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〜 雪月花 新撰組異聞 編 〜


〜 七夜月の頃 早漕ぐ舟の櫂の散りかも 〜


登場人物

沖田総司、斉藤一、少女[美鈴・鈴]



「この夕 降りくる雨は 彦星の 早漕ぐ舟の 櫂の散りかも」

「万葉集 第十巻 二〇五二番」より

作者:詠み人知らず



今は夏の終わり。



ここは、京の町。



暑い日が続いている。



青色の空に綺麗な白い雲が浮いている。

日の差す所に居ると暑さを感じる。



ここは、蓮の花が綺麗に咲く池の在る所。



沖田総司は笑顔で来た。

少女は微笑んで来た。



日が昇ってから時間が経っているため、蓮の花は閉じ始めている。



沖田総司は少女に残念な様子で話し出す。

「鈴ちゃんの話のとおり、蓮の花が閉じ始めているね。」

少女は沖田総司に微笑んで話し出す。

「閉じ始めている蓮の花も綺麗です。」

沖田総司は少女に申し訳なく話し出す。

「気を遣ってくれてありがとう。蓮の花は、開く時か開く最中の方が綺麗だと思う。」

少女は沖田総司に微笑んで話し出す。

「総司さんと蓮の花が見られます。嬉しいです。」

沖田総司は少女に申し訳なく話し出す。

「蓮の花は少しずつ閉じるよね。早く出掛ける都合を付けたいと思っているけれど、都合が付かないんだ。」

少女は沖田総司に微笑んで話し出す。

「総司さんはお仕事で忙しいです。私への気遣いをしないでください。」

沖田総司は少女に申し訳なく話し出す。

「鈴ちゃんに綺麗な蓮の花をたくさん見てもらって、たくさん笑顔になって欲しいんだ。鈴ちゃんの笑顔はとても可愛いんだ。鈴ちゃんの笑顔はとても素敵なんだ。私は笑顔の鈴ちゃんを見ると、元気になるんだ。」

