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〜 雪月花 新撰組異聞 編 〜
〜 瀧の幻 天雲の 遠けども心し行けば 〜
〜 改訂版 〜
登場人物
土方歳三、沖田総司、斉藤一、市村鉄之助、女性、幼い男の子
「天雲の そくへの極み 遠けども 心し行けば 恋ふるものかも」
「万葉集 第四巻 五五三番」より
作者:丹生女王(にふのおおきみ)
夏の終わりから秋に掛けての頃。
幕府軍と薩長中心の新政府軍の戦いが続いている。
土方歳三は戦いの最中に足に怪我をした関係で、医師の治療を受けている。
会津には良い温泉が在る。
医師の勧めにより、温泉に浸かるようになった。
土方歳三は会津の温泉地に近い宿や寺で療養している。
今は朝。
ここは、会津。
土方歳三の療養先の一つになる寺の傍に在る山。
土方歳三は山道をゆっくりと登っている。
少し後の事。
ここは、会津。
土方歳三の療養先の寺の傍に在る山。
近藤勇の墓の在る場所。
辺りは静けさに包まれている。
土方歳三は近藤勇の墓の前にゆっくりと歩いてきた。
土方歳三は近藤勇の墓に静かに話し出す。
「近藤さん。お早う。」
土方歳三は近藤勇の墓に静かに話し出す。
「近藤さんには勝ち戦しか報告しないと以前に話したが、戦況は気になると思う。戦況の報告は少し考えさせてくれ。今は、俺についての内容を話したい。」
土方歳三は近藤勇の墓に静かに話し出す。
「今日も治療のために温泉に浸かる。近藤さんへの報告や体力回復のために、近藤さんに逢いに来ているが、怪我が完治していないから山道を登る時間が遅い。様々な報告を聞くと、落ち着いた気持ちで療養できない日がある。怪我が完治する前に戦いに加われば、俺だけでなく部下も危険になる。俺の療養中は、斉藤が新撰組組長代理に就いて部下をまとめている。斉藤は近藤さんが信頼する人物だ。俺も斉藤を信頼している。斉藤は、俺の怪我が完治するまで、新撰組をまとめられる。様々な思いに包まれるが、気持ちを落ち着けて療養するようにしている。」
土方歳三は近藤勇の墓に静かに話し出す。
「気付いたら、幾度も同じ内容を話しているな。今の俺が様々な思いを話せる人物は、近藤さんと斉藤しか、居ない。斉藤は他言しないし話を冷静に聞くだろ。本当に助かる。近藤さんも斉藤に秘密の内容を話したと思う。近藤さんも俺の話の意味が分かるだろ。」
土方歳三は近藤勇の墓に静かに話し出す。
「近藤さん。総司と既に再会していると思う。俺は、近藤さんにも総司にも、暫く逢う気持ちはない。斉藤を近藤さんや総司に逢わせる時は、更に後にしたい。総司の相手を暫くの間は一人で頼む。」
土方歳三は近藤勇の墓に静かに話し出す。
「近藤さん。明日は歌について話す。今日中に良い歌を考える。明日は、歌について話す他に、戦況についても話が出来れば良いと思っている。」
土方歳三は近藤勇の墓に静かに話し出す。
「近藤さん。明日、再び来る。」
静かな風が土方歳三を包んだ。
土方歳三は近藤勇の墓を微笑んで見た。
静かな風が止んだ。
土方歳三は山道をゆっくりと下り始めた。
暫く後の事。
ここは、会津。
温泉地。
土方歳三は温泉に普通の表情で浸かっている。
温泉からは暖かい湯気が立ち昇っている。
土方歳三の元に、滝の音が聞こえてくる。
温泉からも滝が見える。
土方歳三は温泉に浸かり、滝を普通の表情で見た。
大きな滝ではないが、滝の下で白波が立っている。
土方歳三は温泉に浸かり、滝を普通の表情で見て呟いた。
「“天雲の そくへの極み 遠けども 心し行けば 恋ふるものかも”。」
温泉から立ち昇る湯気が、土方歳三を包んだ。
温泉から立ち上る湯気は、土方歳三の瞳に映る滝と白波も包んだ。
土方歳三は温泉に浸かり、滝を普通の表情で見て呟いた。
「丹生女王が大伴家持のために詠んだ歌だが、歌の意味に重なる所があるから良いか。」
