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─ 駆動力(ディーゼル機関車) ─




お客を乗せる車体の床下にディーゼルエンジンを付けて自走できる車体をディーゼルカー、気動車という。
これに対し、動力を持たない客車や貨車を引っ張るために大きなディーゼルエンジンを付けた車体 (お客を乗せるようにつくられていない)を「ディーゼル機関車」という。
ディーゼル機関車の「駆動力」についても計算してみる。

幹線用としてつくられたDD51型について計算してみる。
1100PS/1500rpmの機関で2軸を駆動する動力装置を、前後のボンネットに各1セット。 合計2台の動力を持つ大型の機関車である。
全長18m、整備重量約84t。左←の画像はDD51が2両連結で牽引するタンク貨車。2017年1月撮影。
中央に運転台があり、運転室の下に2軸の付随台車(駆動されない車輪)があり、これが空気バネ台車になっている。 この空気圧を変えることで、駆動軸の軸重を変えることができる。空気圧を下げると、駆動軸に荷重が載り、 空気圧を上げると駆動軸の荷重がこの付随台車に載るので、駆動軸の軸重が軽くなる。(注1)
駆動軸の軸重14トンと15トンの切り替えができるようになっている。
ここでは、15トンの場合を計算する。
キハ80系、180系の場合と同様、空転の限界を計算してみる。 車輪とレールの間の摩擦係数は気動車と同様、μ=0.3とする。
空転の限界は1軸あたり、
15(トン)×0.3×1000 =4500(kg)
で、これより大きな力(トルク)で車輪を回そうとしても空回り(空転)してしまう。
牽引力は、4軸駆動なので、
4500(kg)×4=18000(kg)
となる。

次に車両に搭載したディーゼル機関がどれだけの駆動力を出せるのか計算してみる。
(機関の補機動力の損失、伝達系の損失は考慮していない)
機関DML61Zの最大出力が1100PS/1500rpmなので、トルク(回転力)を計算すると、525.2kg-mとなる。 変速機(トルクコンバータ)のストールトルク比(後日、解説の予定)5.3なので、 起動時のコンバータの出力トルクは
525.2×5.3=2783.6(kg-m)
変速機の出力軸から車軸までの間に減速歯車があって、46:29のハスバ歯車で1段減速、 42:19のカサ歯車で、2段目の減速をする。合計の減速比は
46/29×42/19=3.506
トルクは増加して、
2783.6×3.506=9759.3(kg-m)
となる。
1台のエンジンで2軸を駆動しているので、この回転力が2軸に均等に分かれて作用するものとすれば、÷2となって
9759.3÷2=4879.7(kg-m)
車輪の径860mmなので、半径0.43m。車輪がレールを押して前に進む力が駆動力であって、これは、
4879.7÷0.43≒11348(kg)

摩擦係数から計算した空転限界4500kg<エンジンの駆動力11348kg
となり、気動車の場合と違って、機関駆動力がはるかに上回っている。 油断すれば、簡単に空転してしまう計算結果となる。
気動車の場合、一部(キサシ80,180,キサロ90など)を除き、自走する。他の車両を牽引しないので、 「牽引力」はあまり重要でない。これに対し、機関車は、他の車両を牽引しなければ意味がないので、 牽引力が問題となる。
上記の計算の通り、機関出力の大小よりも、摩擦の空転限界で牽引力が決まってしまう。



次に入換えや小運転、亜幹線用としてつくられたDE10型について計算してみる。
こちらは、全長約14m、整備重量約65t。
(左←)画像は樽見鉄道のDE10同型機。
1250PS/1500rpmの機関1台で全5軸を駆動する。出力増強型も製造され、 機関出力は1350PSまで増強されたが、ここでは、1250PSで計算する。
機関を収納する側のボンネットが大きく、前後非対称で、運転台は中央から少し片側に寄っている。 軸重は13トンで、摩擦から得られる駆動力は1軸あたり、
13(トン)×0.3×1000 =3900(kg)
で、軸重が軽い分だけ、DD51よりも、上限が低い。
ただし、牽引力は、5軸で駆動しているので、
3900(kg)×5=19500(kg)
となって、DD51の18000kgを上まわる。

