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〜 雪月花 新撰組異聞 編 〜


〜 花見月 我がかざすべく花咲けるかも 〜


登場人物

土方歳三、沖田総司、斉藤一、綺麗な女性、少女[美鈴・鈴]



「妹が手を 取りて引き攀ぢ ふさ手折り 我がかざすべく 花咲けるかも」

「万葉集 第九巻 一六八三番」より

作者:柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)歌集より



今は春。



ここは、京の町。



たくさんの場所で桜の花が咲いている。



今は夜。



夜空には、月の光と星の光が輝いている。

桜は月の光と星の光を受けて淡く輝いている。



ここは、料亭。



一室。



土方歳三は杯の酒を普通の表情で飲んでいる。

斉藤一も杯の酒を普通の表情で飲んでいる。

土方歳三の膳と斉藤一の膳には、酒と肴が載っている。



土方歳三は杯の酒を飲みながら、斉藤一に普通に話し出す。

「総司はあの子に山南さんが亡くなった事実を伝えたのか?」

斉藤一は杯の酒を飲みながら、土方歳三に普通に話し出す。

「伝えていません。」

土方歳三は杯の酒を見ながら、斉藤一に普通に話し出す。

「山南さんはあの子を気遣っていた。あの子が総司と斉藤以外に信頼する隊士は、山南さんのみと表現できる。あの子が山南さんの亡くなった事実を遅く知るほど、あの子は悲しみも寂しさも増す。総司は山南さんへの複雑な思いから、あの子の山南さんを思う気持ちを忘れ掛けている。総司は、剣術関係には天才的な能力を発揮するのに、細やかな面では天才的な鈍さを発揮する。困ったな。」

斉藤一は杯の酒を飲みながら、土方歳三に普通の表情で軽く礼をした。

土方歳三は杯の酒を飲みながら、斉藤一に普通に話し出す。

「総司はあの子に山南さんが亡くなった事実を勢いで話す可能性がある。斉藤。俺の想像する展開になった時は頼む。」

斉藤一は杯の酒を飲みながら、土方歳三に普通の表情で軽く礼をした。

土方歳三は杯の酒を飲むのを普通に止めた。

斉藤一は杯の酒を飲みながら、土方歳三を普通の表情で見た。



土方歳三は障子を僅かに静かに開けた。



庭の桜が綺麗に咲く姿が見える。

庭の桜は月の光と星の光を受けて淡く輝いている。



土方歳三は桜を見ながら、斉藤一に普通の表情で静かに話し出す。

「桜が綺麗に咲いているな。」



斉藤一は杯の酒を飲みながら、土方歳三に普通の表情で軽く礼をした。



土方歳三は障子を静かに閉めた。



斉藤一は杯の酒を飲みながら、土方歳三を普通の表情で見た。



土方歳三は席に普通に戻った。



斉藤一は杯の酒を飲みながら、土方歳三を普通の表情で見ている。

土方歳三は杯の酒を飲みながら、斉藤一に普通に話し出す。

「斉藤。先日の話した任務は、桜の花が散った以降に頼む。」

斉藤一は杯の酒を飲みながら、土方歳三に普通に話し出す。

「土方さん。俺に総司とあの子を頼むと話しました。俺が土方さんの先日の話した任務を受けると、総司とあの子に係わる時間が減ります。俺が総司とあの子に係われない頃に、状況が変わる可能性があります。良いのですか?」

土方歳三は杯の酒を飲みながら、斉藤一に普通に話し出す。

「斉藤が任務に就く日まで余裕がある。斉藤が係われない期間は幾月にもならない。近藤さんは忙しい状況が続くが、今回の任務に就かない。万が一の時には、近藤さんから連絡がもらえる。対処の方法が一つも無い状況は少ない。」

