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〜 雪月花 新撰組異聞外伝 編 〜


〜 楓蔦黄 常を無みこそ 〜


登場人物

藤田五郎、藤田時尾、藤田勉、藤田剛、敬一[沖田総司の息子]、

美鈴[沖田総司の妻、敬一の母]



「言とはぬ木すら 春咲き秋づけば もみち散らくは 常を無みこそ」

「万葉集 第十九巻 四一六一番」より

作者:大伴宿禰家持(おおとものくすねやかもち)



今は秋。



ここは、東京。



日中は過ごしやすくても、朝や晩は寒さを感じる時がある。



今は夜。



夜空に星が綺麗に輝いている。



ここは、沖田総司の息子の敬一と母親の美鈴の住む家。



食卓の有る部屋。



敬一は微笑んで居る。

美鈴も微笑んで居る。



敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「お母さん。明日は斉藤さんの家に出掛けるね。」

美鈴は敬一に心配して話し出す。

「敬一。斉藤さんの家に毎日のように出掛ける日が続くわね。斉藤さんとご家族の迷惑になっていないの?」

敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「剛君が生まれて少しの間は、いろいろと遭って出掛ける日が減ったよね。少し経ってから、斉藤さんの家に普段どおりに出掛けられるようになったよね。斉藤さん、時尾さん、勉君、剛君に、たくさん逢いたくて出掛けているんだ。でも、斉藤さんは仕事で居ない時間が多いから、余り逢っていないよ。時尾さんは、僕が勉君と剛君と一緒に居ると、いろいろな用事が出来て助かると話しているよ。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。剛君は生まれて間もないわ。勉君は幼いわ。最新の注意を払っても足りないの。今の話を忘れないでね。」

敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「時尾さんが僕に剛君を頼むのは短時間だよ。お母さんが心配する気持ちは分かるよ。今まで以上に注意をするよ。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。斉藤さんの家に毎日のように出掛けるために、勉強の時間と剣道の稽古の時間が減らないようにね。斉藤さん、時尾さん、勉君のためにも、しっかりと勉強と剣道の稽古に励んでね。」

