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〜 雪月花 新撰組異聞外伝 編 〜


〜 文月の頃 誰をかも知る人にせむ 〜


〜 改訂版 〜


登場人物

沖田総司、藤田五郎、敬一[沖田総司の息子]、美鈴[沖田総司の妻、敬一の母]



「誰をかも 知る人にせむ 高砂の 松も昔も 友ならなくに」

「小倉百人一首 第三十四番」、及び、「古今集」より

作者:藤原興風(ふじわらのおきかぜ)



今は夏。



ここは、東京。



日中は暑さを感じるが、日没の時間になると、僅かに暑さが和らぐようになった。



ここは、東京。



陽がゆっくりと沈み始めた。



暑さが少しずつ和らいできた。



ここは、沖田総司の息子の敬一と母親の美鈴の住む家。



縁。



微かに風が吹いた。



硝子の風鈴が澄んだ音を鳴らした。



食卓の有る部屋。



敬一は微笑んで居る。

美鈴も微笑んで居る。



敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「お母さん。風鈴が鳴ると涼しく感じるね。」

美鈴は敬一に微笑んで頷いた。



玄関から誰かが訪ねてきた音がした。



美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。話は後にしましょう。」

敬一は美鈴に微笑んで頷いた。



美鈴は微笑んで居なくなった。



敬一は硝子の風鈴を微笑んで見た。



敬一の後ろから、藤田五郎の足音と美鈴の足音が聞こえた。



敬一は後ろを笑顔で見た。



藤田五郎が敬一を普通の表情で見ている。

美鈴は微笑んで居る。



敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「斉藤さん。こんばんは。」

藤田五郎は敬一に普通の表情で頷いた。



縁に微かに風が吹いた。



硝子の風鈴が澄んだ音を鳴らした。



藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「総司に線香をあげにきた。」

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「ありがとうございます。」

藤田五郎は敬一に普通の表情で頷いた。



僅かに後の事。



ここは、敬一と美鈴の住む家。



沖田総司の位牌の在る部屋。



藤田五郎は普通に居る。

敬一は微笑んで居る。

美鈴も微笑んで居る。



藤田五郎は沖田総司の位牌に線香を普通の表情であげた。

美鈴は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「ありがとうございます。」

敬一も藤田五郎に微笑んで話し出す。

「ありがとうございます。」

藤田五郎は敬一と美鈴に普通の表情で頷いた。

美鈴は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「斉藤さんは既にご存知の内容ですが、総司さんと私が一緒に過ごした頃を知る方は、戦の中で次々に亡くなられました。私と敬一を共に知る方は、斉藤さんを含めて限られた方です。総司さんの本物のお位牌は、総司さんのお姉さんの所に在ると思います。私の家に在る総司さんのお位牌は、私が或る場所に特別にお願いして作って頂きました。斉藤さんは全てをご存知なのに、私の家の総司さんのお位牌にお線香をあげました。とても嬉しいです。」

藤田五郎は美鈴に普通に話し出す。

「総司は最期まで美鈴さんと敬一を気遣っていた。総司の想いを考えると、俺は美鈴さんと敬一の住む家で、総司の位牌に線香をあげたいと思った。感謝も礼も必要ない。」

美鈴は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「私は斉藤さんにたくさん感謝をしています。ありがとうございます。」

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「斉藤さん。ありがとうございます。」

藤田五郎は敬一と美鈴を普通の表情で見た。

美鈴は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「お酒の用意をしています。お時間に余裕があれば、お酒を飲んで楽しんでください。」

