このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください
─ 希薄燃焼(ガスエンジン) ─
(前回ガスエンジン解説のつづき)
希薄燃焼といってもヤミクモに空気量を増やすわけにはいかない。
所定の燃料が燃えるために必要な最低限の空気量を理論空気量(注1)という。
理屈の上では、空気中の酸素と燃料が1:1で燃えると燃料も酸素も残らないのだが、エンジンの 燃焼のように短時間で燃やそうとすると、出会いきれない酸素と燃料が生じてしまう。そこで、 空気量を多くする。このときの余剰空気の比率を空気過剰率といい、λ(ラムダ)で表す。 λ=1.1といえば、理論空気量の1.1倍の空気を燃焼室に取り込むことを意味する。
従来型のガスエンジン(たぶん、ガソリンエンジンも同じ)で安定して運転するための 空気過剰率は1.3ぐらい。この場合、大量のNOxを排出する。混合気を強く撹拌するなどの 工夫をして希薄燃焼させるエンジンでλは1.5ぐらい。
このUSA製クリーンバーンエンジンはλ=1.8ぐらいで運転することができた。
ちなみにディーゼルエンジンの場合はλ=2ぐらいで運転する。
ディーゼルエンジンの場合は、空気だけを圧縮しておいて、高温になったところに燃料を 噴射するので、空気量が多くても燃焼する。逆に充分すぎる程の余剰空気がないと、 噴射された燃料が酸素と出会いきれず、不完全燃焼を起こしてしまう。
ついでながら、バーナで燃料を燃やすガスタービンのλは実に4ぐらいにまで達する。(注2)
このクリーンバーンエンジンは安定的にλ=1.8にするために、マイクロプロセッサを 組み込んだコントローラが付属していた。
自家発電設備のエンジンなので、発電機をつないでいる。この発電機が何kW発電して いるかをアナログの電気信号としてコントローラに入力する。コントローラには、 他にも吸入空気温度、排気温度もデータとして入力する。これらの情報をもとに マイクロプロセッサが必要な給気圧を演算する。
大きなターボチャージャが付いていて、これの排気ガス側にはバイパス管と バイパス弁(ウェストゲートバルブ)が付いている。このバイパス弁は 空気圧シリンダで開度が調節できるようになっている。マイクロプロセッサの 電気(電流)信号はI/P(電流/空気圧)変換器で電流値に比例した空気圧に 変換される。この空気圧がバイパス弁を動かすシカケになっている。
バイパス弁が開くと、ターボチャージャに入る排気ガス量が減って、 タービン翼車の回転速度が低下して、給気圧が下がる。吸入空気量が減る。
逆にバイパス弁が閉じると、ターボチャージャに入る排気ガス量が増えて、 タービン翼車の回転速度が上がり、給気圧が上がる。吸入空気量が増える。
このコントローラはI/Oも含めて25cm角程のボードにまとめられ白いアクリルの カバーで覆われていた。中央に液晶の表示が1個あって、横の方にマイナス ドライバで操作するロータリスイッチと小型のトグルスイッチが3個、下の方に 小さな半固定のポテンショメータ(トリマ)が十数個並んでいた。
このポテンショを回すと、液晶の数値が変化し、スイッチ操作と組み合わせて コントローラ内部の演算係数を変えるようになっていた。燃料ガスの種類、 燃料ガスの供給圧力を発注時に連絡すると、それに応じた係数で調整して 出荷してくれた。
マイクロプロセッサの電源は電磁ピックアップだった。
エンジン後端の大きなハズミ車に焼嵌めしたスタータギヤの近傍に回転速度を計測 するための電磁ピックアップが設置されていた。その計測用のピックアップの隣に 一回り大きなピックアップが付いていて、これの発電出力がマイクロプロセッサの 電源になっていた。
とても安定しているとは言い難い電源なのだが、誤動作することはなかった。
何もない荒野の真っ只中でも地面からわいて出る天然ガスと圧力空気さえあれば、 電気がなくとも、動かすことができる、といういかにも「米国製!」らしい エンジンだった。
(注1)
例として、メタンガスCH
4
が燃えるときの必要空気量を考える。反応式は
CH
4
+2O
2
→CO
2
+2H
2
O
分子量で考えるとメタンガス1分子と酸素2分子が化合して二酸化炭素1分子と 水2分子が生成する。
同じ温度、圧力のもとでは分子量と体積は比例するので、 1リットルのメタンガスが燃えるのに必要な酸素は2リットルということになる。
空気中の酸素濃度は21%と考えて良いので、空気の体積としては 2÷0.21=9.5(リットル)となる。メタンガス1リットル燃えるための理論空気量は 9.5リットルということになる。
比率なので、「単位なし」か、もしくは「リットル/リットル」と表記する。
(注2)
ガスタービンの場合は燃焼室が常時高温となるので、この冷却のために大量の空気を流す。
λ≒4というのは、冷却空気も含んでいる。
上の写真はマイクロプロセッサを組込んだコントローラの外観。
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