敬一は美鈴に微笑んで頷いた。

美鈴は敬一を微笑んで見た。



翌日の事。



ここは、藤田五郎、妻の時尾、幼い息子の勉、生まれて間もない息子の剛、の住む家。



藤田五郎は仕事のために居ない。

時尾、勉、剛は、居る。



ここは、時尾、勉、剛の部屋。



剛は床の中で静かに眠っている。

勉は剛を笑顔で見ている。

敬一は、勉と剛を微笑んで見ている。

時尾は、勉、剛、敬一を微笑んで見ている。



敬一は時尾を見ると、時尾に微笑んで小さい声で話し出す。

「時尾さん。斉藤さんは元気ですか?」

時尾は敬一に微笑んで静かに話し出す。

「五郎さんは元気に過ごしているわ。」

敬一は時尾を微笑んで見た。

時尾は敬一に微笑んで静かに話し出す。

「五郎さんに敬一君が訪ねたと伝えると、頷いて話を聞く回数が増えるの。敬一君を気遣う様子が伝わるわ。」

敬一は時尾を微笑んで見ている。

時尾は敬一を微笑んで見た。

敬一は時尾に微笑んで静かに話し出す。

「斉藤さんは仕事で忙しいですよね。斉藤さんと話すのは無理ですよね。」

時尾は敬一に微笑んで話し出す。

「五郎さんに、敬一君が五郎さんと話したいと伝えるわね。」

敬一は時尾に僅かに慌てて小さい声で話し出す。

「斉藤さんは忙しいですよね。今の話は斉藤さんに伝えなくて良いです。」

時尾は敬一を微笑んで見た。

敬一は剛を寂しく見た。

勉は敬一に笑顔で話し出す。

「おにいちゃん。えがお。」

敬一は勉を微笑んで見た。

勉は敬一を笑顔で見た。

剛は床の中で静かに眠っている。

時尾は、勉、剛、敬一を微笑んで見た。



暫く後の事。



ここは、藤田五郎の家。



敬一は既に居ない。

藤田五郎は仕事のために居ない。

時尾、勉、剛は居る。



ここは、玄関。



藤田五郎は普通に帰ってきた。



時尾は微笑んで来た。

勉は笑顔で来た。



藤田五郎は時尾と勉に普通の表情で頷いた。

時尾は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「お帰りなさいませ。」

勉は藤田五郎に笑顔で話し出す。

「おかえり。」

藤田五郎は時尾と勉に普通の表情で頷いた。

勉は藤田五郎に笑顔で話し出す。

「おにいちゃん。さみしい。おとうさん。あう。おにいちゃん。えがお。」

藤田五郎は勉を普通の表情で見た。

時尾は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「今日は敬一君が家に来ました。」

藤田五郎は時尾に普通に話し出す。

「詳しい話は家の中で聞く。」

時尾は藤田五郎に微笑んで軽く礼をした。

勉は藤田五郎と時尾を笑顔で見た。



勉は家の中に笑顔で入っていった。

藤田五郎は家の中に普通に入って行った。

時尾は家の中に微笑んで入って行った。



暫く後の事。



ここは、藤田五郎の家。



食卓の有る部屋。



藤田五郎は杯の酒を普通の表情で飲んでいる。

時尾は微笑んで居る。

食卓に、酒と肴やおかずが載っている。



藤田五郎は杯の酒を飲みながら、時尾に普通に話し出す。

「敬一に何か遭ったのか?」

時尾は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「敬一君が五郎さんは元気かと尋ねました。私が五郎さんは元気だと答えました。敬一君は話が終わった後に、剛を見て寂しい表情になりました。勉が敬一君に笑顔と話すと、敬一君は笑顔になりました。」

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、時尾に普通に話し出す。

「敬一が次に訪ねる日は何日後になる?」

時尾は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「敬一君は明日も訪ねて良いか話しました。了承の返事をしました。」

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、時尾に普通の表情で頷いた。

時尾は藤田五郎を微笑んで見た。

藤田五郎は杯の酒を飲みながら、時尾を普通の表情で見た。



翌日の事。



ここは、東京。



敬一と美鈴の住む家。



食卓の有る部屋。



美鈴は微笑んで居る。

食卓に、ご飯とおかずが載っている。



敬一は微笑んで来た。



敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「お母さん。おはよう。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。おはよう。」

敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「昨日の夕飯と今日の朝食は、僕の好きなおかずばかりだね。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「献立を考えていたら、偶然に敬一の好きなおかずになったの。」

敬一は美鈴を微笑んで見た。

美鈴も敬一を微笑んで見た。

敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「いただきます。」

美鈴も敬一に微笑んで話し出す。

「いただきます。」

敬一は朝食を美味しく食べ始めた。

美鈴は朝食を微笑んで食べ始めた。



暫く後の事。



ここは、藤田五郎の家。



藤田五郎は仕事のために居ない。

時尾、勉、剛は居る。

敬一も居る。



ここは、食卓の有る部屋。



時尾は微笑んで居る。

勉は笑顔で居る。

敬一は微笑んで居る。



敬一は時尾に微笑んで話し出す。

「帰ります。」

時尾は敬一に微笑んで話し出す。

「五郎さんが敬一君に逢いたいと話していたの。五郎さんは敬一君に逢えないと残念に思うわ。少しの時間で良いから待ってもらえるかしら。」

敬一は時尾に微笑んで話し出す。

「分かりました。斉藤さんの帰りを待ちます。」

勉は敬一に笑顔で話し出す。

「おにいちゃん。いっしょ。いる。」

敬一は勉に微笑んで頷いた。

勉は敬一を笑顔で見た。



玄関から音が聞こえた。



時尾は敬一に微笑んで話し出す。

「五郎さんが帰ってきたわ。」

敬一は時尾に微笑んで話し出す。

「はい。」



時尾は微笑んで居なくなった。



勉は敬一に笑顔で話し出す。

「おとうさん。おにいちゃん。はなす。」

敬一は勉に微笑んで頷いた。

勉は敬一を笑顔で見た。



藤田五郎は普通に来た。

時尾は微笑んで来た。



敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「斉藤さん。お帰りなさい。」

勉は藤田五郎に笑顔で話し出す。

「おかえり。」

藤田五郎は勉と敬一に普通の表情で頷いた。

時尾は藤田五郎を微笑んで見た。

藤田五郎は時尾に普通に話し出す。

「敬一と家で話すと、敬一の帰る時間が遅くなる。敬一を家まで送りながら話す。」

時尾は藤田五郎に微笑んで軽く礼をした。

勉は藤田五郎に笑顔で話し出す。

「いってらっしゃい。」

藤田五郎は時尾と勉に普通の表情で頷いた。

敬一は藤田五郎を僅かに慌てた様子で見た。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「敬一。行くぞ。」