少女は沖田総司を赤面して恥ずかしい様子で見た。

沖田総司は少女を赤面して見た。



数日後の事。



今は夏の終わり。



ここは、京の町。



早朝。



時間が早いため、暑さは僅かに和らいでいる。



ここは、蓮の花が綺麗に咲く所。



蓮の花は綺麗に咲いている。



少女は蓮の花を微笑んで見ている。



少女は空を微笑んで見た。



少女が家を出た時は、雨の降る気配は無かった。

今は雨が降りそうな気配になっている。



少女は蓮の花を残念な様子で見た。



少女は残念な様子で居なくなった。



少し後の事。



ここは、京の町。



雨が降りそうな空模様になっている。



少女は心配な様子で歩いている。



少女の顔に冷たい物が当たった。



少女は空を心配な様子で見た。



雨が降り始めている。



少女は辺りを困惑した様子で見た。



小さな寺が見えた。



少女は小さな寺に困惑した様子で歩き出した。



僅かに後の事。



ここは、小さな寺。



境内。



少女は困惑した様子で来た。



小さめな本堂が在る。



少女は本堂の中に困惑した様子で入った。



少し後の事。



ここは、京の町。



雨の止む気配はない。



ここは、小さな寺。



本堂。



縁の傍。



少女は心配な様子で居る。



少女は境内を心配な様子で見た。



住職の住む建物は、本堂から僅かに離れた場所に在る。



少女は本堂から困惑した様子で出て行った。



僅かに後の事。



ここは、小さな寺。



住職の住む建物。



屋根から地面へと雨の雫が落ちている。



少女は困惑した様子で来た。



少女は玄関の戸を困惑した様子で軽く叩いた。



人の現れる気配が無い。



少女は住職の住む建物を困惑した様子で見た。



少女は本堂に困惑した様子で歩き出した。



僅かに後の事。



ここは、小さな寺。



本堂。



縁の傍。



少女は心配な様子で居る。



雨の止む様子は無い。



少女は外を見ると、困惑した様子で呟いた。

「早い時間に出掛けたから、長く戻らないと家の人達が心配するわ。雨が降っているから、家の人達は私が戻らないから既に心配しているかも知れない。」



本堂の入り口に人が居る気配を感じた。



少女は本堂の入り口を不思議な様子で見た。



傘をたたむ人の姿が見える。



少女は傘をたたむ人の姿を僅かに驚いた様子で見た。



斉藤一が本堂の中に普通に入ってきた。



少女は斉藤一を僅かに驚いた様子で見た。

斉藤一は少女に普通に話し出す。

「美鈴さん。何をしている?」

少女は斉藤一に微笑んで話し出す。

「蓮の花を見にお出掛けしました。雨が降りそうな空模様になったので、予定より早く家に帰ろうとしました。家に帰る途中で雨が降ってきました。家まで距離があります。家に着くまでにたくさん濡れてしまいます。辺りを見ると、お寺が在りました。お寺で雨宿りをすると決めました。」

斉藤一は少女に普通に話し出す。

「着物が少し濡れている。雨が降ってから、長く歩いたのか?」

少女は斉藤一に微笑んで話し出す。

「住職さんに傘を借りたいと頼みたいと思いました。離れの建物に行きました。住職さんはいらっしゃらないようなので、本堂に戻りました。離れの建物と本堂を往復する間に少し濡れてしまいました。寒さは感じないので大丈夫です。」

斉藤一は少女に普通に話し出す。

「家まで送る。」

少女は斉藤一に心配な様子で話し出す。

「斉藤さん。お仕事の日ですよね。私を家まで送って大丈夫なのですか?」

斉藤一は少女に普通に話し出す。

「今は時間に余裕がある。美鈴さんを家まで送る時間は充分にある。」

少女は斉藤一に心配して話し出す。

「お仕事が始まるまでの休憩のために、お寺に来たのですか?」

斉藤一は少女に普通の表情で首を横に振った。

少女は斉藤一に申し訳なく話し出す。

「お仕事の待ち合わせでお寺に来たのですね。空色の羽織を着ていないので、直ぐに分かりませんでした。お仕事の邪魔をしてしまいました。申し訳ありませんでした。」

斉藤一は少女に普通に話し出す。

「美鈴さん。今は任務の前だ。心配するな。」

少女は斉藤一を申し訳なく見た。

斉藤一は少女に普通に話し出す。

「今の雨の降り具合が続いたまま、傘を差さずに寺から美鈴さんの家まで行くと、確実に濡れる。美鈴さんの家族が心配する。次回から、美鈴さんが出掛ける時に制約が加わる可能性がある。美鈴さんが気軽に出掛けられなくなるかも知れない。美鈴さんを雨に濡れて帰す訳にいかない。美鈴さんが困っているのに、美鈴さんを放って置けない。」

少女は斉藤一を心配して見た。

斉藤一は少女に普通に話し出す。

「俺と総司は、一日に一度以上も会う。美鈴さんが困っているのに、美鈴さんを寺に残して居なくなった場合、総司が何かの時に知ったら、任務の遂行が難しくなる。京の町を守るのは、任務の一つだ。京の町に住む美鈴さんが困っている。美鈴さんを放って置けない。俺と総司のためにも、京の町を守る任務のためにも、美鈴さんを家まで送る。」

