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〜 雪月花 新撰組異聞 編 〜


〜 蝉時雨 声をし聞けば都し思ほゆ 〜


登場人物

土方歳三、沖田総司、斉藤一、お雪、少女[鈴・美鈴]



「石走る 瀧もとどろに 鳴く蝉の 声をし聞けば 都し思ほゆ」

「万葉集 第十五巻 三六一七番」より

作者:大石蓑麻呂(おおいしみのまろ)



ここは、京の町。



暑い日が続いている。



外に居ても、屋内に居ても、蝉時雨が響いてくる。



ここは、屯所。



蝉時雨が響いている。



ここは、沖田総司の部屋。



蝉時雨が響いている。



沖田総司は数冊の書類に真剣な表情で目を通している。



沖田総司は数冊の書類を閉じると、軽く息をはいた。



沖田総司は数冊の書籍を持ち、部屋を僅かに疲れた様子で出て行った。



直後の事。



ここは、屯所。



沖田総司の部屋の前に在る縁。



蝉時雨が響いている。



沖田総司は数冊の書類を持ち、僅かに疲れた様子で歩き出した。



僅かに後の事。



ここは、屯所。



土方歳三の部屋。



蝉時雨が響いている。



土方歳三は数冊の書籍に普通の表情で目を通している。



沖田総司は数冊の書籍を持ち、普通に訪ねた。



土方歳三は数冊の書籍に目を通すのを普通の表情で止めた。

沖田総司は土方歳三の傍に数冊の書籍を置くと、土方歳三に普通に話し出す。

「確認は終了しました。返します。」

土方歳三は沖田総司に普通に話し出す。

「突然に頼んで、更に急かした。悪かったな。」

沖田総司は土方歳三に普通に話し出す。

「気にしないでください。」

土方歳三は数冊の書類を持つと、机に普通に置いた。

沖田総司は土方歳三を普通の表情で見た。

土方歳三は沖田総司に微笑んで話し出す。

「蝉時雨が響いているな。」

沖田総司は土方歳三に微笑んで話し出す。

「はい。」

土方歳三は沖田総司に微笑んで話し出す。

「総司。蝉を詠んだ歌は、幾首も有る。今回は一首のみ教える。」

沖田総司は土方歳三に苦笑して話し出す。

「遠慮します。」

土方歳三は沖田総司に微笑んで話し出す。

「遠慮するな。」

沖田総司は土方歳三を苦笑して見た。

土方歳三は沖田総司に微笑んで話し出す。

「“石走る 瀧もとどろに 鳴く蝉の 声をし聞けば 都し思ほゆ”」

沖田総司は土方歳三を苦笑して見ている。

土方歳三は机から紙を取り、沖田総司に紙を渡すと、沖田総司に微笑んで話し出す。

「歌、歌の意味、作者などを書いた。質問などがあれば、遠慮せずに声を掛けろ。」

沖田総司は土方歳三から苦笑して紙を受け取った。

土方歳三は沖田総司に微笑んで話し出す。

「今日の総司の任務は終了だ。残りの時間は自由に過ごしてくれ。」

沖田総司は紙を持ち、土方歳三に微笑んで話し出す。

「ありがとうございます。」

土方歳三は沖田総司に微笑んで頷いた。

沖田総司は懐に紙を仕舞うと、土方歳三に微笑んで話し出す。

「失礼します。」

土方歳三は沖田総司に微笑んで頷いた。



沖田総司は部屋を笑顔で出て行った。



直後の事。



ここは、屯所。



土方歳三の部屋の前に在る縁。



沖田総司は部屋を笑顔で出てきた。



蝉時雨が響いている。



沖田総司は微笑んで呟いた。

「今日は予想外の暇が出来た。嬉しいな。歌について考えるのは後にして、鈴ちゃんに逢おう。」



沖田総司は笑顔で歩き出した。



少し後の事。



ここは、少女の家。



蝉時雨が響いている。



玄関。



沖田総司は微笑んで訪れた。



少女は不思議な様子で現れた。



沖田総司は少女に微笑んで話し出す。

「今日は任務が早く終わったんだ。鈴ちゃんの都合が悪くなければ、一緒に出掛けよう。」

少女は沖田総司に微笑んで頷いた。



沖田総司は微笑んで居なくなった。

少女も微笑んで居なくなった。



少し後の事。



ここは、沖田総司と少女が良く訪れる寺。



蝉時雨が響いている。



本堂。



沖田総司は本堂に微笑んで入った。

少女も本堂に微笑んで入った。



蝉時雨が響いている。



沖田総司は少女に苦笑して話し出す。

「蝉時雨が大きな音で響き渡っているね。数日ほど続く蝉時雨は、蝉時雨と表現するより、蝉の瀧と表現するほうが合っているね。話し時に困ってしまうね。」

少女は沖田総司に微笑んで頷いた。

沖田総司は少女に苦笑して話し出す。

「今日の任務が終わる直前に、土方さんから蝉を詠んだ歌を一首だけ教えてもらったんだ。歌に関する説明などを書いた紙を受け取ったんだ。」

少女は沖田総司に微笑んで話し出す。

「総司さんが教わったお歌が知りたいです。」

沖田総司は懐から紙を取り出すと、少女に紙を微笑んで渡した。

少女は沖田総司から紙を微笑んで受け取った。

沖田総司は少女に微笑んで話し出す。

「蝉を詠んだ歌は幾首も有るんだね。歌は本当に奥が深いね。」

少女は紙を持ち、沖田総司に微笑んで話し出す。

「私もお歌について勉強すると、知らないお歌が次々に出てきます。私も歌の奥の深さを感じます。私も蝉を詠んだお歌を全て覚えていません。私も総司さんとしっかりと話せるように、蝉を詠んだお歌について勉強します。」

