このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

─ ガスエンジン ─




1980年頃、業界で他社に先がけて、都市ガスなどの気体燃料を利用する自家発電設備を製作、販売していた。 ガスエンジンといって、都市ガスやプロパンガスで回るエンジンで発電機を回す装置である。
ガスエンジンというのは、ガソリンエンジンと同じで、燃料と空気を適切な割合で混ぜた混合ガスを 燃焼室に入れ、点火プラグで点火、燃焼させて動力を得る。
ディーゼルエンジンは空気だけを圧縮し、断熱圧縮によって空気の温度が上がることを利用して、燃料を 自己着火させる。燃焼室を小さくすると、噴射した燃料が気化して着火する前に燃焼室の壁に到達して しまうので小型化することが難しい。
一方、ガスエンジンは火種が点火プラグ1点だけなので、大型化すると、火炎伝播距離が延びて 完全に燃やしきるのが難しくなってくる。

当時、既に都市部ではタクシーがプロパンガスで運転されていたので、目新しいものではない、 と思われるが、工場や病院などの自家発電設備としては自動車用のエンジンより大きなものが必要で、 当時はまだ、一般的ではなかった。
欧米では、既に天然ガス(メタンガス)によるガスエンジンが普及しており、ドイツから エンジンを輸入して試験することから始めていた。 当時、試験したのは排気量22LitのV型12シリンダのエンジンだった。

1986-1987年頃、ガス燃料による自家発電設備の容量が大きくなっていくのに対応するため、 USA製のガスエンジンを扱うことになった。(注)
当時はまだ、大気汚染防止法の規制がかかる前であったが、将来の規制を見越して、 一酸化炭素(CO)や窒素酸化物(NOx)の排出量の少ないエンジンを採用した。
ガスエンジンもガソリンエンジンも燃料に対して空気量を減らしていくと、不完全燃焼を起こし、 COが増加する。もっとも燃焼状態の良い空気量にすると、燃焼温度が上がって、NOxが増加する。 NOxというのはNOとNO2の混合物で、空気中の窒素(N2)が燃焼室で高温となって、 酸素(O2)と結びつくことで生成する。 燃焼室に取り込む空気量を増やしてやると、燃焼温度が下がってくるので、NOxの生成は少なくなる。 希薄燃焼方式といって、NOxもCOも排出量が少なくなる方式である。
が、空気量が多く、燃料の薄いガスを確実に燃やすのは容易ではない。それでなくても、 大きな燃焼室では、点火プラグ1本では点火しづらいのに、希薄燃焼となると、点火失敗の 可能性が高くなる。点火しないと未燃ガスが排気管に流れ、排気管やターボチャージャで 後燃えを起こす場合がある。燃焼室が大きいだけに、未燃ガスが後燃えすると、只事ではない。 排気管内で大音響をたてる。排気管の破損につながる。

そこで、このエンジンでは予燃焼室式という方式を採用していた。
昔、日本のH社が四輪車に開発したCVCCと同じ方法である。
シリンダヘッドの中に、予燃焼室という別室を設け、ここに別配管で燃料ガスを流入させ、 主燃焼室より濃い混合ガスをつくって、点火プラグで点火する。 この燃焼ガスがセラミックコーティングした噴射口(小穴)を通して、主燃焼室に流れ、 希薄混合気を確実に燃焼させる。
USAのこのエンジンはこれをClean Burn(クリーンバーン)Engineと称していた。
大量の空気で完全燃焼させるので、COは殆ど出ない。通常のエンジンだと フルスケール5000ppmのNOx計を振り切ってしまうのに、このエンジンのNOxは100ppm以下 だったと記憶している。

上のイラストは直列8シリンダ機関。
直列6シリンダ、8シリンダ、V型12シリンダ、16シリンダの4タイプがあった。

下のイラストは希薄燃焼方式、ピストン上部からシリンダヘッドの断面説明図。
左上オレンジ色に塗った部分が予燃焼室と点火プラグ、右上に青く塗った部分は 給気管。給気管の途中、上向きに開いて描かれているのは燃料弁。


(注)
このときのエンジンはAjax Superior Cooper Energy Services
(エイジャックス・スーペリア・クーパ・エナジー・サービセス)
の製品で、工場はオハイオ州スプリングフィールドにあった。
シリンダ径10インチ、254mm、ストローク10.5インチ266.7mm、1シリンダの行程容積は13.5リットル、 6シリンダで総排気量は81リットルだった。

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