敬一は藤田五郎を僅かに慌てた様子で見ている。



藤田五郎は普通に居なくなった。

勉は笑顔で居なくなった。

敬一は僅かに慌てた様子で居なくなった。

時尾は微笑んで居なくなった。



少し後の事。



ここは、東京。



空の色が夕方の気配を見せ始めている。



藤田五郎は普通に歩いている。

敬一は藤田五郎を見ながら、不思議な様子で歩いている。



藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「敬一。俺に隠し事は無駄だ。遠慮せずに話せ。」

敬一は藤田五郎を僅かに動揺して見た。

藤田五郎は敬一を普通の表情で見た。

敬一は藤田五郎に考え込んで話し出す。

「少し前の出来事になりますが、“言とはぬ木すら 春咲き秋づけば もみち散らくは 常を無みこそ”という歌を知りました。剛君が生まれてから、斉藤さんに逢う時間が減ったので、不安になりました。僕は斉藤さんと永く過ごしたいです。斉藤さんと永く過ごせるのか不安になりました。」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「剛が生まれてから暫くの間は、時尾の母親が家に居た。敬一に家に来る回数を控えるように話した。結果、敬一と逢う時間が減った。敬一が不安になるのは仕方がない。」

敬一は藤田五郎に考え込んで話し出す。

「“言とはぬ木すら 春咲き秋づけば もみち散らくは 常を無みこそ”。斉藤さん。“変わらないものは、無い”ですか? “変わらないものは、有る”ですか?」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「“変わらないものは無い”。“変わらないものは有る”。共に答えだ。」

敬一は藤田五郎を寂しく見た。

藤田五郎は敬一を普通の表情で見た。

敬一は藤田五郎に寂しく話し出す。

「藤田さん。僕は一人で帰ります。送って頂いてありがとうございました。」

藤田五郎は敬一を普通の表情で見た。



敬一は寂しく走り出した。



藤田五郎は敬一を普通の表情で見た。



僅かに後の事。



ここは、東京。



敬一は寂しく走っている。



敬一は後ろから肩を普通に掴まれた。



敬一は立ち止まると、後ろを寂しく見た。



藤田五郎は敬一の肩を掴んで、敬一を普通の表情で見ている。



敬一は藤田五郎を寂しく見た。

藤田五郎は敬一の肩を普通に放した。

敬一は藤田五郎を寂しく見ている。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「話を全て聞く前に結論を出す行為。話を全て聞く前に寂しがる行為。話を全て聞く前に居なくなる行為。俺は総司と話す時に幾度も経験した行為だ。総司と敬一は、一度も逢っていないのに似ている。総司と敬一は、親子だと実感する。」

敬一は藤田五郎を不思議な様子で見た。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「俺は、“変わらないものは無い”が正しく思う人物に逢った。俺は、“変わらないものは無い”が正しく思う出来事を見聞きした。」

敬一は藤田五郎を寂しく見た。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「俺にとって、京都は大切な場所だが、会津は更に大切な場所だ。俺にとって、京都は会津より大切な場所にならない。俺にとっての“変わらないものは有る”だ。」

敬一は藤田五郎に寂しく話し出す。

「斉藤さんにとって、お父さん、お母さん、僕は、“変わらないものは有る”にならないのですね。」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「総司、美鈴さん、敬一は、俺だけでなく、時尾と勉にとっても大切な人物だ。剛にとっても、大切な人物になるはずだ。」

敬一は藤田五郎を寂しく見た。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「敬一に、時期を見て話したいと考える想いがある。良い機会だから、今から話す。」

敬一は藤田五郎を不思議な様子で見た。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「俺は会津を永久に眠る地にしたいと考えている。時尾も同じ想いだと考えている。」

