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〜 雪月花 新撰組異聞外伝 編 〜


〜 残秋 黄葉の散りなむ山 待つらむ人 〜


登場人物

藤田五郎、藤田時尾、藤田勉、藤田剛、敬一[沖田総司の息子]、

美鈴[沖田総司の妻、敬一の母]



「黄葉の 散りなむ山に 宿りぬる 君を待つらむ 人し悲しも」

「万葉集 第十五巻 三六九三番」より

作者:葛井子老(ふじゐのむらじおゆ)



今は秋。



ここは、東京。



沖田総司の息子の敬一と母親の美鈴の住む家。



庭。



敬一は笑顔で掃除をしている。



美鈴は微笑んで来た。



敬一は掃除を終えると、美鈴に微笑んで話し出す。

「お母さん。庭の掃除は終わったよ。安心して洗濯が出来るかな?」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「安心して洗濯が出来るわ。敬一。いつもありがとう。」

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「僕に出来る手伝いをしているだけだよ。お礼は要らないよ。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一がいつも手伝ってくれるから助かっているの。お礼はしっかりと言うわ。」

敬一は美鈴を笑顔で見た。

美鈴は敬一を微笑んで見た。

敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「今日は斉藤さんの家に出掛けるんだ。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「斉藤さんやご家族の方に迷惑を掛けないようにね。」

敬一は美鈴に微笑んで頷いた。

美鈴は敬一を微笑んで見た。



暫く後の事。



ここは、藤田五郎、妻の時尾、幼い息子の勉、生まれて間もない息子の剛の住む家。



藤田五郎の部屋。



藤田五郎は普通に居る。

敬一は微笑んで居る。



敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「今日の朝に庭を掃除しました。庭で黄色に色付く銀杏の落ち葉を見付けました。お母さんは僕と庭で話した時に、黄色に色付く銀杏の落ち葉を見付けました。お母さんは黄色に色付く銀杏の落ち葉を見て笑顔になりました。僕はお母さんの笑顔と黄色に色付く銀杏の葉を見て、笑顔になりました。」

藤田五郎は敬一を普通の表情で見た。

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「たくさんの色付く葉を早く見たいです。たくさんの色付く落ち葉を早く見たいです。」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「落ち葉を見ると、物悲しくなる人物がいる。物悲しくなるより、楽しくなる方が良い。敬一と美鈴さんは、色付く葉を見て、楽しい気持ちをたくさん抱ける。敬一は美鈴を助けながら、敬一と美鈴さん共に永く笑顔で過ごせ。」

敬一は藤田五郎に不思議な様子で話し出す。

「斉藤さんは、落ち葉を見ると、楽しくならずに、物悲しくなるのですか?」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「普通だ。」

敬一は藤田五郎を不思議な様子で見た。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「敬一は俺が会津に居た時期があると知っている。良い機会だから、銀杏を見て思い出す、会津の戦いの中で起きた出来事の一つを話す。」

敬一は藤田五郎に緊張して頷いた。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「上役は援軍の要請や更に北の地で戦うため、会津を去ると話した。俺は大恩ある会津に残り戦いを続けるべきと話した。上役の意見に賛同する隊士は会津を離れ、俺の意見に賛同する隊士は会津に残った。会津に残った隊士は、俺を含めて二十数名になる。幾日か後に、会津の城下に新政府軍が進軍した。会津では、新政府軍が会津の城下に進軍した時は、若松城に篭城するようにとの達しがあった。会津に住むたくさんの人達が、若松城で篭城した。新撰組は、若松城への篭城が認められなかった。」

敬一は藤田五郎に心配して話し出す。

「新政府軍は会津の城下にたくさん居たんですよね。若松城に篭城できないのは、物凄く危険な状況ですよね。新撰組は名前を知られている人がたくさんいるから、更に物凄く危険な状況ですよね。」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「かなり昔の出来事になるが、或る人物が、会津の神指の地で、城を築城しようとした。様々な出来事により、築城は未完で終わった。築城途中の土塁の一部が残っていた。築城途中の跡に在るお堂に、新撰組は陣を張った。」

