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〜 雪月花 新撰組異聞外伝 編 〜


〜 藤波の想い 我がやどに 今咲きにけり 〜


〜 改訂版 〜


登場人物

藤田五郎、藤田時尾、藤田勉、敬一[沖田総司の息子]、美鈴[沖田総司の妻、敬一の母]




「恋しけば 形見にせむと 我がやどに 植ゑし藤波 今咲きにけり」

「万葉集 第八巻 一四七一番」より

作者:山部赤人(やまべのあかひと)




時は、明治。



今は政府と呼ぶ組織の治世になる。



政府の治世の前は、幕府の治世だった。

政府と幕府の間に戦いが起きた。

幕府は戦いに負けた。

幕府の治世から政府の治世へと完全に変わった。



幕府側に新撰組と呼ぶ組織があった。

沖田総司は新撰組一番組組長を務めていた。

沖田総司は病のために戦いの結末を知らずに亡くなった。

沖田総司には、妻の美鈴と息子の敬一という大切に想う家族が居た。



敬一は、沖田総司と美鈴が戦いのために離れ離れになった間に生まれた。

沖田総司は敬一に一度も逢えずに亡くなった。



新撰組は幕府側として政府と最後まで戦った。

新撰組も含めて、幕府側で最後まで戦った者、幕府側に味方した者や家族への世間の対応は冷たい。

幕府側で戦った本人、幕府側に味方した本人や家族は、幕府側の関係者と知られないように暮らす者も多い。



美鈴は沖田総司を慕いながらも、敬一を守りながら過ごしている。

敬一は美鈴の想いに守られて過ごしている。

敬一と美鈴は、沖田総司を慕いながらも、新撰組の関係者の家族と知られないように暮らしている。



ここは、京都。



藤花の咲く季節になっている。



心地良い日が続いている。



ここは、幼い敬一と母親の美鈴の住む家。



縁。



敬一は美鈴を笑顔で見ている。

美鈴は微笑んで縫い物をしている。



美鈴は縫い物を止めると、敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。今日は良い天気だから、藤の花を見に行きましょう。帰りは、食べられる草を一緒に摘みましょう。」

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「おかあさん。いっしょ。いく。たのしみ。たくさん。てつだう。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。頼りにしているわよ。」

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「たより。する。」

美鈴は敬一を微笑んで見た。



暫く後の事。



ここは、京都。



敬一と美鈴の住む家の近く。



藤棚の在る場所。



藤棚の藤花は、綺麗に咲いている。



名所ではないため、近くに住む人達が訪れるのみになる。



落ち着いた雰囲気になっている。



敬一は美鈴と藤花を笑顔で見ている。

美鈴は敬一と藤花を微笑んで見ている。



美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。藤棚が綺麗ね。」

敬一は美鈴に笑顔で話し出す。

「ふじ。きれい。」

美鈴は藤棚を微笑んで見た。

敬一は美鈴を笑顔で見た。

美鈴は藤棚を見ながら、微笑んで呟いた。

「“恋しけば 形見にせむと 我がやどに 植ゑし藤波 今咲きにけり”。」

敬一は美鈴を不思議な様子で見た。

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「“恋しいので形見にしようと庭先に植えた藤が、今、咲いています。”という意味なの。」

