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~ 雪月花 新撰組異聞外伝 編 ~


~ 都忘れ あかつきばかり ~


登場人物

藤田五郎、藤田時尾、藤田勉、敬一[沖田総司の息子]、美鈴[沖田総司の妻、敬一の母]




「有明の つれなく見えし 別れより あかつきばかり 憂きものはなし」

「小倉百人一首 三十番」、及び、「古今集」

作者:壬生忠岑(みぶのただみね)




春が終わり初夏となった。



ここは、東京。



僅かに暑さを感じる時があるが、天気も良く心地良い日が続いている。



ここは、沖田総司の息子の敬一と母親の美鈴の住む家。



敬一は藤田五郎の家に行ったため居ない。

美鈴は普段どおりに居る。



庭。



美鈴は洗濯物を微笑んで取り込んでいる。



玄関から、敬一の元気の良い声が聞こえた。

「お母さん! ただいま!」



美鈴は洗濯物を取り込むのを微笑んで止めた。



敬一が都忘れの小さな花束を持ち、笑顔で来た。



美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「お帰りなさい。気付くのが遅くなったのね。ごめんね。」

敬一は都忘れの小さな花束を持ち、美鈴に笑顔で話し出す。

「気にしないで! 洗濯物を取り込んでからゆっくりと話そうよ!」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「都忘れの花。綺麗ね。」

敬一は都忘れの小さな花束を持ち、美鈴に笑顔で話し出す。

「斉藤さんと時尾さんにもらったんだ! お礼は僕からしっかりと伝えたよ! 安心してね!」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「洗濯物の取り込みが終わったら、直ぐに花瓶に活けるわね。」

