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〜 雪月花 新撰組異聞 編 〜


〜 韓藍物語 恋ふる日 色に出にけり 〜


登場人物

土方歳三、沖田総司、斉藤一、お雪、お雪の家の手伝い人、少女[鈴・美鈴]



「恋ふる日の 日長くしあれば 我が園の 韓藍の花の 色に出にけり」

「万葉集 第十巻 二二七八番」より

作者:詠み人知らず



今は秋。



ここは、京の町。



夏のような暑い日が続いている。

陽が落ちてからや天候などによっては、涼しさを感じるようになってきた。



秋の訪れを実感できるのは、もう少し先の事になるかも知れない。



そんなある秋の日の事。



ここは、京の町。



土方歳三が真紅の韓藍の花束を抱えて歩いている。



端正な顔立ちをした土方歳三と、真紅の韓藍の組み合わせは、男性女性に関係なく人目を引く。



町中に居る人達は、土方歳三が視線に入ると、思わず見とれてしまう。



土方歳三は周りの視線を気にする様子も無く、韓藍の花束を抱えて歩いている。



それから少し後の事。



ここは、京の町。



お雪の家。



お雪は京の町で美雪太夫と名乗っていた事がある。

美雪太夫は京の町で指折りの太夫だった。

近藤勇が美雪太夫を気に入り身請けした。

美雪太夫は、近藤勇に身請けされてからは、元の名前のお雪と名乗った。

お雪は近藤勇に京の町に家を建ててもらった。

お雪の家には、新撰組の幹部の隊士達が、時折だが訪れるようになった。

お雪が身請けをされてから後の事になるが、体調が悪くなった。

医者の見立ては、今年の終わりまでもつかどうかとの事だった。

お雪の希望により、ごく一部の者だけに、お雪の体調を知らせた。

近藤勇と土方歳三は、隊士達がお雪の家に頻繁に訪れる事のないように、さり気なく気を遣った。

隊士達は、近藤勇や土方歳三から用事を頼まれない限りは、気軽に訪れないようになった。

土方歳三は、近藤勇との繋がりや立場的な事もあり、当初から気軽に訪れている。



ここは、お雪の家の玄関。



土方歳三は韓藍の花束を抱えながら、お雪の家に微笑んで到着した。



お雪は土方歳三の前に微笑んで現れた。



土方歳三は韓藍の花束を抱えながら、お雪に微笑んで話し出す。

「こんにちは。お雪さんと話しがしたいです。お時間は大丈夫ですか?」

お雪は土方歳三に微笑んで話し出す。

「もう少し経つと、お客様が見えられます。たいしたお持て成しも出来ないと思います。余りお話しが出来ないと思います。それでも構わないでしょうか?」

土方歳三は韓藍の花束を抱えながら、お雪に微笑んで話し出す。

「構いません。」

お雪は土方歳三に微笑んで話し出す。

「どうぞお上がりください。」

土方歳三は韓藍の花束を抱えながら、お雪に微笑んで軽く礼をした。



お雪は微笑んで家の中へと入っていった。

土方歳三は韓藍の花束を抱きながら、微笑んで家の中へと入っていった。



それから僅かに後の事。



ここは、お雪の家の一室。



土方歳三とお雪は、一緒に居る。



土方歳三は韓藍の花束をお雪に差し出すと、微笑んで話し出す。

「韓藍が綺麗に咲いていたので、お雪さんに見てもらいたくて、分けてもらいました。」

お雪は土方歳三から韓藍の花束を受け取ると、微笑んで話し出す。

「綺麗な真紅をした韓藍ですね。ありがとうございます。」

土方歳三はお雪に微笑んで話し出す。

「お雪さんの前では、真紅の韓藍も霞んで見えますね。」

お雪は韓藍の花束を抱きながら、土方歳三に微笑んで話し出す。

「私にお世辞を言っても、良い事は何も起こりませんよ。」

土方歳三はお雪に寂しそうに話し出す。

「俺はお世辞を言うように見えるのですか?」

お雪は韓藍の花束を抱きながら、土方歳三に微笑んで話し出す。

「土方先生は韓藍を抱いたまま、私の家まで来られたのですか?」

土方歳三はお雪に寂しそうに頷いた。

お雪は韓藍の花束を抱きながら、土方歳三に微笑んで話し出す。

「土方先生が真紅の韓藍を抱いて京の町の中を歩いている様子と、周りに居た方達が土方先生を見とれていた様子が、目に浮かびます。私も土方先生が真紅の韓藍を抱いて京の町を歩いている姿を見たかったです。」