DD51と同様に車両に搭載したディーゼル機関がどれだけの駆動力を出せるのか計算してみる。 (機関の補機動力の損失、伝達系の損失は考慮していない)
機関DML61ZAの最大出力が1250PS/1500rpmなので、トルク(回転力)を計算すると、596.8kg-mとなる。
変速機は歯車の切替え機構を内蔵しており、高速、低速の切替えができるようになっている。(注2)
変速機(トルクコンバータ+歯車機構)のストールトルク比(後日、解説の予定)は高速段で4.6、低速段で8.5。 高速段で計算すると、起動時のコンバータの出力トルクは
596.8×4.6=2745.3(kg-m)
変速機の出力軸から車軸までの間に減速歯車があって、29:22のカサ歯車で1段減速、 51:15のハスバ歯車で、2段目の減速をする。合計の減速比は
29/22×51/15=4.482
トルクは増加して、
2745.3×4.482=12304(kg-m)
1台のエンジンで5軸を駆動しているので、この回転力が5軸に均等に分かれて作用するものとすれば、÷5となって
12304÷5=2460.8(kg-m)
となる。
車輪の径860mmなので、半径0.43m。車輪がレールを押して前に進む力が駆動力であって、
これは、
2460.8÷0.43≒5723(kg)
摩擦係数から計算した駆動力の上限3900kg<エンジンの駆動力5723kg
となり、これも、機関駆動力が上回っており、DD51ほどではないが、油断すれば、空転する計算となる。
当然のことながら、「低速段」では、エンジン駆動力がこの2倍近くになり、空転しやすくなる。

ならば、機関車が常時、空転しているか、というと、
この計算は、始動時、いきなり機関最大出力にする、という架空の計算なので、実際とは異なる。
そもそも、14ノッチ(注3)に投入すると、常に機関最大出力が出るかというと、そうではない。
機関には出力を自動で調整する「調速機」というのが付いている。 14ノッチに投入しても、負荷が軽ければ、機関回転速度が上がりすぎないように燃料噴射量を自動で減らす。 一旦動き出せば、必要なトルクは小さくなるし、変速機のトルク比が低下してくる。
場合によっては、空転防止(摩擦係数μを上げる)のために、「砂マキ」して、対応する。
この計算からわかるように、起動時に車輪や車軸、駆動系にかかる力というのは、 機関出力よりも、軸重と摩擦係数に依存する。
ならば、大出力機関は意味がないのか、というと、そんなことはない。
ここでの計算は、駆動系にもっとも大きな力がかかる条件として、停止からの起動を考えたまでで、 例えば、50km/hから90km/hへと加速するような場合には、大出力機関ならば、短時間で到達するであろう。 (このときの駆動軸のトルクは起動時よりも小さい)

ここまでの解説で、駆動系にもっとも大きな力がかかるのは、スタート時だということがわかる。
そして、機関車の場合、空転限界を越える機関出力をもっているのが通常であって、駆動系に加わる力は、 駆動する原動機(エンジン)の最大出力とはもはや関係がなく、軸重と摩擦係数で決まってしまう。
駆動系のトラブルで業界でよく知られているのが、DD54の推進軸折損事故であろう。
DD54については、関連書籍でもHPでも「推進軸が機関出力に耐えられなかった」と記述されているが、 これまでの解説から、これが誤りであることがわかる。
推進軸にもっとも大きな力がかかる条件というのは、軸重と摩擦係数との関係であって、 もはや、機関の最大出力とは関係がない。 機関最大出力、推進軸最大トルクの条件のもとでは、空転してしまい、エンジンの動力は車輪に伝わらない。
次回はこのDD54の推進軸折損について解説の予定。


(注1)レールの頑丈な幹線では、軸重を15トンにして、牽引力を大きくし、空転しにくくする。
支線に入るときには、14トンにして、レールへの負担を軽くする、という使い方を想定している。

(注2)通常の運転は「高速段」を使用し、操車場などで、貨車の移動(入れ替え作業)では、「低速段」を 使用する、という想定でつくられている。

(注3)DD51もDE10型も設定機関出力、回転速度は14段階の刻みになっている。この刻みを「ノッチ」という。
ただし、本文に記述したように、各ノッチ毎に、常時、設定した機関出力が出るか、というとそうではなく、 「調速機」が、自動で燃料噴射量を調整する。

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