このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

─ デュアルフューエル機関(ガスエンジン) ─




(ガスエンジン解説のつづき)
Superior社のエンジンは全部で16台扱ったと記憶しているが、そのうちの1台は「デュアルフューエル機関」という 少し変わったエンジンだった。
これは、都市ガスと、軽油やA重油といったディーゼル用の液体燃料の両方を切り替えて使える、 というエンジンである。

ある程度の規模の大きな病院や多数のお客を収容する施設(映画館とか公会堂など)では、不意の停電に備えて、 非常用発電装置を設置することになっている。この発電装置の燃料は備蓄のきく液体燃料と指定されていた。
こういった「非常時専用の発電装置」というのは、常に、万一の事態に備えて、燃料満載、バッテリも満充電にして 待機している。時々、動作確認のため、試運転するが、殆どの時間は停まったままとなっている。
これでは、設備が有効に利用されているとはいいがたい。

そこで、災害などで電力会社からの電力が絶たれたときには、重要な設備に限定して電力を供給(注1)するが、 平常時は自家発電設備として施設内に電力を供給するようにした。
平常時の燃料として、軽油やA重油などの液体燃料を使用すると、大きな貯蔵タンクを必要とするし、 頻繁にタンクローリ車で運ばなくてはならない。

「デュアルフューエル機関」というのは、通常時は都市ガスを燃料とし、地震などの災害で停電したとき、 都市ガスの供給が絶たれたときには、液体燃料に切り替わり、運転を続行できるように、2種類の燃料を使用できる ようにしたエンジンである。
通常時は都市ガスを燃料とする、と記載したが、通常時はわずかだが、液体燃料を併用する。 メタンガスを主成分とする都市ガスは、自己発火しないが、液体燃料は自己発火して燃焼するような 圧縮比(注2)を選んで設計されている。
つまり、「メタンの自己発火温度」より「軽油などのディーゼル燃料の自己発火温度」が低いことを利用する。 この2種類の燃料の特性をうまく利用するための絶妙な圧縮比に設定されている。

通常時、都市ガスを燃焼室に取り込んで、圧縮する。燃料と空気を混ぜた混合ガスの温度は上がるが自己着火する ほどには至らない。ここに液体燃料を噴射する。混合ガスの温度は液体燃料が自己着火する温度に達しているので、 着火して燃焼する。この燃焼した少量の液体燃料が火種となって、都市ガスも燃える。(注3)
点火プラグの1点だけの火種と比べると、霧状に噴射された燃料は燃焼室内部で多数の火種となる。 点火プラグ式より安定して燃焼しているという印象がある。
予燃焼室式でガスだけを燃やすクリーンバーンエンジンより回転速度の変動も少なく、安定していたようだった。
少量だが、液体燃料を使うためか、排ガス中の煤が少し多かった。
液体燃料と都市ガスの切り替えも円滑で、連続運転中に切り替えでき、遠隔操作で切り替えできるように 空気制御のコントロールパネルが付属していた。
都市ガスとディーゼル運転では、音の調子が少し変わったが、気にしていなければいつ切り替わったのか、 気がつかないほどだった。

この機関はジカイレ空気始動であった。機関の長手方向に貫通するカム軸には、1気筒あたり、5個のカムが 組込まれていた。
通常の吸排気のカムに加え、ガス燃料弁を開くカム、液体燃料の噴射ポンプのプランジャを押すカム、 空気始動弁を開くカムの5個。 自動車用機関では、カムの数、カム軸の数が多いのをありがたがる傾向にあるが、 カムの数は機関出力とは関係がない。(注4)

注1)発電機の容量は設備の利用率を考慮して決める。したがって、商用電源が確保できない場合は施設全部に電力を 供給することができない。保安設備などに限定して供給する。

2)圧縮比はSuperior社に問合せたところ、回答をくれたのだが、この原稿を作成する際に調べたが、 書面を発見できなかった。

3)LPG(プロパンガス)での運転ができないか、試みに運転してみたが、運転不能であった。 圧縮行程で混合ガスが自己着火してしまい、ノッキングを起こしてしまった。

4)機関出力(PS)はPo=Pme×N×V/900で計算される。Pmeは平均有効圧といって、燃焼室の燃焼ガスの 圧力(kg/cm2)、Nはクランク軸の毎分回転速度(rpm)、Vは総排気量(Lit)。
この計算式は4ストローク機関の場合で、2ストロークの場合はこの2倍となる。この計算式で見る限り、 カム軸の数、カムの数は機関出力とは関係がない。
例として、DML61Zの出力を計算する。
Pme=10.8kg/cm2、 N=1500rpm、 V=61Lit
Po=10.8×1500×61/900=1100(PS)


添付写真はデイトン(Superior工場の近く)のAIR FORCE MUSEUMで展示されていたサルムソンの星型機関。
"SALMSON Z-9 ENGINE"と説明書きに書かれている。
デュアルフューエル機関とは関係がない。


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