少女は斉藤一に微笑んで話し出す。

「お願いします。」

斉藤一は少女に普通の表情で頷いた。

少女は斉藤一を微笑んで見た。



ここは、小さな寺。



本堂。



入り口付近。



斉藤一は普通に居る。

少女は微笑んで居る。

二本の傘が、たたんで置いてある。



斉藤一は傘を取ると、少女に傘を普通に差し出した。

少女は斉藤一から傘を受け取ると、斉藤一に心配して話し出す。

「斉藤さん。誰かを迎えに行く途中だったのですか?」

斉藤一は少女に普通に話し出す。

「今回は、早く迎えに行くより、遅れて迎えに行く方が、喜ぶ。美鈴さんを家まで送る方が、都合が良い。」

少女は傘を持ち、斉藤一に微笑んで話し出す。

「斉藤さんは私が困っていると、私の前に現れて助けてくれます。斉藤さんは不思議な方です。斉藤さんは頼りになる方です。」

斉藤一は少女に普通に話し出す。

「俺は美鈴さんが困る度に現れていない。偶然だ。」

少女は傘を持ち、斉藤一を考え込んで見た。

斉藤一は少女に普通に話し出す。

「美鈴さん。考え込むな。」

少女は傘を持ち、斉藤一を恥ずかしく見た。

斉藤一は少女に普通に話し出す。

「長く戻らないと美鈴さんの家族が心配する。早く家に戻るぞ。」

少女は傘を持ち、斉藤一に微笑んで話し出す。

「はい。」

斉藤一は傘を普通に持った。



斉藤一は傘を差し、普通に居なくなった。

少女は傘を指し、微笑んで居なくなった。



少し後の事。



ここは、京の町。



雨が降っている。



斉藤一は傘を差し、普通に歩いている。

少女は傘を指し、微笑んで歩いている。



少女は傘を差して、斉藤一を心配して見た。

斉藤一は傘を差して、少女を普通の表情で見た。

少女は傘を差して、斉藤一に心配して話し出す。

「総司さんはお元気にお過ごしですか?」

斉藤一は傘を差して、少女に普通に話し出す。

「総司は相変わらずだ。」

少女は傘を差して、斉藤一を微笑んで見た。

斉藤一は傘を差して、少女を普通の表情で見た。

少女は傘を差して、斉藤一に微笑んで話し出す。

「斉藤さん。今日のお礼がしたいです。」

斉藤一は傘を差して、少女に普通に話し出す。

「礼の必要はない。」

少女は傘を差して、斉藤一に申し訳なく話し出す。

「私はお武家様の決まり事を知りません。私はお武家様の決まり事について詳しい方を知りません。総司さんと斉藤さんは、お武家様です。総司さんと斉藤さんに、お武家様の決まり事について質問をしたら失礼になるかも知れません。でも、私がお武家様の決まり事について質問できる方は、総司さんと斉藤さんしかいません。斉藤さんに失礼を承知で話しました。申し訳ありませんでした。」

