このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

〜 雪月花 新撰組異聞外伝 編 〜


〜 新緑の中で 我が心からなつかしみ思ふ 〜


〜 改訂版 〜


登場人物

藤田五郎、藤田時尾、藤田勉、敬一[沖田総司の息子]、美鈴[敬一の母、沖田総司の妻]




「見れど飽かぬ 人国山の 木の葉をし 我が心から なつかしみ思ふ」

「万葉集 第七巻 一三〇五番」より

作者:柿本人麻呂(かきのもとひとまろ)歌集より




時は明治。



治世が幕府から政府に移って幾年か経った。



幕府側で政府に最後まで抵抗した本人や身内への扱いは冷たい。

本人も身内も静かに暮らす者が多い。



沖田総司は新撰組の一番組組長を務めていた。

新撰組の隊士の中では名前が知られる一人になる。



沖田総司は、幕府の治世の途中で病になり、幕府と政府の戦いにほとんど加われなかった。

幕府と政府の戦いの結末を知らずに療養先で亡くなった。

新撰組隊士として亡くなったため、戦いにほとんど加わっていなくても、世間では幕府側の人物と考えられている。



沖田総司の幼い息子の敬一と母親の美鈴は、沖田総司の身内と気付かれないように暮らしている。



敬一と美鈴は、制限のある暮らしではあるが、穏やかに暮らしている。



今は初夏。



ここは、京都。



過ごし易い日が続いている。



新緑に包まれている。



青空が広がっている。



陽の光が新緑に当たり輝いている。



ここは、幼い敬一と美鈴の住む家。



一室。



縁の傍。



敬一は笑顔で居る。

美鈴は微笑んで縫い物をしている。



敬一は外を笑顔で見た。

美鈴は縫い物を止めると、敬一を微笑んで見た。

敬一は美鈴を見ると、美鈴に笑顔で話し出す。

「はっぱ。みどり。きれい。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「今は新緑の季節だから、葉の色が綺麗ね。」

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「もみじ。みどり。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「青紅葉も綺麗ね。」

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「あおもみじ。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「紅色に色付く前の楓の呼び名よ。」

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「あおもみじ。べんきょう。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「話しながら勉強しているわね。」

敬一は美鈴に笑顔で頷いた。

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「良い機会だから、勉強を続けましょう。青紅葉の別な呼び名も教えるわね。」

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「べんきょう。おしえて。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「若楓。若葉の萌え出ている楓の呼び名よ。」

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「わかかえで。」

美鈴は敬一に微笑んで頷いた。

敬一は美鈴を笑顔で見た。

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。少し経ったらお昼寝をしましょう。」

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「ねむくない。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「床の中で話しましょう。」

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「あおもみじ。おきて。みる。はなす。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「青紅葉を見ながら、少しだけ話しましょう。」

敬一は美鈴に笑顔で頷いた。

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「青紅葉を見ると、穏やかな気持ちになるの。敬一の笑顔を見ると、穏やかな気持ちになるの。お父さんの笑顔を見ると、穏やかな気持ちになるの。」

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「ぼく。おとうさん。あおもみじ。おなじ。」

美鈴は敬一に微笑んで頷いた。

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「ぼく。おかあさん。えがお。みる。おだやか。おなじ。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。ありがとう。」

