このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

〜 雪月花 新撰組異聞外伝 編 〜


〜 千年の友を繋ぐもの ひさかたの雨 〜


〜 改訂版 〜


登場人物

近藤勇、土方歳三、沖田惣次郎

山口廣明、山口一




「ひさかたの 雨には着ぬを あやしくも 我が衣手は 干る時なきか」

「万葉集 第七巻 一三七一番」より

作者:詠み人知らず




今は夏。



ここは、多摩。



雨の降る日が増えてきた。

僅かに蒸し暑さを感じる日も増えてきた。



試衛館。



沖田惣次郎をはじめとする塾生達が、日々の稽古に励んでいる。



今は、稽古が終わっているため、塾生達は思い思いに過ごしている。



近藤勇の部屋。



近藤勇は机に普通の表情で向かっている。



土方歳三が花菖蒲を挿した花瓶を持ち、部屋の中に微笑んで入ってきた。



近藤勇は土方歳三を微笑んで見た。

土方歳三は花菖蒲を挿した花瓶を傍に置くと、近藤勇に微笑んで話し出す。

「用事で外出中に、花菖蒲を分けてくれた人物がいる。分けてくれた花菖蒲の説明を受けた。話の中で、試衛館の関係者に花菖蒲を喜んで愛でる人物は居るか、俺が花菖蒲の名前に相応しい人物へ贈るのか、という内容があった。結論は、近藤さんの部屋に花菖蒲を飾る、になった。以上の状況により、俺が花菖蒲を挿す花瓶も用意して、近藤さんの部屋を訪ねた。」

近藤勇は土方歳三に微笑んで話し出す。

「歳。何の用事で外出したんだ?」

土方歳三は近藤勇に微笑んで話し出す。

「秘密。」

近藤勇は土方歳三を微笑んで見た。

土方歳三は近藤勇に微笑んで話し出す。

「念のために話す。用事で逢った人物と花菖蒲を分けてくれた人物は、別人だ。」

近藤勇は土方歳三に微笑んで話し出す。

「歳。花菖蒲が綺麗、花菖蒲を分けてくれた人物は更に綺麗、などの様々な内容で褒めただろ。」

土方歳三は近藤勇に微笑んで話し出す。

「何となく合う部分がある。」

近藤勇は土方歳三を微笑んで見た。

土方歳三は花菖蒲を挿した花瓶を持ち、近藤勇に花菖蒲を挿した花瓶を微笑んで渡した。

近藤勇は土方歳三から花菖蒲を挿した花瓶を微笑んで受け取った。

土方歳三は近藤勇を微笑んで見た。

近藤勇は花菖蒲を挿した花瓶を机の上に微笑んで置いた。

土方歳三は近藤勇を微笑んで見ている。

近藤勇は土方歳三を見ると、土方歳三に微笑んで話し出す。

「歳。分けてもらった花菖蒲の名前を教えてくれ。」

土方歳三は近藤勇に微笑んで話し出す。

「近藤さんと俺の関係を表す名前の花菖蒲だ。」

近藤勇は土方歳三を不思議な様子で見た。

土方歳三は近藤勇を微笑んで見た。

近藤勇は土方歳三に微笑んで話し出す。

「私には、歳の謎掛けは難し過ぎる。花菖蒲の名前を早く教えてくれ。」

土方歳三は近藤勇に微笑んで話し出す。

「花菖蒲の名前は、ちとせ・・・」



沖田惣次郎が部屋の中に元気良く入ってきた。



近藤勇は沖田惣次郎を微笑んで見た。

土方歳三は話しを止めると、沖田惣次郎を微笑んで見た。

沖田惣次郎は花菖蒲を見ると、近藤勇と土方歳三に微笑んで話し出す。

「花菖蒲が飾ってありますね。」

近藤勇は沖田惣次郎に微笑んで話し出す。

「歳が知り合いから分けてもらったそうだ。」

沖田惣次郎は土方歳三に微笑んで話し出す。

「土方さん。何の関係の知り合いですか?」

土方歳三は沖田惣次郎に微笑んで話し出す。

「秘密だ。」

沖田惣次郎は土方歳三に微笑んで話し出す。

「私には秘密の相手なのですか?」

土方歳三は沖田惣次郎に微笑んで頷いた。

沖田惣次郎は土方歳三と花菖蒲を微笑んで考えながら見た。

土方歳三は沖田惣次郎を微笑んで見た。

沖田惣次郎は土方歳三に微笑んで話し出す。

「土方さん。用事があると言って外出しました。用事にかこつけて逢った女性を喜ばせて花菖蒲を分けてもらったか、見惚れた女性を喜ばせて花菖蒲を分けてもらいましたね。分けてもらった花菖蒲を褒めていますよね。外出の本当の目的は、綺麗な女性を口説くためかも知れません。用事の体裁を調えるために、綺麗な女性を口説きながら花菖蒲を分けてもらいましたね。」

