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〜 雪月花 新撰組異聞外伝 編 〜


〜 春夏秋冬 春 母とふ花の 〜


〜 第三版 〜


登場人物

藤田五郎、藤田時尾、藤田勉、敬一[沖田総司の息子]、美鈴[沖田総司の妻、敬一の母]




「時々の 花は咲けども 何すれぞ 母とふ花の 咲き出来ずけむ」

「万葉集 第二十巻 四三二三番」より

作者:丈部真麻呂(はせべのままろ)




時は明治。



治世が幕府から政府に移って数年が経った。



幕府側で最後まで政府に抵抗した本人や身内への扱いは冷たい。

本人も身内も静かに暮らす者が多い。



沖田総司は新撰組の一番組組長を務めていた。

新撰組の隊士の中では名前が知られている一人になる。



沖田総司は、途中で病になり、幕府と政府の戦いにほとんど加われなかった。

幕府と政府の戦いの結末を知らずに療養先で亡くなった。

新撰組隊士として亡くなったため、戦いにほとんど加わっていないが、世間では幕府側の人物と考えられている。



沖田総司の幼い息子の敬一と母親の美鈴は、沖田総司の身内と気付かれないように暮らしている。



敬一と美鈴は、制限はあるが、穏やかに暮らしている。



今は春。



ここは、京都。



桜の花が綺麗に咲いている。



ここは、敬一と美鈴の住む家。



庭。



美鈴は洗濯物を微笑んで干している。

敬一は美鈴を笑顔で見ている。



穏やかな風が吹いた。



桜の花びらが風に乗って敬一と美鈴の傍に舞い落ちてきた。



美鈴は洗濯物を干す手を止めると、桜の花びらの舞い落ちる様子を微笑んで見た。

敬一は美鈴と桜の花びらが舞い落ちる様子を笑顔で見た。

美鈴は敬一と桜の花びらの舞い落ちる様子を微笑んで見た。

敬一は美鈴と桜の花びらの舞う様子を見ながら、美鈴に笑顔で話し出す。

「おかあさん。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「桜の花びらの舞う様子。綺麗ね。」

敬一は美鈴に笑顔で頷いた。

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「洗濯物を干し終わったら、桜を見に行きましょう。」

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「おかあさん。いえ。いっしょ。みる。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「洗濯物を干し終わったら、食べる物を用意するわ。縁で食べながら、桜を見ましょう。」

敬一は美鈴に笑顔で頷いた。

美鈴は敬一を微笑んで見た。

敬一は美鈴を笑顔で見た。

美鈴は洗濯物を微笑んで干した。



暫く後の事。



ここは、敬一と美鈴の住む家。



縁。



敬一は座りながら、美鈴と桜を笑顔で見ている。

美鈴は座りながら、敬一と桜を微笑んで見ている。

敬一の傍と美鈴の傍には、おにぎりと焙じ茶が置いてある。



敬一は美鈴を見ると、美鈴に笑顔で話し出す。

「さくら。おかあさん。おなじ。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「お母さんを桜に喩えてくれてありがとう。嬉しいわ。」

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「うめ。おかあさん。さくら。おかあさん。たんぽぽ。おかあさん。なのはな。おかあさん。すみれ。おかあさん。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「梅。桜。蒲公英。菜の花。菫。全て素敵な花ね。お母さんをたくさんの素敵な花に喩えてくれてありがとう。嬉しいわ。」

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「はる。おかあさん。たくさん。うれしい。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「お母さんは、敬一が笑顔で過ごせるように、たくさんの春の花に恥ずかしくないように、しっかりと過ごすわね。」

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「ぼく。おかあさん。えがお。しっかり。すごす。」

美鈴は敬一を微笑んで見た。

敬一は美鈴を笑顔で見た。

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。桜を見ながら、おにぎりを食べましょう。」

敬一は美鈴に笑顔で頷いた。

美鈴は敬一を微笑んで見た。

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「いただきます。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「いただきます。」

