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~ 雪月花 新撰組異聞 編 ~
~ 花名残月 つつじもく咲く道をまたも見むかも ~
登場人物
近藤勇、土方歳三、沖田総司、斉藤一、お雪、少女[美鈴・鈴]
「水伝ふ、磯の浦みの、岩つつじ、もく咲く道を、またも見むかも」
「万葉集 第二巻 一八五番」より
作者:日並皇子宮舎人(ひなしみのみこのみやのとねり)
今は初夏。
ここは、京の町。
春のような穏やかさが続いている。
前の月も見頃のつつじは、月の変わった今も見頃は続いている。
つつじの花を見ると、見頃が少しだけ続くように見える。
今日は晴れている。
ここは、町中。
沖田総司は微笑んで歩いている。
少女も微笑んで歩いている。
沖田総司は少女に微笑んで話し出す。
「鈴ちゃん。今日は何の花が見たい?」
少女は沖田総司に微笑んで話し出す。
「私は、総司さんのお出掛けしたい所に、一緒にお出掛けしたいです。」
沖田総司は少女に微笑んで話し出す。
「私は鈴ちゃんと一緒に花が見たいな。」
少女は沖田総司に微笑んで話し出す。
「つつじのお花が見たいです。」
沖田総司は少女に微笑んで話し出す。
「鈴ちゃんの知っている、つつじの花の綺麗に咲く場所に行きたいな。」
少女は沖田総司に微笑んで話し出す。
「総司さんに喜んで頂けるか少し不安です。」
沖田総司は少女に微笑んで話し出す。
「鈴ちゃんが綺麗だと思う場所は、絶対に綺麗だよ。安心して良いよ。」
少女は沖田総司を微笑んで話し出す。
「分かりました。」
沖田総司は少女に微笑んで話し出す。
「今の時期はたくさんの種類の花が咲いているよね。咲いている花がたくさんあるよね。見る花を悩むよね。」
少女は沖田総司に微笑んで話し出す。
「はい。」
沖田総司は少女を微笑んで見た。
少し後の事。
ここは、つつじの花の咲く場所。
近くに小川が流れている。
時折、小川の水面が光っている。
沖田総司は微笑んで来た。
少女も微笑んで来た。
沖田総司は少女に微笑んで話し出す。
「白いつつじの花がたくさん咲いているね。」
少女は沖田総司に微笑んで話し出す。
「白色のつつじのお花。涼しさを感じます。綺麗です。」
沖田総司は少女に微笑んで頷いた。
少女は小川を指すと、沖田総司に微笑んで話し出す。
「小川の水面にお日様の光が当たると輝きます。とても綺麗です。白いつつじのお花もお日様の光が当たると更に輝きます。更に綺麗になります。」
沖田総司は少女に微笑んで話し出す。
「鈴ちゃんは物知りだよね。鈴ちゃんはたくさんの内容に気付くよね。勉強になるよ。」
少女は沖田総司を恥ずかしく見た。
沖田総司は少女に微笑んで話し出す。
「鈴ちゃんに教えてもらう内容は、人に会う時に役に立つ内容が多いんだ。私は京の町の決り事などの細かい内容について疎いだろ。鈴ちゃんの話を参考にする時が多いんだ。」
少女は沖田総司を寂しく見た。
沖田総司は少女に慌てて話し出す。
「付き合っている幹部が多いんだ! 京の町について疎い幹部が多いんだ! 贈り物などに苦労する幹部が多いんだ! 私も京の町について疎いだろ! 私に質問する幹部は居ないんだ! 近藤さんの付き合っている女性は、物凄くいろいろな内容を知っているんだ! 近藤さんの付き合っている女性に会う時は、何も知らないと、近藤さんにも、近藤さんと付き合っている女性にも、迷惑の掛かる時があるんだ! 鈴ちゃんから教えてもらう内容も、鈴ちゃんと話す内容も、役立っているんだ! 本当に助かっているんだ!」