土方歳三は沖田惣次郎を苦笑して見た。

近藤勇は土方歳三と沖田惣次郎を苦笑して見た。

沖田惣次郎は土方歳三に微笑んで話し出す。

「土方さん。次回からは、薬用風呂や食べ物になる花や植物を、たくさん分けてもらうように口説いてください。」

土方歳三は沖田惣次郎を苦笑して見ている。

近藤勇は土方歳三と沖田惣次郎を苦笑して見ている。

沖田惣次郎は近藤勇と土方歳三を微笑んで見た。

土方歳三は沖田惣次郎を強く抱くと、沖田惣次郎に微笑んで話し出す。

「惣次郎。ありがたい助言をありがとう。」

沖田惣次郎は土方歳三に困惑して話し出す。

「土方さん。苦しいです。」

土方歳三は沖田惣次郎を強く抱いて、沖田惣次郎に微笑んで話し出す。

「惣次郎。礼として歌を教える。」

沖田惣次郎は土方歳三に困惑して話し出す。

「遠慮します。」

土方歳三は沖田惣次郎を強く抱いて、沖田惣次郎に微笑んで話し出す。

「惣次郎。遠慮するな。」

沖田惣次郎は土方歳三に困惑して話し出す。

「私は遠慮していません。土方さん。苦しいです。早く放してください。」

土方歳三は沖田惣次郎を強く抱いて、沖田惣次郎に微笑んで話し出す。

「今回は、季節に合う、雨を詠んだ歌を教える。万葉集に掲載されている歌だ。“ひさかたの 雨には着ぬを あやしくも 我が衣手は 干る時なきか”。」

沖田惣次郎は土方歳三を困惑して見た。

土方歳三は沖田惣次郎を強く抱いて、沖田惣次郎に微笑んで話し出す。

「“ひさかたの 雨には着ぬを あやしくも 我が衣手は 干る時なきか”。惣次郎。復唱しろ。」

沖田惣次郎は土方歳三に困惑して話し出す。

「“ひさかたの、雨には着ぬを、あやしくも、我が衣手は、干る時なきか”。」

土方歳三は沖田惣次郎を強く抱いて、沖田惣次郎に微笑んで話し出す。

「惣次郎。再度の復唱をしろ。」

沖田惣次郎は土方歳三に困惑して話し出す。

「“ひさかたの、雨には着ぬを、あやしくも、我が衣手は、干る時なきか”。」

土方歳三は沖田惣次郎を強く抱いて、沖田惣次郎に微笑んで話し出す。

「惣次郎。合格だ。」

沖田惣次郎は土方歳三を困惑して見た。

近藤勇は土方歳三に微笑んで話し出す。

「“ひさかたの 雨には着ぬを あやしくも 我が衣手は 干る時なきか”。歌を贈る時の状況によって、切なさと悲しさを連想する素敵な恋の歌の贈り物になる、切なさと悲しさを連想するが恋を連想しない歌の贈り物になる。」