敬一は美鈴の手を掴むと、美鈴を心配して見た。

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。心配させたのね。ごめんね。」

敬一は美鈴の手を掴んで、美鈴を笑顔で見た。

美鈴は敬一を微笑んで見た。

敬一は美鈴の手を掴んで、美鈴に笑顔で話し出す。

「ふじのはな。みる。おわる。たべる。くさ。つむ。たより。する。」

美鈴は敬一に微笑んで頷いた。

敬一は美鈴の手を掴んで、美鈴を笑顔で見た。



敬一は美鈴の手を掴んで、笑顔で歩き出した。

美鈴は敬一を見ながら、微笑んで歩き出した。



美鈴の穏やかな声が、敬一の元に聞こえた。

「敬一。朝よ。起きなさい。」



敬一はゆっくりと目を開けた。



ここは、東京。



敬一と美鈴の住む家。



敬一の部屋。



敬一は床の中に横になっている。



美鈴は敬一を微笑んで見ている。



敬一は床の上にゆっくりと体を起した。

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「気持ち良く寝ている様子だったわ。」

敬一は床の上に体を起こして、美鈴に微笑んで話し出す。

「夢の詳しい内容は覚えていないけれど、温かい気持ちになる夢を見たんだ。」

美鈴は敬一を微笑んで見た。

敬一は床の上に体を起して、美鈴を微笑んで見た。

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「今日は斉藤さんの家に行く日ね。」

敬一は床の上に体を起して、美鈴に微笑んで頷いた。

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「朝食の用意は出来ているわ。」

敬一は床の上に体を起して、美鈴に微笑んで頷いた。



美鈴は部屋を微笑んで出て行こうとした。



敬一は床の上に体を起して、美鈴に微笑んで話し出す。

「お母さん。おはよう。」



美鈴は敬一を不思議な様子で見た。



敬一は床の上に体を起して、美鈴に微笑んで話し出す。

「朝の挨拶を忘れているよね。お母さんが部屋を出る前に朝の挨拶をしたんだ。」



美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。おはよう。」



敬一は床の上に体を起して、美鈴を微笑んで見た。



美鈴は部屋を微笑んで出て行った。



敬一は床から起きると、微笑んで身支度を始めた。



少し後の事。



ここは、東京。



敬一と美鈴の住む家。



沖田総司の位牌の有る部屋。



障子が少し開いている。



美鈴は沖田総司の位牌の前に微笑んで居る。



美鈴は沖田総司の位牌に微笑んで話し出す。

「総司さん。東京は藤の花が綺麗に咲いています。藤の花を見ると、突然に、“恋しけば 形見にせむと 我がやどに 植ゑし藤波 今咲きにけり”、の歌を思い出す時があります。」



敬一が部屋の外に来た気配がした。



美鈴は部屋の外を微笑んで見た。



敬一は部屋の中に微笑んで入ってきた。



美鈴は敬一を微笑んで見た。

敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「お母さん。斉藤さんの家に行くね。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「玄関で見送るわ。」

敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「お母さん。お父さんとゆっくりと話して。僕は大丈夫だよ。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「敬一。気を付けてね。行ってらっしゃい。」

敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「気を付けて行って来ます。」

美鈴は敬一を微笑んで見た。



敬一は部屋を微笑んで出て行った。



暫く後の事。



ここは、東京。



藤田五郎、妻の時尾、幼い息子の勉の住む家。



藤田五郎は、外出中のため居ない。

時尾と勉は、普段どおりに居る。



敬一はいつもどおりに元気良く訪れている。



食卓の有る部屋。



時尾は微笑んで居る。

勉は笑顔で居る。

敬一は微笑んで居る。

敬一の前には、焙じ茶とお菓子が、置いてある。

勉の前には、薄くてぬるい焙じ茶とお菓子が、置いてある。

時尾の前には、焙じ茶が置いてある。



時尾は敬一に微笑んで話し出す。

「五郎さんが突然に外出してしまったの。ご免なさい。」

敬一は時尾に微笑んで話し出す。

「斉藤さんは仕事をしています。斉藤さんは忙しいです。斉藤さんは公私共に用事がありますよね。気にしないでください。」

時尾は敬一を微笑んで見た。

敬一は時尾に微笑んで話し出す。

「時尾さん。突然ですが、“恋しけば 形見にせむと 我がやどに 植ゑし藤波 今咲きにけり”、という歌を知っていますか?」

時尾は敬一に微笑んで話し出す。

「万葉集に掲載している歌ね。」

敬一は時尾を寂しく見た。

時尾は敬一を微笑んで見た。

敬一は時尾に寂しく話し出す。

「僕の外出前の前に、お母さんがお父さんの位牌の前で詠んだ歌です。お母さんは、お父さんの思い出のたくさんある京都以外の場所で暮らすのが寂しいのでしょうか? お母さんは、僕の外出が寂しいのでしょうか? お母さんは、両方が寂しいのでしょうか?」

時尾は敬一に微笑んで話し出す。

「美鈴さんは、敬一君のために住まいを替えたならば、寂しく無いと思うわ。美鈴さんは、敬一君の外出が心配だとしても、寂しさは感じないと思うわ。」

敬一は時尾を寂しく見た。

勉は敬一に笑顔で話し出す。

「おにいちゃん。えがお。げんき。」

敬一は勉を見ると、勉に微笑んで話し出す。

「勉君。ありがとう。」

勉は敬一を笑顔で見た。

時尾は敬一に微笑んで話し出す。

「美鈴さんにとって、敬一君が庭先で咲く藤の花になると思うわ。敬一君は美鈴さんにたくさんの笑顔を見せてあげてね。」

敬一は時尾を微笑んで見た。

時尾も敬一を微笑んで見た。

勉は時尾と敬一を笑顔で見た。



暫く後の事。



ここは、東京。



藤花の綺麗にたくさん咲く場所。



藤田五郎は普通に居る。

敬一は微笑んで居る。



藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「今の居る場所は、落ち着いた雰囲気の中で、藤の花が綺麗に咲いている。今の居る場所は、美鈴さんと一緒に藤の花を見るための良い場所だと思う。」

