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〜 雪月花 新撰組異聞外伝 編 〜


〜 秋霖 小雨降りしきしくしく思ほゆ 〜


〜 改訂版 〜


登場人物

藤田五郎、藤田時尾、敬一[沖田総司の息子]、美鈴[沖田総司の妻、敬一の母]



「ぬばたまの 黒髪山の 山菅に 小雨降りしき しくしく思ほゆ」

「万葉集 第十一巻 二四五六番」より

作者:柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)歌集より



今は秋。



ここは、東京。



暑い日が続いている。

夏の名残を感じる、秋が続いている。



数日ほど前から雨の降る日が続いている。



ここは、沖田総司の息子の敬一と母親の美鈴の住む家。



食卓の有る部屋。



敬一は本を真剣な表情で読んでいる。

美鈴は敬一を一瞥しながら、微笑んで縫い物をしている。



敬一は本を読むのを止めると、美鈴を微笑んで見た。

美鈴は縫い物を止めると、敬一を微笑んで見た。

敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「雨の降る日が続くね。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「雨の降る日が続くから、剣道の稽古が外で出来ないわね。」

敬一は美鈴に微笑んで頷いた。

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「斉藤さんは稽古の時間が減ると直ぐに分かるのよね。凄いわね。」

敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「斉藤さんは、減った稽古内容も足りない稽古内容も、直ぐに分かるんだ。凄いよね。」

美鈴は敬一に微笑んで頷いた。

敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「お父さんも稽古の時間が減ると直ぐに分かるよね。」

美鈴は敬一に微笑んで頷いた。

敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「お父さんも斉藤さんも、凄いね。」

美鈴は敬一に微笑んで頷いた。

敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「お母さん。雨の降る日が続くと、出来ない用事が増えるよね。僕に出来る手伝いは遠慮なく言ってね。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「今は大丈夫よ。敬一は勉強や稽古を続けて。」

敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「お母さん。無理をしないでね。」

美鈴は敬一に微笑んで頷いた。

敬一は本を真剣な表情で読んだ。

美鈴は敬一を一瞥しながら、微笑んで縫い物をした。



数日後の事。



ここは、東京。



雨の降る日が続いている。



今日は朝から小雨が降っている。



ここは、敬一と美鈴の住む家。



沖田総司の位牌が在る部屋。



美鈴は沖田総司の位牌の前に微笑んで座っている。



美鈴は沖田総司の位牌に微笑んで話し掛ける。

「総司さん。おはようございます。」

美鈴は沖田総司の位牌に微笑んで話し掛ける。

「今日は朝から小雨が降っています。」

美鈴は微笑んで目を閉じた。



小雨の降る音が微かに聞こえる。



美鈴は目を開けると、沖田総司の位牌に微笑んで話し掛ける。

「“ぬばたまの 黒髪山の 山菅に 小雨降りしき しくしく思ほゆ”」

美鈴は沖田総司の位牌に微笑んで話し掛ける。

「“ぬばたま”も“山菅”も無いけれど、良いですよね。」



美鈴は微笑んで立ち上がった。



美鈴は障子を微笑んで開けた。



小雨の降る様子が見える。



美鈴は縁に微笑んで出て行った。



直後の事。



ここは、敬一と美鈴の住む家。



沖田総司の位牌の在る部屋の前の縁。



美鈴は微笑んで来た。



美鈴は障子を微笑んで閉めた。



美鈴は小雨の降る様子を見ながら、微笑んで呟いた。

「“ぬばたまの 黒髪山の 山菅に 小雨降りしき しくしく思ほゆ”」



近くで元気な足音が聞えたが、直ぐに足音が止まった。



美鈴は足音の聞えた方向を微笑んで見た。



敬一が美鈴を複雑な表情で見ている。



美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。お父さんに話しがあるのね。気付かなくてごめんね。直ぐに退くわね。」

敬一は美鈴に慌てて話し出す。

「お母さん! 三人で居たいな!」

美鈴は敬一に笑んで頷いた。

敬一は美鈴を見ながら、軽く息を吐いた。



美鈴は部屋の中に微笑んで入って行った。

敬一は部屋の中に僅かに慌てて入って行った。



数日の事。



ここは、東京。



今日は、曇り空になる。



雨の降る様子は無いが、灰色の空になっている。



ここは、敬一と美鈴の住む家。



玄関。



敬一は微笑んで居る。

美鈴も微笑んで居る。



美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「斉藤さんに迷惑を掛けないようにね。斉藤さんの就ける稽古をしっかりと受けてね。」

敬一は美鈴に微笑んで頷いた。

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「今日は雨の降る様子は無いけれど、気を付けて出掛けてね。」

敬一は美鈴に微笑んで頷いた。

美鈴は敬一を微笑んで見た。

敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「お母さん。行ってきます。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「気を付けて行ってらっしゃい。」