敬一は都忘れの小さな花束を持ち、美鈴に笑顔で頷いた。

美鈴は洗濯物を微笑んで取り込んだ。



敬一は都忘れの小さな花束を持ち、家の中へ笑顔で入っていった。



少し後の事。



ここは、敬一と美鈴の住む家。



食卓の有る部屋。



都忘れの小さな花束は、食卓に載っている。



敬一は笑顔で座っている。



美鈴は二つの花瓶を持ち、部屋の中に微笑んで入ってきた。



敬一は美鈴を笑顔で見た。

美鈴は二つの花瓶を食卓に置くと、敬一に微笑んで話し出す。

「お父さんにも楽しんで欲しいと思ったの。」

敬一は美鈴に笑顔で頷いた。

美鈴は都忘れの花を二つの花瓶に微笑んで分けて活けた。

敬一は美鈴を微笑んで見た。

美鈴は二つの花瓶に都忘れの花を微笑んで活け終わった。

敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「お父さんに都忘れを早く見てもらおう。」

美鈴は敬一に微笑んで頷いた。

敬一は美鈴を微笑んで見た。



少し後の事。



ここは、敬一と美鈴の住む家。



沖田総司の位牌の有る部屋。



敬一は微笑んで居る。

美鈴は都忘れの花を挿した花瓶を微笑んで持っている。



美鈴は、都忘れの花を挿した花瓶を、沖田総司の位牌の前に微笑んで置いた。

敬一は沖田総司の位牌に微笑んで話し出す。

「斉藤さんと時尾さんから、都忘れをもらったんだ。都忘れの花が綺麗だから、お父さんにも見て欲しいと思ったんだ。」

美鈴は敬一を微笑んで見た。



翌日の事。



ここは、敬一と美鈴の住む家。



敬一は居ない。

美鈴は普段どおりに居る。



沖田総司の位牌の有る部屋。



障子は開いている。



日差しが部屋の中に入っている。



美鈴は都忘れの花を挿した花瓶を持ち、部屋の中に微笑んで入ってきた。



美鈴は、都忘れの花を挿した花瓶を、沖田総司の位牌の前に微笑んで置いた。



都忘れの花に日差しが僅かに当たった。



美鈴は沖田総司の位牌に微笑んで話し出す。

「“有明の つれなく見えし 別れより あかつきばかり 憂きものはなし”。」



都忘れの花に日差しが僅かに当たり続けている。



美鈴は沖田総司の位牌に微笑んで話し出す。

「総司さん。都忘れを見て思い出した歌です。」



都忘れの花に日差しが僅かに当たり続けている。



美鈴は沖田総司の位牌と都忘れの花を微笑んで見た。



翌日の事。



ここは、敬一と美鈴の住む家。



一室。



美鈴は微笑んで掃除している。



敬一が部屋の中に微笑んで入ってきた。



美鈴は総司を止めると、敬一を微笑んで見た。

敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「お母さん。斉藤さんの家に行くね。」

美鈴は敬一に微笑んで話し出す。

「気を付けて行ってらっしゃい。」

敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「気を付けて行ってきます。」

美鈴は敬一を微笑んで見た。



敬一は部屋から微笑んで出て行った。



少し後の事。



ここは、藤田五郎、妻の時尾、幼い息子の勉の住む家。



藤田五郎、時尾、勉は、普段どおりに居る。

敬一が訪ねている。



玄関。



敬一は微笑んで居る。

時尾は微笑んで居る。

勉は笑顔で居る。



敬一は時尾に微笑んで話し出す。

「斉藤さんと話したくて来ました。」

時尾は敬一に微笑んで話し出す。

「五郎さんは部屋に居るわ。」

勉は敬一に笑顔で話し出す。

「あそぼ。」

敬一は勉に微笑んで話し出す。

「勉君。用事か終わったら、一緒に遊ぼうね。」

勉は敬一に笑顔で話し出す。

「あそぶ。まつ。」

敬一は時尾と勉を微笑んで見た。



少し後の事。



ここは、藤田五郎、時尾、勉の住む家。



藤田五郎の部屋の前。



敬一は微笑んで来た。



藤田五郎が部屋から普通に出てきた。



藤田五郎は敬一を普通の表情で見た。

敬一は藤田五郎を驚いた様子で見た。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「部屋に入れ。」

敬一は藤田五郎に僅かに驚いた様子で話し出す。

「失礼します。」

藤田五郎は敬一に普通の表情で頷いた。



敬一は部屋の中に僅かに驚いた様子で入っていった。

藤田五郎は部屋の中に普通に入っていった。



少し後の事。



ここは、藤田五郎、時尾、勉の住む家。



藤田五郎の部屋。



藤田五郎は普通に居る。

敬一は微笑んで居る。



敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「斉藤さんは、僕が部屋に来ると、直ぐに気付きます。何時も驚きます。」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「直ぐに気付くのは、敬一だけではない。時尾や勉も、直ぐに気が付く。」

敬一は藤田五郎を不思議な様子で見た。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「斬り合いや切り込みの時に、自分の気配を消さずに存在感を示していたら面倒な状況になる。面倒な状況が続くと、相手に斬られる可能性が高くなる。部屋の中や物陰に、敵が隠れている時がある。気配や雰囲気などを感じる能力は重要だ。敬一は、美鈴さんが傍に居て気を配っているから、危険を感じる時が少なかったと思う。敬一の気配は、現在と過去の経過から、直ぐに分かる。時尾は、危険な生活を経験しているが、今は危険が起こる可能性は低い。今の時尾は、普通に生活しているから、気配は感じる。勉は、幼い関係や時尾が気を配っている関係から、気配が直ぐに分かる。」

敬一は藤田五郎を僅かに寂しく見た。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「敬一が部屋に来る気配。敬一が部屋に来る前の足音。共に、悩みが有る雰囲気が分かる。今の敬一の表情も、悩みの有る雰囲気が分かる。」

敬一は藤田五郎に寂しい微笑で話し出す。

「斉藤さん。凄いです。」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「敬一に幾度も逢って話していれば分かる。時尾も敬一の様子をある程度は気付いている。」

敬一は藤田五郎に心配して話し出す。

「お母さんも気付いているのでしょうか?」

藤田五郎は敬一に普通の表情で頷いた。

敬一は藤田五郎に寂しく話し出す。

「お母さんに都忘れの花を見せました。お母さんは綺麗だと話してとても喜んでいました。僕はお母さんの笑顔を見て嬉しい気持ちになりました。」

藤田五郎は敬一を普通の表情で見た。

敬一は藤田五郎に心配して話し出す。

「昨日の出来事になります。お母さんは、お父さんの位牌の前で、“有明の つれなく見えし 別れより あかつきばかり 憂きものはなし”、という百人一首の歌を詠みました。お母さんは、歌の意味を考えて詠んだのではなくて、違う意味を込めて歌を詠んだと思います。理由は分かりませんが、心配になりました。」

藤田五郎は敬一を普通の表情で見た。

敬一は藤田五郎に心配して話し出す。

「お母さんは、僕の身の安全、僕の勉強、僕の今後を考えて、京都から東京に住いを替えたと思います。お母さんは、僕がお腹の中に居なかったら、お父さんと一緒に東京に来て、最期を看取ったと思います。お母さんは、僕についてはたくさん考えますが、お母さん本人については考えていないと思います。」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「敬一は、総司と美鈴さんにとって、大切な息子だ。美鈴さんが敬一を一番に考えるのは当然だ。」

敬一は藤田五郎を心配して見た。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「敬一。美鈴さんが詠んだ小倉百人一首の歌。“有明の つれなく見えし 別れより あかつきばかり 憂きものはなし”、の作者を知っているか?」

敬一は藤田五郎に不思議な様子で話し出す。

「“壬生忠岑”、です。」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「敬一。壬生忠岑について知る内容はあるか?」

敬一は藤田五郎に考えながら話し出す。

「身分の低い武官の出身です。息子に、“壬生忠見”がいます。親子で小倉百人一首に選ばれています。」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「壬生は、俺や総司達が屯所として構えた時がある場所だ。新撰組には、身分の高い者は居ないに等しかった。似る部分が有る。」

敬一は藤田五郎に不思議な様子で話し出す。

「はい。」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「“都忘れ”の名前の由来は、戦で負けて佐渡に遠流となった順徳帝の言葉が基になっているらしい。都の事を忘れられるかもしれない、とか、都を忘れられるかもしれない、という内容の言葉が伝えられているそうだ。今の話した内容も、似る部分が有る。」

