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〜 雪月花 新撰組異聞外伝 編 〜


〜 藤の心 藤の花今来む春も常かくし見む 〜


〜 改訂版 〜


登場人物

沖田総司、藤田五郎、藤田時尾、藤田勉、敬一[沖田総司の息子]、

美鈴[敬一の母、沖田総司の妻]




「妹が家に 伊久里の杜の 藤の花 今来む春も 常かくし見む」

「万葉集 第十七巻 三九五二番」より

作者:大原高安(おおはらのたかやす)




今は西南戦争の最中。



政府軍と西郷隆盛の率いる軍が、九州で戦いを続けている。

互角の戦いを続けているが、政府軍が劣勢に思える時がある。



西郷隆盛の率いる軍に、刀で戦う隊があった。

接近戦の効果は絶大だった。

刀で戦う効果を目の当たりにした政府軍は、抜刀隊を組織した。

抜刀隊は戦いの続く九州に向かうと決まった。



抜刀隊は、刀を携帯するが、銃の携帯は出来ない。

武士の時代を終わらせた政府が、刀のみで戦う抜刀隊を組織した。

抜刀隊には、幕府側として戦った会津藩の藩士が多く居た。



政府は、武士の時代を終わらせ、新しい世を治めている。

西郷隆盛は、武士の時代を終わらせた中心人物、政府の中心人物だった。

西郷隆盛は、政府の中の意見の違いから政府を抜け、政府に戦いを挑んでいる。

政府で働く会津藩士を含める幕府側だった者達は、武士の立場で戦って敗者になり、勝者の新政府の中で働き、幕府と仲間を倒した中心人物の西郷隆盛が率いる軍と戦う。

西南戦争は因縁を含む皮肉な戦いになる。



政府軍が九州に送り込んだ抜刀隊は、予想以上の成果を上げている。

戦況が政府軍に有利に動き始めた。



西南戦争の続く或る日の事。



藤田五郎に上役から一つの話があった。

上役の話は、抜刀隊の一員として西南戦争の続く九州で戦う内容だった。

藤田五郎は上役の話を了承した。



藤田五郎が上役の話を了承した後の日の事。



ここは、東京。



藤の花が綺麗な姿で咲いている。



ここは、藤田五郎、妻の時尾、幼い息子の勉の住む家。



庭には季節の花が咲いている。



縁。



藤田五郎は普通に歩いている。



時尾が縁に座り、勉を抱いて、庭を微笑んで見ている。

勉が庭を笑顔で見ている。



藤田五郎は普通に止まった。



藤田五郎は時尾と勉を普通の表情で見た。



時尾は勉を抱いて、藤田五郎を微笑んで見た。

勉は庭を笑顔で見ている。



藤田五郎は普通に歩いて来た。



時尾は勉を微笑んで抱いた。

勉は笑顔で居る。



時尾は勉を抱いて、微笑んで立ち上がった。

勉は笑顔で居る。



時尾は勉を抱いて、藤田五郎に微笑んで話し出す。

「縁を塞いでしまいました。直ぐに退きます。」

藤田五郎は時尾に普通に話し出す。

「気にするな。」

時尾は勉を抱いて、藤田五郎を微笑んで見た。

藤田五郎は時尾と勉を普通の表情で見た。

時尾は勉を抱いて、藤田五郎に微笑んで話し出す。

「藤の花が綺麗に咲いています。五郎さんと私と勉で、藤の花を見に行きたいです。都合の良い日はありますか?」

藤田五郎は時尾を普通の表情で見た。

時尾は勉を抱いて、藤田五郎に微笑んで話し出す。

「お忙しい五郎さんに、無理なお願いをしてしまいました。今の話は忘れてください。」

藤田五郎は時尾に普通に話し出す。

「俺への気遣いは無用だ。勉は幼い。時尾は忙しいと思う。今回は近場の藤の花を見よう。」

時尾は勉を抱いて、藤田五郎に微笑んで話し出す。

「ありがとうございます。」

藤田五郎は時尾に普通の表情で頷いた。

時尾は勉を抱いて、勉に微笑んで話し出す。