敬一は藤田五郎に心配して話し出す。

「二十数名でたくさんの新政府軍が攻撃する地に居たのですか?」

藤田五郎は敬一に普通の表情で頷いた。

敬一は藤田五郎を心配して見た。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「新政府軍が会津の城下に進軍してから、更に幾日か後に、新政府軍は、陣を張るお堂に居る新撰組を攻撃した。新政府軍の攻撃により、半数以上の隊士が亡くなった。会津が戦いを続ける間は、新撰組も戦った。会津が新政府軍に降伏した時に存命中の隊士は、俺を含めて七名だった。」

敬一は藤田五郎を不安な様子で見た。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「新政府軍が、陣を張るお堂に居る新撰組を攻撃して、隊士が全滅したと聞いた人物がいるそうだ。篭城する程の戦いの続く中だ。正しい内容が伝わらないのは、仕方がないと思っている。」

敬一は藤田五郎に悲しく話し出す。

「新撰組は若松城への篭城を許されなかったんですよね? 斉藤さんの大切な仲間が亡くなったんですよね? 会津に複雑な思いを抱かなかったのですか? 上役と共に更に北の地で戦うために会津を離れた方が良かったと思わなかったのですか?」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「新撰組は会津藩の命を受けて、幕府に敵意を抱く人物を幾人も討った。新撰組に大切な人を討たれた新政府軍関係者は、幾人もいる。会津藩と新撰組を憎む新政府軍関係者は、幾人もいたはずだ。多くの隊士は、上役の意見に賛同して会津を離れた。会津に残った隊士は、俺を含めて二十数名だ。会津藩の関係者に、会津に残った二十数名の隊士が、本人の意思で会津に残ったのか、戦いの中で新撰組本体と離れたために会津に残る状況になったのか、分からなかったと思う。俺には高度な政治的判断が分からないから、新撰組の篭城が許された時の結末は分からない。」

敬一は藤田五郎を不安な様子で見た。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「北の地で戦いを続けるために会津を離れた上役は、北の地の戦いの中で亡くなった。上役と共に会津を離れた隊士達は、戦いの中で幾人も亡くなった。会津を離れた隊士も、会津に残った隊士も、戦いの中に居た。会津の城下では、武士だけでなく、女性や様々な職業の者達が戦った。俺は会津に残る決断を後悔していない。会津に残り亡くなった隊士も会津に残り生き抜いた隊士も、各自の決断を後悔していないと思う。」

敬一は藤田五郎を悲しく見た。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「時尾は、会津藩士の娘で、照姫様付の祐筆を務めていた。時尾は、会津の戦いでは、若松城に篭城した。時尾と祝言を挙げる時は、松平容保様に上仲人を務めて頂いた。会津の人達は、新撰組隊士を虐げていない。」

敬一は藤田五郎を悲しく見ている。

藤田五郎は敬一を普通の表情で見た。

敬一は藤田五郎に悲しく話し出す。

「斉藤さんに何を話せば良いのか分かりません。ごめんなさい。」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「敬一が悩むのは当然だ。謝るな。」

敬一は藤田五郎を悲しく見た。

藤田五郎は敬一を普通の表情で見た。



暫く後の事。



ここは、東京。



空の色が橙色に染まり始めている。



藤田五郎は普通に歩いている。

敬一は悲しく歩いている。



藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「敬一。俺の過去を聞いて悩むな。」

敬一は藤田五郎に小さく頷いた。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「動揺しながら稽古をすると怪我をする。稽古の日程を遅らせる。」

敬一は藤田五郎を僅かに不機嫌な様子で話し出す。

「稽古の日まで余裕があります。僕は斉藤さんの稽古を早く受けたいです。斉藤さんの申し出を断ります。」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「誰が見ても、今の敬一が動揺している状況が伝わる。敬一の知りたい内容を答えられるのは、俺だけだ。俺と敬一が逢う予定から考えると、敬一の動揺が稽古の日までに治まるか疑問だ。」

敬一は藤田五郎に僅かに不機嫌に話し出す。

「斉藤さんの都合で稽古の日程を遅らせるために、僕に斉藤さんの過去を話したのですね。斉藤さんは意地悪です。」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「良い機会だから話した。敬一に意地悪はしていない。」

敬一は藤田五郎に僅かに不機嫌に話し出す。

「斉藤さんは、悩む時はしっかりと稽古をするように話しました。斉藤さんは僕に稽古を就ける必要があります。」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「俺は敬一に、剣術関連で悩む時に、今までの稽古の内容を冷静に振り返る、稽古を冷静に続けて解決策を見付けろ、と話した。敬一。不機嫌になったために、理解している内容を曲解して考えるな。」

