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〜 雪月花 新撰組異聞 偏 〜


〜 秋の砌 尾花が下の思ひ草 何をか思はむ 〜


登場人物

近藤勇、土方歳三、沖田総司、斉藤一、藤堂平助、お雪、お孝、少女[鈴・美鈴]



「道の辺の 尾花が下の 思ひ草 今さらさらに 何をか思はむ」

「万葉集 第十巻 二二七〇番」

作者:詠み人知らず



今は秋。



ここは、京の町。



日中は暑さを感じても、夜になると暑さを感じなくなってきた。



ここは、お雪の家。



近藤勇が、体調の悪いお雪を気遣って、お雪の妹のお孝を大坂から呼び寄せた。

お雪の妹お孝は、見舞いと看護と観光を兼ねて大坂から来ている。



ここは、客間。



近藤勇が微笑んで居る。

お雪も微笑んで居る。



近藤勇はお雪に微笑んで話し出す。

「お雪。体は辛くないか?」

お雪は近藤勇に微笑んで話し出す。

「たくさんの方が気遣ってくださいます。楽しい出来事がたくさんあります。辛く感じる時はありません。」

近藤勇はお雪に微笑んで話し出す。

「楽しい時は、気付かない内に無理をしている。気を付けるように。」

お雪は近藤勇に微笑んで話し出す。

「はい。」

近藤勇はお雪を微笑んで見た。



お孝が部屋の中に微笑んで入ってきた。



近藤勇はお孝を微笑んで見た。

お雪もお孝を微笑んで見た。

お孝は近藤勇に微笑んで話し出す。

「近藤さん。こんにちは。」

近藤勇はお孝に微笑んで話し出す。

「こんにちは。楽しい出来事があったのかな?」

お孝は近藤勇を不思議そうに見た。

近藤勇はお孝に微笑んで話し出す。

「お孝は、私や多くの隊士と会う時は普通だが、歳や平助と逢う時は笑顔だと聞いた。今のお孝は笑顔だ。楽しい出来事があったのかと思って質問した。」

お孝は近藤勇に微笑んで話し出す。

「近藤さんの言う通り、土方さんや平助さんと逢う時は楽しいです。今の私が笑顔なのは、近藤さんに頼みがあるからです。」

お雪はお孝に困惑した様子で話し出す。

「お孝。近藤先生は偉い方なのよ。お孝は頼む側なのよ。近藤先生に対して失礼よ。」

お孝はお雪に不思議そうに話し出す。

「私のどの部分が失礼なの?」

お雪は近藤勇に申し訳なさそうに話し出す。

「申し訳ありません。」

近藤勇はお雪に微笑んで話し出す。

「私は雅や風流とは縁遠い生活だ。お孝が歳や平助と一緒に居る時より楽しく感じないのは仕方がない。」

お雪は近藤勇に微笑んで話し出す。

「お気遣いありがとうございます。」

近藤勇はお雪を微笑んで見た。

お孝は近藤勇とお雪を不思議そうに見た。

近藤勇はお孝に微笑んで話し出す。

「お孝。私への頼みは何かな?」

お孝は懐から文を取り出すと、近藤勇に微笑んで話し出す。

「土方さん宛てに文を書きました。土方さんに渡してください。」

お雪は近藤勇に申し訳なさそうに話し出す。

「申し訳ありません。」

近藤勇はお雪に微笑んで話し出す。

「気にするな。」

お孝は近藤勇に文を微笑んで差し出した。

近藤勇はお孝から文を受け取ると、懐に微笑んで仕舞った。

お孝は近藤勇を微笑んで見た。

お雪は近藤勇を安心した表情で見た。



それから暫く後の事。



ここは、屯所。



近藤勇の部屋。



近藤勇は机に普通に向かっている。



土方歳三が部屋を微笑んで訪れた。



近藤勇は土方歳三に微笑んで話し出す。

「歳。呼び立てて悪かったな。」

土方歳三は近藤勇に微笑んで話し出す。

「近藤さんと俺との仲だ。気にしないでくれ。」

近藤勇は土方歳三に微笑んで話し出す。

「今日はお雪と逢った。途中でお孝とも逢った。お孝から歳宛ての文を預かった。」

土方歳三は近藤勇を苦笑した表情で見た。

近藤勇は机の上から文を取ると、土方歳三に不思議そうに差し出した。

土方歳三は近藤勇から文を微笑んで受け取った。

近藤勇は土方歳三に微笑んで話し出す。

「お孝は歌を書いた文を歳宛てに何度も贈っているそうだな。歳は歌を含めた多方面の知識があるし風流な歌が詠める。お孝はお雪の妹だが、遠慮せずに歌の感想や説明をしてあげて欲しい。」