敬一は美鈴を笑顔で見た。

美鈴は敬一を微笑んで見た。



暫く後の事。



ここは、敬一と美鈴の住む家。



一室。



敬一は床の中で静かに寝ている。

美鈴は微笑んで居る。



美鈴は敬一に微笑んで呟いた。

「“見れど飽かぬ 人国山の 木の葉をし 我が心から なつかしみ思ふ”。」

敬一は床の中で静かに寝ている。

美鈴は敬一に微笑んで呟いた。

「“見飽きることの無い、人国山の木の葉のことを、心から慕わしく思っています。”。お母さんも同じよ。」

敬一は床の中で静かに寝ている。

美鈴は敬一を微笑んで見た。



幾つもの季節が過ぎた。



敬一と美鈴は、京都から東京に住まいを替えて過ごしている。



今は初夏。



ここは、東京。



過ごし易い日が続いている。



新緑に包まれている。



青空が広がっている。



陽の光が新緑に当たり輝いている。



ここは、敬一と美鈴の住む家。



縁。



敬一は笑顔で雑巾がけをしている。



敬一は雑巾がけを笑顔で終えた。

敬一は庭と外を笑顔で見た。



青空が広がっている。



陽の光が新緑に当たり輝いている。



敬一は青空と新緑を笑顔で見た。



美鈴は微笑んで来た。



敬一は美鈴を笑顔で見た。

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「今日も綺麗ね。」

敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「新緑が陽の光に当たって輝いて綺麗だね。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「新緑が陽の光に当たって輝く様子は綺麗だけど、お母さんが綺麗だと表現したのは、敬一が雑巾がけをして綺麗になった縁よ。」

敬一は美鈴を恥ずかしく見た。

美鈴は敬一を微笑んで見た。

敬一は美鈴に恥ずかしく話し出す。

「お母さん。青紅葉が綺麗だよね。青紅葉を見に行こう。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。稽古や勉強に影響は出ない? 大丈夫?」

敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「稽古も勉強も大事だけど、親孝行は更に大事だよね。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。お母さんを気遣ってくれてありがとう。」