敬一は藤田五郎に寂しく話し出す。

「今の斉藤さんにとって、“新撰組 三番組組長 斉藤一”より、“会津藩士 藤田五郎”が、大切なのですね。」

藤田五郎は敬一に普通の表情で頷いた。

敬一は藤田五郎に寂しく話し出す。

「藤田さんの想いに長く気付かなくてごめんなさい。これからは、藤田さんと呼びます。」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「敬一にとって、“斉藤一”は大切な名前なのだろ。美鈴さんは敬一が“斉藤一”で呼ぶ行為を止めないのだろ。敬一が想う呼び名で呼べ。」

敬一は藤田五郎を悩んで見た。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「敬一。悩むな。」

敬一は藤田五郎に悩んで小さい声で話し出す。

「斉藤さん。」

藤田五郎は敬一に普通の表情で頷いた。

敬一は藤田五郎を微笑んで見た。



藤田五郎は普通に歩き出した。

敬一は微笑んで歩き出した。



敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「斉藤さん。お母さんに、斉藤さんは会津を永久に眠る地にしたいと考えていると話しても良いですか?」

藤田五郎は敬一に普通の表情で頷いた。

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「昨日の夕飯、今日の朝食と昼食は、僕の好きなおかずでした。お母さんは僕を心配していたのでしょうか?」

藤田五郎は敬一に普通の表情で頷いた。

敬一は藤田五郎を微笑んで見た。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「美鈴さんの総司への想いと敬一への想いは、“言とはぬ木すら 春咲き秋づけば もみち散らくは 常を無みこそ”の歌が当てはまらない。」

敬一は藤田五郎を微笑んで見た。

藤田五郎は敬一を普通の表情で見た。



「言とはぬ木すら 春咲き秋づけば もみち散らくは 常を無みこそ」



明治の次の時代に、藤田五郎は永久の眠りに就いた。

藤田五郎が永久の眠りに就いてから数年後。

時尾も藤田五郎と同じ地で永久の眠りに就いた。



藤田五郎の答えは、“変わらないものは有る”、なのかも知れない。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語に登場する歌は「万葉集 第十九巻 四一六一番」

「言とはぬ木すら 春咲き秋づけば もみち散らくは 常を無みこそ」

ひらがなの読み方は「ことはぬきすら はるさきあきづけば もみちちらくは つねをなみこそ」

作者は「大伴宿禰家持(おおとものくすねやかもち)」

歌の意味は「物言わぬ木でさえ、春には花を咲かせ、秋には紅葉して葉を散らせるのは、変わらないものは何一つ無いからなのでしょう。」となるそうです。

原文は「言等波奴 木尚春開 秋都氣婆 毛美知遅良久波 常乎奈美許曽」

藤田五郎さん、藤田時尾さん、藤田勉さんは、福島県会津若松市に在る寺(今回は寺の名前は伏せます)で永遠の眠りに就いています。

この福島県会津若松市に在る寺には、戊辰戦争・会津戦争で亡くなった会津藩士の方達が埋葬されています。

藤田五郎さんの希望で、この福島県会津若松市に在る寺に埋葬されたそうです。

この福島県会津若松市に在る寺は、慶長時代に開山されました。

物語の設定当時には既に在る寺です。

戊辰戦争・会津戦争で亡くなった会津藩士の方達は、直ぐに埋葬する事が許されなかったそうです。

やっと許された埋葬ですが、埋葬場所は、この福島県会津若松市に在る寺、福島県会津若松市に在る寺(今回は寺の名前は伏せます)の二ヶ所に限られたそうです。

藤田五郎さんがこの福島県会津若松市に在る寺でお墓などの用意を始めたのは、物語の設定時よりかなり後の事になります。

会津戦争は、明治元年(1868年)8月下旬〜9月末日に掛けて起きた戦争です。

現在の暦で、10月上旬〜11月下旬になります。

「楓蔦黄(もみじつたきばむ)」は、二十四節気の「霜降(そうこう)」の七十二候の末候です。

「もみじや蔦が黄葉する」の意味です。

「霜降(そうこう)」は、10月23日頃、または、10月23日頃から「立冬(りっとう)」(11月7日頃)までの期間をいいます。

露が冷気によって霜となって降り始める頃です。

この日から立冬までの間に吹く寒い北風を「木枯らし」と呼びます。

楓や蔦が紅葉し始める頃です。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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