敬一は美鈴とおにぎりを笑顔で見た。

美鈴はおにぎりを取ると、敬一に微笑んで渡した。

敬一は美鈴からおにぎりを受け取ると、笑顔で話し出す。

「ありがと。」

美鈴はおにぎりを持ち、敬一を笑顔で見た。

敬一は美鈴と桜を見ながら、おにぎりを美味しく笑顔で食べ始めた。

美鈴は敬一と桜を見ながら、おにぎりを微笑んで食べ始めた。



幾つかの季節が過ぎた。



敬一と美鈴は、京都から東京に住まいを替えて暮らしている。



今は春。



ここは、東京。



桜の花が綺麗に咲いている。



今は夜。



夜空には綺麗な月が輝いている。



ここは、藤田五郎、妻の時尾、幼い息子の勉の住む家。



庭には桜が月の光を受けて綺麗に咲いている。



縁。



勉は桜を笑顔で見ている。

時尾は勉と桜を微笑んで見ている。

藤田五郎は、時尾、勉、桜を普通の表情で見ている。



時尾は藤田五郎を見ると、藤田五郎に微笑んで話し出す。

「今日は敬一君が来ました。敬一君は勉と遊んでくれました。」

勉は藤田五郎を見ると、藤田五郎に笑顔で話し出す。

「おにいちゃん。さくら。きれい。いっしょ。みる。」

時尾は勉に微笑んで話し出す。

「敬一君は勉と一緒に桜を見てくれたわね。」

勉は時尾に笑顔で話し出す。

「おにいちゃん。さくら。えがお。みる。」

時尾は勉に微笑んで話し出す。

「敬一君は桜を笑顔で見ていたわね。勉も笑顔で桜を見ていたわね。」

勉は時尾に笑顔で頷いた。

時尾は勉を微笑んで見た。

藤田五郎は時尾と勉を普通の表情で見た。

時尾は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「敬一君が“母”と“花”が登場する歌について質問しました。最初に思い出した歌は、敬一君に説明し難く感じました。敬一君には、確認したい内容があるので、少し待って欲しいと話しました。敬一君は笑顔で了承しました。」

藤田五郎は時尾に普通に話し出す。

「時尾が最初に思い出した歌。何だ?」

時尾は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「“時々の 花は咲けども 何すれぞ 母とふ花の 咲き出来ずけむ”。万葉集に掲載されている防人の人達が詠んだ歌です。」

藤田五郎は時尾を普通の表情で見た。

勉は時尾を笑顔で見た。

時尾は勉に微笑んで話し出す。

「“季節ごとに花は咲くのに、どうして“母”という花は咲かないのだろうか。咲くのだったら手折っていっしょに行くのに。”となるそうよ。」

勉は桜を指すと、時尾に笑顔で話し出す。

「おかあさん。」

時尾は勉に微笑んで話し出す。

「勉。ありがとう。」

勉は庭を指すと、時尾に笑顔で話し出す。

「にわ。おかあさん。たくさん。」

時尾は勉に微笑んで話し出す。

「勉。ありがとう。」

勉は時尾を笑顔で見た。

藤田五郎は時尾に普通に話し出す。

「敬一が次に家を訪れた時に、俺から歌を教える。」

時尾は藤田五郎に申し訳なく話し出す。

「五郎さんに迷惑は掛けられません。敬一君が笑顔になる歌を早く見付けます。」

藤田五郎は時尾に普通に話し出す。

「敬一が、歌の勉強を続ければ、防人が詠んだ歌や母が登場する歌は、何首も知る。敬一は、美鈴さんから歌を教わる時が多い。敬一は、美鈴さんから、“時々の 花は咲けども 何すれぞ 母とふ花の 咲き出来ずけむ”、を教えてもらった場合、無理に明るく接するはずだ。美鈴さんは敬一を心配すると思う。俺や時尾が、説明すれば、敬一が落ち込んでも悩んでも、美鈴さんが一人のみより、対処の方法が増える。」