土方歳三は文を持ちながら、近藤勇を微笑んで見た。

近藤勇は土方歳三を微笑んで見た。

土方歳三は文を持ちながら、近藤勇に微笑んで話し出す。

「近藤さん。部屋に戻る。」

近藤勇は土方歳三に微笑んで頷いた。



土方歳三は文を持ちながら、部屋を微笑んで出て行った。



その翌日の事。



ここは、屯所。



土方歳三の部屋。



土方歳三は机に普通に向かっている。



藤堂平助が部屋を普通に訪ねてきた。



土方歳三は藤堂平助を普通の表情で見た。

藤堂平助は土方歳三に普通に話し出す。

「用事があると聞きました。」

土方歳三は藤堂平助に微笑んで話し出す。

「明日はお孝さんと一緒に出掛けてくれ。」

藤堂平助は土方歳三に不思議そうに話し出す。

「お孝さんから頼まれたのですか?」

土方歳三は藤堂平助に微笑んで話し出す。

「お孝さんは頼んでいない。」

藤堂平助は土方歳三に僅かに困惑した様子で話し出す。

「私は京の町に詳しくありません。お孝さんに全て任せると言われたら困ります。」

土方歳三は藤堂平助に微笑んで話し出す。

「出掛ける場所については、お雪さんがお孝さんに話しているはずだ。費用については、近藤さんが用意する。平助はお孝さんと心配せずに会えるな。よろしく頼む。」

藤堂平助は土方歳三に困惑した様子で軽く礼をした。

土方歳三は藤堂平助を微笑んで見た。



その翌日の事。



ここは、お雪の家。



玄関。



藤堂平助が僅かに困惑した様子で訪ねてきた。



お孝は藤堂平助の前に微笑んで現れた。

お雪も藤堂平助の前に微笑んで現れた。



藤堂平助はお雪とお孝に微笑んで軽く礼をした。

お孝は藤堂平助に微笑んで話し出す。

「今日はよろしくお願いします。」

藤堂平助はお孝に微笑んで話し出す。

「出掛けたい場所はありますか?」

お孝は藤堂平助に微笑んで話し出す。

「姉さんから美味しい物が食べられるお店を教えてもらったの。」

藤堂平助はお孝に微笑んで話し出す。

「道案内などお願いします。」

お孝は藤堂平助に微笑んで話し出す。

「任せて。」

お雪は藤堂平助に微笑んで話し出す。

「よろしくお願いします。」

藤堂平助はお雪に微笑んで軽く礼をした。

お孝は藤堂平助の腕を掴むと、微笑んで話し出す。

「平助さん。早く出掛けましょう。」

藤堂平助はお孝に苦笑しながら軽く礼をした。



お孝は藤堂平助の腕を掴みながら、楽しそうに出掛けて行った。

藤堂平助は苦笑しながら出掛けて行った。



それから少し後の事。



ここは、お雪の家。



お孝は藤堂平助と出掛けているので居ない。



ここは、客間。



土方歳三は微笑んで居る。

斉藤一は普通に居る。

斉藤一の傍には包みが置いてある。

お雪は微笑んで居る。



土方歳三はお雪に微笑んで話し出す。

「お雪さんの笑顔が見られて嬉しいです。」

お雪は土方歳三に微笑んで話し出す。

「楽しい出来事がたくさんあるので、笑顔になる時間が多いです。」

土方歳三はお雪を微笑んで見た。

斉藤一は土方歳三とお雪を普通の表情で見た。

土方歳三はお雪に微笑んで話し出す。

「お孝さんからの文を読みました。文には、“道の辺の 尾花が下の 思ひ草 今さらさらに 何をか思はむ”という歌も書いてありました。」

お雪は土方歳三を微笑んで見た。

土方歳三はお雪に微笑んで話し出す。

「お雪さんは既にご理解されていると思いますが、念のために話します。お孝さんは俺を真剣に想っていません。豊かに過ごせる相手として、俺を偶然に見付けただけです。」

お雪は土方歳三に微笑んで話し出す。

「お孝とほとんど話していないのに、お孝の考えや行動を理解されているのですね。さすが土方先生です。」

土方歳三はお雪に微笑んで話し出す。

「お雪さんに褒めて頂けて嬉しいです。」

お雪は土方歳三を微笑んで見た。

土方歳三はお雪に微笑んで話し出す。

「お孝さんが俺に贈る歌は、お雪さんが選んだ歌の中から、更にお孝さんが選んでいますよね。」

お雪は土方歳三に微笑んで軽く礼をした。

土方歳三はお雪に微笑んで話し出す。

「近藤さんはお雪さんを身請けしました。お孝さんはお雪さんの妹です。俺がお孝さんと付き合えば、世間が何を言うか想像が出来ます。俺のために近藤さんの評判は落とす訳にはいきません。自慢する訳ではありませんが、俺はもてます。お孝さんと無理して付き合う考えはありません。俺はお孝さんの行動や発言に関係なく、付き合う考えもありません。」

