このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |
(3回ほど、鉄道車両から離れ、船舶用機関の話を予定)
昔の軽自動車やオートバイには2ストローク(2サイクル)機関が多く使われていた。
白い煙をモクモクと吐き、油の焼ける独特の匂いがした。今も模型飛行機のエンジンやチェンソー、 草刈機には2ストローク機関が使われている。
鉄道車両用の機関はピストンが2往復(つまりクランク軸2回転・4行程)で1サイクルを終える 4ストローク(4サイクル)である。2ストロークとはピストン1往復(つまりクランク軸1回転・ 2行程)で1サイクルを終える。
4ストローク機関がクランク軸2回転の間に1回しか燃料を燃やさないのに対して、2ストローク 機関はクランク軸1回転毎に燃焼行程があるから、2倍の出力が出る。
実際には燃焼室の圧力が4ストローク機関ほど上がらないとか、燃焼室のガスの入れ替えが完全に 行なえない、という問題があって、2倍にはならない。が、4ストローク機関より大出力であるこ とは確かである。
毎回転ごとに燃焼するから、回転が滑らかなのも特長である。
オートバイ用のエンジンは軽量化と構造を簡単にするために、シリンダヘッドにバルブがなく、 吸気も排気もシリンダ側面にあけたポート(孔)で行っている。ガソリンと空気を混ぜた混合気は、 一旦、クランク室に入り、下がってくるピストンの裏側で加圧される。クランク室と吸気 ポートはつながっていて、ピストンが下がり切るとクランク室の混合気が吸気ポートを通って 燃焼室に流入する。
ピストンの裏側で加圧した混合気が外部に抜けないように、クランク軸の両端にはゴム製の オイルシール(リング)を入れて密閉してある。ピストン・シリンダやクランク軸の潤滑のために、 ガソリンとオイルを混ぜた混合油を使う。通常、ガソリン15にオイル1を混ぜるが、高速走行時は ガソリン10にオイル1の割合にしたのだとか。(後にオートバイのエンジンでは分離給油といって、 ガソリンとオイルを別々のタンクに入れ、エンジンに入る直前で混合するようになった。 あらかじめ混合した混合油を必要としなくなった。)
いずれにしても、オイルも一緒に燃えるからモクモクと白い煙を吐くし、排気管は油で ベッタリになる。
ところで、船舶に使われる機関には2ストロークも多く使われている、と言ったら、 「ヘぇー」であろうか。
舶用の2ストローク機関は二輪車などの機関とは構造が異なり、シリンダヘッドには大きな排気 バルブだけが付いていて、メカニカルチャージャまたはターボチャージャを装備している。(注1) シリンダの下部側面には吸気ポート(孔)があいていて、ピストンが下がると、このポートから 加圧された空気が燃焼室に流入する。同時に(注2)上部の排気バルブが開き、排気ガスが (加圧空気で)押し出されていく。
ピストンが下死点を過ぎ、上昇していくと、吸気ポートが塞がり、排気バルブが閉じ、空気を圧縮 する。ピストン上死点付近で燃料が噴射され、燃焼し、ピストンを押し下げる。これを繰り返して、 クランク軸を回転させる。
燃焼ガスの膨張力を最大限に利用するために、シリンダ径に対してストロークが長い。 シリンダ径70cm、ストロークは実にその4倍の280cmという機関が平然と存在する。回転速度は 毎分100回転前後。常用速度が50回転ぐらい(毎秒1回転ぐらい)の機関もごくあたりまえに 存在する。こうすると、減速装置(歯車)を必要とせず、プロペラを直接回すことができて 都合がよい。
ピストンの裏側は給気(吸気)室となって加圧されて、外部に空気が漏れないようになっている。 ピストン、連接棒、クランクの機構は蒸気機関車のようにクロスヘッドをもつ。しかも、 当然のことながら、シリンダが長いし、クランク半径が大きくなるからクランクも大きくなり、 おっそろしく背の高いエンジンとなる。3階建か4階建のビルのような大きさとなる。 点検のためのタラップ、ハシゴが付き、工事現場の足場が組まれているような外観となる。
小型機関のようなシリンダヘッドカバーというものはなく大きなロッカーアームが露出していて、 排気バルブを開閉するものもあるが、中には油圧シリンダでバルブを開閉するものもある。 もちろん、各部の潤滑は潤滑油ポンプで行なっているから、昔のオートバイのように白煙を モクモクと吐くことはない。
注1:昔見た2行程機関のイラストでは掃気(そうき・燃焼室のガスの入替)ポンプといって、往復 ピストンポンプを動かすようになっていた。
注2:正確には、吸気ポートが開くより先に排気バルブが開く
※今でも、田舎(山沿い)のガソリンスタンドではチェーンソーに使う混合油(ガソリンと オイルを混ぜた燃料)が売られているらしい。この混合油とハイオクガソリンは別物なので 注意が要る。
※写真は太平洋フェリーの「フェリーきたかみ」(4ストローク機関搭載):フェリーのように 車両甲板のある船に背の高い2ストローク機関は向かない。喫水が深く大出力を必要とする大型 油槽船や鉱石運搬船に2ストローク機関が好んで使われる(らしい)。
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