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新撰組異聞外伝 〜 真澄の鏡 十月桜の咲く中で 〜
〜 後編 〜
藤田五郎が敬一に会いに来てから数日後の事。
ここは、敬一と美鈴の家のなか。
美鈴は敬一に微笑んで話し掛ける。
「敬一に頼みたい事が有るの。」
敬一は美鈴を見ると、微笑んで話し出す。
「何を手伝えばいいの?」
美鈴は敬一に微笑んで話し出す。
「斉藤さんの家に出産祝いの品を届けて欲しいの。」
敬一は美鈴を困った表情で見た。
美鈴は敬一に微笑んで話し出す。
「斉藤さんは、お父さんとお母さんが、とてもお世話になった人なの。敬一も同じように、とてもお世話になった人よね。最初のお子さんの時には何も出来なかったから、今回は、お祝いの品を贈りたいの。」
敬一は美鈴を困った表情で見ている。
美鈴は敬一に微笑んで話し出す。
「お母さんが斉藤さんのお子さんのために作った着物なの。」
敬一は美鈴を困った表情で見ている。
美鈴は敬一に微笑んで話し出す。
「お母さんは、敬一が斉藤さんの家に出掛けたくないのなら、無理をして出掛けなくても良いと思っているの。」
敬一は美鈴を不安そうに見た。
美鈴は敬一に微笑んで話し出す。
「でもね、敬一。斉藤さんだけでなく、時尾さんやお子さんも、敬一の事を心配していると思うの。だから、斉藤さんは敬一と話しをするために、わざわざ会いに来てくれたと思うの。」
敬一は美鈴を困った表情で見ている。
美鈴は敬一に微笑んで話し出す。
「敬一が斉藤さんの家に出掛けないと決めたのなら、今回が斉藤さんの家に出掛ける最後の日という事になるわよね。斉藤さんと時尾さんとお子さんに、お別れの挨拶をきちんとしてきなさい。お世話になった人には、きちんとお礼をしてきなさい。」
敬一は美鈴を困った表情で見ている。
美鈴は横に有った包みを手に取ると、敬一に微笑んで差し出した。
敬一は美鈴を困った表情で見ている。
美鈴は敬一に包みを差し出しながら、微笑んで話し出す。
「敬一。行ってらっしゃい。」
敬一は美鈴から包みを受け取ると、小さい声で話し出す。
「行ってきます。」
美鈴は敬一を見ながら微笑んで頷いた。
敬一は包みを大事そうに抱えると、ゆっくりと歩いて出掛けて行った。
敬一は包みを大事そうに抱えながら、藤田五郎の家へと向かってゆっくりと歩いている。
ふと空を見上げると、綺麗な青空が広がっている。
敬一は包みを大事そうに抱えながら立ち止まると、青空を黙って見ている。
包みを大事そうに抱え直すと、視線を元に戻そうとした。
青空の下で、十月桜が淡い色の花を綺麗に咲かせている姿が、目に留まった。
敬一は包みを大事そうに抱えながら、十月桜へと向かって歩き始めた。
敬一は包みを大事そうに抱えながら、十月桜の下に来た。
十月桜の花は、陽の光に当たって透き通っている。
敬一は包みを大事そうに抱えながら、透き通っている十月桜の花を見ると、微笑んで呟いた。
「桜の花が陽の光で透き通っている。綺麗だな。お母さんが見たら喜ぶよね。見せてあげたいな。」
陽の光が敬一の顔に向かって差してきた。
敬一は包みを強く抱くと、目を閉じて下を向いた。
陽の光は敬一に向かって優しく差し続けている。
敬一は包みを更に強く抱くと、下を向いて目を閉じたまま呟いた。