敬一は藤田五郎に不思議な様子で話し出す。

「はい。」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「総司が、江戸に戻って直ぐの時は、美鈴さんが京の町に居る可能性が高かった。総司は美鈴さんを物凄く心配していた。総司は都を忘れたくても出来なかった。総司は、敬一の存在を知った以降は、更に心配していたと思う。総司は、京の町を更に忘れられなくなったと思う。」

敬一は藤田五郎を寂しく見た。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「敬一。悩むな。美鈴さんが心配する。」

敬一は藤田五郎を微笑んで見た。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「敬一は、総司の分まで美鈴さんを守って生きなければならない。」

敬一は藤田五郎を真剣な表情で見た。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「総司は、結果として、天才剣士として名前が知られていた。敬一は、名前を残す努力より、大切な者をしっかりと守り抜くために必要な努力をしろ。」

敬一は藤田五郎に真剣な表情で話し出す。

「はい。」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「気になる内容が有れば、気兼ねせずに来い。」

敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。

「お気遣いありがとうございます。」

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「気遣っている訳ではない。」

敬一は藤田五郎を不思議な様子で見た。

藤田五郎は敬一を普通の表情で見た。

敬一は藤田五郎を見ながら、不思議な様子で考えた。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「敬一。問題の無い内容で悩むな。」

敬一は藤田五郎を恥ずかしく見た。

藤田五郎は敬一に普通に話し出す。

「問題の無い内容で恥ずかしく思うな。」

敬一は藤田五郎に恥ずかしく話し出す。

「はい。」

藤田五郎は敬一を普通の表情で見た。



暫く後の事。



ここは、敬一と美鈴の住む家。



玄関。



敬一は都忘れの小さな花束を持ち、元気良く帰ってきた。



美鈴は微笑んで来た。



敬一は美鈴に都忘れの小さな花束を渡すと、美鈴に微笑んで話し出す。

「斉藤さんから、お母さんの分として、都忘れをもらったんだ。お礼は僕が代わりに伝えたよ。気にしなくて良いよ。」

美鈴は敬一から都忘れの小さな花束を受け取ると、敬一に微笑んで話し出す。

「今日の頂いた都忘れは、敬一の部屋に飾りましょう。」

敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「お母さんの分としてもらった都忘れだよ。僕の部屋に飾ったら意味がないよ。」

美鈴は都忘れの小さな花束を持ち、敬一に微笑んで話し出す。

「お父さんの分の都忘れとお母さんの分の都忘れは、既に飾っているわ。敬一の部屋に都忘れを飾ると、別々に居ても同じ花を見られると思ったの。」

敬一は美鈴に微笑んで話し出す。

「僕は別な場所に居ても、お父さんとお母さんと一緒に、都忘れが見たいな。」

美鈴は都忘れの小さな花束を持ち、敬一に微笑んで話し出す。

「花瓶を用意するわね。」

敬一は美鈴に微笑んで頷いた。



美鈴は都忘れの小さな花束を持ち、家の中に微笑んで入って行った。



敬一は家の中に微笑んで入って行った。



“都忘れ”は都を忘れるために愛おしく思われた花。

沖田総司にとっても、藤田五郎にとっても、美鈴にとっても、敬一にとっても、“都忘れ”は想いを繋ぎながら、都を思い出す花になっている。

初夏の時は、様々な想いの中で、都忘れの花の咲く中で、穏やかに過ぎていく。




*      *      *      *      *      *




ここからは後書きになります。

この物語に登場する歌は、「小倉百人一首 三十番」、及び、「古今集」

「有明の つれなく見えし 別れより あかつきばかり 憂きものはなし」

ひらがの読み方は「ありあけの つれなくみえし わかれより あかつきばかり うきものはなし」

作者は「壬生忠岑(みぶのただみね)」

歌の意味は「有明の月が無常に冷淡に見えた、あのそっけない別れの時から、私にとっては、暁ほど自分の運命をつらく、いとおしく思われる時はありません」となるそうです。

「壬生忠岑」についてです。

三十六歌仙の一人です。

身分の低い武官の出身だったようです。

「壬生忠岑」の子供に、同じく「小倉百人一首」に選ばれている「壬生忠見」がいます。

この歌ですが、「つれなく見えし」とされたのは、「女性」、「月」、「女性と月の両方」といろいろな解釈があるそうです。

「都忘れ(みやこわすれ)」についてです。

キク科です。

花期は、4月中旬~6月中旬です。

日本原産です。

「都忘れ」の名前の由来は、二つの解釈があるそうです。

承久の乱に敗れて佐渡へ遠流となった前後の順徳帝の言葉が基になったと言われています。

細かい経過は省きますが、「都のこと忘れられるかもしれない」、または、「都を忘れられるかもしれない」という二つの内容の言葉が伝えられています。

どちらの説が正しいのかなと思いました。

楽しんで頂けると嬉しいです。





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