藤田五郎は美鈴に普通の表情で頷いた。

美鈴は藤田五郎を微笑んで見た。

敬一も藤田五郎を微笑んで見た。



少し後の事。



ここは、敬一と美鈴の住む家。



食卓の有る部屋。



敬一は美味しく食事をしている。

美鈴は微笑んで食事をしている。

藤田五郎は漬物と酢の物を酒の肴にして、杯の酒を普通の表情で飲んでいる。



敬一は美味しく食事を終えた。

美鈴は微笑んで食事を終えた。

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一と美鈴を普通の表情で見た。

敬一は藤田五郎と美鈴に微笑んで話し出す。

「ごちそうさまでした!」

美鈴は敬一に微笑んで頷いた。

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一に普通の表情で頷いた。

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「斉藤さん。縁で庭を見ながら話したいです。」

美鈴は敬一に困惑して話し出す。

「敬一。斉藤さんはお酒を飲みながら楽しんでいる最中よ。」

敬一は藤田五郎を慌てて見た。

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、美鈴に普通に話し出す。

「縁で空を見ながら酒を飲んでも良いか?」

美鈴は藤田五郎に微笑んで頷いた。

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一に普通の表情で頷いた。

敬一は藤田五郎と美鈴を微笑んで見た。



僅かに後の事。



ここは、敬一と美鈴の住む家。



縁。



藤田五郎は普通に居る。

敬一は微笑んで居る。



敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「斉藤さん。直ぐに戻ります。少しだけ待っていてください。」

藤田五郎は敬一に普通の表情で頷いた。



敬一は家の中に微笑んで入って行った。



藤田五郎は庭を普通の表情で見た。



美鈴は酒と肴が載るお盆を持ち、微笑んで来た。



酒も酒の肴も、先程より僅かに増えている。



藤田五郎は美鈴を普通の表情で見た。

美鈴は藤田五郎を微笑んで見た。

藤田五郎は美鈴に普通の表情で頷いた。



美鈴は家の中に微笑んで入って行った。



藤田五郎は硝子の風鈴を普通の表情で見た。



微かな風が吹いた。



硝子の風鈴が澄んだ音を鳴らした。



藤田五郎は硝子の風鈴を見ながら、普通の表情で呟いた。

「“誰をかも 知る人にせむ 高砂の 松も昔も 友ならなくに”」



敬一の足音が、藤田五郎の後ろから聞こえた。



藤田五郎は後ろを普通の表情で見た。



敬一は藤田五郎を心配な様子で見ている。



藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「俺と話したいのだろ。早く来い。」



敬一は藤田五郎の隣に心配な様子で来た。



藤田五郎は敬一を普通の表情で見た。

敬一は藤田五郎を心配な様子で見た。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「敬一。心配事があるのか?」