土方歳三は沖田惣次郎を抱いて、近藤勇に微笑んで話し出す。

「さすが。近藤さん。」

近藤勇は土方歳三に微笑んで話し出す。

「歳に歌に関する内容で褒めてもらえた。嬉しい。」

土方歳三は沖田惣次郎を抱いて、近藤勇を微笑んで見た。



沖田惣次郎は土方歳三から慌てて離れた。



土方歳三は沖田惣次郎を微笑んで見た。

近藤勇も沖田惣次郎を微笑んで見た。



沖田惣次郎は近藤勇と土方歳三に苦笑して焦って話し出す。

「近藤さん! 土方さん! 私は失礼します!」



近藤勇は沖田惣次郎に微笑んで頷いた。

土方歳三も沖田惣次郎に微笑んで頷いた。



沖田惣次郎は部屋を苦笑して慌てて出て行った。



土方歳三は近藤勇を見ると、近藤勇に微笑んで話し出す。

「近藤さんが惣次郎を気遣って助けたのに、惣次郎は気付かない。」

近藤勇は土方歳三を見ると、土方歳三に微笑んで話し出す。

「私は歳の詠んだ歌の感想を話しただけだ。惣次郎を助けるために話した訳ではない。偶然だ。」

土方歳三は近藤勇を微笑んで見た。

近藤勇は土方歳三に微笑んで話し出す。

「歳。私には、歳が私の話をきっかけにして、惣次郎を抱く力を弱めた様子に見えた。」

土方歳三は近藤勇に微笑んで話し出す。

「近藤さんに返事をした時に、惣次郎を抱く力が偶然に弱くなった。惣次郎を抱く力を意図的に弱めた訳ではない。」

近藤勇は土方歳三を微笑んで見た。

土方歳三は近藤勇に微笑んで話し出す。

「近藤さんの部屋に飾った花菖蒲と、“ひさかたの 雨には着ぬを あやしくも 我が衣手は 干る時なきか”。二つを結び付けて贈る良い方法を思い付いた。実際に贈る日が楽しみだ。」

近藤勇は土方歳三を微笑んで見ている。

土方歳三も近藤勇を微笑んで見た。

近藤勇は土方歳三に微笑んで話し出す。

「歳。話を戻す。花菖蒲の名前を教えてくれ。」

土方歳三は近藤勇に微笑んで話し出す。

「近藤さんと俺の関係。惣次郎と山口君の関係。二組の関係を表す名前の花菖蒲だ。」

近藤勇は土方歳三を不思議な様子で考えながら見た。

土方歳三は近藤勇を微笑んで見た。

近藤勇は土方歳三と花菖蒲を不思議な様子で考えながら見た。

土方歳三は近藤勇を微笑んで見ている。

近藤勇は土方歳三に苦笑して話し出す。

「歳。分からない。」

土方歳三は近藤勇に微笑んで話し出す。

「花菖蒲の名前。別の機会に教えるよ。」

近藤勇は土方歳三を微笑んで見た。

土方歳三も近藤勇を微笑んで見た。



僅かに後の事。



ここは、江戸。



山口一と兄の山口廣明が住む家。



山口一の部屋。



山口一は部屋の中に普通に入ってきた。



机の上に花菖蒲を挿した花瓶が飾ってある。



山口一は花菖蒲を普通の表情で見た。



山口廣明は部屋の中に微笑んで入ってきた。



山口一は山口廣明を普通の表情で見た。

山口廣明は山口一に微笑んで話し出す。

「机に飾ってある花菖蒲の名前は、“千年の友”、というんだ。俺の部屋の机にも“千年の友”が飾ってあるんだ。」

山口一は山口廣明に普通の表情で話し出す。

「“千年の友”。」

山口廣明は山口一に微笑んで頷いた。

山口一は山口廣明と花菖蒲を普通の表情で見た。

山口廣明は山口一に微笑んで話し出す。

「一にとって“千年の友”に該当する人物。惣次郎君だな。」

山口一は山口廣明を普通の表情で見た。

山口廣明は山口一に微笑んで話し出す。

「俺も“千年の友”に早く逢いたいな。」

山口一は山口廣明に普通に話し出す。

「兄さんは“千年の友”に逢える。焦って過ごすと“千年の友”に逢えても気付かない。普段どおりに過ごすのが一番良いと思う。」

山口廣明は山口一に微笑んで話し出す。

「ありがとう。一。」

山口一は山口廣明を普通の表情で見た。

山口廣明は山口一を微笑んで見た。



翌日の事。



今は夜。



ここは、多摩。



雨が降っている。



辺りは暗い。



試衛館。



一室。



雨が降っているため、部屋の中は暗い。



沖田惣次郎を含めた数人の塾生達が床の中で寝ている。



沖田惣次郎は床の中で大きな声を出した。

「斉藤さん! 痛いです!」



沖田惣次郎は床の上に体を起すと、部屋の中を慌てた様子で見た。



塾生達は床の中で静かに寝ている。



沖田惣次郎は床の上に体を起して、安心した様子で息をはいた。



部屋の中には、塾生達の寝息と雨の降る音が聞こる。



沖田惣次郎は床の上に体を起して、不思議な様子で呟いた。

「“千年の友”について話す最中に、“斉藤さん”という名前の男性から額を思い切り弾かれた夢を見た。夢なのにとても痛かったな。斉藤さん”は、誰だろう? “千年の友”は、何を差しているのだろう?」