斉藤一は傘を差して、少女に普通に話し出す。

「美鈴さんは俺や総司と過ごす時間は多いが、武家と縁が薄い。総司に質問をするのが難しいと思う時は、俺に遠慮せずに質問しろ。」

少女は傘を差して、微笑んで頷いた。

斉藤一は傘を差して、少女に普通に話し出す。

「美鈴さん。話を変える。」

少女は傘を差して、斉藤一に不思議な様子で頷いた。

斉藤一は傘を差して、少女に普通に話し出す。

「七夕が近付いているな。」

少女は傘を差して、斉藤一に微笑んで頷いた。

斉藤一は傘を差して、少女に普通に話し出す。

「次に会った時に、七夕の歌、甘くない物、を用意してくれ。」

少女は傘を差して、斉藤一に微笑んで話し出す。

「斉藤さんに喜んで頂ける物を探します。」

斉藤一は傘を差して、少女に普通に話し出す。

「美鈴さんが俺のために無理をして調子を悪くしたら、総司が心配する。美鈴さんが俺のために無理をして調子を悪くしたら、家まで送る行動の意味が無くなる。無理するな。」

少女は傘を差して、斉藤一に微笑んで頷いた。

斉藤一は傘を差して、少女を普通の表情で見た。



数日後の事。



今は初秋。



ここは、落ち着いた雰囲気の寺。



本堂。



斉藤一は普通に居る。

少女は微笑んで居る。

少女の傍には、包みが置いてある。



少女は斉藤一に微笑んで話し出す。

「昨日のお約束のとおり、お菓子とお歌を用意しました。」

斉藤一は少女に普通の表情で頷いた。

少女は斉藤一に微笑んで話し出す。

「斉藤さんに渡すまでに日数が掛かってしまいました。」

斉藤一は少女に普通に話し出す。

「気にするな。」

少女は斉藤一を微笑んで見た。

斉藤一は少女を普通の表情で見た。

少女は包みを広げると、紙を微笑んで持った。

斉藤一は少女を普通の表情で見ている。

少女は斉藤一に紙を微笑んで渡した。

斉藤一は少女から紙を普通に受け取ると、紙を普通の表情で見た。

少女は斉藤一を微笑んで見た。

斉藤一は紙を持ち、少女を見ると、少女に普通に話し出す。

「“この夕 降りくる雨は 彦星の 早漕ぐ舟の 櫂の散りかも”。美鈴さん。良い歌を選んだな。さすがだ。」

少女は斉藤一に微笑んで話し出す。

「斉藤さんに褒めて頂けて嬉しいです。」

斉藤一は紙を持ち、少女を普通の表情で見た。

少女は斉藤一に微笑んで話し出す。

「“この夕 降りくる雨は 彦星の 早漕ぐ舟の 櫂の散りかも”。七夕の日に降る雨は、彦星様が織姫様に逢うために乗る舟を漕ぐ櫂の滴になります。京の町に雨が降っても、織姫様と彦星様は、逢えます。素敵な歌だと思います。」