土方歳三はお雪を微笑んで見た。

お雪は韓藍の花束を抱きながら、土方歳三に微笑んで話し出す。

「韓藍がしおれてしまうと困るので、花瓶に活けたいと思います。」

土方歳三はお雪に微笑んで話し出す。

「お雪さんが韓藍を活けている様子が見たいです。」

お雪は韓藍の花束を抱きながら、土方歳三に微笑んで話し出す。

「この部屋で韓藍を活けても良いですか?」

土方歳三はお雪を微笑んで見た。

お雪は韓藍の花束を脇に置くと、土方歳三に微笑んで話し出す。

「花瓶などの用意をします。少しお待ちください。」

土方歳三はお雪に微笑んで話し出す。

「準備を手伝います。」

お雪は土方歳三に微笑んで話し出す。

「お言葉に甘えて、お手伝いをお願いします。

土方歳三はお雪を微笑んで見た。



土方歳三とお雪は、部屋から出て行った。



それから僅かに後の事。



ここは、土方歳三とお雪が話しをしていた部屋。



土方歳三は花瓶などを持ちながら、微笑んで部屋の中に入ってきた。

お雪は土方歳三の後に続いて、微笑んで部屋の中に入ってきた。



お雪は土方歳三に微笑んで話し出す。

「では韓藍の花を活けます。」

土方歳三はお雪に微笑んで話し出す。

「お願いします。」

お雪は韓藍の花束を微笑んで広げた。

土方歳三はお雪を微笑んで見た。

お雪は広げた韓藍の花を見ながら不思議そうな表情になった。

土方歳三はお雪を微笑んで見た。



真紅の韓藍の花の中に、真っ白な紙が入ってきた。



お雪は紙を不思議そうに手に取った。

土方歳三はお雪を微笑んで見た。



紙には歌が一首だけ書いてある。



土方歳三はお雪に微笑んで話し出す。

「何かありましたか?」

お雪は紙を持ちながら、土方歳三に微笑んで話し出す。

「土方先生から頂いた韓藍の花束の中に、意外な歌が入っていました。」

土方歳三はお雪に微笑んで話し出す。

「意外ですか?」

お雪は紙を持ちながら、土方歳三を微笑んで見た。

土方歳三はお雪を微笑んで見た。

お雪は紙を持ちながら、土方歳三に微笑んで話し出す。

「“恋ふる日の 日長くしあれば”と“韓藍の花の 色に出にけり”の句を詠むと、ある二人の事を見ながら詠んだ歌のように思えてきました。」

土方歳三はお雪に微笑んで話し出す。

「お雪さんは、歌の内容に似ている二人をご存知なのですね。」

お雪は紙を持ちながら、土方歳三を微笑んで見た。

土方歳三はお雪に微笑んで話し出す。

「お雪さんの知り合いの一人が、剣に関する事は天才的だが、それ以外の事は天才的に鈍い人だとすると、相手の人は相当な苦労をしますね。相手の人は悩みを多く抱えていると思います。お雪さんと話しが出来る事を喜んでいると思います。」

お雪は紙を持ちながら、土方歳三を微笑んで見ている。

土方歳三はお雪に微笑んで話し出す。

「変な事を話してしまいました。」

お雪は紙を持ちながら、土方歳三に微笑んで首を横に振った。

土方歳三はお雪を微笑んで見た。

お雪は紙を脇に置くと、韓藍を花瓶に微笑んで活け始めた。

土方歳三はお雪を微笑んで見ている。



お雪は韓藍を花瓶に活け終わった。



土方歳三はお雪に微笑んで話し出す。

「さすがお雪さんですね。真紅の韓藍が更に艶やかになりました。」

お雪は土方歳三に微笑んで話し出す。

「ありがとうございます。」

土方歳三はお雪に微笑んで話し出す。

「そろそろ客が訪れる頃ですよね。迷惑を掛けると困るので、失礼します。」

お雪は土方歳三に微笑んで話し出す。

「お気遣いありがとうございます。」

土方歳三はお雪を微笑んで見た。



土方歳三はお雪の家から去っていった。



それから僅かに後の事。



ここは、土方歳三とお雪が話しをしていた部屋。



韓藍は花瓶に綺麗に活けてある。



お雪は歌の書いてある紙を持ちながら、韓藍を見て、微笑んで呟いた。

「“恋ふる日の 日長くしあれば 我が園の 韓藍の花の 色に出にけり”。土方先生は誰の事を思いながら、私に歌を贈ったのかしら? せっかくだから、もう少し詳しく質問をすれば良かったわね。」



