このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください
─ シリンダライナ ─
内燃機関の燃焼室はピストンとシリンダ、シリンダヘッドで形成される。
シリンダはシリンダライナという円筒をクランクケースのシリンダ部分にはめ込む。
このシリンダライナは遠心鋳造という方法で製造した鋳鉄製品で、内面はホーニングという特殊な仕上げ加工を施す。 砥石を回転させながら長手方向に動かして内面研磨する。真円度が高く、しかも、内面に綾目状に研磨跡が残る。 この綾目状の微細な溝が潤滑油を保持する働きをする。
そして、「鋳造品」であることも重要である。鋳造の鉄は「鋼(はがね)」と比べ、多くの炭素を含む。 多めの炭素は鉄の中に溶け込むことができず、鉄の結晶の間に滲み出している。この炭素が脱落した後に 潤滑油が入り、油を保持する。使い込んだ鋳鉄のスキヤキ鍋も炭素の抜けた跡に味が滲みるのだとか。
DMH17系のシリンダライナは乾式といって、ライナの外周が直接冷却水に触れないようになっている。
一方、DML30HS系やDML61Z系のライナは湿式といって、ライナの外周に直接、冷却水が触れるような構造になっている。 クランクケースにライナを嵌めこんで初めて、クランクケースは冷却水を流せる構造となっている。
ライナの外周下部には冷却水が漏れないようにO-リング(オーリング)という耐熱ゴムの輪を嵌める。
ライナ上部は外周を段付きにツバ(鍔)を出して、クランクケースとシリンダヘッドではさんで固定する。
ライナとクランクケースの間には耐熱性のパッキン(ガスケットという)を入れて、クランクケースの水が漏れない ようにする。
上下をガッチリ固定してしまうと、熱膨張の逃げるところがなくなってしまう。だから、ライナの上部だけ固定し、 下部はO-リングで水が漏れないようにして、熱膨張を下へ逃がして無理な力が加わらないようになっている。
ライナは燃焼室の燃焼ガスの圧力に耐えなければならない。必要以上に厚くすると熱伝導が悪くなるが、 圧力に耐えられずに変形しても具合が悪い。変形すると燃焼ガスが漏れる、というだけではない。
クランクが1500rpmで回転するとき、ピストンは1秒間に25往復する。
4ストローク機関の燃焼行程は、2回転に1回なので、1秒間に12回半、8/100秒という短い周期で燃焼を繰り返す。
この短時間の燃焼行程の際に燃焼ガスの高い圧力により、シリンダライナがごくわずかに変形する。
このとき、外周に局部的な負圧を生じ、冷却水に泡ができ、これが潰れるときに大きな圧力を生じ、 鉄製のライナの外周にあばたをつくる。
この一部が進行してライナに針で突いたような孔をあけてしまうこともある。キャビテーションといって、 機関屋が恐れる現象である。これを防止するために、シリンダライナの外周には硬質クロムメッキを施す場合もある。
形は単純な「筒」なのだが、たくさんの「ノウハウ」が凝縮されている。
写真(上)はDML61Z系のシリンダライナ。外面はクロムメッキが施されている。
下部のO-リング溝より下は水に触れないので、メッキされていない。(色が異なる)
O-リングは1本でも封止できるのだが、万全を期して、2本使用する。
写真(下)は内面。ホーニング加工の綾目がわかる。
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