敬一は美鈴を微笑んで見た。

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「日時と場所。敬一に任せるわ。」

敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「分かった。」

美鈴は敬一を微笑んで見た。

敬一も美鈴を微笑んで見た。



翌日の事。



ここは、藤田五郎、妻の時尾、幼い息子の勉の住む家。



藤田五郎は、仕事で居ない。

時尾と勉は、普段どおりに居る。

敬一が、訪ねている。



一室。



縁。



青空の広がる様子が見える。



庭に植わる新緑の木が陽の光に当たり輝いている。



時尾は微笑んで居る。

勉は笑顔で居る。

敬一は微笑んで居る。

時尾の傍、勉の傍、敬一の傍には、焙じ茶とお菓子が置いてある。



敬一は焙じ茶を飲みながら、勉に微笑んで話し出す。

「勉君。新緑が綺麗だね。」

勉は焙じ茶を飲みながら、敬一に笑顔で話し出す。

「きれい。」

敬一は焙じ茶を飲みながら、勉に微笑んで話し出す。

「青紅葉が陽の光に当たって輝く様子も綺麗だと思うんだ。」

勉は焙じ茶を飲みながら、敬一に不思議な様子で話し出す。

「あおもみじ?」

時尾は焙じ茶を飲みながら、勉に微笑んで話し出す。

「青紅葉は、緑色の楓を差す言葉なの。」

勉は焙じ茶を飲みながら、時尾と敬一に笑顔で話し出す。

「あおもみじ。きれい。」

敬一は焙じ茶を飲みながら、時尾と勉を微笑んで見た。

時尾も焙じ茶を飲みながら、勉と敬一を微笑んで見た。

敬一は焙じ茶を飲みながら、時尾に微笑んで話し出す。

「僕は青紅葉の呼び名が好きです。今の季節は、若楓の呼び名が合うと思いますが、お母さんと話す時は、青紅葉の呼び名を多く使って話します。」

時尾は焙じ茶を飲みながら、敬一に微笑んで話し出す。

「若楓。青紅葉。共に素敵な呼び名だと思うわ。」

敬一は焙じ茶を飲みながら、時尾に微笑んで話し出す。

「はい。」

時尾は焙じ茶を飲みながら、敬一に微笑んで話し出す。

「敬一君。私と勉と話す時も、青紅葉の呼び名で話す回数が多いわ。青紅葉の呼び名を好きな様子が分かるわ。」

敬一は焙じ茶を飲みながら、時尾に微笑んで話し出す。

「僕にとって、斉藤さんも時尾さんも勉君も、大切です。斉藤さんも時尾さんも勉君も、僕の気持ちと僕の考えを理解してくれます。僕は安心して青紅葉と話せます。」

勉は焙じ茶を飲みながら、時尾と敬一に笑顔で話し出す。

「うれしい。」

時尾は焙じ茶を飲みながら、勉に微笑んで話し出す。

「お母さんも嬉しいわ。」

敬一は焙じ茶を飲みながら、時尾と敬一を微笑んで見た。

時尾は焙じ茶を飲みながら、敬一に微笑んで話し出す。

「敬一君。お菓子を追加して用意するわ。少し待っていてね。」

敬一は焙じ茶を飲むのを止めると、時尾に慌てて話し出す。

「僕はお菓子をたくさんもらうために話した内容ではありません!」

時尾は焙じ茶を飲みながら、敬一に微笑んで話し出す。

「五郎さんと私と勉からの感謝の気持ちとして、お菓子を受け取って。」

勉は焙じ茶を飲みながら、敬一に笑顔で話し出す。

「ありがと。」

敬一は時尾と勉を微笑んで見た。

勉は焙じ茶を飲みながら、敬一を笑顔で見た。

敬一は時尾に微笑んで話し出す。

「時尾さん。突然ですが、話題を変えます。今は青紅葉が綺麗です。天気の良い日に、お母さんと一緒に青紅葉を見に行きます。お母さんと一緒に、青紅葉、葉、樹木、などを詠んだ歌について話したいです。時尾さん。良い歌を知りませんか?」

時尾は焙じ茶を飲みながら、敬一に微笑んで話し出す。

「“見れど飽かぬ 人国山の 木の葉をし 我が心から なつかしみ思ふ”。掲載は、“万葉集 第七巻 一三〇五番”。作者は、分からないそうよ。」

敬一は焙じ茶を飲みながら、時尾に微笑んで話し出す。

「“見れど飽かぬ 人国山の 木の葉をし 我が心から なつかしみ思ふ”。掲載は、“万葉集 第七巻 一三〇五番”。作者は、分からない。」

時尾は焙じ茶を飲みながら、敬一に微笑んで話し出す。

「歌の意味は、“見飽きることの無い、人国山の木の葉のことを、心から慕わしく思っています。”、となるそうよ。“木の葉”は、“思いを寄せる人のこと”、“人国山”は、“具体的な山の事を言っていないのではないか”、と言われているそうよ。」

敬一は焙じ茶を飲みながら、時尾に微笑んで話し出す。

「素敵な歌を教えて頂いてありがとうございます。」

勉は焙じ茶を飲みながら、時尾に笑顔で話し出す。

「おかあさん。このは。したう。」

時尾は焙じ茶を飲みながら、勉に微笑んで頷いた。

敬一は焙じ茶を飲みながら、時尾と勉を微笑んで見た。



暫く後の事。



ここは、東京。



空の色が僅かに橙色に染まる気配がある。



藤田五郎は小さい包みを持ち、普通に歩いている。

敬一は微笑んで歩いている。



敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「斉藤さんと青紅葉を含めた新緑を見ながら話しが出来ます。嬉しいです。」

藤田五郎は小さい包みを持ち、敬一を普通の表情で見た。

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「斉藤さんの持つ包みは、僕がお土産に頂いたお菓子が入っています。斉藤さんは包みを長く持っています。申し訳ないです。僕が包みを持ちます。」

藤田五郎は小さい包みを持ち、敬一に普通に話し出す。

「俺達にとって、敬一は大切な人物だ。今日は、俺の仕事が予定早く終わったから、敬一と共に話す時間を作るために家まで送っている。俺は敬一の傍に居る。敬一に荷物を持たせる訳にはいかない。遠慮するな。」

敬一は藤田五郎を微笑んで見た。

藤田五郎は小さい包みを持ち、敬一を普通の表情で見た。

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「“見れど飽かぬ 人国山の 木の葉をし 我が心から なつかしみ思ふ”。」

藤田五郎は小さい包みを持ち、敬一を普通の表情で見ている。

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「近い内に、お母さんと一緒に青紅葉を見ます。時尾さんから、お母さんと一緒に青紅葉を見ながら話せる良い歌として教えてもらいました。」

藤田五郎は小さい包みを持ち、敬一を普通の表情で見ている。

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「“木の葉”は、“思いを寄せる人のこと”、“人国山”は、“具体的な山の事を言っていないのではないか”、と言われていると教えてくれました。時尾さんは、斉藤さんと勉君が該当すると話しました。」

