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~ 雪月花 新撰組異聞外伝 編 ~
~ 沈丁花 かひな 春の夜の夢ばかりなる ~
登場人物
藤田五郎、藤田時尾、藤田勉、敬一[沖田総司の息子]、美鈴[敬一の母、沖田総司の妻]
「春の夜の 夢ばかりなる 手枕に かひなく立たむ 名こそ惜しけれ」
「小倉百人一首 六十七番」、及び、「千載集」、より
作者:周防内侍(すおうのないし)
今は、春。
ここは、東京。
沈丁花が咲いている。
ここは、沖田総司の息子の敬一と母親の美鈴の住む家。
食卓の有る部屋。
敬一は笑顔で美味しく食事をしている。
美鈴は微笑んで食事をしている。
食卓には、豪華ではないが丁寧に作られた食事が載っている。
敬一は食事をしながら、美鈴に微笑んで話し出す。
「お母さん。沈丁花が咲いているよね。部屋に飾りたいよね。近くの寺に分けてもらえるか確認するね。」
美鈴は食事をしながら、敬一に微笑んで話し出す。
「お母さんの部屋と敬一の部屋に、沈丁花を飾るの?」
敬一は食事をしながら、美鈴に微笑んで話し出す。
「お母さんの部屋に沈丁花を飾るんだよ。僕の部屋には、沈丁花を多く分けてもらえた時に飾るよ。」
美鈴は食事をしながら、敬一に微笑んで話し出す。
「敬一。無理に頼む展開にならないようにね。」
敬一は食事をしながら、美鈴に微笑んで話し出す。
「分かった。」
美鈴は食事をしながら、敬一を微笑んで見た。
敬一も食事をしながら、美鈴を微笑んで見た。
翌日の事。
ここは、藤田五郎、妻の時尾、幼い息子の勉の住む家。
藤田五郎は、外出中のため居ない。
時尾と勉は、居る。
敬一が、笑顔で訪ねている。
食卓の有る部屋。
時尾は微笑んで居る。
敬一は微笑んで美味しく焙じ茶を飲んでいる。
勉は笑顔で美味しく焙じ茶を飲んでいる。
敬一は焙じ茶を飲みながら、時尾に微笑んで話し出す。
「お母さんは沈丁花の香りが好きです。今は沈丁花が咲いています。お母さんに寺で沈丁花を分けてもらえるか確認すると話しました。」
時尾は敬一に微笑んで話し出す。
「沈丁花の香りは、素敵な香りね。沈丁花を分けてもらえると良いわね。部屋に飾れると良いわね。」
敬一は焙じ茶を飲みながら、時尾に微笑んで話し出す。
「はい。」
勉は焙じ茶を飲みながら、時尾と敬一に笑顔で話し出す。
「じんちょうげ。かおり。すき。」
敬一は焙じ茶を飲みながら、勉に微笑んで話し出す。
「僕も沈丁花の香りが好きだよ。」
勉は焙じ茶を飲みながら、時尾と敬一に笑顔で話し出す。
「おなじ。」
敬一は焙じ茶を飲みながら、勉に微笑んで話し出す。
「時尾さん。勉君。僕のお母さん。僕。同じだね。」
勉は焙じ茶を飲みながら、時尾と敬一を笑顔で見た。
時尾は敬一と勉に微笑んで頷いた。
敬一は焙じ茶を飲みながら、時尾に微笑んで話し出す。
「斉藤さんは沈丁花の香りが好きですか?」
時尾は敬一に微笑んで話し出す。
「五郎さんに、部屋に沈丁花を飾って良いか確認した時があるの。五郎さんは、了承の返事をしたの。五郎さんは、沈丁花の香りは苦手ではないと思うわ。」
敬一は焙じ茶を飲みながら、勉に微笑んで話し出す。
「勉君。みんなが同じになったよ。」
勉は焙じ茶を飲みながら、敬一に笑顔で話し出す。
「みんな。おなじ。うれしい。」
敬一は焙じ茶を飲みながら、勉に微笑んで話し出す。
「嬉しいね。」
勉は焙じ茶を飲みながら、敬一に笑顔で頷いた。
時尾は敬一に微笑んで話し出す。
「敬一君。沈丁花を少しだけど分けてもらえる場所があるの。私と勉と敬一で、沈丁花を分けてもらいに行きましょう。」
敬一は焙じ茶を飲みながら、時尾に微笑んで話し出す。
「嬉しいです。ありがとうございます。」
時尾は敬一に微笑んで話し出す。
「敬一は勉とたくさん遊んでくれるわ。お礼を兼ねていると思って。」
敬一は焙じ茶を飲みながら、時尾を微笑んで見た。
勉は焙じ茶を飲みながら、敬一に笑顔で話し出す。
「いっしょ。いく。」
敬一は焙じ茶を飲みながら、勉を見ると、勉に微笑んで話し出す。
「一緒に行けるね。楽しみだね。」
勉は焙じ茶を飲みながら、敬一に笑顔で頷いた。
時尾は勉と敬一を微笑んで見た。