敬一は藤田五郎を僅かに不機嫌に見た。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「俺に話がある時は、時尾に伝言や手紙を預けろ。敬一の動揺が稽古の日までに治まれば、予定通り稽古を就ける。敬一の動揺が稽古の日までに治まらなければ、敬一の動揺が治まるまで待つ。」

敬一は藤田五郎に僅かに不機嫌に話し出す。

「僕は斉藤さんから稽古を就けて頂く立場です。僕は斉藤さんの意見に従う立場です。以上の理由から、物凄く不満ですが、斉藤さんの申し出を受けます。」

藤田五郎は敬一を普通の表情で見た。

敬一は藤田五郎を僅かに不機嫌に見た。



翌日の事。



ここは、敬一と美鈴の住む家。



庭。



敬一は考え事をしながら掃除をしている。



美鈴は微笑んで来た。



敬一は掃除を止めると、美鈴を僅かに驚いた様子で見た。

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「突然に来て驚かせてごめんね。」

敬一は美鈴に恥ずかしく話し出す。

「気付いたら考え事をしていた。掃除が中途半端になっているね。掃除を続けるから、少し待っていてね。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一はたくさん掃除をしてくれるから、今日も綺麗よ。敬一が再び掃除をしたら、出掛けるのが遅くなるわ。お母さんが掃除の続きをするから、敬一は出掛ける準備をしなさい。」

敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「お母さんが安心して洗濯できるように、時間の許す範囲で再び掃除するよ。残りの掃除は翌日にするよ。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。無理をしないでね。」

敬一は美鈴に微笑んで頷いた。

美鈴は敬一を微笑んで見た。

敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「お母さん。今日は、斉藤さんの家に出掛けたいんだ。普段より帰りが遅くなるかも知れないけれど、心配しないでね。」

美鈴は敬一に微笑んで頷いた。



美鈴は家の中に微笑んで入って行った。



敬一は微笑んで掃除を始めた。



暫く後の事。



ここは、藤田五郎の家。



藤田五郎は仕事に出掛けているため家に居ない。

時尾、勉、剛は、家に居る。



ここは、食卓の有る部屋。



時尾は焙じ茶を微笑んで飲んでいる。

勉は焙じ茶を美味しく飲んでいる。

敬一も焙じ茶を美味しく飲んでいる。



剛は別室で寝ているので居ない。



敬一は焙じ茶を飲むのを止めると、食卓の上に静かに置いた。

時尾は焙じ茶を微笑んで飲んでいる。

勉は焙じ茶を美味しく飲んでいる。

敬一は時尾に言い難そうに話し出す。

「昨日に僕が訪ねてきてから、斉藤さんに変わった様子はありましたか?」

時尾は敬一に微笑んで話し出す。

「普段と同じよ。」

勉は焙じ茶を飲みながら、敬一に笑顔で話し出す。

「おなじ。」

時尾は敬一に微笑んで話し出す。

「正確に言うと、五郎さんは敬一君を普段と変わらず気遣っている、になるわね。」

勉は焙じ茶を飲みながら、敬一に笑顔で話し出す。

「おとうさん。おかあさん。おなじ。おにいちゃん。きにする。」

時尾は勉を微笑んで見た。

敬一は時尾と勉を不思議な様子で見た。

時尾は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一君。無理や我慢は、必要な時だけするものだと思うの。」