「勉。お父さんと一緒に藤の花を見られるわ。楽しみね。」

勉は時尾を笑顔で見た。

時尾は勉を抱いて、勉を微笑んで見た。

藤田五郎は時尾と勉を普通の表情で見た。



数日後の事。



ここは、藤田五郎の家から遠く離れていない場所。



たくさんの藤の花が綺麗に咲いている。



藤の花を見る人達の姿がある。



藤田五郎は藤の花を普通の表情で見ている。

時尾は勉を抱いて、藤の花を微笑んで見ている。

勉は笑顔で居る。



時尾は勉を抱いて、勉に微笑んで話し出す。

「勉。藤の花が綺麗ね。」

勉は時尾を笑顔で見た。

時尾は勉を抱いて、勉を微笑んで見た。

藤田五郎は時尾と勉を普通の表情で見た。

時尾は勉を抱いて、藤田五郎に微笑んで話し出す。

「五郎さんの傍で、藤の花が綺麗に咲く間に見られました。とても嬉しいです。」

藤田五郎は時尾を普通の表情で見た。

時尾は勉を抱いて、藤田五郎を微笑んで見た。



風が吹いた。



藤の花が風に乗り揺れ始めた。



時尾は勉を抱いて、藤の花の揺れる様子を微笑んで見た。

勉は藤の花の揺れる様子を笑顔で見た。

藤田五郎は時尾と勉を一瞥しながら、藤の花の揺れる様子を普通の表情で見た。



藤の花は風に乗りゆっくりと揺れている。



藤田五郎は藤の花の揺れる様子を見ながら、普通の表情で呟いた。

「“妹が家に 伊久里の杜の 藤の花 今来む春も 常かくし見む”。」

時尾は勉を抱いて、藤田五郎を不思議な様子で見た。

藤田五郎は時尾に普通に話し出す。

「藤の花の揺れる様子を見ていたら、今の歌を思い出した。間違っている内容があれば教えてくれ。」

時尾は勉を抱いて、藤田五郎に微笑んで話し出す。

「間違っている内容はありません。」

藤田五郎は時尾を普通の表情で見た。



風が止んだ。



藤の花の揺れが少しずつ小さくなっていく。



藤田五郎は時尾に普通に話し出す。

「勉を抱く。」

時尾は勉を抱いて、藤田五郎に微笑んで話し出す。

「大丈夫です。」

藤田五郎は時尾に普通に話し出す。

「俺が勉を抱くと、勉が藤の花を更に近くで見られる。」

時尾は勉を藤田五郎に微笑んで預けた。

藤田五郎は勉を普通の表情で抱いた。

勉は藤田五郎を笑顔で見た。

時尾は勉に微笑んで話し出す。

「勉。お父さんに抱いてもらって、藤の花が更に近くで見られるわ。良かったわね。」

勉は時尾を笑顔で見た。

時尾は勉を微笑んで見た。

藤田五郎は勉を抱いて、時尾と勉を普通の表情で見た。

時尾は藤田五郎を見ると、藤田五郎に申し訳なく話し出す。

「私が話し掛けたので、勉が藤の花をほとんど見ていません。申し訳ありません。」

藤田五郎は勉を抱いて、時尾に普通に話し出す。

「勉も楽しんでいる。気にするな。」

時尾は藤田五郎を微笑んで見た。

藤田五郎は勉を抱いて、時尾を普通の表情で見た。

勉は藤田五郎と時尾を笑顔で見た。



暫く後の事。



夜になっている。



ここは、東京。



心地良い空気に包まれている。



ここは、藤田五郎、時尾勉の住む家。



月の淡い光が藤田五郎の家を照らしている。



藤田五郎の部屋の前に在る縁。



時尾は酒と肴を載せたお盆を持ち、微笑んで歩いて来た。



障子が普通に開いた。



藤田五郎が部屋から普通に出てきた。



藤田五郎は時尾を普通の表情で見た。

時尾はお盆を持ち、藤田五郎に微笑んで話し出す。

「お酒と肴を用意しました。」

藤田五郎は時尾からお盆を普通の表情で受け取った。

時尾は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「暫く経ったら、部屋に来ます。ゆっくりと楽しんでください。」