藤田五郎は小さい包みを持ち、敬一に普通に話し出す。

「美鈴さんに同じ質問をしたら、総司と敬一、を即答する。」

敬一は藤田五郎を恥ずかしく見た。

藤田五郎は小さい包みを持ち、敬一に普通に話し出す。

「時尾は会津で長く過ごしていた。“木の葉”が人物も場所も該当する場合は、会津、も加えて答えると思う。」

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「“木の葉”が人物も場所も該当する場合。時尾さんの答えは、斉藤さん、勉君、斉藤さんの居る場所、勉君の居る場所、会津、になると思います。」

藤田五郎は小さい包みを持ち、敬一を普通の表情で見た。

敬一は藤田五郎を微笑んで見た。

藤田五郎は小さい包みを持ち、敬一に普通に話し出す。

「“木の葉”が人物も場所も該当する場合。美鈴さんの答えは、総司、敬一、敬一の居る場所、京都、になる。」

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「斉藤さん。答えが足りないです。」

藤田五郎は小さい包みを持ち、敬一を普通の表情で見た。

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「足りない答えは、斉藤さん、斉藤さんの居る場所、です。」

藤田五郎は小さい包みを持ち、敬一を普通の表情で見ている。

敬一は藤田五郎を微笑んで見た。

藤田五郎は小さい包みを持ち、敬一に普通に話し出す。

「敬一。青紅葉を含めた新緑を見ながら話さずに、俺を見ながら話している。青紅葉を含める新緑を見ながら話していない。良いのか?」

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「斉藤さんは僕より背が高いです。斉藤さんに話す時は、斉藤さんも青紅葉を含める新緑も、見えます。安心してください。」

藤田五郎は小さい包みを持ち、敬一を普通の表情で見た。

敬一は藤田五郎を微笑んで見た。




「見れど飽かぬ 人国山の 木の葉をし 我が心から なつかしみ思ふ」

敬一は藤田五郎の答えを知りたいと思う。

藤田五郎の性格から考えると、答える機会は無いと思う。

人物も場所も含めると、藤田五郎の答えは増えると思う。

敬一は新緑を見ながら、藤田五郎の答えを想像する。

敬一の今回の想像する答えは、新緑のみに教えたいと思った。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語は既に掲載している物語の改訂版です。

改訂前の物語の展開や雰囲気を出来るだけ残して改訂しました。

改訂前の物語を掲載するのは止めました。

以上、ご了承願います。

ここからは改訂前の後書きを加筆訂正して書きます。

この物語に登場する歌は「万葉集 第七巻 一三〇五番」

「見れど飽かぬ 人国山の 木の葉をし 我が心から なつかしみ思ふ」

ひらがなの読み方は「みれどあかぬ ひとくにやまの このはをし わがこころから なつかしみおもふ」

作者は「柿本人麻呂(かきのもとひとまろ)歌集より」

歌の意味は「見飽きることの無い、人国山(ひとくにやま)の木の葉のことを、心から慕わしく思っています。」となるそうです。

原文は「雖見不飽 人國山 木葉 己心 名著念」

「人国山(ひとくにやま)」がどこかは、はっきりとしていないそうです。

「木の葉」は思いを寄せる人のことで、「人国山」は具体的な山の事を言っていないのではないか、とも言われているそうです。

この物語の補足です。

「青紅葉(あおもみじ)」についてです。

「まだ紅葉しない楓」、または、「襲(かさね)の色目の名前。表は、萌黄色(もえぎいろ)。裏は、朽葉色(くちばいろ)。秋に用いた。」をいいます。

この物語では「まだ紅葉しない楓」を差しています。

「若楓(わかかえで)」についてです。

「楓の若木。または、若葉の萌え出ている楓。」(夏の季語)、または、「襲(かさね)の色目の名前。表は、萌黄色(もえぎいろ)。裏は、薄紅梅。または、表は、薄青、裏は、薄紅。」、をいいます。

この物語では「楓の若木。または、若葉の萌え出ている楓。」(夏の季語)を差しています。

「新緑(しんりょく)」についてです。

「夏の初めの頃の、若葉の艶やかな緑色。また、その立ち木。」です。

夏の季語です。

楽しんで頂けると嬉しいです。





←前            目次            次→


このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください