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~ 雪月花 新撰組異聞外伝 編 ~
~ 花菖蒲 繋がる夢 雲居にまがふ 沖津白波 ~
登場人物
近藤勇、沖田みつ、沖田惣次郎
山口廣明、山口一
「わたの原 漕ぎ出でて見れば 久方の 雲居にまがふ 沖つ白波」
「小倉百人一首 七十六番」、及び、「詞花集」より
作者:法性寺入道前関白太政大臣
(ほうしょうじにゅうどうさきのかんぱくだじょうだいじん)」
今は夏。
ここは、多摩。
花菖蒲が咲き始めた。
ここは、試衛館。
沖田惣次郎をはじめとした門下生達が日々の稽古に励んでいる。
今は稽古を終えた門下生達が、身なりを整えたり休んだりと、思い思いに過ごしている。
沖田惣次郎は元気良く出掛けて行った。
少し後の事。
ここは、多摩。
沖田惣次郎の姉の沖田みつの住む家。
沖田みつは普段どおりに居る。
沖田惣次郎は元気良く訪れている。
一室。
沖田みつは沖田惣次郎を微笑んで見ている。
沖田惣次郎は笑顔で麦茶を飲んでいる。
沖田惣次郎は麦茶を笑顔で飲み終えた。
沖田みつは沖田惣次郎を微笑んで見た。
沖田惣次郎は沖田みつに笑顔で話し出す。
「姉さん! 用事は何ですか?!」
沖田みつは沖田惣次郎に微笑んで話し出す。
「近藤さんから惣次郎に小倉百人一首などの歌を教えて欲しいと頼まれたの。」
沖田惣次郎は沖田みつに笑顔で話し出す。
「私は剣術を学んでいる最中です! 歌は覚えなくても大丈夫です!」
沖田みつは沖田惣次郎に微笑んで話し出す。
「惣次郎。一人前の武士になるためには、たくさんの知識やたくさんの教養を身に付けなければならないのよ。」
沖田惣次郎は沖田みつに笑顔で話し出す。
「剣術以外にも学ぶ内容はたくさんあります! 歌は後で良いですよね!」
沖田みつは沖田惣次郎に微笑んで話し出す。
「近藤さんから頼まれたから、後で良いかと質問されても、了承の返事は出来ないわ。」
沖田惣次郎は沖田みつを拗ねて見た。
沖田みつは沖田惣次郎に微笑んで話し出す。
「惣次郎。拗ねても状況は変わらないわよ。」
沖田惣次郎は詰まらない様子でため息をついた。
沖田みつは沖田惣次郎に微笑んで話し出す。
「惣次郎。必ず役に立つ日が訪れるから、詰まらない顔をしないで。しっかりと覚えていきましょう。」
沖田惣次郎は沖田みつに詰まらない様子で頷いた。
沖田みつは沖田惣次郎に微笑んで話し出す。
「惣次郎。近い内に花菖蒲を見に行きたいと思っているの。私達の氏名と同じ文字が付いた花菖蒲があるの。花菖蒲を見ながら歌を覚えましょう。花菖蒲を見ている最中か、花菖蒲を見た帰りに、お団子を食べましょう。」
沖田惣次郎は沖田みつに笑顔で話し出す。
「はい!」
沖田みつは沖田惣次郎を微笑んで見た。
沖田惣次郎は沖田みつに嬉しく話し出す。
「姉さん! 歌の勉強が終わったら麦茶を飲みたいです! 花菖蒲を見に行った時に団子をたくさん食べたいです! 花菖蒲を見る時が楽しみです!」
沖田みつは沖田惣次郎を苦笑した表情で見た。
沖田惣次郎は沖田みつを嬉しく見た。
数日後の事。
ここは、江戸の町。
花菖蒲のたくさん咲く場所。
見頃の花菖蒲がたくさん咲いている。
辺りには花菖蒲を見るために幾人もの人達が訪れている。
沖田みつは花菖蒲を微笑んで見ている。
沖田惣次郎は沖田みつの横で、花菖蒲を笑顔で見ている。
白色の花菖蒲が綺麗に咲く姿が見えた。
沖田惣次郎は横を見ると、沖田みつに笑顔で話し出す。
「姉さん! 白色の花菖蒲が綺麗に咲いていますね!」
沖田惣次郎の横に居るはずの沖田みつが居ない。
沖田惣次郎は辺りを不思議な様子で見た。
沖田みつの姿も花菖蒲を見ている人達の姿も見えない。
沖田惣次郎は辺りを見ながら、不思議な様子で呟いた。
「何が遭ったのかな?」
沖田惣次郎の横から、微かに聞き慣れた記憶のある少年の声が聞こえた。
「何も起きていないよ。」
沖田惣次郎は横を不思議な様子で見た。
沖田惣次郎の横には、微かに見た記憶のある年下の雰囲気の少年が居る。