少女は沖田総司を安心した表情で見た。
沖田総司も少女を安心した表情で見た。
少女は沖田総司に微笑んで話し出す。
「総司さんのお役に立てて嬉しいです。更に勉強します。」
沖田総司は少女に心配して話し出す。
「鈴ちゃん。無理をしないでね。鈴ちゃんに逢えないと寂しいよ。鈴ちゃんに逢えなければ、私の勉強は意味が無くなるよね。私は、鈴ちゃんと一緒に過ごす時が、一番に楽しいんだ。鈴ちゃんに逢って、鈴ちゃんからいろいろな内容を教えてもらう時が、本当に楽しく感じるんだ。」
少女は沖田総司を恥ずかしく見た。
沖田総司は少女を赤面して見た。
白いつつじの花が陽の光に当たった。
白いつつじの花が更に白く輝いた。
翌日の事。
ここは、お雪の家。
客間。
近藤勇は微笑んで居る。
近藤勇の前には、お茶と菓子が置いてある。
お雪も微笑んで居る。
近藤勇はお雪に微笑んで話し出す。
「久々に長い時間が空いた。外は気持ちの良い気候だ。お雪と外で話したいと思った。近い場所になるが出掛けないか?」
お雪は近藤勇に微笑んで話し出す。
「先生とお出掛け出来るのですね。嬉しいです。つつじの花を見に行きたいです。」
近藤勇はお雪に微笑んで話し出す。
「つつじの見頃は、続いている。つつじを見に行こう。」
お雪は近藤勇に微笑んで話し出す。
「先生。準備をしてきます。」
近藤勇はお雪に微笑んで頷いた。
お雪は部屋から微笑んで出て行った。
少し後の事。
ここは、つつじの花の咲く場所。
近くに小川が流れている。
時折、小川の水面が光っている。
近藤勇は微笑んで来た。
お雪は微笑んで来た。
お雪は近藤勇に微笑んで話し出す。
「先生。白いつつじの花。綺麗ですね。」
近藤勇はお雪に微笑んで頷いた。
お雪は白いつつじの花を微笑んで見た。
近藤勇は白いつつじの花を見ると、微笑んで呟いた。
「“水伝ふ、磯の浦みの、岩つつじ、もく咲く道を、またも見むかも”。」
お雪は近藤勇を不思議な様子で見た。
近藤勇はお雪を見ると、お雪に微笑んで話し出す。
「お雪には関係の無い歌を詠んでしまった。申し訳ない。」
お雪は近藤勇を見ながら、微笑んで首を横に振った。
近藤勇は白いつつじの花を寂しい表情で見た。
お雪は近藤勇に微笑んで話し出す。
「私は今の歌を想定する人物が分かりません。私の想像の中のお話になります。今の歌を想定する人物が、京の町に良い印象の思い出があるならば、再び見る機会があると思います。」
近藤勇はお雪を見ると、お雪に微笑んで話し出す。
「お雪。ありがとう。」
お雪は近藤勇を微笑んで見た。
近藤勇はお雪と白いつつじの花を微笑んで見た。
お雪も近藤勇と白いつつじの花を微笑んで見た。
小川の水はゆっくりと流れている。
小川の傍に咲く白いつつじの花は、近藤勇の気持ちとお雪の気持ちが分かったのか、陽の光を受けてから、更に白く、更に輝いた。
数日後の事。
ここは、京の町。
つつじの花は今日も綺麗に咲いている。
早く咲き始めたつつじの見頃は終わりを迎え始めている。
ここは、町中。
沖田総司は微笑んで歩いている。
少女も微笑んで歩いている。
沖田総司は少女に微笑んで話し出す。
「鈴ちゃん。今日は斉藤さんも来るよね。私と斉藤さんで、待ち合わせの場所を決めてしまったんだ。」
少女は沖田総司に微笑んで話し出す。
「総司さんも斉藤さんも、お仕事が忙しいです。私を気にせずに待ち合わせの場所を決めてください。」
沖田総司は少女に微笑んで話し出す。