お雪は土方歳三を微笑んで見た。

土方歳三はお雪に微笑んで話し出す。

「俺はお孝さんに歌の指導をする考えはありません。代わりに、お孝さんが歌を書いた文の返事は書くつもりです。お孝さんが本当に想う人に歌を贈る時の役に立てば嬉しいと思っています。」

お雪は土方歳三に微笑んで話し出す。

「お孝を気遣って頂いてありがとうございます。」

土方歳三はお雪に微笑んで話し出す。

「お孝さんはお雪さんの妹です。近藤さんもお雪さんとお孝さんを気遣っています。副長として、近藤さんの弟のような立場として、お孝さんに対してある程度の気遣いをしなければなりません。」

お雪は土方歳三を微笑んで見た。

土方歳三はお雪に微笑んで話し出す。

「お雪さんの家を訪ねた一番の理由は、お雪さんと二人だけで逢いたかったからです。」

お雪は土方歳三に微笑んで話し出す。

「土方先生。二人だけではありません。斉藤様に悪いです。」

土方歳三はお雪に微笑んで話し出す。

「斉藤は居ても口外しません。斉藤はどのような場面に居ても冷静です。斉藤と一緒に居ると便利です。お雪さんも気にしないでください。」

お雪は土方歳三に微笑んで話し出す。

「斉藤様に失礼なので、気にしない訳にはいきません。」

土方歳三は斉藤一に微笑んで話し出す。

「斉藤。お雪さんは優しいな。」

斉藤一は土方歳三に普通の表情で軽く礼をした。

土方歳三は懐から文を取り出して、お雪の前に置くと、微笑んで話し出す。

「お孝さん宛ての文を書きました。お雪さんからお孝さんに渡してください。」

お雪は文を取ると、土方歳三に微笑んで話し出す。

「分かりました。」

土方歳三はお雪を微笑んで見た。

お雪は文を持ちながら、土方歳三に微笑んで話し出す。

「土方先生。私に逢いに来た理由は、他にもありますよね。」

土方歳三は斉藤一を微笑んで見た。

斉藤一は包みを取ると、お雪の前に普通に置いた。

お雪は文を持ちながら、斉藤一と包みを微笑んで見た。

土方歳三はお雪に微笑んで話し出す。

「総司に、お雪さんがあの子と逢いたがっていると話しました。総司とあの子がお雪さんに会いに来る予定です。お雪さんに確認を取らずに話を進めた詫びとして、美味しいと評判の菓子を用意しました。斉藤を含めて四人で楽しんでください。手伝いが必要な時は、斉藤に遠慮なく言ってください。」