敬一は藤田五郎に心配して話し出す。

「斉藤さん。お父さんは居ないけれど、僕が居ます。元気を出してください。」

藤田五郎は杯に酒を注ぐと、敬一を普通の表情で見た。

敬一は藤田五郎を心配な様子で見た。

藤田五郎は杯の酒を飲むと、敬一に普通に話し出す。

「敬一と総司は似ている。」

敬一は藤田五郎に笑顔で話し出す。

「僕とお父さんは似ているのですね! 嬉しいです!」

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一を普通の表情で見た。

敬一は夜空を笑顔で見た。

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一と夜空を普通の表情で見た。



夜空は、月が輝き、綺麗な星の輝きが広がっている。



微かな風が吹いた。



硝子の風鈴が澄んだ音を鳴らした。



敬一は硝子の風鈴を笑顔で見た。

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一と硝子の風鈴を普通の表情で見た。

敬一は藤田五郎を微笑んで見た。

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一に普通に話し出す。

「総司も敬一も、一緒に居ると楽だ。」

敬一は藤田五郎に心配な様子で話し出す。

「一緒に居ると楽というのは、良い意味ですよね。」

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一に普通に話し出す。

「話すとおりだ。」

敬一は藤田五郎を不安な様子で見た。

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一に普通に話し出す。

「敬一は美鈴さんにも似ている。」

敬一は藤田五郎に笑顔で話し出す。

「僕はお父さんとお母さんの両方に似ているのですね!」

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一を普通の表情で見た。

敬一は藤田五郎を笑顔で見た。

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一を普通の表情で見ている。

敬一は硝子の風鈴を見ると、硝子の風鈴に笑顔で話し出す。

「お父さん! 斉藤さんが、僕はお父さんとお母さんの両方に似ていると話したよ!」



微かな風が吹いてきた。



硝子の風鈴が澄んだ音を鳴らした。



藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一に普通に話し出す。

「敬一は、総司と美鈴さんに似ているが、総司と美鈴さんに遠く及ばない。」

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「お父さんは凄い人です。お母さんも凄い人です。今の僕はお父さんとお母さんに遠く及びません。いつの日か、僕はお父さんより強くなって、僕がお母さんを守り抜きます。」

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一に普通の表情で頷いた。



微かな風が吹いた。



硝子の風鈴が澄んだ音を鳴らした。



敬一は硝子の風鈴を微笑んで見た。

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一と硝子の風鈴を普通の表情で見た。

敬一は藤田五郎を微笑んで見た。

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一に普通の表情で頷いた。



暫く後の事。



ここは、敬一と美鈴の住む家。



玄関。



藤田五郎は普通に居る。

敬一は微笑んで居る。

美鈴も微笑んで居る。



藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「精進しろ。」

敬一は藤田五郎に笑顔で話し出す。

「はい!」

藤田五郎は敬一と美鈴を普通の表情で見た。

美鈴は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「今日もありがとうございました。」

敬一は藤田五郎に笑顔で話し出す。

「斉藤さん! ありがとうございました!」

藤田五郎は敬一と美鈴に普通の表情で頷いた。



藤田五郎は普通に居なくなった。



少し後の事。



ここは、東京。



夜空は、月が輝き、綺麗な星の輝きが広がっている。



藤田五郎は普通に歩いている。



心地良い風が吹いた。



辺りが淡い光に包まれた。



藤田五郎は辺りを普通の表情で見た。



辺りに季節はずれの桜が咲き始めた。



藤田五郎は横を普通の表情で見た。



沖田総司が藤田五郎を笑顔で見ている。



藤田五郎は沖田総司を普通の表情で見た。

沖田総司は藤田五郎に笑顔で話し出す。

「斉藤さん! こんばんは!」

藤田五郎は沖田総司に普通の表情で頷いた。

沖田総司は藤田五郎に笑顔で話し出す。

「斉藤さんが私を友達と言ってくれました! 嬉しいです!」

藤田五郎は沖田総司に普通に話し出す。

「俺は総司を友達と言ってない。」

沖田総司は藤田五郎に不思議な様子で話し出す。

「斉藤さん。敬一と美鈴の住む家に居る時に、友が登場する歌を詠みましたよね。」

藤田五郎は沖田総司を普通の表情で見た。

沖田総司は藤田五郎に不思議な様子で話し出す。

「斉藤さん。“誰をかも 知る人にせむ 高砂の 松も昔も 友ならなくに”、の歌を詠みしたよね。私を思い出して詠んだ歌ですよね?」

藤田五郎は沖田総司に普通に話し出す。

「俺が総司を思い出して詠んだ歌の証拠があるのか?」

沖田総司は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「斉藤さん〜 照れないでください〜」

藤田五郎は沖田総司を普通の表情で見た。

沖田総司は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「斉藤さん〜 恥ずかしがらないでください〜」

藤田五郎は沖田総司に普通に話し出す。

「総司。楽しそうだな。」

沖田総司は藤田五郎に慌てて話し出す。

「斉藤さん! すいません! 調子に乗りすぎました!」

藤田五郎は沖田総司に普通に話し出す。

「総司は敬一に遠く及ばない。総司は美鈴さんにも遠く及ばない。精進しろ。」

沖田総司は藤田五郎を不思議な様子で見た。

藤田五郎は沖田総司を普通の表情で見た。

沖田総司は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「確かに、私は鈴にも敬一にも遠く及びませんね。精進します。」

