このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください
─ ディーゼル鉄道車両の燃費 ─
鉄道のディーゼル車両が1リットルの燃料で何km走行できるのかは、興味をひく問題のようである。
エンジン屋が「燃費」というと、「船舶用機関の熱効率」の項で記述したように、 1PS(1kW)1時間あたり何グラムの燃料を消費するか、で表示する。
ディーゼル車が走行しているときのエンジンの音を注意してきいているとわかる通り、 ディーゼル車のエンジンが唸りをあげるのは、駅を発車するときと登り坂にかかったときであって、 惰力でコロがしているときや下り坂では、アイドリングの状態となる。(注1)
したがって、「1リットルの燃料で何km走行できるのか」というのは、 特急、急行か各駅停車か、山越え区間があるか、という条件で異なる。
長距離のディーゼル列車で筆頭にあげられるのが、金沢、新潟、秋田を経由して 大阪、青森間を運転していた特急「白鳥」であろう。
1972年10月、この区間の全線が電化され、電気車両に変わったが、これ以前は、ディーゼル列車であった。
ディーゼル特急の頃の時刻(1972年8月時刻表による)は下記の通り
4001D 大阪9:10→青森23:55
4002D 青森4:55→大阪19:30
参考に青森から先の連絡船、接続列車の時刻も記載する。
青森0:10→函館4:00/4:45→札幌8:55/9:00→釧路14:55
釧路14:20→札幌20:00/20:05→函館0:20/0:40→青森4:30
青函トンネルはできていないので、青森〜函館は連絡船による。函館から、釧路発着の特急列車に接続していた。
大阪〜青森間の営業距離1059.5km、下り14時間45分、上り14時間35分、グリーン車2両、食堂車1両、合計13両、 全車指定席の「特急列車」というにふさわしい存在であった。
各車両に2台のエンジンを備え、それぞれに、550リットルの燃料タンクを装備していた。
ただし、両端と中間2両の合計4両は2台のエンジンのうち1台が発電専用の機関となっていて、 客室の照明、空調、食堂車の調理器に電力を供給していた。
発電用機関は登り坂、下り坂、駅での停車に関わらず、常時、所定の電力を供給し、 一定回転で回っていなければならない。(注2)
走行用機関と同じ、水平直列8気筒、総排気量17リットルで、走行用機関の定格180PS/1500rpmに対し、160PS/1200rpm、
走行用機関より燃料使用量が多く、800リットルのタンクを装備していた。
走行中、常時、食堂車が満席、ということはないし、容量に余裕を考慮してあるので、平均電力負荷を80%とすると、
160(PS)×0.8≒130(PS)
燃費は200g/PS-hとされているので、1時間あたりの燃料使用量は
200×130(PS)÷1000=26(kg/h)
軽油の比重を0.9(kg/Lit)とすれば、
26÷0.9≒28.9(Lit/h)
始発駅に入線したときには、空調が効いていなければならないから、仮に1時間半前から稼動させるとして、 終着駅まで16時間稼動することになり、
28.9×16≒460(Lit)
の燃料を1日の運行で消費する計算になる。
800リットルのタンクに対し、(460÷800=0.58)60%ぐらいの使用量となる。
仮に列車が遅延して稼動時間が延びたとしても、10時間ぐらいまでなら、延長稼動できる。
前述の通り、走行用機関は惰力走行時や下り坂ではアイドリングとなって燃料消費が少ない。
お題の「鉄道のディーゼル車両が1リットルの燃料で何km走行できるのか」という疑問には・・・
大雑把な計算であるが、片道約1000kmの運転でタンク容量550リットルの60%を使用するものと仮定すれば、
550×0.6=330(Lit)
1000(km)÷330(Lit)≒3(km/Lit)
自動車の燃費にならって表示をするならば、このぐらいの数値になる。
写真は1972年9月、北陸線で撮影した青森行き「白鳥」。大阪方、後ろから撮影している。
この最後部と先頭の車両に電源装置が装備されている。
最後部から4両目と5両目の連結面が他と異なっているのがわかる。
後部から5両目も運転台のある車両で、電源装置が付いている。
1台の電源装置で3〜4両に電力を供給している。
(注1)特急「白鳥」に使われた車両の変速機の出力側には「ワンウェイクラッチ」が装備されている。
一般的な自転車の後輪の「フリーホイール」と同じ作用をする。
惰力走行時、エンジンをアイドリングにしても、自動車のように「エンジンブレーキ」がかかって、減速することはない。
(注2)発電機は440V60Hzの三相交流発電機。三相というのは、3本の電線で送電する方式で、空調機のモータを回すのに都合が良い。
1編成中の何台かの発電機が全部、電線でつながっているか、というと、そうではない。
編成中3〜4両ごとに区切って、それぞれの区間に1台ずつ発電機を割り当てて送電している。
何台もの発電機の電力をひとまとめに接続するには、周波数はもちろん、交流の位相も合わせなければならない。
このような機能をもった装置は装備していなかった。
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