「剣道を続けたいな。斉藤さんに稽古を就けてもらいたいな。斉藤さんや時尾さんや勉君や赤ちゃんと、たくさん話しをしたいな。でも、僕はお母さんを守らないといけないんだ。斉藤さんは、お父さんやお母さんがお世話になった人だから、迷惑を掛けたら駄目なんだ。だから、斉藤さんの家には行かないと決めたんだ。」
陽の光は敬一に向かって優しく差し続けている。
敬一は包みを強く抱きながら、下を向いて目を閉じたまま呟いた。
「でも、斉藤さんに稽古を就けてもらわずに、剣道を続けようとすると、お母さんを守る事が出来ないんだ。」
辺りに優しい風が吹いた。
敬一は包みを強く抱きながら、顔を上げて十月桜を見た。
十月桜の花は、陽の光に当たって透き通っている。
敬一は包みを強く抱きながら、透き通っている十月桜の花を見て呟いた。
「お父さん。どうしたら良いのかな?」
辺りに優しい風が吹いた。
十月桜の花は、陽の光に当たって透き通っている。
敬一は包みを大事そうに抱えながら、陽の光で透き通っている十月桜の花を、切なそうに見続けた。
それから暫く後の事。
敬一は包みを大事そうに抱えながら、藤田五郎の家の前に到着した。
いつもより小さめの声を出す。
「こんにちは。敬一です。」
時尾が微笑んで敬一を出迎えた。
時尾と敬一は、玄関へと入った。
敬一は包みを大事そうに抱えながら、時尾に微笑んで話し出す。
「こんにちは。お久しぶりです。」
時尾は敬一に微笑んで話し出す。
「こんにちは。」
敬一は時尾に包みを差し出すと、微笑んで話し出す。
「赤ちゃんの出産祝いの品です。お母さんが作った着物が入っています。」
時尾は敬一から包みを受け取ると、微笑んで話し出す。
「美鈴さんにもお礼を伝えてください。」
敬一は時尾に微笑んで話し出す。
「はい。お母さんには必ず伝えます。」
時尾は包みを抱えながら、微笑んで話し出す。
「家に上がって、少し休んでください。」
敬一は時尾に微笑んで話し出す。
「このまま帰ります。」
時尾は包みを抱えながら、敬一に微笑んで話し出す。
「母も手伝いの人も居ないの。だから、気兼ねしないでください。」
敬一は時尾に微笑んで話し出す。
「お邪魔させてもらうと、家に帰るのが遅くなります。このまま帰ります。」
時尾は包みを抱えながら、敬一に微笑んで話し掛ける。
「勉も敬一君と逢えるのを楽しみにしているの。勉と話しをしてもらえないかしら?」
敬一は時尾に微笑んで話し出す。
「わかりました。」
時尾は包みを抱えながら、敬一に微笑んで話し出す。
「どうぞお上がりください。」
敬一は時尾に微笑んで話し出す。
「お邪魔致します。」
時尾は包みを抱えたまま、敬一を微笑んで見ている。
時尾と敬一は、家の中へと入っていった。
時尾と敬一は、勉と赤ん坊が居る部屋へと向かっている。
時尾は包みを抱えながら、敬一に微笑んで話し出す。
「子供の名前は、“剛”と名付けたの。」
敬一は時尾に微笑んで話し出す。
「強君と剛君。良い名前ですね。」
時尾は包みを大事そうに抱えながら、敬一に微笑んで話し出す。
「ありがとう。」
敬一は時尾を微笑んで見ている。
時尾は包みを抱えながら、敬一に微笑んで話し出す。
「勉は弟を守ると言って、剛の傍にずっと居るの。」
敬一は時尾を微笑んで見ている。
時尾と敬一は、勉と剛の居る部屋の中へと入った。
勉は敬一を見ると、笑顔で近寄ってきた。
敬一は勉に微笑んで話し出す。
「勉君。こんにちは。」
勉は敬一に笑顔で話し出す。
「こんにちは。」
敬一は勉に微笑んで話し出す。
「勉君は剛君といつも一緒に居るんだね。」