斉藤一は杯の酒を飲みながら、土方歳三に普通の表情で軽く礼をした。

土方歳三は杯の酒を飲みながら、斉藤一を微笑んで見た。



翌日の事。



ここは、京の町。



たくさんの場所で桜の花が咲いている。



ここは、落ち着いた雰囲気の寺。



境内。



桜の花が綺麗に咲いている。



少女は桜を微笑んで見ている。



少女の後ろから、土方歳三の穏やかな声が聞こえた。

「こんにちは。桜の花が綺麗に咲いているね。」



少女は後ろを不思議な様子で見た。



土方歳三は少女を微笑んで見ている。



少女は土方歳三に普通の表情で軽く礼をした。

土方歳三は少女に微笑んで話し出す。

「俺が現れると笑顔が消える。寂しいな。」

少女は土方歳三を申し訳ない表情で見た。

土方歳三は少女に微笑んで話し出す。

「俺が可愛い桜の花に声を掛けると、可愛い桜の花が隠れてしまう。何故かな?」

少女は土方歳三を申し訳ない表情で見ている。

土方歳三は少女に微笑んで話し出す。

「可愛い桜の花。俺は怖い?」

少女は土方歳三に小さい声で話し出す。

「怖くないです。」

土方歳三は少女に微笑んで話し出す。

「ありがとう。」

少女は土方歳三に普通の表情で軽く礼をした。

土方歳三は少女の手を微笑んで握った。

少女は土方歳三を驚いた表情で見た。

土方歳三は少女の手を握り、少女の耳元で微笑んで囁いた。

「“妹が手を 取りて引き攀ぢ ふさ手折り 我がかざすべく 花咲けるかも”」

少女は土方歳三を驚いた表情で見ている。

土方歳三は少女の手を握り、少女の耳元に微笑んで囁いた。

「可愛い桜。俺と付き合おう。」

少女は土方歳三に困惑して小さい声で話し出す。

「申し訳ありません。土方様と付き合えません。」

土方歳三は少女の手を握り、少女に微笑んで話し出す。

「総司に遠慮しているのかな?」

少女は土方歳三に困惑して小さい声で話し出す。

「遠慮していません。」

土方歳三は少女の手を握り、少女を微笑んで見た。

少女は土方歳三を申し訳なく見た。

土方歳三は少女の手を微笑んで放した。

少女は土方歳三を申し訳なく見ている。

土方歳三は少女に微笑んで話し出す。

「可愛い桜の花。今回は諦める。再び逢った時は、俺に微笑んでくれ。」

少女は土方歳三を申し訳なく見ている。



土方歳三は微笑んで居なくなった。



少女は桜を困惑して見た。



桜の花びらが少女の着物に舞い落ちた。



少女は桜の花びらを丁寧に取ると、桜の花びらを困惑した様子で見た。



少し後の事。



ここは、町中。



土方歳三は普通に歩いている。

斉藤一は普通に歩いている。



土方歳三は斉藤一に普通に話し出す。

「あの子は今回も合格だ。俺が見込んだ子だ。さすがだ。」

斉藤一は土方歳三を普通の表情で見た。

土方歳三は斉藤一に普通に話し出す。

「総司が羨ましい。」

斉藤一は土方歳三を普通の表情で見ている。

土方歳三は斉藤一を微笑んで見た。



暫く後の事。



ここは、京都。



夜空には、月と星が綺麗に輝いている。

桜は月の光と星の光を受けて静かに咲いている。



ここは、一軒の家。



縁。



土方歳三は微笑んで居る。

綺麗な女性は微笑んで居る。



土方歳三と綺麗な場所から少し離れた縁。



斉藤一は普通に居る。



土方歳三は綺麗な女性に微笑んで話し出す。

「綺麗だ。」

綺麗な女性は土方歳三に微笑んで話し出す。

「はい。」

土方歳三は綺麗な女性に微笑んで話し出す。

「自画自賛している。」

綺麗な女性は土方歳三に微笑んで話し出す。

「桜と月と星を綺麗と褒めたのではなく、私を綺麗と褒めたのですか?」

土方歳三は綺麗な女性に微笑んで話し出す。

「勿論。」

綺麗な女性は土方歳三に微笑んで話し出す。

「ありがとうございます。」

土方歳三は月と星を見ると、微笑んで呟いた。

「“妹が手を 取りて引き攀ぢ ふさ手折り 我がかざすべく 花咲けるかも”」

綺麗な女性は土方歳三に僅かに拗ねて話し出す。

「他の女性を思い出して歌を詠みましたね。」

土方歳三は綺麗な女性を微笑んで見た。

綺麗な女性は土方歳三に僅かに拗ねて見た。

土方歳三は綺麗な女性に微笑んで話し出す。

「拗ねる姿は可愛いのに、拗ねる姿を見る機会が滅多に無い。やっと拗ねる姿が見られた。嬉しい。」

綺麗な女性は土方歳三を微笑んで見た。

土方歳三も綺麗な女性を微笑んで見た。