敬一は時尾に言い難そうに話し出す。

「斉藤さんは時尾さんに昨日の出来事について何か話しましたか?」

時尾は敬一に微笑んで話し出す。

「五郎さんは昨日の出来事について何も話していないわ。」

敬一は時尾を僅かに安心して見た。

時尾は敬一を微笑んで見た。

敬一は時尾に言い難そうに話し出す。

「時尾さん。昨日の僕は、斉藤さんに失礼な内容を話しました。今日は、斉藤さんが怒っていないか心配になって訪ねてきました。」

時尾は敬一に微笑んで話し出す。

「五郎さんは怒っていないわ。五郎さんは敬一君を変わらずに気遣っているわ。」

勉は焙じ茶を飲みながら、敬一に笑顔で話し出す。

「おとうさん。おこっていない。おにいちゃん。きにする。」

敬一は時尾と勉を微笑んで見た。

時尾は勉と敬一を微笑んで見た。

敬一は時尾に微笑んで話し出す。

「斉藤さんに謝りたいです。斉藤さんが僕の言動を許した時は、稽古の日程を確認したいです。」

時尾は敬一に微笑んで話し出す。

「五郎さんが帰ってきたら、敬一君の話を伝えるわ。」

敬一は時尾に微笑んで話し出す。

「よろしくお願いします。」

時尾は敬一に微笑んで頷いた。

敬一は勉に微笑んで話し出す。

「勉君。焙じ茶を飲み終わったら、一緒に遊ぼうね。」

勉は焙じ茶を飲みながら、敬一に笑顔で頷いた。

敬一は焙じ茶を美味しく飲んだ。

勉も焙じ茶を美味しく飲んだ。

時尾は焙じ茶を微笑んで飲んだ。



翌日の事。



ここは、敬一と美鈴の住む家。



玄関。



藤田五郎が普通に訪ねてきた。



美鈴は微笑んで現れた。



美鈴は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「斉藤さん。こんばんば。」

藤田五郎は美鈴に普通の表情で頷いた。



敬一は不思議な様子で現れた。



藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「敬一。話がある。」

敬一は藤田五郎に微笑んで頷いた。

美鈴は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「お酒を少しですが用意しました。」

藤田五郎は美鈴に普通の表情で頷いた。



美鈴は家の中に微笑んで入って行った。

藤田五郎は家の中に普通に入って行った。

敬一も家の中に微笑んで入って行った。



少し後の事。



ここは、敬一と美鈴の住む家。



食卓の有る部屋。



藤田五郎は杯の酒を普通の表情で飲んでいる。

敬一は藤田五郎を微笑んで見ている。

食卓の上には、酒、数種類の肴、焙じ茶が載っている。



藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一に普通に話し出す。

「今回は動揺が治まるのが早かったな。」

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「斉藤さんの想像通り、直ぐに動揺は治まりませんでした。少しずつ、斉藤さんと時尾さんにしか会津に関係する出来事は質問できない、お母さんに心配を掛けたくない、時尾さんや勉君にも心配を掛けたくない、斉藤さんの稽古を早く受けたい、と思うようになりました。」

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一に普通に話し出す。

「敬一の話を聞くと、俺は敬一に稽古を就けるだけの人物と考えているように感じる。」

敬一は藤田五郎に慌てて話し出す。

「斉藤さんにはいつも感謝しています! 斉藤さんに先日の出来事を謝りたいと思っています! 斉藤さんにも心配を掛けたくないと思っています!」

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一に普通に話し出す。

「敬一の話す意味は分かる。焦るな。落ち着け。」

敬一は藤田五郎を恥ずかしく見た。

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一を普通の表情で見た。

敬一は藤田五郎に言い難そうに話し出す。

「斉藤さん。先日の話の中で、銀杏を見て思い出す出来事があると話しましたよね。差し支えなければ教えてください。」

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一に普通に話し出す。

「会津に残った新撰組が陣を張ったお堂に、大きめの銀杏の木が在った。新政府軍が陣を張ったお堂に居る隊士を攻撃した時に、半数以上の隊士が亡くなった。銀杏の木は生き残った。俺を含めた数人の隊士は亡くならずに、新政府軍と戦いを続けた。会津の戦いが終わった時は、俺を含めた数人の隊士も銀杏の木も、生き残った。戦いが終わった後も、俺も含めた数人の隊士も銀杏の木も、生き続けている。」

敬一は藤田五郎を真剣な表情で見た。

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一を普通の表情で見た。

敬一は藤田五郎に真剣な表情で話し出す。

「以前に、お母さんから“黄葉の 散りなむ山に 宿りぬる 君を待つらむ 人し悲しも”という歌を教えてもらいました。斉藤さんの話を聞く間に、今の歌を思い出しました。」

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一を普通の表情で見た。

敬一は藤田五郎に不安そうに話し出す。

「僕はみなさんに失礼な歌を思い出したのでしょうか?」

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一に普通の表情で首を横に振った。

敬一は藤田五郎を真剣な表情で見た。

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一に普通に話し出す。

「敬一。稽古は予定通り行う。体調と気持ちをしっかりと整えておけ。」

敬一は藤田五郎に真剣な表情で話し出す。

「はい!」

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、敬一を普通の表情で見た。



翌日の事。



ここは、敬一と美鈴の住む家。



庭。



敬一は笑顔で掃除をしている。



美鈴は微笑んで来た。



敬一は掃除を終えると、美鈴を笑顔で見た。

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。今日はいつもより丁寧ね。ありがとう。」

敬一は美鈴に恥ずかしく話し出す。

「昨日は掃除が中途半端になってしまったから、今日は普段より丁寧に掃除をしたんだ。差し引くと、普段と同じになると思うんだ。」

美鈴は敬一を微笑んで見た。

敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「お母さん。今日は斉藤さんに稽古を就けてもらう日なんだ。帰りが遅くなるかも知れないけれど、心配しないで待っていてね。」