暫く後の事。
ここは、町中。
藤田五郎は数本の沈丁花の花束を持ち、普通に歩いている。
敬一は微笑んで歩いている。
沈丁花の香りが藤田五郎と敬一を包んでいる。
敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。
「沈丁花の香りが、斉藤さんと僕を包んでいます。」
藤田五郎は数本の沈丁花の花束を持ち、敬一に普通の表情で頷いた。
敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。
「斉藤さんの香りが、沈丁花の香りに感じます。」
藤田五郎は数本の沈丁花の花束を持ち、敬一を普通の表情で見た。
敬一は藤田五郎に恥ずかしく話し出す。
「斉藤さんは男性なのに、沈丁花の香りに喩えました。失礼しました。」
藤田五郎は数本の沈丁花の花束を持ち、敬一に普通に話し出す。
「俺は沈丁花を持っている。俺の傍から沈丁花の香りが漂っている。敬一の喩えは、一部だが合っている。」
敬一は藤田五郎に恥ずかしく話し出す。
「斉藤さんは優しいから、僕の言動をたくさん許してくれます。何時もありがとうございます。」
藤田五郎は数本の沈丁花の花束を持ち、敬一に普通に話し出す。
「俺が優しいかは、敬一の考えに任せる。敬一は俺に失礼な言動はしていない。俺が敬一を許す言動はしていない。」
敬一は藤田五郎を微笑んで見た。
藤田五郎は数本の沈丁花の花束を持ち、敬一に普通の表情で頷いた。
敬一は藤田五郎を微笑んで見ている。
藤田五郎は数本の沈丁花の花束を持ち、敬一に普通に話し出す。
「“春の夜の 夢ばかりなる 手枕に かひなく立たむ 名こそ惜しけれ”。」
敬一は藤田五郎に不思議な様子で話し出す。
「小倉百人一首に選ばれた歌ですね。」
藤田五郎は数本の沈丁花の花束を持ち、敬一に普通の表情で頷いた。
敬一は藤田五郎に不思議な様子で見た。
藤田五郎は数本の沈丁花の花束を持ち、敬一に普通に話し出す。
「俺と美鈴さんで、沈丁花を見た時がある。美鈴さんが、部屋に飾った沈丁花の香りを楽しむ最中に、思い出した歌だ。美鈴さんは、総司と俺が、今の歌と少しだけ繋がると話した。」
敬一は藤田五郎を不思議な様子で考えながら見た。
藤田五郎は数本の沈丁花の花束を持ち、敬一を普通の表情で見た。
敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。
「沈丁花は、春に花が咲きます。沈丁花の香りは、遠くからでも分かります。春の夜、に繋がります。」
藤田五郎は数本の沈丁花の花束を持ち、敬一に普通の表情で頷いた。
敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。
「かひなく、には、かひな、が隠れています。斉藤さんの腕は逞しいです。斉藤さんとお父さんは、かひな、に繋がります。」
藤田五郎は数本の沈丁花の花束を持ち、敬一に普通の表情で頷いた。
敬一は藤田五郎に慌てて話し出す。
「斉藤さんは腕以外も逞しいです! 斉藤さんは心も体も逞しいです!」
藤田五郎は数本の沈丁花の花束を持ち、敬一に普通に話し出す。
「美鈴さんの時と同じ場面で、美鈴さんの時と似た内容で、慌てて否定している。」
敬一は藤田五郎を不思議な様子で見た。
藤田五郎は数本の沈丁花の花束を持ち、敬一に普通に話し出す。
「本当に腕以外も逞しい人物ならば、敬一の話の内容では怒らない。慌てて否定するな。」
敬一は藤田五郎に困惑して話し出す。
「はい。」
藤田五郎は数本の沈丁花の花束を持ち、敬一を普通の表情で見た。
敬一は藤田五郎を困惑して見た。
藤田五郎は数本の沈丁花の花束を持ち、敬一に普通に話し出す。
「真剣は、重い。天然理心流は、太い木刀を使用する内容の稽古がある。太い木刀をしっかりと構えられない者は、真剣を構えて相手と対峙できない。天然理心流は、実践的な流派になる。美鈴さんが総司の腕を逞しいと表現した内容は、事実の内容になる。」
敬一は藤田五郎を不思議な様子で見た。
藤田五郎は数本の沈丁花の花束を持ち、敬一を普通の表情で見た。
敬一は藤田五郎の腕を微笑んで見た。