沖田総司は少女に苦笑して頷いた。

少女は紙を微笑んで読んだ。

沖田総司は少女を微笑んで見た。

少女は紙を詠みながら、不安な表情になった。

沖田総司は少女を心配な様子で見た。

少女は沖田総司に紙を持ち、沖田総司に不安な様子で話し出す。

「お歌は総司さんが選んだのですか?」

沖田総司は少女に心配して話し出す。

「私から土方さんに蝉を詠んだ歌を教えて欲しいと頼んでいないよ。土方さんが私に蝉を詠んだ歌について話して、土方さんが私に教えた歌だよ。」

少女は沖田総司を安心した様子で見た。

沖田総司は少女を不思議な様子で見た。

少女は沖田総司に紙を渡すと、沖田総司に微笑んで話し出す。

「私も、蝉時雨が大きな声で響く様子は、瀧の音に似ていると思います。」

沖田総司は懐に紙を仕舞うと、少女を微笑んで見た。

少女は沖田総司を微笑んで見た。



翌日の事。



ここは、京の町。



蝉時雨が響いている。



ここは、町中。



蝉時雨が響いている。



斉藤一は普通に歩いている。

お雪は微笑んで歩いている。



お雪は前を不思議な様子で見た。

斉藤一はお雪と前を普通の表情で見た。



少女が僅かに寂しい様子で歩く姿が見える。



お雪は斉藤一を見ると、斉藤一に微笑んで話し出す。

「予定を変更して家に戻っても良いでしょうか?」

斉藤一はお雪を見ると、お雪に普通の表情で軽く礼をした。

お雪は斉藤一に微笑んで軽く礼をした。



僅かに後の事。



ここは、町中。



蝉時雨が響いている。



少女は寂しい様子で歩いている。



お雪に穏やかな声が、少女の後ろから聞えた。

「美鈴さん。こんにちは。」



少女は立ち止まると、後ろを不思議な様子で見た。



お雪が少女を微笑んだ表情で見ている。

斉藤一は少女を普通の表情で見ている。



少女は斉藤一とお雪に微笑んで軽く礼をした。

お雪は少女に微笑んで話し出す。

「お久しぶりです。美鈴さんの都合が悪くなければ、三人で私の家で話しませんか?」

少女はお雪に微笑んで話し出す。

「はい。」

お雪は斉藤一と少女に微笑んで話し出す。

「美味しいお菓子を食べながら話したいと思っています。美味しいお菓子を買ってから、家に帰っても良いですか?」

少女はお雪に微笑んで話し出す。

「お気遣いありがとうございます。」

お雪は斉藤一に微笑んで話し出す。

「斉藤さんの分のお菓子は、甘くなくて美味しいお菓子を買います。安心してください。」

斉藤一はお雪に普通の表情で軽く礼をした。



お雪は微笑んで歩き出した。

斉藤一は普通に歩き出した。

少女は微笑んで歩き出した。



少し後の事。



ここは、お雪の家。



蝉時雨が響いている。



客間。



蝉時雨が響いている。



斉藤一は普通に居る。

お雪は微笑んで居る。

少女も微笑んで居る。

斉藤一、お雪、少女の前には、お菓子とお茶が置いてある。



お雪は少女に微笑んで話し出す。

「蝉時雨が何処に居ても響いてくるわね。」

少女はお雪に微笑んで話し出す。

「はい。」

お雪は少女に微笑んで話し出す。

「私の勘違いだと思うけれど、美鈴さんを町中で見掛けた時に、寂しい様子に見えたの。美鈴さんに思わず声を掛けてしまったの。」

少女はお雪を不安な様子で見た。

お雪は少女に微笑んで話し出す。

「私で良ければ話し相手になるわ。美鈴さんは沖田さんの前では、たくさんの笑顔を見せてあげて。」

少女はお雪に微笑んで話し出す。

「お気遣いありがとうございます。」

お雪は少女に微笑んで話し出す。

「私と話す機会は少ないから、緊張すると思うの。気を楽にして話してね。」

少女はお雪に微笑んで話し出す。