斉藤一は紙を持ち、少女に普通の表情で頷いた。

少女は斉藤一に恥ずかしく話し出す。

「すいません。はしゃぎすぎました。」

斉藤一は紙を持ち、少女に普通の表情で首を横に振った。

少女は斉藤一を微笑んで見た。

斉藤一は懐に紙を普通に仕舞った。

少女は斉藤一の前に包みを置くと、斉藤一に微笑んで話し出す。

「お煎餅を用意しました。お口に合えばたくさん食べてください。」

斉藤一は少女に普通に話し出す。

「総司の到着前に先に食べると、総司が騒ぐ。総司の到着後に煎餅を食べる。」

少女は斉藤一を微笑んで見た。

斉藤一は少女を普通の表情で見た。



沖田総司が本堂の中に笑顔で入ってきた。



少女は沖田総司を微笑んで見た。

斉藤一は沖田総司を普通の表情で見た。

沖田総司は、斉藤一、少女、包みを見ると、斉藤一と少女に僅かに拗ねて話し出す。

「斉藤さんと鈴ちゃんの二人で、菓子を食べている〜 私の到着を待たずに、斉藤さんと鈴ちゃんが楽しく菓子を食べている〜」

少女は沖田総司を申し訳なく見た。

沖田総司は少女に慌てて話し出す。

「私は鈴ちゃんも斉藤さんも責めていないよ! 話す内容が下手でごめんね!」

少女は沖田総司を申し訳なく見ている。

斉藤一は沖田総司と少女に普通に話し出す。

「美鈴さんが俺に総司の到着前に食べ物を勧める状況は、普通の状況だ。総司が菓子を見て騒ぐ状況も、普通の状況だ。総司。美鈴さん。気にするな。早く菓子を食べろ。」

沖田総司は少女に僅かに慌てて話し出す。

「鈴ちゃん。今日は煎餅を用意してくれたんだ。美味しい煎餅だと分かるよ。ありがとう。」

少女は沖田総司と斉藤一を微笑んで見た。

沖田総司は包みから煎餅を取ると、少女に微笑んで話し出す。

「いただきます。」

斉藤一は包みから煎餅を取ると、少女に普通の表情で頷いた。

少女は沖田総司と斉藤一を微笑んで頷いた。



少し後の事。



ここは、落ち着いた雰囲気の寺。



本堂。



沖田総司は微笑んで居る。

斉藤一は普通に居る。

少女は微笑んで居る。

包みは空になっている。



沖田総司は少女に微笑んで話し出す。

「鈴ちゃん。今の時間は蓮の花が綺麗に咲く時間だよね。」

少女は沖田総司に微笑んで頷いた。

斉藤一は少女に普通に話し出す。

「蓮の花の見頃が終わる頃だな。」

少女は斉藤一に微笑んで頷いた。

沖田総司は少女に微笑んで話し出す。

「鈴ちゃん。今から蓮の花を見に行こう。」

少女は沖田総司に微笑んで頷いた。

沖田総司は斉藤一に微笑んで話し出す。

「斉藤さんも一緒ですよ。」

斉藤一は沖田総司に普通の表情で頷いた。

沖田総司は斉藤一と少女を微笑んで見た。



数日後の事。



今日は七夕。



ここは、京の町。



青空が広がっている。

綺麗な白色の雲が風に乗って青空の中をゆっくりと動いている。



ここは、屯所。



沖田総司の部屋。



沖田総司は微笑んで居る。

斉藤一は普通に居る。



沖田総司は斉藤一に微笑んで話し出す。

「今日は七夕です。鈴ちゃんに逢います。楽しみです。」

斉藤一は沖田総司に普通の表情で頷いた。

沖田総司は斉藤一に微笑んで話し出す。

「今日は朝から晴れています。綺麗な星が見られる可能性が高いです。綺麗な星を見たら、鈴ちゃんの更に可愛い笑顔が見られます。」

斉藤一は沖田総司に普通の表情で頷いた。

沖田総司は斉藤一に微笑んで話し出す。

「途中で天気が悪くなり、星が見られなくなると、鈴ちゃんが寂しい気持ちになると思います。念のために、曇りを詠んだ七夕の歌や雨を詠んだ七夕の歌を探しました。良い歌を見付けました。」

斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。

「総司が見付けた歌を教えろ。」

沖田総司は斉藤一に微笑んで話し出す。

「“この夕 降りくる雨は 彦星の 早漕ぐ舟の 櫂の散りかも”」

斉藤一は沖田総司を普通の表情で見た。

沖田総司は斉藤一に微笑んで話し出す。

「七夕の日に雨が降ったとしても、彦星が織姫に逢うために乗る舟を漕ぐ櫂の滴ならば、七夕の雨も素敵だよね、と、鈴ちゃんに話します。」

斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。

「綺麗な星を見た時に贈る七夕を詠んだ歌を教えろ。」

沖田総司は斉藤一に微笑んで話し出す。

「用意していません。」

斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。

「総司は美鈴さんに幾度も迷惑を掛けている。日頃の感謝も込めて、歌を贈れ。」

沖田総司は斉藤一に困惑した様子で話し出す。

「今から七夕の歌を探して間に合うのですか?」

斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。

「俺も総司と共に歌を探す。話の展開によっては、総司が選んだ七夕を詠んだ歌も贈れる。歌を探す時間は短いが、焦らずに探せるな。」

沖田総司は斉藤一に微笑んで話し出す。

「斉藤さん。ありがとうございます。」

斉藤一は沖田総司に普通の表情で頷いた。

沖田総司は斉藤一に微笑んで話し出す。

「近藤さんと土方さんに歌集を借りましょう。」

斉藤一は沖田総司に普通の表情で頷いた。



沖田総司は部屋を微笑んで出て行った。

斉藤一は部屋を普通に出て行った。



「この夕 降りくる雨は 彦星の 早漕ぐ舟の 櫂の散りかも」

今夜は、七夕。

たくさんの人達が、織姫と彦星が逢えるように願っている。

沖田総司と少女は、斉藤一の助けを借りて素敵な七夕が過ごせる様子。

七夕は、たくさんの素敵な想いに包まれている。

時は、和やかに過ぎていく。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語に登場する歌は「万葉集 第十巻 二〇五二番」

「この夕 降りくる雨は 彦星の 早漕ぐ舟の 櫂の散りかも」

ひらがなの読み方は「このゆうへ ふりくるあめは ひこほしの はやこぐふねの かいのちりかも」

作者は、「詠み人知らず」

歌の意味は「この夕べに降る雨は、彦星が急いで漕いでいる舟の櫂のしずくなのかも」となるそうです。

原文は「此夕 零来雨者 男星之 早滂船之 賀伊乃散鴨」

「櫂(かい)」は、舟を進めるために水をかくための道具です。

この物語は、斉藤一さんと鈴ちゃんが登場する場面が多いです。

鈴ちゃんが出掛ける途中で雨が降り困っている時に、斉藤一さんが現れる、という場面が書きたいと考える時に、この歌が合うと思いました。

物語の時期設定は、七夕の少し前から七夕の当日の物語です。

「陰暦」で中心にして物語を書いているため、現在の暦の日付と違います。

陰暦の七夕は、現在の暦の七月七日より数週間から一ヶ月ほど後(七月中旬〜八月中旬)になります。

現在の暦の七夕は、陰暦の七夕の頃と比べると、雨の日や曇りの日など天気の悪い日が多くなっていると思います。

「七夜月(ななよづき)」は「陰暦七月の異称」です。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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