藤田五郎はお盆を持ち、時尾に普通の表情で頷いた。

時尾は藤田五郎に微笑んで軽く礼をした。

藤田五郎はお盆を持ち、時尾に普通の表情で頷いた。



時尾は微笑んで居なくなった。



藤田五郎はお盆を持ち、部屋の中に普通に入って行った。



直後の事。



ここは、藤田五郎、時尾、勉の住む家。



藤田五郎の部屋。



藤田五郎はお盆を持ち、部屋の中に普通に入った。



藤田五郎は縁の傍にお盆を置くと、普通の表情で座った。



障子は開いている。



月の淡い光が、藤田五郎の部屋の縁の傍まで淡く照らしている。



藤田五郎は庭を普通の表情で見た。



既に散った桜が満開になって咲いている。



藤田五郎は横を普通の表情で見た。



沖田総司は藤田五郎を微笑んで見ている。



藤田五郎は沖田総司に普通に話し出す。

「酒を飲む時に付き合わせるために呼んだが、気が変わった。一人で酒を飲む。」

沖田総司は藤田五郎を不思議な様子で見た。

藤田五郎は沖田総司に普通に話し出す。

「美鈴さんの所に早く行け。」

沖田総司は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「斉藤さんが酒を飲み終わった後に、鈴に逢いに行きます。」

藤田五郎は沖田総司に普通に話し出す。

「一人で酒を飲む。総司は必要ない。」

沖田総司は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「分かりました。鈴に逢いに行きます。」

藤田五郎は沖田総司に普通の表情で頷いた。

沖田総司は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「再び呼んでください。」

藤田五郎は沖田総司に普通の表情で頷いた。

沖田総司は藤田五郎に微笑んで軽く礼をした。

藤田五郎は沖田総司に普通の表情で頷いた。



沖田総司は微笑んで、静かに居なくなった。



藤田五郎は庭を普通の表情で見た。



桜は元の姿に戻っている。



藤田五郎は夜空を見ると、普通の表情で呟いた。

「“妹が家に 伊久里の杜の 藤の花 今来む春も 常かくし見む”。」



夜空の星が僅かに強く輝いた。



藤田五郎は杯に酒を普通の表情で注いだ。

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、夜空を普通の表情で見た。



直後の事。



ここは、沖田総司の息子の敬一と母親の美鈴の住む家。



月の淡い光が敬一と美鈴の家を照らしている。



縁。



敬一は微笑んで居る。

美鈴も微笑んで居る。



敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「お母さん。明日の天気が良かったら、藤の花を見に行こうよ。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一の明日の予定は大丈夫なの?」

敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「僕の明日の予定は、天気が良かったらお母さんと藤の花を見に行く、だよ。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「お母さんの気遣いより、敬一が先に決めた約束を大事にしてね。」

敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「分かった。」

美鈴は敬一を微笑んで見た。

敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「人がたくさん居ると疲れるし落ち着かないよね。訪れる人の少ない場所で、藤の花を見よう。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。気を遣ってくれてありがとう。」

敬一は美鈴を微笑んで見た。

美鈴も敬一を微笑んで見た。



心地良い風が吹いた。



夜空の星の輝きが明るくなり、敬一と美鈴の家を明るく照らした。



敬一は夜空を微笑んで見た。

美鈴も夜空を微笑んで見た。



「妹が家に 伊久里の杜の 藤の花 今来む春も 常かくし見む」

沖田総司と藤田五郎。

藤田五郎と時尾。

敬一と美鈴。

沖田総司と敬一と美鈴。

多くを語らなくても、想いが伝わっている。

藤の花の咲く季節は、様々な想いの中で過ぎていく。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語は既に掲載している物語の改訂版です。