美鈴は敬一に微笑んで頷いた。

敬一は美鈴を笑顔で見た。



美鈴は家の中に微笑んで入って行った。

敬一は家の中に笑顔で入っていった。



「黄葉の 散りなむ山に 宿りぬる 君を待つらむ 人し悲しも」

銀杏の木は、戦国の世の築城途中で終わった跡に佇んでいた。

銀杏の木は、会津に残った新撰組隊士が陣を張ったお堂に佇んでいた。

銀杏の木は、新撰組隊士が亡くなった時も、会津の戦いが続く中も、会津の戦いが終わった後も、同じ場所に佇んでいた。

戦国の世に城が完成していたら、会津の歴史は変わったかも知れない。

戦国の世に城が完成していたら、会津で生きる人々、会津のために戦った人々、お堂、銀杏の木、などの運命は変わったかも知れない。



銀杏の木は、戦国の世の築城途中で終わった跡に、明治時代以降も佇んでいる。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語に登場する歌は「万葉集 第十五巻 三六九三番」

「黄葉の 散りなむ山に 宿りぬる 君を待つらむ 人し悲しも」

ひらがなの読み方は「もみちばの ちりなむやまに やどりぬる きみをまつらむ ひとしかなしも」

作者は「葛井子老(ふじゐのむらじおゆ)」

歌の意味は「黄葉が散ってしまう山に葬られてしまった君を待っているご家族のことを思うと、哀れでなりません。」となるそうです。

原文は「毛美知葉能 知里奈牟山尓 夜杼差戸奴流 君乎麻都良牟 比等之可奈之母」

天平八年(736年)に新羅に遣わされた人達の内のひとり、雪宅麻呂(ゆきのやかまろ)が壱岐の島で病気のために亡くなったそうです。

葛井子老が雪宅麻呂の死を悼んで詠んだ歌のひとつだそうです。

新撰組について簡単ですが補足します。

会津で起きる戦いの中で、土方歳三さんの意見の、北の地で戦いを続けるために会津を去る、斉藤一さん(当時の名前は“山口次郎”と思われる)の意見の、会津に残る、に分かれました。

斉藤一さんの意見に賛同した二十数名(“十数名”の説もあり)の隊士が、会津に残りました。

会津に残った新撰組の隊士達は、若松城に篭城のための入城が出来なかったそうです。

若松城の篭城は、明治元年八月二十三日(1868年10月8日)になると思います。

新撰組は、現在の会津若松市神指町に在るお堂に陣を張った(立て篭もった説もあり)そうです。

明治元年九月四日(1868年10月19日)に、新政府軍がお堂に攻撃をしたそうです。

激しい戦いだったそうです。

この戦いの中で全員が討ち死にした話が伝わったそうですが、実際は、斉藤一さんを含めた約七名の隊士は生き残りました。

このお堂は「神指城(こうざしじょう)」の跡に在ります。

昭和前半の写真を見ると、神指城の土塁などが現在より残っているように感じます。

当時は現在と違う雰囲気だと思います。

このお堂には、大きな銀杏の木が在ります。

銀杏の大きさから考えると、当時も在ったようです。

お堂の近くに、大きな槻(けやき)の木が在ります。

城を造ろうとした時には既に在ったと考えられているそうです。

槻の木も銀杏の木も、城の土塁の一部と共に、平成の時代も在ります。

明治元年九月四日(1868年10月19日)に、お堂に在る銀杏の葉が黄色く色付いていたかについてです。

現在は当時より気温が高いと考えられるため、当時の暦を現在の暦に直して、更に数週間から一ヶ月ほど遅らせると、会津の地域に在る銀杏の葉が黄色く色付く時期と重なります。

そこから推測して、敬一君が今回の登場する歌を思い出す設定にしました。

「残秋(ざんしゅう)」は「秋の末。晩秋。秋の名残。」という意味です。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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