温泉から立ち昇る湯気が、土方歳三を包んだ。
滝の音は絶え間なく聞こえている。
土方歳三は温泉に浸かり、滝を普通の表情で見た。
幾つかの季節が過ぎた。
今は夏。
夜。
ここは、函館。
森の中。
満天の星が辺りを明るく照らしている。
土方歳三は普通の表情で居る。
土方歳三は夜空を見ると、普通の表情で呟いた。
「“天雲の そくへの極み 遠けども 心し行けば 恋ふるものかも”。」
辺りが淡い光に包まれた。
桜が満開になって咲いた。
沖田総司の明るい声が、土方歳三の横から聞こえた。
「土方さん! 想い人の登場です!」
土方歳三は横を普通の表情で見た。
沖田総司は土方歳三を笑顔で見ている。
土方歳三は沖田総司に普通に話し出す。
「俺の想い人は、現れていない。」
沖田総司は土方歳三に微笑んで話し出す。
「土方さんの横に居ます。」
土方歳三は沖田総司に普通に話し出す。
「俺の横に居るのは、総司だ。俺の想い人は、俺の横に居ない。」
沖田総司は土方歳三に苦笑して話し出す。
「明るい雰囲気にするために考えた登場です。真剣に返答されると困ります。」
土方歳三は沖田総司に普通に話し出す。
「俺は常に真剣だ。俺は総司に明るい雰囲気にして欲しいと頼んでいない。総司の勝手な言動だ。総司が困っても、俺には関係ない。」
沖田総司は土方歳三を苦笑して見た。
土方歳三は沖田総司を普通の表情で見た。
沖田総司は土方歳三に微笑んで話し出す。
「土方さんが望めば近藤さんは現れます。何故、土方さんは私を呼んだのですか?」
土方歳三は沖田総司に普通に話し出す。
「俺は近藤さんに焦らなくても逢える。忙しい近藤さんを呼ぶのは失礼だ。総司で充分だ。」
沖田総司は土方歳三に微笑んで話し出す。
「さすが土方さんですね。」
土方歳三は沖田総司に普通に話し出す。
「当然の内容を話すな。」
沖田総司は土方歳三を微笑んで見た。
土方歳三は沖田総司を普通の表情で見た。
沖田総司は土方歳三に微笑んで話し出す。
「斉藤さんを含めた会津に残った新撰組隊士達が、会津の戦いの中で全滅した噂がありましたね。実際は、斉藤さんを含めた数人の隊士が生き残りましたね。以降、何かを思い続けていますよね。」
土方歳三は夜空を普通の表情で見た。
沖田総司は土方歳三を微笑んで見た。
土方歳三は沖田総司を普通の表情で見た。
沖田総司は土方歳三に微笑んで話し出す。
「土方さん。私で良ければ話を聞きますよ。」
土方歳三は沖田総司に普通に話し出す。
「俺が総司に話す内容は、近藤さんに全て伝える。総司は機会があれば、斉藤に伝える。」
沖田総司は土方歳三を微笑んで見た。
土方歳三は沖田総司を普通の表情で見た。
沖田総司は夜空を見ると、微笑んで呟いた。
「“天雲の そくへの極み 遠けども 心し行けば 恋ふるものかも”。」
土方歳三は沖田総司を普通の表情で見ている。
沖田総司は土方歳三を見ると、土方歳三に微笑んで話し出す。
「私も歌の意味に重なる所があると思います。」
土方歳三は沖田総司を普通の表情で見ている。
沖田総司は土方歳三を微笑んで見た。
土方歳三は沖田総司に普通に話し出す。
「総司。逢いたい人物に逢ってから戻れ。」
沖田総司は土方歳三に微笑んで話し出す。
「はい。」
土方歳三は沖田総司を普通の表情で見た。
沖田総司は土方歳三に微笑んで軽く礼をした。
土方歳三は沖田総司に普通の表情で頷いた。
沖田総司は微笑んで、静かに居なくなった。
土方歳三は辺りを普通の表情で見た。
桜は元の姿に戻っている。
満天の星が辺りを明るく照らしている。
辺りに風が吹いた。
土方歳三は目を閉じると、普通の表情で呟いた。
「微かな滝の音のように感じる。」
市村鉄之助の心配な声が、土方歳三の近くから聞こえた。
「土方さん。」
土方歳三は市村鉄之助の声が聞こえた方向を見ると、市村鉄之助に普通に話し出す。