韓藍は花瓶の中で綺麗な姿で咲いている。



お雪は歌の書いてある紙を持ちながら、韓藍を微笑んで見た。



それから少し後の事。



ここは、京の町。



土方歳三は微笑んで歩いている。



土方歳三より少し離れた場所を、斉藤一と少女が歩いている姿が見えた。



少女は微笑んで歩いている。

斉藤一は少女の様子を一瞥しながら、普通に歩いている。



土方歳三は斉藤一と少女の元へ向かって、微笑んで歩いていった。



斉藤一と少女に向かって、土方歳三が微笑んで歩いてくる姿が見えた。



少女は斉藤一を確認するように見た。

斉藤一は少女を一瞥しながら、普通に歩き続けている。

少女は前を向くと、不思議そうに歩き続けた。



土方歳三、斉藤一と少女、三人の距離が近づいてきた。



土方歳三は斉藤一と少女に話し掛ける事なく、微笑んで去っていった。



少女は斉藤一を不思議そうに見た。

斉藤一は少女を普通の表情で見た。

少女は前を向くと、不思議そうに歩き続けた。

斉藤一は少女を一瞥しながら、普通に歩き続けた。



それから少し後の事。



ここは、お雪の家。



斉藤一と少女は、お雪の家に到着した。



お雪は斉藤一と少女の前に微笑んで現れた。



斉藤一、お雪、少女は、家の中へと入っていった。



それから少し後の事。



ここは、お雪の家に在る一室。



斉藤一、お雪、少女が、一緒に居る。



部屋の外から、手伝いの人の穏やかな声が聞こえてきた。

「沖田様が見えられました。」



斉藤一はお雪と少女に普通に話し出す。

「総司が来たので、俺は屯所に戻ります。」

少女は斉藤一に微笑んで話し出す。

「送って頂いて、ありがとうございました。」

斉藤一は少女に普通の表情で頷いた。

お雪は斉藤一と少女を微笑んで見た。



斉藤一は部屋から普通に出て行った。



それから僅かに後の事。



ここは、お雪の家の玄関。



沖田総司は玄関に微笑んで居る。



斉藤一は沖田総司の前に普通に現れた。



沖田総司は斉藤一に微笑んで話し出す。

「斉藤さん。帰るのですか?」

斉藤一は沖田総司に普通の表情で頷いた。

沖田総司は斉藤一に微笑んで話し出す。

「斉藤さん。後で、私の部屋か斉藤さんの部屋で、一緒に話しをしましょう。」

斉藤一は沖田総司に普通の表情で頷いた。

沖田総司は斉藤一を微笑んで見た。

斉藤一は沖田総司の額を、普通の表情のまま、指で軽く弾いた。

沖田総司は直ぐに額を抑えると、斉藤一を訝しげに見た。

斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。

「今回はお雪さんの家だから、力を入れてない。」

沖田総司は額を抑えながら、斉藤一を訝しげに見ている。

斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。

「総司。後で、ゆっくりとじっくりと話しをしながら、一緒に過ごそう。」

沖田総司は額を抑えながら、斉藤一を怪訝そうに見ている。



斉藤一はお雪の家を普通に去っていった。



沖田総司は額を抑えながら、玄関の戸を見て、拗ねた様子で呟いた。

「私は何もしていないのに。酷い。」



少女の不思議そうな声が、沖田総司の後ろから聞こえてきた。

「総司さん。何かありましたか?」



沖田総司は額から手を離すと、慌てた様子で後ろを見た。



少女は沖田総司に心配そうに話し出す。

「総司さん。額が僅かですが赤いです。大丈夫ですか?」

沖田総司は少女に苦笑しながら話し出す。

「さっき斉藤さんとぶつかったんだ。軽くぶつかっただけなのに、額が赤くなっていたんだ。気が付かなかった。」

少女は沖田総司を安心した表情で見た。

沖田総司は少女に苦笑しながら話し出す。

「額が赤いと気になるかな?」

少女は沖田総司を見ながら、微笑んで首を横に振った。

沖田総司は少女を安心した表情で見た。

少女は沖田総司に微笑んで話し出す。

「客間に綺麗な真紅の韓藍が活けてあります。総司さんとお雪さんと一緒に見たいです。」

沖田総司は少女に微笑んで話し出す。

「分かった。早く客間に行こう。」

少女は沖田総司に微笑んで頷いた。



沖田総司と少女は、家の中へと入っていった。



