このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください
─ エアスタータ(ガスエンジン) ─
(ガスエンジン解説のつづき)
DML61Z系の始動モータ(セルモータ)は直流24V11kWが2個付いている。
このあたりが、電動モータで始動する限界かもしれない。
これより大きな機関は空気始動が多くなってくる。
ピストンが圧縮上死点を少し過ぎたタイミングで高圧(30kg/cm
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)の空気を燃焼室に注入して、 強引にピストンを押し下げて始動する。
DML61Zの圧縮比は14.8、圧縮したときのシリンダ圧力は実測で10kg/cm
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を少し越えるぐらい。 これ以上の圧力の空気があれば、始動することができる。(注1)
「ジカイレ」と称する始動方法である。
押し下げられたピストンが下死点に達する前に別のピストンが上死点を過ぎるから、空気を入れる シリンダを順に替えてやれば、クランク軸は回転する。(注2)
ピストンを押し下げた空気は排気管から出ていき過給機も回転させるので、好都合である。
Superior社のガスエンジンはエアモータという始動装置を採用していた。
電気で回るモータに代えて圧力空気で回るモータで始動する。
「ジカイレ」するためには、シリンダヘッドに空気を注入するための穴をあけなければならない。 この空気穴に燃料ガスが入って燃焼するとその圧力でシリンダヘッドの素材が割れる恐れがある、 というのが、「ジカイレ」できない理由だった。
エアモータに必要な圧力は10.5kg/cm
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(150psi)(注3)であまり高くはないが、空気消費量がすさまじく、 小さな空気タンクではまたたく間に圧力が低下、カラッポになってしまう。
繰り返し計算、検討した結果、直径1m、高さ3.4m、容積2500リットル、圧力30kg/cm
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の空気タンク2個を設置した。 これで3台分の始動用とニューマチックパネルの供給空気とした。
液体のタンクはガソリンのような危険な液体でない限り、漏れても噴水を噴く程度で済むのだが、 気体のタンクは壊れると部材を弾丸のように吹き飛ばし、人身事故に直結するので、検査が厳しい。 蒸気機関車のボイラの検査が厳しいのと同様である。
この空気タンクに空気を充填するために電動空気圧縮機を2台設置した。万一、1台が故障しても、 残りの1台があれば、ニューマチックパネルの空気だけは確保することができて稼働に支障をきたすことがない。
あまり大きな圧縮機は振動や騒音の規制が厳しくなるので、容量を規制のかからない範囲に収めることもできた。
2台の空気圧縮機を使っても、全くカラッポの状態から30kg/cm
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まで充填するには1日がかりだった。 とくに、圧力の低い最初は良いのだが、30kg/cm
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に近くなると、断熱圧縮による温度上昇が大きく、 圧縮機が予想を超えて過熱した。
エアモータに必要な圧力は10kg/cm
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程だったので、空気タンクを出たところに減圧弁を設けて圧力を下げて使用した。 流量、圧力を指定して選定したのだが、すさまじい流量に耐えられなかったのか、1か月程で壊れてしまった。 大量に流れる空気で内部の部品が振動し、ピストン側面は剥離、一部に激しく叩かれた打痕があった。 結局、USA製某社の減圧弁に交換して解決した。
始動用の電磁弁が開くと、エアモータのピニオン室に空気が入り、ピストンを押して、ピニオンが飛び出し、 エンジンのハズミ車の外周に嵌め込んだ大ギヤに噛み合う。
大ギヤの角もピニオンギヤの角も面取りがしてあって、歯車の山と山がぶつかって、 噛み合わないことがないようにしてある。
大ギヤとピニオンの山と谷がうまく噛み合い、ピニオンが所定の位置まで動くとエアモータ内の通路が開き、 この通路を通って、外部に設けたエアバルブに空気が入る。 エアバルブというのは、電磁弁の電磁石の部分をピストンシリンダ機構に置き換えたようなもので、 ピストン室に入った少量の空気で大きな通路を開くようになっている。(注4)
エアモータのピニオン室から来た空気で大きな通路を開き、空気溜の大量の空気をエアモータのモータ室に送り込む。 モータ室は偏芯軸にベークライト製(分解した作業員の話では限りなく「材木」に近かったらしい)のベーンが 嵌め込んであって、膨張室を形成していた。圧力空気がベーンを押して、軸を回転させる。
エアモータの入口には潤滑油を霧状にして空気と混ぜるルブリケータという部品が付いていて、 膨張室内部の潤滑をするようになっていた。
エアモータが回ると電気のセルモータが回るようなキュンキュンという音とともに、空気の流れる音がした。 エアモータから出た排気空気は霧状となった油を除去する分離器を通した後、エンジンの排気消音器に接続した。
エンジンに燃料が送り込まれ、自立回転して加速するようになると、エアモータは エンジンから回されるようになる。電気接点(リレー)が働いて、始動電磁弁を切にする。 エアモータのピニオン室への空気が遮断され、スプリングでピニオンが戻り、ハズミ車の大ギヤから外れる。 エアバルブも閉じ、エアモータのモータ室への空気も遮断され、始動動作が終了する。
注1)エンジンの話とは直接関係はないが、
潜水艦が浮上するときにも、あらかじめ艦内に備えた空気溜の圧縮空気でバラストタンクの水を追い出して浮力をつける。
潜行深度は軍事機密だそうで、公開されていないが、仮に空気溜の圧力を30kg/cm
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とすると、 これは、水深約300mの水圧に相当するので、これより深く潜ると理屈上、浮上できなくなる。
注2)3気筒の機関ならば、クランクは120°位相なので、120°回ると、次のピストンは上死点に達する。 4ストロークの場合はクランク2回転に1回、圧縮行程になるから、通常、6気筒以上であれば、「ジカイレ」空気始動が可能となる。
注3)PSIとはポンドスクエアインチの略で、1平方インチあたり1ポンドの圧力という意味。
1インチは25.4mmで1ポンドは453gである。1PSIは大略0.07kg/cm
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に相当する。
0.453÷(2.54×2.54)≒0.0702(kg/cm
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)
注4)電動のセルモータも同様で、モータのピニオンが大ギヤに噛み合ってから、 大電流を入切するための電磁接触器が働いてモータに電流を流すシカケになっている。
添付写真はSuperior社の帽子(Cooper Energy Services)とNewYorkの観光案内。カップは関係なし。
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