少年は沖田惣次郎を普通の表情で見ている。
沖田惣次郎は少年に考えながら話し出す。
「こんにちは。以前に逢っているよね。」
少年は沖田惣次郎に普通の表情で頷いた。
沖田惣次郎は少年に考えながら話し出す。
「以前に逢った時は、お互いに少し幼かったよね。」
少年は沖田惣次郎に普通の表情で頷いた。
沖田惣次郎は少年に考え込みながら話し出す。
「以前に逢った時に名前を教えてもらったよね。“はじめ君”という名前だよね。」
山口一は沖田惣次郎に普通の表情で頷いた。
沖田惣次郎は山口一に考ながら話し出す。
「氏は教えてらっていないよね。差し支えなければ教えてくれるかな?」
少年は沖田惣次郎に普通に話し出す。
「氏は“山口”。名前は“一”。」
沖田惣次郎は少年に笑顔で話し出す。
「山口一君という名前なんだね!」
少年は沖田惣次郎に普通の表情で頷いた。
沖田惣次郎は山口一に微笑んで話し出す。
「一君。私は姉上と一緒に花菖蒲を見に来たんだ。周りに人が居たはずなのに、私と一君以外の姿が見えなくなっているんだ。不思議だね。」
山口一は沖田惣次郎に普通に話し出す。
「状況が状況だから、不思議ではないと思う。」
沖田惣次郎は山口一に不思議な様子で話し出す。
「状況が状況?」
山口一は沖田惣次郎に普通の表情で頷いた。
沖田惣次郎は山口一を見ながら、不思議な様子で考えた。
山口一は沖田惣次郎を普通の表情で見た。
沖田惣次郎は山口一に微笑んで話し出す。
「話を変えるね。白色の花菖蒲が綺麗にたくさん咲いているね。一君は花菖蒲の名前を知っている?」
山口一は沖田惣次郎に普通に話し出す。
「“沖津白波”。」
沖田惣次郎は山口一に微笑んで話し出す。
「小倉百人一首の歌の中に、“沖津白波”と同じ言葉の登場する歌があるよね。」
山口一は沖田惣次郎に普通の表情で頷いた。
沖田惣次郎は山口一に微笑んで話し出す。
「“わたの原 漕ぎ出でて見れば 久方の 雲居にまがふ 沖つ白波”、だよね。」
山口一は沖田惣次郎に普通の表情で頷いた。
沖田惣次郎は山口一に微笑んで話し出す。
「私は剣術に関する物事は、直ぐに覚えられるし、絶対に忘れないんだ。私は花や歌を覚えるのは、苦手なんだ。理由は分からないけれど、今日は歌を忘れずにしっかりと覚えているんだ。」
山口一は沖田惣次郎に普通に話し出す。
「状況が状況だからだと思う。」
沖田惣次郎は山口一に不思議な様子で話し出す。
「状況が状況?」
山口一は沖田惣次郎に普通の表情で頷いた。
沖田惣次郎は山口一を不思議な様子で見た。
沖田みつの不思議な様子の声が、沖田惣次郎の元と山口一の元に聞こえた。
「惣次郎?」
沖田惣次郎は山口一に微笑んで話し出す。
「姉さんの声が聞こえた。」
山口一は沖田惣次郎を普通の表情で見た。
沖田惣次郎は山口一に笑顔で話し出す。
「一君! 再び逢って話そうね!」
山口一は沖田惣次郎に普通の表情で頷いた。
沖田惣次郎は沖田みつの声が聞こえた方向に元気良く走り出した。
一瞬の後の事。
ここは、多摩。
早朝。
空の色が紺色から青色へとゆっくりと変わり始めている。
沖田みつの住む家。
一室。
沖田みつの穏やかな声が、沖田惣次郎の元に聞こえた。
「惣次郎。早く起きなさい。」
沖田惣次郎はゆっくりと目を開けた。
沖田惣次郎は畳の上に横になって寝ている。
沖田惣次郎の体には掛け布団が掛けてある。
沖田みつが沖田惣次郎を微笑んで見ている。
沖田惣次郎はゆっくりと体を起した。
沖田みつは沖田惣次郎に微笑んで話し出す。
「惣次郎。笑顔で寝ていたわよ。」
沖田惣次郎は沖田みつに不思議な様子で話し出す。
「姉さん。花菖蒲を見ました。何時、団子が食べられますか?」
沖田みつは沖田惣次郎に微笑んで話し出す。
「花菖蒲を見に行く日は、今日よ。今日は早く出掛けるから、昨日は私の家に泊まったのよ。」
沖田惣次郎は沖田みつに不思議な様子で話し出す。
「男の子と一緒に白い花菖蒲を見て、小倉百人一首の歌を詠みました。」
沖田みつは沖田惣次郎に微笑んで話し出す。