藤田五郎は沖田総司に普通の表情で頷いた。

沖田総司は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「斉藤さん。敬一と鈴には、私の姿は見えません。敬一と美鈴は、斉藤さんの私を気に掛ける気持ちが励みになっています。私のために家に来て頂いてありがとうございます。」

藤田五郎は沖田総司に普通の表情で頷いた。

沖田総司は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「斉藤さん。今夜はありがとうございました。」

藤田五郎は沖田総司に普通の表情で頷いた。



沖田総司は微笑んで、静かに居なくなった。



藤田五郎は辺りを普通の表情で見た。



辺りに咲く桜は、元の姿に戻っている。



淡い光は消えて、元の明るさに戻っている。



藤田五郎は夜空を見ながら、普通に歩いた。



「誰をかも 知る人にせむ 高砂の 松も昔も 友ならなくに」

沖田総司の想い。

藤田五郎の想い。

敬一の想い。

美鈴の想い。

高砂の松は無くても、明治へ時が移っても、想いは重なり続けている。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語に登場する歌は「小倉百人一首 第三十四番」及び、「古今集」

「誰をかも 知る人にせむ 高砂の 松も昔も 友ならなくに」

ひらがなの読み方は「たれをかも しるひとにせむ たかさごの まつもむかしも ともならなくに」

作者は「藤原興風(ふじわらのおきかぜ)」

歌の意味は「みんながあの世に旅立った今、いったい誰を親友とすればいいのでしょうか。あの長寿の高砂の松でさえ、昔からの友達ではないのに。」となるそうです。

この歌の「高砂」は、「播磨(現在の兵庫県高砂市)」の国の枕言葉だそうです。

枕詞というと、歌の中に導かれる言葉が詠まれています。

しかし、この歌の中には「播磨」の言葉はありません。

「高砂の松」を「播磨の国」の枕詞として詠んだかについては、解釈がいろいろとあるそうです。

この物語に登場する歌の意味を考える最中に、直ぐに土方歳三さんが登場する場面が思い浮かびました。

土方歳三さんの登場する物語は「雪月花 新撰組異聞 編 葉桜月夜と行き散る者 誰をかも知る人にせむ」の題名で書きました。

次に思い浮かんだのが、藤田五郎さんがお酒を飲む場面と、藤田五郎さんと沖田総司さんと敬一君、でした。

ただし、沖田総司さんが登場する物語ではなく、藤田五郎さんと敬一君が登場する物語として思い浮かびました。

「お盆」についてです。

この物語の設定当時は、新暦です。

この物語の設定当時のお盆は、七月中旬か八月中旬のお盆が多かったようですが、地域によって、旧暦の頃に合わせてのお盆、七月中旬のお盆、八月中旬のお盆、など、様々だったようです。

現在は、更にお盆の時期が増えています。

お盆の時期の物語の方が、雰囲気的には合うかも知れませんが、お盆から少しだけ時期を外した設定で書きました。

藤田五郎さんは、沖田総司さんに逢いたいと思えば、沖田総司さんの姿が見える設定です。

藤田五郎さんは、沖田総司さんについて考える時間をお盆にこだわっていない、美鈴さんと敬一君がお盆の時期は二人で沖田総司さんを偲んでいると考えて、お盆の時期に無理して出掛けず、お盆の時期を外して出掛ける、と考えました。

藤田五郎さんには沖田総司さんの姿が見える設定ですが、美鈴さんと敬一君には沖田総司さんの姿は見えない設定です。

藤田五郎さんは、美鈴さんと敬一君にお盆を外しながらも逢いに来ると考えて書きました。

藤田五郎さんは、敬一君と美鈴さんの住む家を訪ねると、敬一君と美鈴さんは藤田五郎さんを温かく迎えます。

藤田五郎さんが敬一君と美鈴さんをさり気なく気遣っていると思ってください。

「文月」は、「ふみつき」、または、「ふづき」と読みます。

この物語は「ふみづき」と読んでいます。

「陰暦七月の異称」です。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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