「はい。」

お雪は少女を微笑んで見た。

少女はお雪に僅かに考え込んで話し出す。

「昨日の出来事です。総司さんのお仕事が早く終わったので、私に逢いにきてくださいました。私は総司さんと逢えて、とても嬉しかったです。私と総司さんは、お寺で話しました。総司さんから、上役の土方さんが歌について書いた紙を見せて頂きました。」

お雪は少女に微笑んで話し出す。

「美鈴さんは土方さんが沖田さんに教えたお歌を知っているのね。」

少女はお雪に不安な様子で話し出す。

「“石走る 瀧もとどろに 鳴く蝉の 声をし聞けば 都し思ほゆ”」

お雪は少女に微笑んで話し出す。

「美鈴さんは、沖田さんが多摩を懐かしく思って帰ってしまう、と不安な気持ちになったのね。」

少女はお雪に不安な様子で話し出す。

「総司さんの体調が悪く思える時があります。多摩に療養のために戻る話があるように思ってしまって、不安になってしまいました。」

お雪は少女に微笑んで話し出す。

「沖田さんは土方さんに頼んで教えてもらった歌ではないと話したのよね。沖田さんは土方さんから歌について書いた紙を受け取ったと話したのよね。」

少女はお雪に不安な様子で頷いた。

お雪は少女に微笑んで話し出す。

「土方さんは、蝉時雨が聞こえる時季だから、蝉を詠んだお歌を覚え易いと考えて、今の一首を選んだと思うの。沖田さんは蝉時雨が聞こえる時季なので、美鈴さんに喜んで欲しくて話したと思うの。」

斉藤一は少女に普通に話し出す。

「総司が多摩を懐かしくなり戻りたいと思うならば、美鈴さんに今の歌を気軽に話さない。総司は、多摩への懐かしさが強まる言動も、多摩に戻る希望を表す言動も、無い。総司は俺に、美鈴さんの笑顔をたくさん見たい、美鈴さんの住む町をしっかりと守る、と話している。美鈴さんの話す今回の件は、心配するな。」

少女は斉藤一に僅かに赤面して頷いた。

お雪は少女に微笑んで話し出す。

「美鈴さん。良かったわね。」

少女はお雪に僅かに赤面して頷いた。

お雪は斉藤一と少女に微笑んで話し出す。

「良く考えると、お茶もお菓子も味わっていませんね。お茶のお代わりは有ります。お茶は遠慮しないで飲んでください。お茶を飲んで、お菓子を食べて、楽しく話しましょう。」

少女はお雪に僅かに赤面して微笑んで話し出す。

「はい。」

斉藤一はお雪に普通の表情で軽く礼をした。

お雪は斉藤一と少女を微笑んで見た。



暫く後の事。



ここは、屯所。



蝉時雨が響いている。



土方歳三の部屋。



蝉時雨が響いている。



土方歳三は普通に居る。



斉藤一は部屋を普通に訪れた。



土方歳三は斉藤一を不思議な様子で見た。

斉藤一は土方歳三に普通に話し出す。

「昨日の蝉が関係する出来事について、土方さんにご報告します。」

土方歳三は斉藤一に不思議な様子で頷いた。

斉藤一は土方歳三に普通に話し出す。

「昨日の出来事です。土方さんは総司に蝉を詠んだ歌について書いた紙を渡したそうですね。総司は深く考えずに、あの子に土方さんが蝉を詠んだ歌について書いた紙を見せたそうです。あの子は、総司が多摩を懐かしく思って戻るように感じて不安になったようです。今日の出来事です。お雪さんがあの子を町中で見掛けました。お雪さんはあの子が寂しい様子に見えたので、あの子に声を掛けました。俺とお雪さんとあの子で、お雪さんの家で話しました。あの子はお雪さんと俺の話を聞いて納得したらしく、普段と同じ様子に戻りました。」

土方歳三は斉藤一を困惑して見た。

斉藤一は土方歳三に普通に話し出す。

「お雪さんはあの子については、近藤さんを含める他の人達に簡単に話しません。総司は今回の美鈴さんが話す想いに気付いていない様子です。共に問題は起きないと思います。」