「鉄之助。何をしている。早く来い。」
市村鉄之助は土方歳三の傍に心配して来た。
土方歳三は市村鉄之助に普通に話し出す。
「俺は鉄之助が隠れていても直ぐに分かる。鉄之助が危険を感じて姿を現さないのは良い心掛けだ。鉄之助が悩んで姿を現さないのは時間の無駄だ。鉄之助。危険を察知する能力も鍛えろ。」
市村鉄之助は土方歳三に真剣な表情で話し出す。
「はい!」
土方歳三は市村鉄之助に普通に話し出す。
「鉄之助。辺りが暗いから安心して大きな声で返事をしただろ。辺りが安全な状況か確認してから返事をしろ。」
市村鉄之助は土方歳三に真剣な表情で呟いた。
「はい。」
土方歳三は市村鉄之助を普通の表情で見た。
市村鉄之助は土方歳三を真剣な表情で見た。
土方歳三は夜空を見ると、普通の表情で呟いた。
「“天雲の そくへの極み 遠けども 心し行けば 恋ふるものかも”。」
市村鉄之助は土方歳三を不思議な様子で見た。
土方歳三は市村鉄之助を見ると、市村鉄之助に普通に話し出す。
「鉄之助。戻るぞ。」
市村鉄之助は土方歳三に真剣な表情で呟いた。
「はい。」
土方歳三は市村鉄之助を普通の表情で見た。
市村鉄之助は土方歳三を真剣な表情で見た。
土方歳三は普通に歩き出した。
市村鉄之助は真剣な表情で歩き出した。
僅かに後の事。
ここは、函館から遠く離れた場所。
夜空には満天の星が綺麗に輝いている。
武士姿の男性が夜空を普通の表情で見ている。
一枚の桜の花びらが、満天の星の輝きを受けながら、武士姿の男性の前に舞い落ちてきた。
武士姿の男性は桜の花びらを掌で普通に受け止めた。
桜の花びらは淡く光っている。
武士姿の男性は掌に桜の花びらを載せて、桜の花びらを見て、普通の表情で呟いた。
「面白い。」
武士姿の男性は桜の花びらを掌に載せて、夜空を普通の表情で見た。
夜空には満天の星が綺麗に輝いている。
桜の花びらは、満天の星の輝きを受けながら、静かに消えた。
武士姿の男性は掌を普通の表情で見た。
桜の花びらは見えない。
武士姿の男性は掌を見ながら普通の表情で呟いた。
「やはり面白い。」
武士姿の男性は普通に歩き出した。
僅かに後の事。
ここは、函館からも武士姿の男性が居る場所からも離れた場所。
夜空には満天の星が綺麗に輝いている。
ここは、一軒の家。
一室。
幼い男の子は床の中で静かに寝ている。
女性は幼い男の子を微笑んで見ている。
女性は微笑んで、障子を静かに開けた。
夜空には満天の星が綺麗に輝いている。
女性の前に淡く光る桜の花びらが現れた。
女性は桜の花びらを不思議な様子で見た。
桜の花びらは淡く光ながら、静かに消えていった。
女性は辺りを不思議な様子で見た。
辺りに変わった様子はない。
女性は夜空を不思議な様子で見た。
夜空には満天の星が綺麗に輝いている。
女性は満天の星を見ながら、微笑んで呟いた。
「“天雲の そくへの極み 遠けども 心し行けば 恋ふるものかも”。」
心地良い風が女性の元に吹いた。
女性は満天の星を見ながら、微笑んで呟いた。
「今は夜ですが、満天の星が綺麗に輝いています。今の歌を詠んでも合いますよね。」
心地良い風が女性の元に吹いた。
女性は満天の星を見ながら、微笑んで呟いた。
「ありがとうございます。」
女性は微笑んで、障子を静かに閉めた。
「天雲の そくへの極み 遠けども 心し行けば 恋ふるものかも」
今を生きる土方歳三にとって、今を生きる斉藤一にとって、今を生きる者にとって、彼方に大切な人が居る。
今は厳しく辛い日が続く。
大切な人について知るのは難しい。
大切な人について楽しく話せる日は何時になるのか。
大切な人に逢う日は何時になるのか。
今を生きる者の中で、正確な日時を分かる者は、誰も居ない。
* * * * * *
ここからは後書きになります。
この物語は既に掲載している物語の改訂版です。