時尾は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「五郎さん。お願いします。」

藤田五郎は時尾に普通の表情で頷いた。

勉は藤田五郎と時尾に普通に話し出す。

「おとうさん。おにいちゃん。うた。べんきょう。」

時尾は勉に微笑んで頷いた。

藤田五郎は勉に普通の表情で頷いた。

勉は藤田五郎と時尾を笑顔で見た。

藤田五郎は桜を普通の表情で見た。

勉は桜を笑顔で見た。

時尾は、藤田五郎、勉、桜を微笑んで見た。



数日後の事。



ここは、藤田五郎、時尾、勉の住む家。



玄関。



藤田五郎は普通に居る。

時尾は微笑んで居る。

勉は笑顔で居る。

敬一は微笑んで居る。



敬一は藤田五郎と時尾に笑顔で話し出す。

「今日はありがとうございました!」

時尾は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一君が次に来る日を楽しみに待っているわ。」

勉は敬一に笑顔で話し出す。

「またね。」

敬一は勉に笑顔で話し出す。

「勉君。またね。」

時尾は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「五郎さん。行ってらっしゃい。」

勉は藤田五郎に笑顔で話し出す。

「おとうさん。いってらっしゃい。」

藤田五郎は時尾と勉に普通の表情で頷いた。

敬一は、藤田五郎、時尾、勉を不思議な様子で見た。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「敬一。行くぞ。」

敬一は藤田五郎を不思議な様子で見た。



藤田五郎は家を普通に出て行った。

敬一は家を僅かに慌てて出て行った。



少し後の事。



ここは、町中。



桜は綺麗に咲いている。



藤田五郎は敬一と桜を見ながら、普通に歩いている。

敬一は桜を見ながら、微笑んで歩いている。



藤田五郎は敬一を普通の表情で見た。

敬一は藤田五郎を見ると、藤田五郎に不思議な様子で話し出す。

「斉藤さん。何故、僕を送ってくれるのですか? 何か遭ったのですか?」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「俺は何か起きなければ敬一と共に外を歩けないのか?」

敬一は藤田五郎に慌てて話し出す。

「僕は斉藤さんと一緒に出掛けられて嬉しいです! 僕は斉藤さんと一緒に桜を見ながら歩けて更に嬉しいです!」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「慌てて話す内容に該当しない。」

敬一は藤田五郎を恥ずかしく見た。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「敬一。数日前に、時尾に母と花が登場する歌について質問したのか?」

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「お母さんの笑顔は、花のようです。良い歌があれば、お母さんに贈りたいと思いました。時尾さんに相談しました。」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「俺と時尾が、母と花が登場する歌について話した後に、俺も母が登場する歌を調べた。万葉集に花と母が登場する歌があった。美鈴さんへの贈り物には相応しくないと思うが、敬一に教えたいと思った。」

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「斉藤さんの調べた万葉集に掲載された歌。教えてください。」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「“時々の 花は咲けども 何すれぞ 母とふ花の 咲き出来ずけむ”。歌の意味は、“季節ごとに花は咲くのに、どうして“母”という花は咲かないのだろうか。咲くのだったら手折っていっしょに行くのに。”、となるそうだ。作者は、“丈部真麻呂”。防人の一人だ。」

敬一は桜を寂しく見た。

藤田五郎は敬一を普通の表情で見た。

敬一は桜を見ながら、藤田五郎に寂しく話し出す。

「大切な人達が遠く離れて過ごす。心配ですよね。寂しいですよね。大切な人達の元に戻る日が分からない。更に心配ですよね。更に寂しいですよね。」

藤田五郎は敬一を普通の表情で見ている。

敬一は桜を寂しく見た。

藤田五郎は敬一を普通の表情で見ている。

敬一は藤田五郎を見ると、藤田五郎に微笑んで話し出す。

「母という名前の花は無いかも知れませんが、お母さんの笑顔は花のようです。梅、沈丁花、桜、蒲公英、菜の花、菫、山吹、などの春の花を見ていると、お母さんの笑顔を思い出します。春はお母さんの笑顔を思い出す花がたくさん咲きます。」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「勉が敬一と似た内容を話していた。」

敬一は藤田五郎を微笑んで見た。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「敬一。総司を連想する花はあるか?」

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「桜です。」

藤田五郎は敬一を普通の表情で見た。

敬一は藤田五郎を微笑んで見た。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「春夏秋冬で同じ質問が出来る。次は夏に質問する。」

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「お母さんを思い出す花は季節毎に有りますが、お父さんを想像する花は桜です。」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「桜は早咲きなどを含めると、長く楽しめる。総司が知れば喜ぶ。」