「鈴ちゃんと一緒に行った、小川の傍に白いつつじの花の咲く場所で待ち合わせをするんだ。今日もつつじの花が綺麗に咲いていたら、つつじの花を見ながら話そうね。」
少女は沖田総司に微笑んで話し出す。
「はい。」
沖田総司は少女を微笑んで見た。
少し後の事。
ここは、つつじの花の咲く場所。
近くに小川が流れている。
時折、小川の水面が光っている。
沖田総司は包みを持ち、微笑んで来た。
少女は微笑んで来た。
沖田総司は包みを持ち、白いつつじの花を微笑んで見た。
少女は白いつつじの花を微笑んで見た。
沖田総司は包みを持ち、少女を見ると、少女に微笑んで話し出す。
「今日も綺麗につつじが咲いているね。」
少女は沖田総司を見ると、沖田総司に微笑んで話し出す。
「はい。」
沖田総司は包みを持ち、少女を微笑んで見た。
斉藤一が普通に来た。
沖田総司は包みを持ち、斉藤一を微笑んで見た。
少女は斉藤一を微笑んで見た。
斉藤一は沖田総司と少女に普通の表情で頷いた。
少女は斉藤一に微笑んで話し出す。
「斉藤さん。こんにちは。」
斉藤一は少女に普通の表情で頷いた。
沖田総司は包みを持ち、斉藤一に微笑んで話し出す。
「斉藤さん。早かったですね。」
斉藤一は沖田総司に普通の表情で頷いた。
沖田総司は包みを持ち、斉藤一に微笑んで話し出す。
「斉藤さん。つつじの花が綺麗に咲いています。場所を変えずに、話しませんか?」
斉藤一は沖田総司に普通の表情で頷いた。
少女は沖田総司と斉藤一に微笑んで話し出す。
「お菓子を用意しました。直ぐに食べますか?」
沖田総司は包みを持ち、少女に笑顔で話し出す。
「鈴ちゃん! 早く菓子が食べたいな!」
斉藤一は少女に普通に話し出す。
「俺は遠慮する。」
少女は斉藤一に微笑んで話し出す。
「総司さんと私で、お菓子を食べる機会が多いです。斉藤さんに申し訳がないです。今回は甘くないお菓子も用意しました。お煎餅ならば、大丈夫ですよね?」
斉藤一は少女に普通に話し出す。
「たくさん用意したのか?」
少女は斉藤一に微笑んで話し出す。
「たくさん用意しました。斉藤さん。全て食べてください。」
沖田総司は包みを持ち、斉藤一に拗ねて話し出す。
「斉藤さん~ 良いな~ 私も少しだけで良いから~ 煎餅を食べたいです~」
少女は沖田総司と斉藤一に微笑んで話し出す。
「斉藤さんはいつも私を気遣って遠慮します。今日は斉藤さんが早く来ました。斉藤さんにたくさん食べて頂きたいです。」
斉藤一は少女に普通に話し出す。
「俺が一人のみでは、全て食べられない。三人で食べたい。」
少女は斉藤一に微笑んで話し出す。
「はい。」
沖田総司は包みを持ち、少女に微笑んで話し出す。
「鈴ちゃん。先に煎餅から食べて良いかな?」
少女は沖田総司に微笑んで話し出す。
「はい。」
沖田総司は包みを持ち、斉藤一と少女に笑顔で話し出す。
「今から菓子を食べる準備を始めましょう!」
斉藤一は沖田総司と少女に普通の表情で頷いた。
少女は沖田総司と斉藤一に微笑んで話し出す。
「はい。」
沖田総司は包みを持ち、斉藤一と少女を笑顔で見た。
直後の事。
ここは、つつじの花の咲く場所。
近くに小川が流れている。
時折、小川の水面が光っている。
沖田総司、土方歳三、少女の居る場所から、少し離れた場所。
近藤勇は、沖田総司、斉藤一、少女を微笑んで見ている。
土方歳三も、沖田総司、斉藤一、少女を微笑んで見ている。
土方歳三は、沖田総司、斉藤一、少女を見ながら、近藤勇に微笑んで話し出す。
「総司も斉藤も、楽しく過ごしている。」
近藤勇は、沖田総司、斉藤一、少女を見ながら、土方歳三に微笑んで話し出す。