綺麗な女性は土方歳三に微笑んで話し出す。

「“妹が手を 取りて引き攀ぢ ふさ手折り 我がかざすべく 花咲けるかも”。思い出した女性を教えてください。」

土方歳三は綺麗な女性に微笑んで話し出す。

「優秀な部下の想い人。」

綺麗な女性は土方歳三に微笑んで話し出す。

「優秀な部下の想い人を口説いていませんよね。」

土方歳三は綺麗な女性に微笑んで話し出す。

「秘密。」

綺麗な女性は土方歳三に僅かに呆れて話し出す。

「口説いたのですね。」

土方歳三は綺麗な女性に微笑んで話し出す。

「俺にとって、優秀な部下だ。幸せになって欲しい。口説かない。」

綺麗な女性は土方歳三に微笑んで話し出す。

「傍に静かに控えるお武家様も優秀な部下ですよね。傍に静かに控えるお武家様にも幸せになって欲しいと思っているのですね。」

土方歳三は綺麗な女性に微笑んで話し出す。

「勿論。」

綺麗な女性は斉藤一を微笑んで見た。



斉藤一は綺麗な女性に普通の表情で軽く礼をした。



土方歳三は綺麗な女性の手を微笑んで握った。

綺麗な女性は土方歳三を微笑んで見た。

土方歳三は綺麗な女性の手を握り、綺麗な女性に微笑んで囁いた。

「“妹が手を 取りて引き攀ぢ ふさ手折り 我がかざすべく 花咲けるかも”」

綺麗な女性は土方歳三に微笑んで頷いた。

土方歳三は綺麗な女性の手をゆっくりと放した。

綺麗な女性は土方歳三を微笑んで見た。

土方歳三は綺麗な女性を微笑んで抱いた。

綺麗な女性は土方歳三を微笑んで見た。



斉藤一は土方歳三と綺麗な女性を普通の表情で見た。



翌日の事。



ここは、屯所。



沖田総司の部屋。



沖田総司は微笑んで居る。

斉藤一は普通に居る。



斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。

「総司。元気か?」

沖田総司は斉藤一に微笑んで話し出す。

「はい。」

斉藤一は沖田総司を普通の表情で見た。

沖田総司は斉藤一を微笑んで見た。

斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。

「総司。京の町に桜が咲いている間に、美鈴さんに桜が登場する歌を贈れ。」

沖田総司は斉藤一に微笑んで話し出す。

「斉藤さん。良い歌を知っているのですね。教えてください。」

斉藤一は沖田総司に普通の表情で話し出す。

「“妹が手を 取りて引き攀ぢ ふさ手折り 我がかざすべく 花咲けるかも”」

沖田総司は斉藤一に微笑んで話し出す。

「斉藤さん。歌の意味を教えてください。」

斉藤一は沖田総司の手を普通に握った。

沖田総司は斉藤一を不思議な様子で見た。

斉藤一は沖田総司の手を握り、沖田総司の耳元に普通の表情で囁いた。

「“あの娘の手を取って引き寄せるようにつかみとって、私の髪飾りにするほどに花が咲いています。”、となるそうだ。」

沖田総司は斉藤一に緊張して話し出す。

「斉藤さん。今の説明した意味の他に、別な意味も含んでいるのですか?」

斉藤一は沖田総司の手を握り、沖田総司の耳元に普通の表情で囁いた。

「俺の詠んだ歌に登場する“花”は、桜を特定して詠んでいないらしい。」

沖田総司は斉藤一に緊張して話し出す。

「斉藤さん。耳元で囁いて話す理由は何ですか?」

斉藤一は沖田総司から手を放すと、沖田総司に普通に話し出す。

「歌の意味に合わせた。」

沖田総司は斉藤一を複雑な様子で見た。

斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。

「土方さんが歌を詠むと男の色気を醸し出すのに、総司が歌を詠むと素朴さのみを醸し出す。」

沖田総司は斉藤一を苦笑して見た。

斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。

「美鈴さんが、素朴さのみを醸し出す総司を呆れて、男の色気を醸し出す土方さんに憧れを抱かないように精進しろ。」

沖田総司は斉藤一に驚いて話し出す。

「斉藤さん! 鈴ちゃんに何か遭ったのですか?」

斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。

「何も起きていない。」

沖田総司は斉藤一を安心して見た。

斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。

