このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください
─ 電子ガバナ(ガスエンジン) ─
(ガスエンジン解説のつづき)
ディーゼルエンジンには、通常、燃料噴射ポンプの端部に機械式の調速機(ガバナ)が付いている。 燃料噴射ポンプの中で回転するカム軸の延長上に回転するオモリが付いていて、 これの慣性力(遠心力)を利用して、燃料の噴射量を加減して、回転速度を一定に保つシカケである。
ガスエンジンには、燃料噴射ポンプのようなものがないので、 Superior社のガスエンジンには電子ガバナが装備されていた。
電気仕掛けで回転を一定に保つ装置である。
中枢となる電子回路には、ウッドワード社(USA)というところの製品が使われていた。
エンジンに限らず、ガスタービンや水力発電にも使われている汎用性の高い装置(注1)である。
ウッドワード社のHPによれば、約390×180×60の大きさで、弁当箱を少し長くしたぐらいの大きさ、 クリーム色に塗装したスチール製の箱に入っている。 いかにも業務用という堅牢そうな箱でありながら、上品な外装の箱だった。 内部はプリント基板の電子回路が入っているのだろうと想像するのだが、 フタを開けると保証の対象外となるので、開けたことはない。 箱の一端に端子台が出ていて、外部に接続する電線はここに接続する。 これを、配電盤の中に取り付ける。配電盤の正面は電圧計、電流計、発電出力計などの計器類と 操作スイッチが並べて取り付けられている。
写真は盤内に収められたデジタルコントロールユニット(下段左)と周辺機器の外観。
エンジン側は回転速度を検出するための電磁ピックアップが付いている。
これは、ハズミ車に嵌め込んだスタータギヤの歯に対向するように付けられていて、 鋼製の歯車の歯先がピックアップの先端を横切るときに磁力が変化するので、 コイルの両端にパルス状の電圧変化が表われるという部品である。
この発生パルスを電子ガバナに取り込んで計数して回転速度として検出する。
電子ガバナの出力はエンジン側に取り付けた「アクチュエータ」という装置に接続する。 電子ガバナからの出力電流に応じて、燃料弁の開度を調節する。 電流は数mAのオーダで大きな力を出せないので、油圧に変換して、油圧力で燃料弁を動かす。
電子ガバナの電子回路は、設定した定格速度より低ければ、燃料を増加するように 出力信号を出し、高ければ、燃料を減らすように信号を出す。
こうして、発電機の出力、エンジンにかかる負荷が変動しても常に一定の回転速度を保つ。(注2)
原理的には簡単なのだが、応答性を調整するのが難しい。
電子ガバナの箱の外部に外から調整できるようにポテンショメータ(注3)がいくつか付いていて、 これを調整する。
電子ガバナ内の感度(増幅度)を高くすると、急な負荷変動によく追従できるようになるが、 自己発振しやすくなる。
要求される電力出力が変化したとき、発電周波数(回転速度)が即座に追従できるように 調整するのだが、感度を高くすると、周波数が安定しなくなる。 場合によっては、ハンチングといって、激しく回転変動して手がつけられなくなる。(注4)
調整するポテンショメータがいくつかあるので、ポテンショの角度をメモしながら 作業するのだが、「前の設定に戻したい」と思っても、完全に元には戻らず、苦労した。(注5)
(注1)
このときに使ったのは2301AというアナログユニットでHPによれば、今も生産されている。
エンジン発電機はもちろんのこと、水力発電も水車に当てる水の量を加減して、 回転速度を一定に保たなければならない。
(注2)
電子ガバナは精度が高く、負荷が変動しても殆ど回転速度が変わらない。 これを「恒速制御」「アイソクロナス制御」といっている。ところが、発電機1台で 送電するときはこれで良いが、所内の負荷容量の都合や、所内の負荷変動に柔軟に対応するために、 2台、3台と並列運転する場合がある。この場合、恒速制御ではどれか1台の発電機に 負荷が集中してしまう。
そこで、わずかに回転速度が低下するようにする。 こうすると複数の発電機が自動で(勝手に)負荷分担する。
これを「負荷漸変特性」「ドループ特性」という。電子ガバナに「droop」という 調整ポテンショがついていた。
(注3)
可変抵抗器のことは「ポテンショメータ」という。 最近、これを機械屋だけでなく、電気屋も「ボリューム」という。 音響機器の音量調節に使うから、「ボリューム」というようになったと思われるのだが、 この部品をすべて音量調節に使うわけではない。操作盤のツマミを回すとモータの回転が速くなる。 「ボリューム上げて」といわれると、「この機械はモータの回転速度を上げて大きな音を 出すのが目的なのか」とツッコミを入れたくなる。
(注4)
エンジンを含めて総合的にフィードバック系を形成しているので、音響用アンプのNFB(負帰還)と よく似ている。エンジンの素性が悪く、元々回転変動の大きなエンジンは電子ガバナの性能が良くても 回転が安定しない。こんなところも音響用アンプとそっくりである。
(注5)
アナログ式のガバナユニットの他にデジタルコントロール(↑写真)というのもあった。 ハンドヘルドセットポイントプログラマという設定器が別にあって、これで機能を選択、 設定値も変えることができた。アナログユニットにはない機能が加えられていて、 回転速度やアクチュエータへの出力の表示もできた。すべて数値入力するので、 元の状態に戻すのが容易で調整が楽になった。
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