になるまで過熱した 材料を専用の金型の間に入れてプレスする。一回でクランク軸の形にすることは困難なので、何度かに分けて成型する。 こうしてそれらしい形に成型された材料は旋盤により、削り加工が施されて、最後の仕上げ代(しろ)を残して、 所定の寸法に仕上げられる。主軸受部分(ジャーナルという:クランクケースに固定される軸受部分)を加工する際には クランク軸そのものが回転バランスするので容易だが、連接棒の嵌るクランクピンの部分を加工する際には大きな ツリアイオモリのついた専用の旋盤でないと加工ができない。

また、クランク軸の内部、主軸受からクランクピンの部分まで連接棒の潤滑のための油孔があけられる。主軸受と クランクピンの部分には油孔の開口があいている。この油孔が起点となって、軸が折れてしまうことがあるので、 油孔の口元は滑らかに丸く角が落とされる。この角の丸みも、半径を大きくすると効果的だが、ムヤミに大きくすると、 軸受の受ける面積が減って、油膜が切れ易くなる。
クランクピンやジャーナル部分のように仕上げ精度を要求される部分以外の部分は削り加工をせず、鍛造のまま、 とすることもあるが、加工する場合もある。いずれにしても、回転バランスをとる。バランスウェイトの部分に 小穴をいくつかあけて、重量調整を施す。

削り加工の次に「高周波焼入」という工程に入る。
小学校の理科の実験で、針を真っ赤に焼いて、水にジュッと漬けて曲げてみるというのがあった。水で急冷することで 焼きが入る。焼きが入った鋼は硬く強いが曲げるとポッキリ折れてしまう。空中でゆっくり冷やすと焼きが戻る。 焼戻した鋼は硬さは低下するが、曲げると折れることなく曲がる。粘りがある、とか、靭性(じんせい)がある、 という。
主軸受ジャーナル、クランクピンはそれぞれメタル(軸受金)が当たるので表面を硬化して耐摩耗性を上げるのと、 強度を上げるために部分的に(表面だけ)焼入れを施す。高周波誘導コイルにより該当部分だけを真っ赤になるまで 過熱し、焼入れする。表面だけが焼きが入って、硬く、強度があるが、内部は粘りのある材料となる。
「高周波焼入」を施工した部分は軸受が当たるので、外径をミクロン単位の精度にし、表面の凹凸をなくして滑らかに 仕上げるため、研削盤で研磨仕上げを施す。表面は「焼き」が入って硬いから、旋盤で加工しようとしてももはや 刃がたたない。高速回転する砥石で慎重に仕上げられる。
焼きが入って鈍い光沢を放つ軸部、ウェブ(クランク腕部)へつながるなめらかな曲線、1本のクランク軸はある種の 工芸品のようでもある。

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