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〜 雪月花 新撰組異聞外伝 編 〜


〜 秋の夜長と紅葉 燃ゆる思ひを 〜


〜 改訂版 〜


登場人物

沖田総司、藤田五郎、藤田時尾、敬一[沖田総司の息子]、美鈴[沖田総司の妻、敬一の母]




「かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしも知らじな 燃ゆる思ひを」

「小倉百人一首 五十一番」、及び、「後拾遺集」

作者:藤原実方朝臣(ふじわらのさねかたのあそん)




藤田五郎と時尾が祝言を挙げてから初めての年を越した。



幾つかの季節が過ぎた。



秋の季節になった。



ここは、東京。



日中は過ごしやすい日が続いている。

夜になると僅かに寒さを感じる時がある。



空の色がゆっくりと橙色に染まり始めた。



ここは、藤田五郎と時尾の住む家。



藤田五郎は仕事を終えて家に居る。

時尾は普段どおりに家に居る。



台所。



時尾は微笑んで夕飯の支度をしている。



藤田五郎の部屋。



藤田五郎は普通に居る。



庭。



季節はずれの桜が咲き始めた。



藤田五郎は、庭の桜が咲く様子に気付いている。

藤田五郎以外の人達は、庭の桜の咲く様子に気付いていない。



僅かに後の事。



ここは、藤田五郎と時尾の住む家。



時尾の部屋の前に在る縁。



沖田総司が時尾の部屋の中に静かに入ろうとした。



沖田総司の横から、藤田五郎の強い視線を感じた。



沖田総司は横を苦笑して見た。



藤田五郎が沖田総司を普通の表情で見ている。



沖田総司は藤田五郎を苦笑して見た。

藤田五郎は沖田総司に普通に話し出す。

「俺への用事ではなく、時尾への用事があるのか?」

沖田総司は藤田五郎を苦笑して話し出す。

「時尾さんに用事があると言えば、時尾さんに用事があります。」

藤田五郎は沖田総司に普通に話し出す。

「総司。俺の部屋で続きを話せ。」

沖田総司は藤田五郎に苦笑して話し出す。

「はい。」

藤田五郎は沖田総司を普通の表情で見た。



沖田総司は苦笑して歩き出した。

藤田五郎は普通に歩き出した。



僅かに後の事。



ここは、藤田五郎と時尾の住む家。



藤田五郎の部屋。



沖田総司は苦笑して居る。

藤田五郎は普通に居る。



沖田総司は藤田五郎に苦笑して話し出す。

「斉藤さん。勘が良いです。さすがです。」

藤田五郎は沖田総司に普通に話し出す。

「総司の様子が思い切り変だった。総司の姿の見えない場所に居る状況は、不便だ。総司の姿を常に見られる場所に居る状況に変えた。」

沖田総司は藤田五郎に苦笑して話し出す。

「私の態度。変ですか?」

藤田五郎は沖田総司に普通に話し出す。

「“変”、ではない。“思い切り変”、だ。」

沖田総司は藤田五郎を苦笑して見た。

藤田五郎は沖田総司に普通に話し出す。

「総司の変な行動については、一旦、置く。話を戻す。総司。時尾への用意は何だ?」

沖田総司は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「時尾さんに渡したい文があります。」

藤田五郎は沖田総司に普通に話し出す。

「時尾に総司の姿は見えない。時尾は総司の書いた手紙を読めない。」

沖田総司は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「斉藤さんの話すとおりです。私の話す条件を叶える方法として、斉藤さんに私の代わりに文を書いて欲しいと頼む予定でした。」

藤田五郎は沖田総司を普通の表情で見た。

沖田総司は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「私の望みは、歌のみを書いた文、綺麗に色付く紅葉を一枚、用意します。文の上に紅葉を載せて置きます。」

藤田五郎は沖田総司に普通に話し出す。

「総司が手紙に書いて欲しい歌を教えろ。」

沖田総司は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「“かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしも知らじな 燃ゆる思ひを”。」