土方歳三は斉藤一に困惑して話し出す。

「あの子が総司をとても心配しているのは知っている。蝉が鳴く時季だから、蝉について詠んだ歌を覚え易いと考えて、総司に蝉を詠んだ歌を教えた。故郷を想う気持ちを詠んだ歌は多い。郷愁の想いを込めて詠んだ歌も多い。あの子の前で話す時に気を付ける方が良い歌だから、総司に歌について紙に書いて渡した。総司は歌についての説明をしっかりと読まなかったんだ。総司は、剣術関連も歌関連も細やかな感情も、疎さが天才的だな。」

斉藤一は土方歳三に普通に話し出す。

「土方さんに同意します。総司は総司本人の気持ちに必死になって気付かないようにしています。総司は必死に気付かないようにしているため、あの子に歌について書いた紙を気軽に見せたと思います。」

土方歳三は斉藤一に困惑して話し出す。

「仕方が無い。あの子への詫びとして、あの子が喜ぶ趣向を考える。斉藤。今回も手伝いを頼む。」

斉藤一は土方歳三に普通の表情で軽く礼をした。

土方歳三は斉藤一を見ながら、困惑してため息をついた。



少し後の事。



ここは、屯所。



蝉時雨は僅かに弱く響いている。



斉藤一の部屋。



蝉時雨は僅かに弱く響いている。



斉藤一は普通に居る。



沖田総司は部屋を照れた様子で訪れた。



斉藤一は沖田総司を普通の表情で見た。

沖田総司は懐から紙を取り出すと、斉藤一に紙を渡して、斉藤一に照れて話し出す。

「先日の出来事です。土方さんから蝉を呼んだ歌を教えてもらいました。鈴ちゃんに元歌を先に見せてしまいましたが、歌の一部を変えると良い雰囲気の歌になると思いました。」

斉藤一は沖田総司から紙を普通の表情で受け取った。

沖田総司は斉藤一に照れて話し出す。

「私が考えた歌は、“石走る 瀧もとどろに鳴く蝉の 声をし聞けば 鈴を思ほゆ”」

斉藤一は紙を普通の表情で見た。

沖田総司は斉藤一を照れて見た。

斉藤一は紙を持ち、沖田総司に普通の表情で頷いた。

沖田総司は斉藤一に安心して話し出す。

「斉藤さんが褒めてくれて安心しました。土方さんに話して歌の講義が始まると困るので、斉藤さんに確認しました。鈴ちゃんに安心して歌を贈れます。」

斉藤一は紙を持ち、沖田総司を普通の表情で見た。

沖田総司は斉藤一に微笑んで話し出す。

「鈴ちゃんはとても大切な友達です。鈴ちゃんの笑顔をたくさん見たいです。明日か明後日の間に時間を作ります。鈴ちゃんに私の考えた歌を贈ります。」

斉藤一は紙を持ち、沖田総司に普通に話し話し出す。

「総司は美鈴さんに早く歌を贈りたいのか。」

沖田総司は斉藤一に微笑んで話し出す。

「勿論です。」

斉藤一は紙を持ち、沖田総司に普通に話し出す。

「分かった。」

沖田総司は斉藤一を笑顔で見た。

斉藤一は紙を持ち、沖田総司を普通の表情で見た。



「石走る 瀧もとどろに 鳴く蝉の 声をし聞けば 都し思ほゆ」

蝉時雨を聞いた時に、懐かしく思う場所は何処か。

質問する人数と同じ場所の答えが在る。

沖田総司は、斉藤一と少女と沖田総司が居る場所、が答えになる。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語に登場する歌は「万葉集 第十五巻 三六一七番」

「石走る 瀧もとどろに 鳴く蝉の 声をし聞けば 都し思ほゆ」

ひらがなの読み方は「いしはしる たきもとどろに なくせみの こえをしきけば みやこしおもほゆ」

作者は「大石蓑麻呂(おおいしみのまろ)」

歌の意味は「岩を流れる激しい水の流れる音のように、激しく鳴く蝉の声を聞くと、(奈良の)都がなつかしく想われます。」となるそうです。

原文は「伊波婆之流 多伎毛登杼呂尓 鳴蝉乃 許恵乎之伎氣婆 京師之於毛保由」

天平八年(736年)に遣新羅使の一人であった大石蓑麻呂が、安芸(あき)の国(今の広島)の長門の島(今の倉橋島)に船を泊めた時に、詠んだ歌だそうです。

「蝉時雨(せみしぐれ)」は「多くの蝉が一斉に鳴きたてる声を時雨の降る音に喩えた言葉」です。

夏の季語です。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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