改訂前の物語の展開や雰囲気を出来るだけ残して改訂しました。

改訂前の物語を掲載するのは止めました。

以上、ご了承願います。

ここからは改訂前の後書きを加筆訂正して書きます。

この物語に登場する歌は「万葉集 第十七巻 三九五二番」

「妹が家に 伊久里の杜の 藤の花 今来む春も 常かくし見む」

ひらがなの読み方は「いもがいえに いくりのもりの ふじのはな いまきむはるも つねかくしみむ」

作者は「大原高安(おおはらのたかやす)」

歌の意味は「伊久里の杜に咲いている藤の花を、まためぐって春にも、こんな風に眺めたいものですね。」となるそうです。

原文は「伊毛我伊敝尓 伊久里能母里乃 藤花 伊麻許牟春母 都祢加久之見牟」

「大伴家持(おおとものやかもち)」が、玄勝という僧侶から聞いた歌として載っています。

「伊久里の杜(いくりのもり)」は、「奈良の横井村」の説と「富山の井栗村」の説があるそうです。

この物語の補足です。

藤田五郎さんが西南戦争に向かう直前の物語は、「新撰組異聞外伝 短編 橘月の夜空の下で」があります。

今回も藤田五郎さんが西南戦争に向かう直前の物語になります。

この二つの物語は、微妙に関係していますが、つじつまの合わない事があると思います。

基本的には短編集なので、物語のような出来事があったかも知れないと想像して読んでください。

「藤田五郎」と名乗る時は、会津藩士になっています。

政府側の「抜刀隊」には、会津藩士の方達が多く参加していたそうです。

政府軍の「抜刀隊」は、刀の帯刀のみで銃での攻撃は出来ません。

「抜刀隊」は西南戦争で大きな成果を上げたそうですが、大きな被害も出たそうです。

藤田五郎さんが「抜刀隊」に参加したのは、「明治十年(1877年)五月十八日」だそうです。

「抜刀隊」が組織されてから、直ぐに西南戦争に参加していない事になります。

藤田五郎さんの地位は「半隊長」になるそうです。

「半隊長」は、簡単に説明すると、小隊を半分に分けた隊の隊長です。

現在の半隊長と同じ地位の人は、経験が豊富で身体能力のある優秀な人が務めるそうです。

当時も同じ事が考えられるので、藤田五郎さんは経験豊富で身体能力のある優秀な人と評価されていた可能性があります。

藤田五郎さんの所属していた「抜刀隊」らしいですか、戦死者がでています。

藤田五郎さんも七月十二日頃に怪我をしたそうです。

藤田五郎さんの怪我は、刀での戦いの怪我ではなく、銃からの攻撃による怪我のようです。

怪我をした部分と程度に関する確認は取っていません。

藤田五郎さんは七月の時点でも九州に居るようです。

藤田五郎さんが家に戻った日付は、確認が取れませんでした。

藤田五郎さんが「藤田五郎」を名乗る前までは、基本的には一人でした。(明治時代に、藤田時尾さんと祝言を挙げる前に、祝言を挙げた女性がいるようです。死別か離婚か分かりませんが、再び独り身になり、後に、藤田時尾さんと祝言を挙げます。新撰組異聞関連では、藤田時尾さん以外に祝言を挙げた設定は無いです。ご了承ください。)

西南戦争の時には、奥様の藤田時尾さん、昨年末に生まれた幼い藤田勉さんがいました。

西南戦争に向かう時には、以前とは違う気持ちや考え方になっていたと思います。

藤田時尾さんは、藤田五郎さんを心配しながらも、普段と同じ様子で過ごしていると考えて書きました。

藤田五郎さんは、新撰組時代の話はほとんどしなかったそうです。

新撰組について僅かですが話すようになったのは、かなり後の事らしいです。

藤田時尾さんが藤田五郎さんの過去をどの程度知っていたか分かりません。

藤田五郎さんが西南戦争に向かう話を聞いた日付は分かりませんが、少し期間がある設定にして、藤の花が咲く時期にしました。

沖田総司さんも藤田五郎さんと普段と同じ会話をする設定にしました。

沖田総司さんも藤田五郎さんも、たくさんの危険な任務に就きました。

沖田総司さんは藤田五郎さんの能力と才能を認めているので、特別な話をしていないと考えてください。

この物語の設定時期に、藤田五郎さんは敬一君の存在を知りません。

藤の花は、「藤(ふじ)」から、「富士(ふじ)」や「不死(ふじ)」を連想するという事で、縁起が良い花とも言われています。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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