敬一は藤田五郎を笑顔で見た。

藤田五郎は敬一を普通表情で見た。

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「斉藤さん。夏に咲く桜を知っていますか?」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「知らない。」

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「帰ったらお母さんに質問します。」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「止めておけ。」

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「分かりました。お母さんに迷惑を掛けたら困るので止めます。」

藤田五郎は敬一に普通の表情で頷いた。

敬一は藤田五郎を微笑んで見た。



暫く後の事。



ここは、敬一と美鈴の住む家。



玄関。



敬一は玄関に元気良く入った。

藤田五郎は玄関に普通に入った。



美鈴は微笑んで来た。



敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「お母さん! ただいま!」

美鈴は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「送って頂いてありがとうございます。」

藤田五郎は美鈴に普通に話し出す。

「敬一と共に桜を見ながら歩くために送った。礼は要らない。」

美鈴は藤田五郎を微笑んで見た。

敬一は藤田五郎と美鈴を笑顔で見た。

美鈴は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「お酒とお肴を用意しました。家に上がって休んでください。」

藤田五郎は美鈴に普通の表情で頷いた。



敬一は家の中に笑顔で入って行った。

藤田五郎は家の中に普通に入って行った。

美鈴は家の中に微笑んで入って行った。



「時々の 花は咲けども 何すれぞ 母とふ花の 咲き出来ずけむ」

母という名前の花は無いかも知れない。

敬一は春に咲く花を見ると、美鈴の笑顔を思い出す。

藤田五郎は夏になったら、再び質問するのか。

春の季節の中で答えを知るのは、春の花のみかも知れない。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語は既に掲載している物語の第三版です。

改訂前の物語の展開や雰囲気を出来るだけ残して改訂しました。

改訂前の物語を掲載するのは止めました。

以上、ご了承願います。

ここからは改訂前の後書きを加筆訂正して書きます。

この物語に登場する歌は「万葉集 第二十巻 四三二三番」

「時々の 花は咲けども 何すれぞ 母とふ花の 咲き出来ずけむ」

ひらがなの読み方は「ときどの はなはさけども なにすれぞ ははとふはなの さきでこずけむ」

作者は「丈部真麻呂(はせべのままろ)」

歌の意味は「季節ごとに花は咲くのに、どうして“母”という花は咲かないのだろうか。(咲くのだったら手折っていっしょに行くのに。)」となるそうです。

原文は「等伎騰吉乃 波奈波佐家登母 奈尓須礼曽 波々登布波奈乃 佐吉泥己受祁牟」

天平勝寶(てんぴょうほうしょう)七年(755年)二月六日に、交代要員として筑紫(ちくし)に派遣された防人(さきもり)達が詠んだ歌の一首だそうです。

「防人(さきもり)」について簡単に説明します。

防人は、筑紫(つくし)・壱岐(いき)などの北九州の防衛にあたった兵士達の事です。

一説には、崎守(さきもり)の意味があるそうです。

防人には東国の人達が選ばれたそうです。

東国の人達が選ばれた理由については、よく分かってないそうです。

一説には、東国の力を弱めるためともいわれているそうです。

任期は三年で、毎年二月に兵員の三分の一が交替となっていたそうですが、実際には簡単には国に帰してもらえなかったそうです。

東国から行く時は、部領使(ぶりょうし)という役割の人が連れて行ったそうです。

北九州へは徒歩で行ったそうです。

稀な場合だと思いますが、幸運な場合は、船で行く事もあったようです。

帰りは自費だったそうです。

そのため、故郷に帰りたくても帰れない人、無理に帰ろうとして故郷まで帰れずに行き倒れとなる人がいたそうです。

防人の詳細に関しては各自でご確認ください。

この物語に登場する花関連の季語についてです。

季語と現在の暦の開花や見頃の時期が違うと感じる方がいると思います。

開花や見頃の時期は省略して季語のみ書きます。

「梅(うめ)」は春の季語で、「梅の実」は夏の季語です。

「桜(さくら)」は、花は春の季語で、実は夏の季語です。

「沈丁花(じんちょうげ)」・「菜の花(なのはな)」・「蒲公英(たんぽぽ)」・「菫(すみれ)」・「山吹(やまぶき)」は、春の季語です。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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