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~ 雪月花 新撰組異聞 編 ~


~ 野薔薇と日溜まり 君を ~


登場人物

土方歳三、沖田総司、斉藤一、少女[美鈴・鈴]




「道の辺の 茨のうれに 延ほ豆の からまる君を はかれか行かむ」

「万葉集 第二十巻 四三五二番」より

作者:丈部鳥(はせつかべのとり)




今は初夏。



ここは、京の町。



過ごしやすい日が続いている。



ここは、沖田総司と少女が良く訪れる寺。



本堂。



沖田総司は微笑んで居る。

斉藤一は普通に居る。

少女は微笑んで居る。



沖田総司は少女に微笑んで話し出す。

「鈴ちゃん。過ごしやすい日が続いているね。夏の暑さを感じる時は、暫く後になりそうだね。暑くなる前に行きたい場所か見たい花が在ったら、一緒に行こう。」

少女は沖田総司に微笑んで話し出す。

「野薔薇が見たいです。」

沖田総司は少女に微笑んで話し出す。

「野薔薇は棘があって白くて小さな花が咲く植物だよね。」

少女は沖田総司に微笑んで話し出す。

「はい。」

沖田総司は少女に微笑んで話し出す。

「野薔薇の花は、白くて小さくて可愛いよね。鈴ちゃんみたいだよね。」

少女は沖田総司を恥ずかしく見た。

沖田総司は少女に慌てて話し出す。

「鈴ちゃんが似ているのは、野薔薇の花だけだよ! 野薔薇の枝は棘が有るよね! 鈴ちゃんと野薔薇は、似ていない部分があるよ!」

少女は沖田総司に微笑んで話し出す。

「総司さんから、野薔薇の花に喩えて頂いたので、恥ずかしくなりました。枝は違う内容の訂正を頂きました。お気遣いありがとうございます。」

沖田総司は少女に微笑んで話し出す。

「私は本当の内容を話しただけだよ。気遣っていないよ。」

少女は沖田総司を恥ずかしく見た。

沖田総司は斉藤一を心配して見た。

斉藤一は少女に普通に話し出す。

「総司は、直接的な表現しか出来ない。美鈴さんが恥ずかしく思う気持ちは、理解できる。」

沖田総司は斉藤一を僅かに拗ねて見た。

斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。

「総司。俺の話す内容に間違いがあるのか?」

沖田総司は斉藤一に僅かに拗ねて話し出す。

「ありません。」

斉藤一は沖田総司と少女に普通に話し出す。

「予定が空けば、野薔薇を一緒に見に行く。」

少女は斉藤一に微笑んで話し出す。

「三人でお出掛け出来る可能性が有るのですね。楽しみです。」

斉藤一は沖田総司を普通の表情で見た。

沖田総司は斉藤一に僅かに拗ねて話し出す。

「私も楽しみです。」

斉藤一は沖田総司と少女に普通の表情で頷いた。



暫く後の事。



ここは、屯所。



斉藤一の部屋。



沖田総司は部屋を微笑んで訪ねた。



斉藤一は沖田総司を普通の表情で見た。

沖田総司は斉藤一に微笑んで話し出す。

「三人で野薔薇を見に行く日を決めたいと思います。斉藤さん。都合の悪い日を教えてください。」

斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。

「俺は都合が良ければ行く。総司と美鈴さんの都合の良い日に決めろ。」

沖田総司は斉藤一に微笑んで話し出す。

「鈴ちゃんが斉藤さんも一緒に出掛ける時を楽しみにしています。私も楽しみにしています。斉藤さんの予定も合わせたいです。」

斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。

「俺の都合より野薔薇の見頃や天候が大事だ。総司は美鈴さんを一番に考えろ。」

沖田総司は斉藤一に微笑んで話し出す。

「はい。」