「歳の話すとおりに見える。」
土方歳三は、沖田総司、斉藤一、少女を見ながら、近藤勇に微笑んで話し出す。
「総司も、僅かずつだが、本来の笑顔になる時間が増えてきた。斉藤は、息抜きを兼ねて過ごしている。あの子には、感謝のみだな。」
近藤勇は、沖田総司、斉藤一、少女を見ながら、土方歳三に微笑んで話し出す。
「私も歳と同じ気持ちだ。」
土方歳三は白いつつじの花を見ると、微笑んで呟いた。
「“水伝ふ、磯の浦みの、岩つつじ、もく咲く道を、またも見むかも”。」
近藤勇は土方歳三を不思議な様子で見た。
土方歳三は近藤勇を見ると、近藤勇に微笑んで話し出す。
「自分勝手だが、三人の姿と今の景色を見てもらいたい。」
近藤勇は土方歳三に微笑んで静かに話し出す。
「私も見てもらいたいと思う。」
土方歳三は近藤勇を微笑んで見た。
近藤勇は土方歳三に微笑んで話し出す。
「先日、お雪と共に今の居る場所に来た。私も今の歌を呟いてしまった。」
土方歳三は近藤勇に微笑んで話出す。
「俺と近藤さんは、同じ場所で同じ歌を詠んだのか。嬉しいな。」
近藤勇は土方歳三に微笑んで話し出す。
「私も嬉しい。」
土方歳三は近藤勇を微笑んで見た。
近藤勇も土方歳三を微笑んで見た。
「水伝ふ、磯の浦みの、岩つつじ、もく咲く道を、またも見むかも」
青空の下に白いつじの花が咲いている。
小川の傍に白いつつじの花が咲いている。
小川の水面が陽の光を受けて輝いている。
白いつつじの花も陽の光を受けて輝いている。
沖田総司の笑顔と少女の笑顔も、陽の光を受けて輝いている。
近藤勇、土方歳三、斉藤一、白いつつじの花は、沖田総司の笑顔と少女の笑顔を静かに見守っている。
初夏の時は、静かに過ぎていく。
* * * * * *
ここからは後書きなります。
この物語に登場する歌は「万葉集 第二巻 一八五番」
「水伝ふ、磯の浦みの、岩つつじ、もく咲く道を、またも見むかも」
ひらがなの読み方は「みなつたふ、いそのうらみの、いわつつじ、もくさくみちを、またもみむかも」
歌の意味は、「水が流れているつつじが見えるこの道を、また見ることができるのだろうか。」となるそうです。
作者は「日並皇子宮舎人(ひなしみのみこのみやのとねり)」
原文は「水傳 磯乃浦廻乃 石上乍自 木丘開道乎 又将見鴨」
日並皇子(ひなしみのみこ)の死を悲しんで、舎人(とねり)たちが作った歌の一つです。
「岩つつじ」は、岩場などに生えているつつじです。
現在の「さつき」の原種とされています。
「さつき」は、「さつきつつじ(五月に咲くつつじの意味)」からきているとのことです。
万葉集の中では、「つつじ」と単独で詠まれないで、「岩つつじ」「白つつじ」などと、詠まれています。
どうも五音にして調子を整えるためもあったようです。
この物語の時間設定等の補足です。
この物語の時間設定は、山南敬助さんの切腹から少し後の、つつじの花の咲く頃を想定して書きました。
この物語は、歌の意味から物語を考えました。
そのため、「水伝ふ磯の浦みの岩つつじ」を「白いつつじがたくさん咲いている場所。その近くには小川がある。その小川の傍にも白いつつじが咲いている」として物語を書きました。
歌の舞台となっている場所とは、かなり違うと思います。
「花名残月(はななごりづき)」についてです。
「陰暦四月の異称」です。
楽しんで頂けると嬉しいです。
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