勉は敬一に笑顔で話し出す。
「おにいちゃん。まもる。そばにいる。」
敬一は勉に微笑んで話し出す。
「そうだね。勉君はお兄ちゃんだよね。剛君を守ってあげるんだよね。」
勉は敬一を見ながら笑顔で頷いた。
敬一は剛の傍に近寄ると、微笑みながら静かに話し掛ける。
「剛君。こんにちは。」
剛は床の中で気持ち良さそうに寝ている。
勉は剛と敬一を笑顔で見ている。
時尾は勉と剛と敬一の様子を微笑んで見ている。
それから暫く後の事。
敬一が帰る時間になった。
時尾と敬一は、玄関に居る。
敬一は時尾に微笑んで話し出す。
「今日は楽しかったです。」
時尾は敬一に微笑んで話し出す。
「また家に来てくださいね。みんなで敬一君が家に来るのを、楽しみに待っています。」
敬一は時尾に微笑んで話し出す。
「ありがとうございます。」
時尾は敬一を微笑んで見ている。
敬一は時尾に微笑んで話し出す。
「斉藤さんに、僕が連絡を待っていると伝えてください。」
時尾は敬一に微笑んで話し出す。
「わかりました。藤田に必ず伝えます。」
敬一は時尾に微笑んで話し出す。
「では失礼します。」
時尾は敬一を微笑んで見ている。
敬一は時尾に微笑んで軽く礼をすると、自分の家へと元気良く帰って行った。
それから暫く後の事。
敬一が元気良く家に帰ってきた。
美鈴は敬一に微笑んで話し掛ける。
「お帰りなさい。」
敬一は美鈴に微笑んで話し出す。
「お母さん。ただいま。時尾さんに出産祝いの品を渡してきたよ。時尾さんがお母さんに、ありがとうと言っていたよ。」
美鈴は敬一に微笑んで話し掛ける。
「ありがとう。」
敬一は美鈴に微笑んで話し出す。
「赤ちゃんの名前は、剛君と言う名前だよ。」
美鈴は敬一に微笑んで話し掛ける。
「良い名前ね。」
敬一は美鈴を見ながら微笑んで頷いた。
美鈴は台所へと向かおうとした。
敬一は美鈴に慌てた様子で話し出す。
「お母さん。」
美鈴は敬一を微笑んで見た。
敬一は美鈴に言い難そうに話し出す。
「少し話しをしてもいいかな?」
美鈴は敬一を見ながら微笑んで頷いた。
敬一は美鈴に言い難そうに話し出す。
「剣道を続ける事や斉藤さんの家に出掛ける事を、どうするのが一番良いのか、いろいろと考えたんだ。」
美鈴は敬一を微笑んで見ている。
敬一は美鈴に言い難そうに話し出す。
「僕は、剣道を続けたいんだ。今の僕にとって、斉藤さんに稽古を就けてもらうのが、一番良いと思ったんだ。それに、斉藤さんや時尾さんや勉君や剛君と、たくさん会って話しをしたいんだ。だから、これからも斉藤さんの家に行く事に決めたんだ。」
美鈴は敬一を微笑んで見ている。
敬一は美鈴に言い難そうに話し出す。
「剣道を辞めると言ったし、斉藤さんの家にも行かないと言ったのに、考えて変えてごめんなさい。」
美鈴は敬一に微笑んで話し掛ける。
「敬一が考えて出した結論なのよね。」
敬一は美鈴を見ながら真剣な表情で黙って頷いた。
美鈴は敬一に微笑んで話し掛ける。
「剣道のお稽古をしっかりと続けてね。斉藤さんのご家族にも迷惑を掛けないようにね。」
敬一は美鈴を見ながら真剣な表情で黙って頷いた。
美鈴は敬一の様子を確認すると、台所へと向かおうとした。
敬一は美鈴に慌てた様子で話し出す。
「お母さん。」
美鈴は敬一を微笑んで見た。
敬一は美鈴に微笑んで話し出す。
「斉藤さんの家に出掛ける途中で、十月桜を見つけたんだ。陽の光に当たって、十月桜の花が透き通っていたんだ。とても綺麗だったよ。」