斉藤一は沖田総司を普通の表情で見た。

沖田総司は斉藤一に微笑んで話し出す。

「斉藤さん。鈴ちゃんが無理なく行ける場所で、野薔薇の花が綺麗に咲く場所を知りませんか?」

斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。

「該当する場所がある。後で紙に書いて渡す。」

沖田総司は斉藤一に微笑んで話し出す。

「ありがとうございます。」

斉藤一は沖田総司に普通の表情で頷いた。

沖田総司は斉藤一に微笑んで話し出す。

「斉藤さん。野薔薇を詠んだ歌を知りませんか?」

斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。

「野薔薇を詠んだ歌を二首ほど知っているが、美鈴さんに贈る状況としては適切な歌ではない。土方さんに質問しろ。」

沖田総司は斉藤一に微笑んで話し出す。

「土方さんに質問をするのは、斉藤さんの知る二首の歌を聞いてから考えます。斉藤さん。歌を教えてください。」

斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。

「一首だけ教える。“道の辺の 茨のうれに 延ほ豆の からまる君を はかれか行かむ”。防人として選ばれた人の歌らしい。」

沖田総司は斉藤一に考えながら話し出す。

「寂しい歌ですね。」

斉藤一は沖田総司に普通の表情で頷いた。

沖田総司は斉藤一に考えながら話し出す。

「斉藤さん。残りの一首を教えてください。」

斉藤一は沖田総司に普通に話し出す。

「総司はたくさんの歌を覚えられる性格ではない。残りの一首を覚えるならば、別な歌を覚えろ。」

沖田総司は斉藤一に微笑んで話し出す。

「斉藤さんの話を聞いていたら、是非。知りたくなりました。早く教えてください。」

斉藤一は沖田総司を普通の表情で見た。

沖田総司は斉藤一を微笑んで見た。

斉藤一は沖田総司の耳元に普通の表情で顔を近付けた。

沖田総司は斉藤一を苦笑した表情で見た。

斉藤一は沖田総司の耳元から普通の表情で離れた。

沖田総司は斉藤一に苦笑して話し出す。

「斉藤さんの話すとおりです。今の歌は忘れます。」

斉藤一は沖田総司に普通の表情で頷いた。

沖田総司は斉藤一に苦笑して話し出す。

「土方さんに質問します。」

斉藤一は沖田総司に普通の表情で頷いた。



沖田総司は部屋を苦笑して出て行った。



数日後の事。



ここは、京の町。



青空が広がっている。



ここは、季節の花の咲く場所。



沖田総司は微笑んで居る。

斉藤一は普通に居る。

少女は微笑んで居る。



沖田総司の傍、斉藤一の傍、少女の傍には、野薔薇の花が咲いている。



沖田総司は少女に微笑んで話し出す。

「鈴ちゃん。野薔薇には棘があるから気を付けてね。」

少女は沖田総司に微笑んで話し出す。

「はい。」

沖田総司は少女に微笑んで話し出す。

「青空の下で咲く野薔薇の花は、綺麗だね。」

少女は沖田総司に微笑んで話し出す。

「はい。」

沖田総司は少女に微笑んで話し出す。

「野薔薇の花を見ると、鈴ちゃんは野薔薇の花に似ていると思うよ。」

少女は沖田総司を恥ずかしく見た。

沖田総司は少女に微笑んで話し出す。

「鈴ちゃんは、野薔薇の花に似ているだけでなく、日溜まりにも似ているよ。」

少女は沖田総司を恥ずかしく見ている。

沖田総司は少女に微笑んで話し出す。

「斉藤さんに野薔薇を詠んだ歌について質問をしたんだ。斉藤さんが防人に選ばれた人が詠んだと伝わる歌を教えてくれたんだ。寂しい歌だと思ったんだ。斉藤さんも寂しい歌だと思ったんだ。土方さんに野薔薇を詠んだ歌について質問をしたけれど、土方さんも同じ歌を教えてくれたんだ。土方さんも寂しい歌だと思ったんだ。」