「惣次郎。夢の中で花菖蒲を見て歌を詠むほどに成長したわね。白色の花菖蒲の名前と詠んだ歌を教えて。」
沖田惣次郎は沖田みつに不思議な様子で話し出す。
「男の子が、はじめ君というのは覚えています。花菖蒲の名前も詠んだ歌も、思い出せません。」
沖田みつは沖田惣次郎を苦笑した表情で見た。
沖田惣次郎は沖田みつを不思議な様子で見た。
沖田みつは沖田惣次郎に微笑んで話し出す。
「朝食を食べて、出掛ける準備をしましょう。お団子を食べる時間がなくなるわよ。」
沖田惣次郎は沖田みつに笑顔で話し出す。
「早く準備をします! 団子をたくさん食べさせてください!」
沖田みつは沖田惣次郎に微笑んで頷いた。
沖田惣次郎は沖田みつを笑顔で見た。
同じ頃。
ここは、江戸の町。
空の色が紺色から青色へとゆっくりと変わり始めている。
山口一の兄の山口廣明と山口一の住む家。
山口一の部屋。
山口一は普通の表情で床の上に体を起した。
山口廣明が部屋の中に微笑んで入ってきた。
山口一は山口廣明を普通の表情で見た。
山口廣明は山口一に不思議な様子で話し出す。
「何か遭ったのか?」
山口一は山口廣明に普通に話し出す。
「花菖蒲の咲く場所で、以前の知り合いに逢って話す夢を見た。」
山口廣明は山口一に微笑んで話し出す。
「以前の知り合い。惣次郎君かな?」
山口一は山口廣明に普通の表情で頷いた。
山口廣明は山口一に微笑んで話し出す。
「今日は花菖蒲を見に行く日だろ。正夢になる可能性が有るな。」
山口一は山口廣明に普通の表情で頷いた。
山口廣明は山口一に微笑んで話し出す。
「花菖蒲を見に行く楽しみが一つ増えたな。」
山口一は山口廣明に普通の表情で頷いた。
山口廣明は部屋を微笑んで出て行った。
「わたの原 漕ぎ出でて見れば 久方の 雲居にまがふ 沖つ白波」
今日の江戸の町は、綺麗な青空と真っ白な白い雲が見られる気配がする。
沖田惣次郎と山口一が再び出逢う時は、少しだけ先の時になる。
花菖蒲の“沖津白波”と小倉百人一首の歌が、沖田惣次郎と山口一を僅かな時間だけ繋いだ。
花菖蒲の“沖津白波”と青空と白い雲が、沖田惣次郎と山口一に贈り物を届けたのかも知れない。
* * * * * *
ここからは後書きになります。
この物語に登場する歌は、「小倉百人一首 七十六番」、及び、「詞花集」
「わたの原 漕ぎ出でて見れば 久方の 雲居にまがふ 沖つ白波」
ひらがなの読み方は「わたのはら こぎいでてみれば ひさかたの くもゐにまがふ おきつしらなみ」
作者は「法性寺入道前関白太政大臣(ほうしょうじにゅうどうさきのかんぱくだじょうだいじん)」
歌の意味は「大海原に船を漕ぎ出して見渡してみると、雲と見間違えるばかりに沖に白波が立っています。」となるそうです。
作者の名前の「法性寺入道前関白太政大臣」は、寺の名前や状況や官職や身分などを表しています。
その関係から「藤原忠通(ふじわらのただみち)」として説明する時もあります。
この物語では「法性寺入道前関白太政大臣」とさせて頂きます。
「花菖蒲(はなしょうぶ)」の「沖津白波(おきつしらなみ)」についてです。
花菖蒲の一種類です。
アヤメ科です。
江戸系の花菖蒲の古種の一つです。
作出者・作出年の詳細については、確認がとれませんでした。
「純白六英中小輪、野生種に近い単純な花びら」です。
この物語の補足です。
沖田惣次郎さんと山口一さんが話す場面があります。
「新撰組異聞外伝」の物語の中で、沖田惣次郎さんと山口一さんは、この物語より前に逢っています。
沖田惣次郎さんは、山口一さんの名前は覚えていますが、山口一さんの容姿関係は忘れています。
山口一さんは、沖田惣次郎さんの名前も、沖田惣次郎さんの容姿関係も覚えています。
沖田惣次郎さんは、夢の中では山口一さんや歌に関する記憶が甦っていますが、夢から覚めたら山口一さんと歌に関する記憶を忘れている、という設定です。
楽しんで頂けると嬉しいです。
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