藤田五郎は沖田総司に普通に話し出す。

「思い切り直接的な歌だ。今の歌を総司が時尾に贈りたいのか?」

沖田総司は藤田五郎に慌てて話し出す。

「実は! 私が時尾さんに贈りたい歌ではなくて、斉藤さんが時尾さんに贈って欲しい歌です!」

藤田五郎は沖田総司に普通に話し出す。

「ふ〜ん。」

沖田総司は藤田五郎に動揺して話し出す。

「私は近藤さんや土方さんとは違います! 信じてください!」

藤田五郎は沖田総司に普通に話し出す。

「信じるも何も、総司には美鈴さんがいる。総司が方々に細やかな対応は出来ない。総司の話を聞くだけで、美鈴さんへの想いが伝わる。」

沖田総司は藤田五郎に苦笑して話し出す。

「疑われていない状況が分かりました。安心しました。」

藤田五郎は沖田総司を普通の表情で見た。

沖田総司は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「今の歌は、小倉百人一首に選ばれた歌です。今の歌は多くの人達が知っています。斉藤さんと時尾さんは、祝言を挙げています。斉藤さんが時尾さんに今の歌を贈っても、時尾さんは不思議に感じないと思います。時尾さんは会津藩で祐筆を勤めていました。歌の贈り物には、良い歌だと思います。」

藤田五郎は沖田総司に普通に話し出す。

「今の総司が美鈴さんに贈りたい歌なのか。」

沖田総司は藤田五郎を驚いた表情で見た。

藤田五郎は沖田総司を普通の表情で見た。

沖田総司は藤田五郎に寂しい微笑みで話し出す。

「私は、相手に感謝が伝えられません。私は、相手に贈り物を渡せません。」

藤田五郎は沖田総司に普通に話し出す。

「総司。美鈴さんの居場所を知っているだろ。美鈴さんの居場所を教えろ。美鈴さんの様子を確認する。」

沖田総司は藤田五郎に寂しい微笑みで首を横に振った。

藤田五郎は沖田総司を普通の表情で見た。

沖田総司は藤田五郎に寂しい微笑みで話し出す。

「鈴には私の姿が見えません。鈴に私の姿が見えない状況は、切なさを感じず、悲しさを感じず、無事に生活している証拠です。私の姿が見える人物は、斉藤さんのみです。だからと言って、斉藤さんに迷惑は掛けられません。」

藤田五郎は沖田総司に普通に話し出す。

「俺が総司の選んだ歌を時尾に贈る行為。俺にとって迷惑な行為に該当すると思わないのか?」

沖田総司は藤田五郎に慌てて話し出す。

「言われてみれば、斉藤さんの話すとおりです!」

藤田五郎は沖田総司を普通の表情で見た。

沖田総司は藤田五郎に申し訳なく話し出す。

「すいません。」

藤田五郎は沖田総司に普通に話し出す。

「今は、紅葉の季節に僅かに早い。少し経ったら、時尾に歌を贈る。」

沖田総司は藤田五郎を微笑んで見た。

藤田五郎は沖田総司に普通に話し出す。

「総司。俺が向こうに行った時が、物凄く楽しみだ。期待して待っている。」

沖田総司は藤田五郎を苦笑して見た。

藤田五郎は沖田総司に普通に話し出す。

「総司の怪しい言動を監視するのは面倒だった。早く解決した。嬉しい。」

沖田総司は藤田五郎を苦笑して見ている。

藤田五郎は沖田総司に普通に話し出す。

「今から美鈴さんの所に行くのか?」

沖田総司は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「はい。」

藤田五郎は沖田総司に普通の表情で頷いた。

沖田総司は藤田五郎に微笑んで軽く礼をした。

藤田五郎は沖田総司に普通の表情で頷いた。



沖田総司は微笑んで、静かに居なくなった。



藤田五郎は障子を普通の表情で開けた。

藤田五郎は庭を普通の表情で見た。



庭の様子は普段と変わらない。

桜の花が咲いた様子もない。



藤田五郎は障子を普通の表情で閉めた。



僅かに後の事。



夜空には綺麗な月が浮かんでいる。



ここは、沖田総司の息子と敬一と母親の美鈴の住む家。



一室。



敬一は畳の上で横になって眠っている。



美鈴は微笑んで来た。



敬一は気持ち良く眠り続けている。

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。起きなさい。風邪をひくわよ。」

敬一は眠い表情で、ゆっくりと体を起こした。

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「床の支度は出来ているわ。早く寝なさい。」

敬一は美鈴に眠い様子で話し出す。

「気持ちの良い夜だね。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「気持ちの良い夜ね。」

敬一は美鈴に眠い様子で話し出す。

「お母さん。お休みなさい。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「お休みなさい。」



敬一は眠い表情でゆっくりと立ち上がった。



美鈴は敬一を微笑んで見た。



敬一は眠い表情で寝る支度を始めた。



直後の事。



ここは、敬一と美鈴の住む家から僅かに離れた場所。



沖田総司は敬一と美鈴の住む家を寂しい表情で見ている。



沖田総司は敬一と美鈴の住む家を見ながら、寂しく呟いた。

「“かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしも知らじな 燃ゆる思ひを”。鈴は私が言わなくても全て分かっているから、今の歌の状況とは違うね。鈴。敬一。迷惑をたくさん掛けているね。ご免ね。」