少女は沖田総司に寂しく話し出す。

「私も寂しい歌だと思います。」

沖田総司は少女を見ながら、少女の手を微笑んで握った。

少女は沖田総司を心配して見た。

沖田総司は少女の手を握り、少女に微笑んで話し出す。

「寂しい内容を話してしまったね。ご免ね。」

少女は沖田総司に微笑んで話し出す。

「大丈夫です。」

斉藤一は沖田総司の背中を僅かに強めに普通の表情で押した。

沖田総司は少女の手を握り、驚いた表情で勢い行く前に出た。

少女は沖田総司を僅かに驚いた表情で見た。

沖田総司は片手で少女の手を握り、少女を片手で驚いた表情で抱いた。

少女は沖田総司を僅かに驚いた表情で見ている。

斉藤一は沖田総司と少女を普通の表情で見た。



暫く後の事。



ここは、屯所。



土方歳三の部屋。



土方歳三は微笑んで居る。

斉藤一は普通に居る。



土方歳三は斉藤一に微笑んで話し出す。

「あの子も防人に選ばれた人が詠んだ野薔薇の歌を知っていたのか。」

斉藤一は土方歳三に普通の表情で軽く礼をした。

土方歳三は斉藤一に微笑んで話し出す。

「総司があの子を野薔薇と日溜まりに喩えたのか。直感で喩えたと思うが、さすが、総司だな。」

斉藤一は土方歳三に普通の表情で軽く礼をした。

土方歳三は斉藤一に微笑んで話し出す。

「本来ならば、総司があの子を進んで抱かないといけないのに、手を握ったままだったのか。仕方が無いな。」

斉藤一は土方歳三に普通の表情で軽く礼をした。

土方歳三は斉藤一に微笑んで話し出す。

「手を握ったままで展開かないから、総司の背中を押したのか。さすが、斉藤だ。」

斉藤一は土方歳三に普通の表情で軽く礼をした。

土方歳三は斉藤一に微笑んで話し出す。

「今回も、斉藤の助力によって、僅かに前進した感じだな。」

斉藤一は土方歳三に普通の表情で軽く礼をした。

土方歳三は斉藤一に微笑んで話し出す。

「斉藤。今後も総司とあの子を頼む。」

斉藤一は土方歳三に普通の表情で軽く礼をした。

土方歳三は斉藤一を微笑んで見た。



「道の辺の 茨のうれに 延ほ豆の からまる君を はかれか行かむ」

作者や君のような思いを経験する人が少なくなる時は、幾重にも未来の時になる。

土方歳三、沖田総司、斉藤一、少女の知らない未来の時になる。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語に登場する歌は「万葉集 第二十巻 四三五二番」

「道の辺の 茨のうれに 延ほ豆の からまる君を はかれか行かむ」

ひらがなの読み方は「みちのへの うまらのうれに はほまめの からまるきみの はかれかいかむ」

作者は「丈部鳥(はせつかべのとり)」

歌の意味は「道端のうまら(ノイバラ)の先に絡みつく豆のように、私に絡みつく君をおいて別れてゆく・・・」となるそうです。

原文は「美知乃倍乃 宇万良能宇礼尓 波保麻米乃 可良麻流伎美乎 波可礼加由加牟」

天平勝宝(てんぴょうしょうほう)七年(755年)二月九日に、上総國(かずさのくに)の防人(さきもり)を引率する役人である茨田連沙弥麻呂(まむたのむらじさみまろ)が進上したとされる歌の一つだそうです。

防人として選ばれた丈部鳥という方が、奥様との別れを惜しんで詠んだ歌だそうです。

「行かないで。」と絡みつく奥様の様子が痛ましく感じられる歌になります。

「薔薇(ばら)」について簡単に説明します。

夏の季語です。

「浜茄子(はまなす)」や「野茨[“野薔薇”とも書く](のいばら)」など、日本には古くから咲くバラは有ります。

「野茨(のいばら)」は、万葉集にも詠み込まれています。

現在の私達が見掛ける姿のバラは、一部は沖田総司さんの時代に造られていますが、多くの種類は沖田総司さん達の時代よりかなり後に造られています。

「野薔薇(のばら)」についてです。

別名は「野茨(のいばら)」です。

バラ科の落葉低木です。

バラの一種類です。

万葉集では「茨(いばら、または、うばら)」として詠まれています。

山野に生えています。

高さは2mほどになり、棘が有ります。

そのため触ると痛いです。

芳香のある小さめの白色の五弁花の花が咲きます。

花期は、現在の暦で、5月から6月頃です。

秋には実(正確には偽果[ぎか]のようです)が赤く熟します。

野薔薇の花の花言葉は「素朴な可愛らしさ」だそうです。

花言葉は、つぼみや実や花などの状況によって変わる事があります。

詳細は各自でご確認ください。

この物語は、物語の雰囲気から「野薔薇」と書いて「のいばら」としました。

「日溜まり」についてです。

「日当たりが良くて暖かい場所。建物などが風を遮り、吹きさらしでない場所。狭い範囲に限定している。」という条件の場所を言います。

この物語は、日溜まりの雰囲気を表すのが中心になっているため、本来の意味とは違います。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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