斉藤一はお雪に普通の表情で軽く礼をした。

お雪は土方歳三と斉藤一に微笑んで話し出す。

「今の私は、余裕のある時間の余裕がたくさんあります。楽しい時間を過ごす企画を考えてくださって嬉しいです。お菓子を含めたお気遣いありがとうございます。」

土方歳三はお雪を微笑んで見た。

お雪は土方歳三に微笑んで話し出す。

「突然ですが、土方先生はたくさんの女性にもてるから、常にたくさんの素敵な女性が周りにいらっしゃいますよね。」

土方歳三はお雪に微笑んで話し出す。

「はい。」

お雪は土方歳三を微笑んで話し出す。

「土方先生は、知識や容姿に優れているし、お優しい方だから更にもてるのでしょうね。」

土方歳三はお雪に微笑んで話し出す。

「俺は、容姿端麗だけれど、冷たい性格だと噂する人がいるそうです。お雪さんのように俺の優しさを理解してくれる人が傍に居て嬉しいです。」

お雪は土方歳三に微笑んで話し出す。


「土方先生は素敵な方です。私以上に土方先生の優しさが分かる方が現れます。機会を逃さないでくださいね。」

土方歳三はお雪を微笑んで見た。

お雪は土方歳三を微笑んで見た。

土方歳三はお雪に微笑んで話し出す。

「俺は帰ります。見送りは必要ありません。」

お雪は土方歳三に微笑んで話し出す。

「お言葉に甘えさせて頂きます。気を付けてお帰りください。」

土方歳三はお雪に微笑んで頷いた。



土方歳三は部屋を微笑んで出て行った。



お雪は斉藤一に微笑んで話し出す。

「普通は、自分からもてるというと、嫌味になりますよね。土方先生は、場の雰囲気を考えながら話しているので、嫌味を感じません。」

斉藤一はお雪に普通の表情で軽く礼をした。

お雪は斉藤一に微笑んで話し出す。

「土方先生はお優しい方ですね。」

斉藤一はお雪に普通の表情で軽く礼をした。

お雪は斉藤一を微笑んで見た。

斉藤一はお雪の前に包みを置くと、普通に話し出す。

「土方さんが用意した菓子です。土方さんが帰ってから渡すように頼まれたので、渡すのが遅くなりました。」

お雪は斉藤一から包みを受け取ると、微笑んで話し出す。

「ありがとうございます。」

斉藤一はお雪に普通の表情で軽く礼をした。

お雪は斉藤一に微笑んで話し出す。

「私と沖田さんと美鈴さんは、お菓子を食べます。斉藤さんはお酒を飲みますか。」

斉藤一はお雪に普通に話し出す。

「土方さんが美味しいと評判の店の煎餅を用意してくれました。酒は遠慮します。」

お雪は斉藤一に微笑んで話し出す。

「分かりました。みんなでお菓子を楽しく食べましょう。」

斉藤一はお雪に普通の表情で軽く礼をした。

お雪は斉藤一を微笑んで見た。



それから少し後の事。



ここは、お雪の家。



お孝は藤堂平助と出掛けているので居ない。



ここは、客間。



沖田総司は微笑んで居る。

斉藤一は普通に居る。

お雪は微笑んで居る。

少女も微笑んで居る。

沖田総司、斉藤一、お雪、少女の前には、お菓子とお茶が置いてある。



沖田総司はお雪に笑顔で話し出す。

「いただきます!」

少女はお雪に微笑んで話し出す。

「いただきます。」

斉藤一はお雪に普通の表情で軽く礼をした。

お雪は、沖田総司、斉藤一、少女に微笑んで軽く礼をした。

沖田総司はお菓子を美味しそうに食べ始めた。

少女はお菓子を微笑んで食べ始めた。

お雪もお菓子を微笑んで食べ始めた。

斉藤一はお菓子を普通の表情で食べ始めた。

沖田総司はお菓子を食べながら、お雪に笑顔で話し出す。

「美味しい菓子です! さすがお雪さんです!」

少女はお菓子を食べるのを止めると、お雪に微笑んで話し出す。

「美味しいお菓子です。」

お雪はお菓子を食べるのを止めると、沖田総司と少女に微笑んで話し出す。

「今回のお菓子は、ある方が用意してくれた美味しいと評判のお店のお菓子なの。今回はお裾分けのお菓子なの。説明が遅れてごめんなさい。」

沖田総司はお菓子を食べながら、お雪に笑顔で話し出す。

「お裾分けでも美味しいお菓子が食べられて嬉しいです!」

少女はお雪に微笑んで話し出す。

「私も美味しいお菓子が食べられて嬉しいです。」

お雪は沖田総司と少女を微笑んで見た。

沖田総司はお菓子を食べながら、少女に微笑んで話し出す。

「鈴ちゃん。以前に万葉集に南蛮煙管を詠んだ歌があると話していたよね。」

少女は沖田総司に微笑んで頷いた。

沖田総司はお菓子を食べながら、お雪に微笑んで話し出す。

「お雪さんは万葉集に掲載されている南蛮煙管を詠んだ歌を知っていますか?」

お雪は沖田総司に微笑んで話し出す。

「はい。」

沖田総司はお菓子を食べながら、お雪に微笑んで話し出す。

「万葉集に詠まれている南蛮煙管の名前を知っていますか?」

お雪は沖田総司に微笑んで話し出す。

「はい。」

沖田総司はお菓子を食べながら、お雪に微笑んで話し出す。

「差し支えなければ、南蛮煙管の別名を言ってから、歌を詠んで頂いても良いですか?」

お雪は沖田総司に微笑んで話し出す。