改訂前の物語の展開や雰囲気を出来るだけ残して改訂しました。
改訂前の物語を掲載するのは止めました。
以上、ご了承願います。
ここからは改訂前の後書きを加筆訂正して書きます。
この物語に登場する歌は「万葉集 第四巻 五五三番」です。
「天雲の そくへの極み 遠けども 心し行けば 恋ふるものかも」
ひらがなの読み方は「あまくもの そくへのきわみ とおけども こころしいけば こいふるものかも」
作者は「丹生女王(にふのおおきみ)」
歌の意味は「空の雲が遠ざかってゆく彼方に在るあなたの所は、とても遠いけれども、心が通じあえるのであなたのことをこうして恋しく思っていられるのですよね。」となるそうです。
原文は「天雲乃 遠隔乃極 遠鷄跡裳 情志行者 戀流物可聞」
「大伴家持(おおとものやかもち)」に贈った歌だそうです。
土方歳三さんと斉藤一さんとこの物語について、簡単に補足します。
土方歳三さんは、戊辰戦争の中の宇都宮の戦いの最中に、足を負傷します。
そのため、慶応四年(1868年)四月下旬に、会津に来たそうです。
現在の暦で五月頃になります。
会津で数ヶ月ほど療養したそうです。
療養中に、医者などの勧めがあり、現在の会津若松市に在る東山温泉で湯治をした話が伝わっています。
土方歳三さんが湯治をした頃の東山温泉には、会津藩指定の共同湯が在りました。
しかし、土方歳三さんが湯治に通った温泉については、幾つかの逸話がありますが特定は出来ないそうです。
土方歳三さんは、会津での療養中に、近藤勇さんのお墓を会津に建てます。
近藤勇さんのお墓を建てた時に、斉藤一さんが会津に居たと伝わっているそうです。
そのため、斉藤一さんが近藤勇さんの遺髪を会津に運んだ、斉藤一さんは土方歳三さんの怪我の療養中に新撰組の組長代理として指揮していなかった、という説があります。
今回の物語では、斉藤一さんが近藤勇さんのお墓を建てた時に居たらしい状況は登場しますが、斉藤一さんが近藤勇さんの遺髪を運んだ事については登場していません。
東山温泉には、川が流れていて、滝のように流れる場所や滝になっている場所もあります。
土方歳三さんは、温泉の近くに在る寺(近藤勇さんのお墓が在る寺)で療養した時期があるそうです。
土方歳三さんは、慶応四年(1868年)八月頃に、戦線に復帰したそうです。
物語の舞台は、最初の場面は会津の温泉ですが、他の場面は函館が中心になっています。
斉藤一さんは、幾つもの名前を名乗って過ごしていました。
物語の前半の時間設定時は、「山口次郎」さんと名乗っている可能性が高いようです。
斉藤一さんなどのように幾つもの名前を名乗って過ごすと、同一人物で複数の名前が登場します。
同一人物で複数の名前が登場すると分かり難くなると考えて、“斉藤一”さんの名前が一部の場面に登場しますが、他の場面では特定の名前で登場していません。
斉藤一さんは、函館に向かわず会津に残りました。
会津に残った新撰組隊士は、二十名ほどと伝わっています。
会津に残った新撰組隊士は、二十名ほどで或る場所を警護していました。
その時に、新政府側が攻撃してきたそうです。
この戦いで、会津に残った新撰組隊士は全員亡くなったと伝わった事があるそうです。
実際は、斉藤一さんを含めた数名の隊士は生き残りましたが、他の隊士の方達はこの戦いの中で亡くなったそうです。
近藤勇さんは、慶応四年四月二十五日(1868年5月17日)に斬首により亡くなります。
沖田総司さんは、慶応四年五月三十日(1868年7月19日)に病のために亡くなります。
物語の設定当時は、斉藤一さんは存命中ですが、近藤勇さんと沖田総司さんは、既に亡くなっています。
楽しんで頂けると嬉しいです。
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