それから暫く後の事。



ここは、京の町。



屯所。



沖田総司は少女を家に送り届けたので、屯所に戻ってきた。



沖田総司は自分の部屋に戻る事なく、斉藤一の部屋へと直ぐに向かった。



それから僅かに後の事。



ここは、斉藤一の部屋。



沖田総司は斉藤一の部屋を微笑んで訪れた。



斉藤一は沖田総司を普通の表情で見た。

沖田総司は斉藤一に微笑んで話し出す。

「鈴ちゃんとお雪さんと私の三人で、綺麗な真紅の韓藍を見ました。」

斉藤一は沖田総司を普通の表情で見ている。

沖田総司は斉藤一に微笑んで話し出す。

「斉藤さん。近い内に、鈴ちゃんに真紅の韓藍を贈りたいと思っています。良い歌を知りませんか?」

斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。

「一首だけ知っている。」

沖田総司は斉藤一に微笑んで話し出す。

「ぜひ教えてください。」

斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。

「恋ふる日の 日長くしあれば 我が園の 韓藍の花の 色に出にけり」

沖田総司は顔を赤くして下を向くと、斉藤一に小さい声で話し出す。

「斉藤さん。別な歌を教えてください。」

斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。

「一首しか知らないと言っただろ。今の歌が不服ならば、自分で探せ。」

沖田総司は顔を赤くしたまま顔を上げると、斉藤一を驚いた様子で見た。

斉藤一は沖田総司を普通の表情で見た。

沖田総司は顔を赤くしたまま、斉藤一を不安そうに見た。

斉藤一は沖田総司の額を指で思い切り弾いた。

沖田総司は顔を赤くしながらも、痛そうな表情になり、額を直ぐに手で押さえた。

斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。

「お雪さんの家で、後でゆっくりとじっくりと過ごそうと言ったから、続きを始めた。」

沖田総司は顔を赤くしたまま、手を額に当てながら、斉藤一を怪訝そうに見た。

斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。

「総司。時間はたくさんあるな。楽しみだな。」

沖田総司は顔を赤くしたまま、手を額に当てながら、斉藤一と適度な距離を保とうとした。

斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。

「総司。離れたら話しが出来ないだろ。」

沖田総司は顔を赤くしたまま、手を額に当てながら、斉藤一に渋々と近づいた。

斉藤一は沖田総司に普通の表情で頷いた。



真紅の韓藍の花。

真紅の韓藍のように顔を赤くする沖田総司。

時折になるが、真紅の韓藍のように顔を赤くする少女。

韓藍の花の咲く季節は、まだ続きます。

斉藤一、お雪、少女の苦労は、もう暫く続きそうです。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語に登場する歌は、「万葉集 第十巻 二二七八番」です。

「恋ふる日の 日長くしあれば 我が園の 韓藍の花の 色に出にけり」

ひらがなの読み方は、「こふるひの けながくしあれば からあゐのはなの いろにでにけり」です。

作者は、「詠み人知らず」です。

意味は、「恋する日々が長く続いたものだから、私の庭の韓藍の花のように、顔色にでてしまいました。」となるそうです。

原文は、「戀日之 氣長有者 三苑圃能 辛藍花之 色出尓来」です。

「韓藍(からあい)」についてです。

今では「鶏頭(けいとう)」という名前の方が一般的だと思います。

「鶏頭」は、「鶏」の「鶏冠(とさか)」に似た花と形と赤い花が咲く様子から付いた名前だそうです。

現在では、赤色の他にも、いろいろな色があります。

「韓藍」は、昔から染料として使用されていたそうです。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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