藤田五郎は数本の沈丁花の花束を持ち、敬一に普通に話し出す。
「敬一。総司の腕の逞しさを想像しているだろ。俺の腕を触って、総司の腕を想像して構わない。」
敬一は藤田五郎を見ると、藤田五郎に微笑んで話し出す。
「斉藤さんに失礼です。遠慮します。」
藤田五郎は数本の沈丁花の花束を持ち、敬一に普通に話し出す。
「俺と敬一の関係ならば、突然に腕を触らなければ、失礼だと思わない。」
敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。
「斉藤さん。優しいです。」
藤田五郎は数本の沈丁花の花束を持ち、敬一に普通に話し出す。
「普通だ。」
敬一は藤田五郎を微笑んで見た。
藤田五郎は数本の沈丁花の花束を持ち、敬一を普通の表情で見た。
敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。
「斉藤さんは、沈丁花を持っています。斉藤さんも僕も、外に居ます。僕が斉藤さんの腕を触ると不思議に思われる可能性が有ります。斉藤さんの腕は、別な時に触らせてください。」
藤田五郎は数本の沈丁花の花束を持ち、敬一に普通の表情で頷いた。
敬一は藤田五郎を微笑んで見た。
藤田五郎は数本の沈丁花の花束を持ち、敬一を普通の表情で見た。
暫く後の事。
夜になっている。
ここは、敬一と美鈴の住む家。
敬一の部屋。
机に沈丁花を挿した花瓶が置いてある。
沈丁花の香りに包まれている。
敬一は床の中で気持ち良く寝ている。
美鈴の部屋。
机に沈丁花を挿した花瓶が置いてある。
床が敷いてある。
沈丁花の香りに包まれている。
美鈴は沈丁花を微笑んで見ている。
美鈴は沈丁花を見ながら、微笑んで呟いた。
「今夜は、敬一の贈り物の沈丁花の香りの中で寝ます。暫くの間、素敵な春の夜が続きます。楽しみです。」
美鈴は沈丁花を見ながら、微笑んで呟いた。
「ありがとうございます。お休みなさい。」
美鈴は床に微笑んで横になった。
美鈴は床の中で、微笑んでゆっくりと目を閉じた。
「春の夜の 夢ばかりなる 手枕に かひなく立たむ 名こそ惜しけれ」
沈丁花の香りは、春の夜を少しだけ延ばしてくれる。
沈丁花の香りは、素敵な春の夜にしてくれる。
春の時は、沈丁花の香りに包まれながら穏やかに過ぎていく。
* * * * * *
ここからは後書きになります。
この物語に登場する歌は「小倉百人一首 六十七番」、及び、「千載集」
「春の夜の 夢ばかりなる 手枕に かひなく立たむ 名こそ惜しけれ」
ひらがなの読み方は「はるのよの ゆめばかりなる たまくらに かひなくたたむ なこそをしけれ」
作者は「周防内侍(すおうのないし)」
歌の意味は「短い春の夜のような、そしてはかない夢のようなたわむれごとの腕枕をしたがために、何のかいもない浮名が立ったとしたら、それこそ口惜しいことですよ。」となるそうです。
本名は「平仲子」
父親は、従五位上周防守平棟仲。
生没年は、長暦元年(1037年)年頃~天仁二年(1109年)以降という事で、はっきりとしていないそうです。
家集の「周防内侍集」があります。
女房三十六歌仙の一人に撰ばれています。
「かひなく」には「かひな(かいな)」を隠しています。
「かひな(かいな)」は、「腕」と書きます。
「腕」の古い呼び方です。
「肩から肘にかけての部分」、「二の腕」、「肩から手首まで」、の部分をさします。
「沈丁花(じんちょうげ)」についてです。
ジンチョウゲ科の常緑低木です。
中国原産です。
春の季語です。
開花期は、2月~4月初め頃です。
枝の繊維は紙の原料になるそうです。
良い香りが特徴です。
遠くからでも分かる香りのためと思われますが、「茶花(ちゃばな)」に使用しないそうです。
中国名は「瑞香(ずいこう)」です。
別名には、「七里香(ななりこう)」、「千里香(せんりこう)」、があります。
沈丁花が日本に渡来したのは、室町時代の説があります。
沈丁花は室町時代には日本で既に栽培などをしていた説もあります。
日本に古くからある花です。
楽しんで頂けると嬉しいです。
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