敬一は美鈴に微笑んで頷いた。



敬一は微笑んで出掛けて行った。



美鈴は空を微笑んで見た。



雨の降る様子はないが、曇り空が広がっている。



美鈴は空を見ながら、心配な様子で軽く息をはいた。



美鈴は家の中に心配な様子で入って行った。



暫く後の事。



ここは、藤田五郎、妻の時尾、幼い息子の勉の住む家。



玄関。



敬一は元気良く訪ねてきた。



時尾は微笑んで来た。



敬一は時尾に微笑んで話し出す。

「こんにちは。」

時尾は敬一に微笑んで話し出す。

「こんにちは。」

敬一は時尾に微笑んで話し出す。

「時尾さん。逢う度にお腹が大きくなっていますね。」

時尾は敬一を微笑んで見た。

敬一は時尾に微笑んで話し出す。

「生み月が近付いていますね。体調に気を付けてくださいね。」

時尾は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一君。気遣いありがとう。」

敬一は時尾を微笑んで見た。

時尾は敬一に微笑んで話し出す。

「五郎さんは敬一が来る時を待っているわ。遠慮しないで部屋を訪ねて。」

敬一は時尾に微笑んで話し出す。

「はい。」

時尾は敬一に微笑んで頷いた。



敬一は家の中に微笑んで入って行った。

時尾も家の中に微笑んで入って行った。



僅かに後の事。



ここは、藤田五郎の家。



藤田五郎の部屋の前の縁。



敬一は微笑んで来た。



障子が普通に開いた。



敬一は障子の開く様子を驚いて見た。



藤田五郎が敬一を普通の表情で見ている。



敬一は藤田五郎を驚いた表情で見た。



藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「部屋に入れ。」



敬一は藤田五郎に慌てて頷いた。



藤田五郎は敬一を普通の表情で見た。



敬一は部屋の中に僅かに慌てて入って行った。



直後の事。



ここは、藤田五郎の家。



藤田五郎の部屋。



敬一は部屋の中に僅かに慌てて入った。



藤田五郎は障子を普通に閉めた。

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「斉藤さん。僕が部屋の傍に居ると、直ぐに分かります。凄いです。」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「今日は敬一が来る日だ。敬一の足音は、時尾の足音と明らかに違う。勉の足音と明らかに違う。敬一は気配を消さない。敬一が俺に近付けば直ぐに分かる。」

敬一は藤田五郎を感心して見た。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「敬一。俺に話しがあるだろ。早く話せ。」

敬一は藤田五郎を不思議な様子で見た。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「敬一の様子を見れば、敬一に考え事が有ると直ぐに分かる。敬一の足音を聞けば、敬一に考え事が有ると分かる。敬一が考え事をしながら稽古を受けると、稽古中に怪我をする可能性がある。敬一が怪我をする可能性があると知りながら、稽古を始めて、敬一が稽古中に怪我をすれば、総司と美鈴さんに申し開きが出来ない。敬一。俺のためにも総司のためにも美鈴さんのためにも、早く話せ。」

敬一は藤田五郎に言い難い様子で話し出す。

「お母さんが、お父さんの位牌の在る部屋から出て直ぐに歌を詠みました。」

藤田五郎は敬一を普通の表情で見た。

敬一は藤田五郎に言い難い様子で話し出す。

「“ぬばたまの 黒髪山の 山菅に 小雨降りしき しくしく思ほゆ”。誰かをずっと思っている内容の歌ですよね。」

藤田五郎は敬一に普通の表情で頷いた。

敬一は藤田五郎に悲しく話し出す。

「お母さんはお父さんが物凄く大好きです。お母さんはお父さんの傍にもっともっと居たと思っています。僕にはお母さんの希望を叶えられません。」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「美鈴さんは総司を真剣に想い続けている。総司は美鈴さんを真剣に想い続けていた。総司は歌に関して疎かったが、美鈴さんに喜んでもらうために、苦労しながら歌の勉強をした。総司は美鈴さんに幾度も歌を贈った。美鈴さんは総司に相応しい女性になりたいと思い、歌の勉強をした。美鈴さんがたくさんの歌を知る状況は当然だ。美鈴さんが、天気や動物や植物を見て、思い出した歌を詠んでも不思議な状況ではない。美鈴さんが、天気や動物や植物などを見て、総司に歌を贈るのも不思議な状況ではない。」

敬一は藤田五郎を悲しく見た。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「総司と美鈴さんは、敬一の無事な誕生と敬一の健やかな成長を願っていた。総司と美鈴さんは、敬一の誕生をとても喜んでいた。敬一は健やかに育っている。敬一は総司と美鈴さんにたくさんの喜びを与えている。敬一。悲しむな。美鈴さんに何も出来ないと悩むな。」