「と、判断する人物が居る。何か起きた、と判断する人物が居る。両方、を判断する人物が居る。」

沖田総司は斉藤一を心配して見た。

斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。

「何も起きていない。」

沖田総司は斉藤一を驚いて見た。

斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。

「と、判断できる。何か起きている、と判断できる。両方、を判断できる。」

沖田総司は斉藤一に複雑な様子で話し出す。

「斉藤さん。紛らわしい文節で区切らないでください。」

斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。

「総司。大人になれ。」

沖田総司は斉藤一に不思議な様子で話し出す。

「私は斉藤さんより年上です。私は大人です。」

斉藤一は沖田総司を普通の表情で見た。

沖田総司は斉藤一を複雑な表情で見た。

斉藤一は沖田総司の耳元に普通の表情で囁いた。

「総司。お休み。」

沖田総司は斉藤一に不思議な様子で話し出す。

「斉藤さん。お休みなさい。」

斉藤一は沖田総司に普通の表情で頷いた。

沖田総司は斉藤一を不思議な様子で見た。



斉藤一は部屋を普通に出て行った。



沖田総司は考え込んで呟いた。

「分からない。」



「妹が手を 取りて引き攀ぢ ふさ手折り 我がかざすべく 花咲けるかも」

京の町に桜の花が咲く頃。

京の町には他の花も咲いている。

花の種類を確認したいが、花の種類が多いため、確認が難しい。

沖田総司は、剣術関連の天才的な鋭さの発揮と反比例するように、特定の出来事に天才的な鈍さを発揮している。

京の町に咲く可愛い桜の花が呆れる前に、花の種類の確認が出来るのか。

答えを知る人物は、今の京の町に居ない。

かも・・・




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語に登場する歌は「万葉集 第九巻 一六八三番」

「妹が手を 取りて引き攀ぢ ふさ手折り 我がかざすべく 花咲けるかも」

ひらがなの読み方は「いもがてを とりてひきよぢ ふさたをり わがかざすべく はなさけるかも」

作者は「柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)歌集より」

歌の意味は「あの娘の手を取って引き寄せるようにつかみとって、私の髪飾りにするほどに花が咲いています。」となるそうです。

原文は「妹手 取而引与治 ■手折 吾刺可 花開」

「■」の漢字は分かりませんが、過去から現在にかけて「に」で読める漢字のようです。

この歌に登場する「花」は、具体的な花の種類を特定せずに詠んだ歌のようです。

この歌の題詞に「舎人皇子(とねりのみこ)に献じた二首」とあります。

舎人皇子(とねりのみこ:天武天皇の息子さん)に献じた歌二首のうちの一首です。

この物語で、土方歳三さんが斉藤一さんに、山南敬助さんが亡くなったと話す場面、桜の花が散った以降に先日に話した任務を頼むと話す場面、があります。

山南敬助さんが亡くなった出来事は、元治二年二月二十三日(1865年3月20日)に、山南敬助さんが切腹をして亡くなった、沖田総司さんが山南敬助さんの切腹する時の介錯を務めた、を差します。

土方歳三さんが桜の散る頃に頼む任務は、慶応元年(1865年)四月頃に、土方歳三さん、伊東甲子太郎さん、斉藤一さん、藤堂平助さん、などが、隊士募集のために江戸に行った時の出来事を差します。

この物語は、詳細な日を特定して書いていないため、桜の花の散った以降という漠然とした表現になっています。

1865年は、旧暦で四月上旬に「元治二年」から「慶応元年」に改元します。

山南敬助さんの亡くなった二月は元治二年で、斉藤一さんが隊士募集のために江戸に向かい江戸に居る期間の四月は、慶応元年の可能性が高いです。

「新撰組異聞」関連では、斉藤一さんが隊士募集のために江戸に居る期間は「慶応元年」の設定です。

「花見月(はなみづき)」は「陰暦三月の異称」です。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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