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「良い場所を教えて頂いてありがとうございます。」

藤田五郎は敬一に普通の表情で頷いた。

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「斉藤さん。家に帰って直ぐなのに、僕に藤の花の咲く場所を教えるために、一緒に出掛けてくれました。ありがとうございます。」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「藤の花にも見頃がある。今日は敬一の訪問が分かっていた。今日は、用事があったとしても、敬一と一緒に今の居る場所に来ると決めていた。」

敬一は藤田五郎を微笑んで見た。

藤田五郎は敬一を普通の表情で見た。

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「僕が斉藤さんの家に来る前の出来事です。お母さんが、お父さんの位牌に、“恋しけば 形見にせむと 我がやどに 植ゑし藤波 今咲きにけり”、という歌を詠みました。お母さんは、お父さんの思い出のたくさん有る京都に居たかったのかな、僕の外出が寂しいのかな、と思いました。時尾さんにお母さんの詠んだ歌と経過を話しました。時尾さんは、お母さんは僕が居るから寂しいと思っていないと話しました。」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「時尾の話すとおりだと思う。」

敬一は藤田五郎を微笑んで見た。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「藤の花の季節は終わっても、敬一は美鈴さんにたくさんの笑顔を見せろ。」

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「時尾さんも斉藤さんと同じ内容を話しました。」

藤田五郎は敬一を普通の表情で見た。

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「斉藤さんも時尾さんも、凄い人物です。」

藤田五郎は敬一を普通の表情で見ている。

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「僕は、お父さん、お母さん、斉藤さん、時尾さん、勉君から、笑顔で過ごす力をもらっています。」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「お世辞を言っても褒美の品物は無い。」

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「お世辞ではありません。」

藤田五郎は敬一を普通の表情で見た。

敬一は藤田五郎を笑顔で見た。



辺りに優しい風が吹いた。



藤花が風に載って揺れた。



敬一は藤花の揺れる様子を笑顔で見た。

藤田五郎は敬一と藤花の揺れる様子を普通の表情で見た。



「恋しけば 形見にせむと 我がやどに 植ゑし藤波 今咲きにけり」

美鈴の傍には、藤花の季節も他の季節も、沖田総司の想いを受け継ぎ笑顔で過ごす敬一がいる。

敬一は、沖田総司、藤田五郎、藤田時尾、藤田勉、美鈴の想いの中で、藤花の季節も他の季節も、笑顔で過ごしている。

藤花の季節はたくさんの想いの中でゆっくりと過ぎていく。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語は既に掲載している物語の改訂版です。

改訂前の物語の展開や雰囲気を出来るだけ残して改訂しました。

改訂前の物語を掲載するのは止めました。

以上、ご了承願います。

ここからは改訂前の後書きを加筆訂正して書きます。

この物語に登場する歌は「万葉集 第八巻 一四七一番」

「恋しけば 形見にせむと 我がやどに 植ゑし藤波 今咲きにけり」

ひらがなの読み方は「こいしけば かたみにせむと わがやどに うえしふじなみ いまさきにけり」

作者は「山部赤人(やまべのあかひと)」

歌の意味は「恋しいので形見にしようと庭先に植えた藤が、今、咲いています。」となるそうです。

原文は「戀之家姿 形見尓将為跡 吾屋戸尓 殖之藤浪 今開尓家里」

「藤(ふじ)」についてです。

マメ科のツル性の落葉樹です。

開花期は、現在の暦で、4月〜5月です。

花は、春の季語で、実は、秋の季語です。

万葉集では、藤は、藤波と表現される事が多いそうです。

「藤波(ふじなみ)」(「藤浪」と書く事もあります)についてです。

「藤の花房。藤の花が風で波のように揺れ動くこと。」をいう言葉です。

春の季語です。

「藤花(とうか)」についてです。

「藤の花」をいう言葉です。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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