敬一は藤田五郎を微笑んで見た。

藤田五郎は敬一を普通の表情で見た。



少し後の事。



ここは、藤田五郎の家。



稽古場。



敬一は稽古着を着て、竹刀を真剣な表情で構えている。

藤田五郎は稽古着を着て、竹刀を普通の表情で構えている。



敬一は竹刀を藤田五郎に真剣な表情で打ち込んだ。

藤田五郎は竹刀を普通の表情で受けた。



藤田五郎と敬一の鍔迫り合いが始まった。



敬一は竹刀を藤田五郎に真剣な表情で押している。

藤田五郎は敬一の竹刀を普通の表情で強く押した。

敬一は竹刀を放すと、後ろに勢い良く倒れた。

藤田五郎は竹刀を構えて、敬一に普通に話し出す。

「敬一。後ろに倒れたな。一度で良いから、俺を後ろに倒してみろ。」

敬一は竹刀を持ち、真剣な表情で直ぐに立ち上がった。

藤田五郎は竹刀を普通の表情で構えた。

敬一は竹刀を藤田五郎に真剣な表情で打ち込んだ。

藤田五郎は竹刀を普通の表情で思い切り横に払った。

敬一は竹刀を放して、前に倒れた。

藤田五郎は竹刀を構えて、敬一に普通に話し出す。

「敬一。前に倒れたな。敬一の今の技術では、俺を後ろに倒せず、俺を前にも倒せない。」

敬一は竹刀を持ち、直ぐに立ち上がった。

藤田五郎は竹刀を普通の表情で構えた。

敬一は竹刀を藤田五郎に真剣な表情で打ち込んだ。



少し後の事。



ここは、藤田五郎の家。



玄関。



藤田五郎は普通に居る。

敬一は笑顔で居る。



敬一は藤田五郎に笑顔で話し出す。

「今日はありがとうございました! 次の稽古もよろしくお願いします!」

藤田五郎は敬一に普通の表情で頷いた。

敬一は藤田五郎に笑顔で軽く礼をした。

藤田五郎は敬一に普通の表情で頷いた。



敬一は家を元気良く出て行った。



藤田五郎は敬一を普通の表情で見た。



敬一は元気良く歩いている。



藤田五郎は敬一を普通の表情で見ている。



敬一の姿は見えなくなった。



藤田五郎は空を普通の表情で見た。



灰色の空の中に僅かに明るさが見える。



時尾が微笑んで来た。



藤田五郎は時尾を普通の表情で見た。

時尾は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「敬一君は帰ったのですね。」

藤田五郎は時尾に普通の表情で頷いた。



藤田五郎は家の中に普通に入って行った。

時尾は家の中に微笑んで入って行った。



暫く後の事。



ここは、敬一と美鈴の住む家。



玄関。



敬一が笑顔で帰ってきた。



美鈴は微笑んで来た。



敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「お母さん! ただいま!」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。お帰りなさい。」

敬一は美鈴を笑顔で見た。

美鈴は敬一を微笑んで見た。



敬一は家の中に笑顔で入って行った。

美鈴は家の中に微笑んで入って行った。



「ぬばたまの 黒髪山の 山菅に 小雨降りしき しくしく思ほゆ」

美鈴は小雨が絶え間なく降るように、沖田総司を想い続けている。

美鈴は小雨が絶え間なく降るように、敬一を想い続けている。

美鈴は敬一が健やかに過ごす姿を見ながら、穏やかに過ごしている。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語は既に掲載している物語の改訂版です。

改訂前の物語の展開や雰囲気を出来るだけ残して改訂しました。

改訂前の物語を掲載するのは止めました。

以上、ご了承願います。

ここからは改訂前の後書きを加筆訂正して書きます。

この物語に登場する歌は「万葉集 第十一巻 二四五六番」

「ぬばたまの 黒髪山の 山菅に 小雨降りしき しくしく思ほゆ」

ひらがなの読み方は「ぬばたまの くろかみやまの やますげに こさめふりしき しくしくおもほゆ」

作者は「柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)歌集より」

歌の意味は「黒髪山の山菅に小雨が絶え間なく降るように、ずっーとあの人のことを思っています。」となるそうです。

原文は「烏玉 黒髪山 山草、 雨零敷 益々所思」

「ぬばたまの 黒髪山の 山菅に 小雨降りしき」までで、「しくしく」を導いているそうです。

「しくしく」は「絶え間なく」というような意味だそうです。

「ぬばたま」は「黒、夜、その他の黒」をイメージさせる言葉を導くそうです。

「黒髪山」は、奈良市の北方の旧黒髪山町一帯の山地をいうそうです。

この歌には、場所の「黒上山」と、植物の「ぬばたま」、植物の「山菅」、が登場します。

この物語には、「黒髪山」も「山菅」も「ぬばまた」も登場しません。

この物語の時間設定は、藤田五郎さんと時尾さんの間に二人目のお子さんの剛さんが生まれる月(10月)の約一月前を想定して書きました。

「秋霖(しゅうりん)」は「秋の初めに幾日にもわたって降り続く雨。秋の長雨。」の意味です。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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