部屋の中には、塾生達の寝息と雨の降る音が聞こえている。



沖田惣次郎は床の上に体を起して、眠い様子で呟いた。

「“ひさかたの 雨には着ぬを あやしくも 我が衣手は 干る時なきか”。理由は分からないけれど、歌を忘れずに覚えている。私は歌に関しても天才になったんだ。朝になったら、近藤さんと土方さんに自慢しよう。」



部屋の中には、塾生達の寝息と雨の降る音が聞こえている。



沖田惣次郎は床に眠い様子で横になった。

沖田総司は床の中で直ぐに目を閉じた。



同じ頃。



ここは、江戸。



雨が降っている。



辺りは暗い。



山口廣明と山口一の住む家。



山口一の部屋。



部屋の中は暗い。

部屋の外から雨の降る音が聞こる。



山口一は床の中で静かに寝ている。



山口一は床の上にゆっくりと体を起すと、部屋の中を不思議な様子で見た。



部屋の中と外に、変わった様子と気配は無い。



山口一は床の上に体を起こして、花菖蒲を普通の表情で見た。



机の上に飾った花菖蒲が僅かに輝いた様子に見えた。



山口一は床の上に体を起こして、花菖蒲を見ながら、普通の表情で呟いた。

「現実に感じる夢。不思議だが面白い夢。」

山口一は床に普通に横になった。

山口一は床の中で直ぐに目を閉じた。



暫く後の事。



朝を迎えた。



沖田惣次郎が起きた時には、夢で見た出来事も、土方歳三が教えた歌「ひさかたの 雨には着ぬを あやしくも 我が衣手は 干る時なきか」も、全て忘れていた。



今の沖田惣次郎は、“千年の友”と“斉藤さん”について何も知らない。

今の山口一は、“千年の友”について知っている。

沖田惣次郎と山口一を僅かに繋いだ“千年の友”。

沖田惣次郎と山口一が再び逢う時は、数多の後の時になる。

沖田惣次郎と山口一が“千年の友”について語り合う時は、更に数多の後の時になる。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語は既に掲載している物語の改訂版です。

改訂前の物語の展開や雰囲気を出来るだけ残して改訂しました。

改訂前の物語を掲載するのは止めました。

以上、ご了承願います。

ここからは改訂前の後書きを加筆訂正して書きます。

この物語に登場する歌は「万葉集 第七巻 一三七一番」

「ひさかたの 雨には着ぬを あやしくも 我が衣手は 干る時なきか」

ひらがなの読み方は「ひさかたの あめにはきぬを あやしくも わがころもでは ふるときなきか」

作者は「詠み人知らず」

歌の意味は「雨に濡れたわけでもないのに、私の衣の袖は乾くことがありません。」となるそうです。

原文は「久堅之 雨尓波著乎 恠毛 吾袖者 干時無香」

「ひさかたの」は、「雨」を導く枕詞です。

涙で袖が乾く事がない様子を歌っているそうです。

「千年の友(ちとせのとも)」についてです。

「肥後系」の「花菖蒲(はなしょうぶ)」です。

晩生咲きです。

「熊本花菖蒲」の古花の一種類です。

「熊本花菖蒲」は、江戸末期から明治時代に肥後藩の藩士などによって作出された花菖蒲だそうです。

新撰組の人達のイメージに合う名前の花菖蒲だと思いました。

「新撰組異聞 短編 千年の友の物語」を掲載した時点では、詳細な作出年の確認を取る事が出来ませんでした。

後になって、「千年の友」が明治時代の作出と分かりました。

新撰組の隊士達に合う名前の花菖蒲という思いは変わらないので、この物語にも登場しています。

ご了承ください。

今回の物語の時間設定は、沖田惣次郎さん(後の“沖田総司”さん)、山口一さん(後の“斉藤一”さん、“藤田五郎”さん)が京に来る前です。

明治時代の時間設定の「新撰組異聞外伝 短編 千年の友」より前の時間設定で、「新撰組異聞 短編 千年の友の物語」よりも前の時間設定です。

時間設定の順番は、この物語「雪月花 新撰組異聞外伝 編 短編 千年の友が繋ぐもの ひさかたの雨」→「新撰組異聞 短編 千年の友の物語」→「新撰組異聞外伝 千年の友」です。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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