このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください
─ 駆動力(気動車) ─
「逆転機」「2軸駆動」で、キハ80系(特急「はつかり」「白鳥」など、全国で稼働した)とキハ180系(特急「しなの」など 山岳線で稼働)車両の速度を計算してみた。
この解説でわかる通り、キハ80系は台車2軸のうち、1軸だけを駆動した。キハ180系は推進軸でつないで、台車2軸の両方、 2軸を駆動した。
なぜ、手間をかけてキハ180系は2軸駆動にしたのか、という疑問をきくので、
「駆動力」なる概念を解説する。
駆動力というのは、モータや内燃機関が発生する「力」が源となっている。これら原動機の軸が回転体なので、 「力×回転半径」で表わされる「トルク(回転力)」という表現を使う。
大小2個の滑車で井戸の水を汲み上げることを考える。大きい滑車にロープを巻きつけてこれを引っ張る。 これが原動機の力で、「引張る力×大きい滑車の半径」がトルクと表現される。汲み上がってくる水のロープにかかる力は、 「このトルク÷小さい滑車の半径」で計算できる。
鉄道車両の場合も同様(当然のことながら、自動車や自転車の車輪も同じ)で、「トルク÷車輪の半径」が レールと車輪の間に発生する「駆動力」(車両を前に進める力)となる。
ただし、鉄道車両の場合は、鉄のレールと車輪の間の摩擦が問題となる。 ゴムのタイヤとアスファルトの路面に比べるとはるかに滑り易い(摩擦係数が小さい)ので、容易に空転してしまう。
そこで、鉄のレールと車輪の間の摩擦を考える。
キハ80系の中間動力車の重量は41.2トン、キハ180系の中間動力車の重量は41.4トン、 あまり細かい計算をしても意味がないと思われるので、どちらも42トンと仮定する。
この重量が4軸に均等にかかるものとすれば、軸重は42÷4=10.5(トン)ということになる。
鉄道車両の車輪が空転する限界というのは、上記の「軸重×摩擦係数」で単純に計算できる。
鉄と鉄の間の摩擦係数μは物性値であって、大体μ=0.5ぐらいをみてよいらしい。
ただし、この数値は乾燥した状態、間に水や油がない場合であることはいうまでもない。 鉄道車両の場合は、雨で濡れている場合もあるわけで、μは一定しない。 それでは、計算にならないので、通常μ=0.3で計算している。
このμ=0.3で計算すると、
10.5(トン)×0.3×1000 =3150(kg)
ということになる。これが、空転の限界であり、これより大きな力(トルク)で車輪を回そうとしても 空回り(空転)してしまう。(注)
次に車両に搭載したディーゼル機関がどれだけの駆動力を出せるのか計算してみる。
(機関の補機動力の損失、伝達系の損失は考慮していない)
キハ80系の機関DMH17Hの最大出力が180PS/1500rpmなので、トルク(回転力)を計算すると、85.9kg-mとなる。
トルクコンバータのストールトルク比(後日、解説の予定)5.3なので、起動時のコンバータの出力トルクは
85.9×5.3=455.3(kg-m)
(注:≒で表記すべきところであるが、以下、=とする)
「逆転機」で解説の通り、コンバータ出力軸から車軸までの間に減速歯車があって、減速比
40/29×36/19=2.613
トルクは増加して、
455.3×2.613=1189.7(kg-m)
となる。
車輪の径860mmなので、半径0.43m。車輪がレールを押して前に進む力が駆動力であって、これは、
1189.7÷0.43=2767(kg)
摩擦係数から計算した空転限界3150kg>エンジンの駆動力2767kg
なので、空転することはない。
次に、キハ180系の場合を同様に計算してみる。
機関DML30HSの最大出力500PS/1600rpmより、トルク(回転力)を計算すると、223.8kg-mとなる。
トルクコンバータのストールトルク比は、3.6と公表されているので、起動時のコンバータの出力トルクは
223.8×3.6=805.7 (kg-m)
「2軸駆動」で解説の通り、コンバータ出力軸に逆転歯車があり、48/49の減速比。
台車内に減速歯車があって、減速比
23/28×46/16=2.362
これらの歯車により、トルクは増加して、
805.7×49/48×2.362=1942.7 (kg-m)
となる。
2軸駆動なので、このトルクが、それぞれの軸に均等に分かれて作用するものとすれば、1軸あたりは、÷2となって、
1942.7÷2=971.4(kg-m)
車輪の径860mmなので、半径0.43m。車輪がレールを押して前に進む力が駆動力であって、これは、
971.4÷0.43=2259(kg)
摩擦係数から計算した空転限界3150kg>エンジンの駆動力2259kg
なので、空転することはない。
1軸駆動としたならば、これが逆転して、エンジンの駆動力の方が大きくなって、空転限界を越える動力で 回すことになり、空転する、ということになる。大出力の機関を搭載しても、その能力が使えない、 ということになってしまう。
実際の運転を見ていると、駅を出発するとき、ブレーキを緩めるとクリープ現象で動き始めるものの、 短時間のうちに機関全出力で加速していく。車両が動き始めた段階で、コンバータのトルク比は低下している (ストールトルク比3.6以下に低下)が、1軸駆動ならば、条件によっては、空転しているかもしれない。
これが、手間をかけて2軸駆動にしている理由と考えてよい。
(注)鉄道模型では、モータの付いている動力車に鉛の錘を載せる。錘がないと、いくら強力なモータを使っても、 空転するばかりで他の車両を牽引できない。箱型の電気機関車などの模型なら、錘を載せることが容易だが、 蒸気機関車の模型では、錘を載せる場所に苦労するということをきく。
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