沖田総司は寂しい表情で、静かに居なくなった。



幾日か後の事。



ここは、東京。



紅葉が紅色に彩る姿を見掛けるようになった。



ここは、藤田五郎と時尾の住む家。



藤田五郎は仕事のために家に居ない。

時尾は普段どおりに家事をしている。



暫く後の事。



ここは、藤田五郎と時尾の住む家。



時尾は洗濯や掃除を微笑んで終えた。



時尾の部屋。



時尾は部屋の中に微笑んで入った。



机の上に、綺麗な紅色の紅葉を一枚のみ載せた手紙が置いてある。



時尾は手紙の上に載る紅葉を取ると、紅葉を微笑んで見た。



紅葉は綺麗な紅色に色付いている。



時尾は紅葉を机の上に微笑んで置いた。

時尾は手紙を取ると、宛名を不思議な様子で確認した。



藤田五郎が時尾に宛てた手紙になる。



時尾は手紙を持ち、手紙を不思議な様子で読み始めた。



「かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしも知らじな 燃ゆる思ひを」



手紙には、小倉百人一首に選ばれた歌が一首のみ書いてある。



時尾は手紙を持ち、手紙の書かれた歌を読むと、微笑んで呟いた。

「五郎さん。何か言われたのかしら。お礼は何が良いのかしら。」

時尾は手紙を持ち、紅葉を微笑んで取った。



時尾は手紙と紅葉を持ち、部屋を微笑んで出て行った。



「かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしも知らじな 燃ゆる思ひを」

沖田総司の想いは、敬一に伝わっている。

沖田総司の想いは、美鈴に伝わっている。

沖田総司の想いは、藤田五郎に伝わっている。

藤田五郎の想いは、時尾に伝わっている。

藤田五郎の想いは、沖田総司に伝わっている。

秋の時間は、様々な想いに包まれながら、ゆっくりと過ぎていく。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語は既に掲載している物語の改訂版です。

改訂前の物語の展開や雰囲気を出来るだけ残して改訂しました。

改訂前の物語を掲載するのは止めました。

以上、ご了承願います。

ここからは改訂前の後書きを加筆訂正して書きます。

この物語に登場する歌は、「小倉百人一首 五十一番」、及び、「後拾遺集」

「かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしも知らじな 燃ゆる思ひを」

ひらがなの読み方は「かくとだに えやはいぶきの さしもぐさ さしもしらじな もゆるおもひを」

作者は「藤原実方朝臣(ふじわらのさねかたのあそん)」

歌の意味は「こんなにも恋い慕っていると言いたいのですが、どうしても口にする事が出来ません。伊吹山のさしも草ではありませんが、この燃えるような想いを、あなたはきっとご存知ないでしょう。」となるそうです。

作者の名前は、「藤原実方(ふじわらのさねかた)」が名前で、「朝臣(あそん)」は、時代によって変わりますが、身分か敬称です。

「藤原実方朝臣」は、若くから歌の才能を認められていた人です。

恋愛遍歴が数多く有るらしく、「清少納言」と恋愛の歌を贈答しあった事があるそうです。

この歌は、「藤原実方朝臣」が「清少納言」に贈った歌だそうです。

「藤原実方朝臣」は、「紫式部」が書いた源氏物語の主人公の光源氏のモデルの一人と言われているそうです。

「さしも草」は、「艾(もぐさ)」を差しているようです。

この歌は、後の言葉を導いている言葉や比喩などがたくさんある歌です。

全てを説明する事が出来ないので、詳細は、各自でお調べください。

この物語の補足です。

この物語の時間設定は、藤田五郎さんと時尾さんは、既に結婚しています。

二人のお子さんの藤田勉さんは生れていません。

そのため、明治八年(1875年)の出来事になります。

この年には、藤田五郎さんの姉の相馬ひさ[旧姓と旧の名前:山口勝]さんが、六月一日に亡くなっています。

明治八年を意識して書いた訳ではないですが、時期的に合わせると、このような状況になります。

この物語の設定時期の藤田五郎さんは、美鈴さんの居場所と敬一君の知らない設定です。

「夜長(よなが)」についてです。

「夜の長いこと。特に9月から10月頃の夜がとても長く感じられる頃。」の意味です。

秋の季語です。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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