「万葉集での南蛮煙管の名前は、“思い草”です。歌は、“道の辺の 尾花が下の 思ひ草 今さらさらに 何をか思はむ”です。」

沖田総司はお菓子を食べながら、お雪に嬉しそうに話し出す。

「お雪さん! ありがとうございます!」

少女は沖田総司を不思議そうに見た。

お雪は沖田総司と少女を不思議そうに見た。

斉藤一はお菓子を食べながら、沖田総司を普通の表情で見た。

沖田総司はお菓子を食べながら、少女に微笑んで話し出す。

「鈴ちゃん。美味しいお菓子だから、しっかりと味わって食べよう。」

少女は沖田総司に微笑んで頷いた。

お雪はお菓子を微笑んで食べ始めた。

少女もお菓子を微笑んで食べ始めた。



ちょうど同じ頃。



ここは、京の町。



お孝は楽しそうに歩いている。

藤堂平助はお孝を見ながら、普通に歩いている。



お孝は藤堂平助に微笑んで話し出す。

「先程のお店は美味しかったわね。」

藤堂平助はお孝に微笑んで軽く礼をした。

お孝は藤堂平助に微笑んで話し出す。

「次は甘味の美味しいお店に行っても良いかしら?」

藤堂平助はお孝に微笑んで軽く礼をした。

お孝は藤堂平助に微笑んで話し出す。

「平助さん。“道の辺の 尾花が下の 思ひ草 今さらさらに 何をか思はむ”という歌を知っている?」

藤堂平助はお孝に微笑んで話し出す。

「はい。」

お孝は藤堂平助に微笑んで話し出す。

「平助さん。この歌を美鈴さんに贈れば?」

藤堂平助はお孝に苦笑しながら話し出す。

「お孝さん。勘違いしないでください。」

お孝は藤堂平助に微笑んで話し出す。

「見ているだけで分かるもの。勘違はしないわよ。」

藤堂平助はお孝を苦笑しながら見た。

お孝は藤堂平助に微笑んで話し出す。

「任務に支障がでるのは困るけれど、命が危険にさらされるのは更に困るわよね。」

藤堂平助はお孝を苦笑しながら見ている。

お孝は藤堂平助を微笑んで見た。



それから暫く後の事。



ここは、お雪の家。



お孝は帰ってきている。



ここは、お雪の部屋。



お孝が部屋の中に微笑んで入ってきた。



お雪は机の上から文を取ると、お孝に微笑んで話し出す。

「土方先生からお孝に宛てた文よ。」

お孝はお雪から文を受け取ると、笑顔で読み始めた。

お雪はお孝を微笑んで見た。



お孝は文を読み終ると、残念そうに息をはいた。

お雪はお孝を微笑んで見た。

お孝は文を持ちながら、お雪に残念そうに話し出す。

「姉さん。また歌の勉強を頼むわね。」

お雪はお孝に微笑んで頷いた。



それから少し後の事。



ここは、お雪の家。



縁。



お孝は文を持ちながら、空を普通の表情で見ている。



空の色が僅かに橙色に染まっている。



お孝は文を持ちながら、空を見て真剣な表情で呟いた。

「土方さん。私は負けないわ。」



文をありがとう。

今回は万葉集に掲載されている歌だな。

「道の辺の 尾花が下の 思ひ草 今さらさらに 何をか思はむ」

季節の植物に想いを重ねている良い歌だ。

俺に文を書いてくれた人に伝えたいと思った内容がある。

この歌は、うつむいたような姿で咲く“思ひ草”が、ひたむきな恋を連想させる。

機会があれば、尾花と尾花の下に咲く“思ひ草”を観察して欲しい。

歌の意味や作者の想いが更に理解できるようになると思う。

新たな文を楽しみにしている。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語に登場する歌は「万葉集 第十巻 二二七〇番」です。

「道の辺の 尾花が下の 思ひ草 今さらさらに 何をか思はむ」

ひらがな読み方は、「みちのへの をばながしたの おもひぐさ いまさらさらに なにをかおもはむ」です。

作者は「詠み人知らず」です。

意味は、「道端の尾花の元に咲いている思ひ草のように、いまさら、何を思い悩んだりしましょう。(あなただけのことを想っています!!)」となるそうです。

原文は「道邊之 乎花我下之 思草 今更尓 何物可将念」です。

うつむいたように咲いている「思い草」が、ひたむきな恋を連想させているそうです。

「尾花(おばな)(※薄[すすき])」が風になびく音を「さらさら」と表現し、「いまさら」と繋げているそうです。

「思い草」は「南蛮煙管(なんばんぎせる)」です。

「思い草」で万葉集に一首だけ登場しています。

「南蛮煙管」は、ハマウツボ科ナンバンギセル属の一年生の寄生植物です。

秋の季語です。

薄、茗荷(みょうが)、砂糖黍(さとうきび)などに寄生します。

高さは15cm〜30cmほどです。

8月下旬〜10月頃に淡い紫色のような濃いピンク色のような花を下向きに咲かせます。

「砌(みぎり)」には幾つか意味がありますが、今回の物語では「時節。おり。頃。」という意味で使用しています。

お孝さんが再び僅かですが周りを騒がしくしてしまう物語です。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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