美鈴は敬一を微笑んで見ている。
敬一は美鈴に微笑んで話し出す。
「お父さんが僕の事を心配して、綺麗な桜を見せてくれたような気がしたんだ。そうしたら、しっかりとしないといけないと思ったんだ。」
美鈴は敬一を微笑んで見ている。
敬一は美鈴に微笑んで話し出す。
「お母さん。まだ陽の光があるから、透き通った十月桜の花が見られると思うよ。これから一緒に見に行こうよ。」
美鈴は敬一に微笑んで話し出す。
「剣道の練習をしなくてもいいの?」
敬一は美鈴に微笑んで話し出す。
「帰ってきたら、剣道の練習をするよ。休んでいた分は、これから挽回するよ。だから、早く出掛けようよ。」
美鈴は敬一を見ながら微笑んで頷いた。
それから僅かに後の事。
敬一と美鈴は、十月桜を見に出掛けて行った。
それから数日後の事。
朝から青空が広がっている。
ここは、敬一と美鈴の家。
敬一は美鈴に笑顔で話し出す。
「お母さん! 斉藤さんに剣道の稽古を就けてもらってくるね!」
美鈴は敬一に微笑んで話し出す。
「気を付けてね。」
敬一は美鈴を見ながら笑顔で頷いた。
美鈴は敬一に微笑んで話し出す。
「行ってらっしゃい。」
敬一は美鈴に笑顔で話し出す。
「行ってきます!」
美鈴が見守るなかを、敬一は元気良く出掛けて行った。
敬一は元気良く藤田五郎の家へと向かっている。
優しい風が吹いてきた。
敬一は立ち止まると、微笑んで前を見た。
視線の先には、先日見つけた十月桜が綺麗な姿で咲いている。
微笑んだ表情のまま、ゆっくりと十月桜へと歩き出した。
敬一は十月桜の下に来た。
十月桜の花は、陽の光に当たって透き通っている。
敬一は、透き通って咲いている十月桜の花を見ながら、微笑んで話し出す。
「お父さん。今日は、斉藤さんに剣道の稽古を就けてもらうんだ。遅れると困るから、時間のある時にまた来るね。」
辺りに優しい風が吹いた。
敬一は十月桜を背にしながら、元気良く藤田五郎の家へと向かって歩き出した。
それから少し後の事。
敬一は藤田五郎の家の前で、元気良く声を出す。
「こんにちは! 敬一です!」
時尾は敬一を微笑んで出迎えた。
敬一は時尾に微笑んで軽く礼をした。
時尾と敬一は、家の中へと入っていった。
敬一は家の中に入ると、直ぐに藤田五郎の部屋へと向かった。
敬一は藤田五郎の部屋の前に来ると、元気良く声を出す。
「敬一です!」
藤田五郎は障子を開けて敬一を見ると、普通に話し出す。
「入っていいぞ。」
敬一は藤田五郎に軽く礼をすると、部屋の中へと入って行った。
ここは藤田五郎の部屋のなか。
敬一は藤田五郎に真剣な表情で話し出す。
「先日は失礼致しました。これからも剣道の稽古を就けてください。よろしくお願いします。」
藤田五郎は敬一に普通に話し出す。
「この前の事は、既に話をした通り、俺も悪かったと思っている。剣道の稽古も、今までと変わらずに就ける。だから、もう気にするな。」
敬一は藤田五郎に真剣な表情で話し出す。
「はい。」
部屋の外から時尾の声がした。
「お茶をお持ちしました。」
藤田五郎は時尾に普通に話し掛ける。
「入っていいぞ。」
時尾がお茶を持って部屋の中に入ってきた。
時尾は藤田五郎と敬一の前に、お茶の入った湯飲みを置いた。
敬一は時尾に微笑んで軽く礼をした。
時尾は敬一に微笑んで軽く礼をすると、直ぐに部屋の外へと出て行った。
敬一は藤田五郎に微笑んで話し出す。
「いただきます。」
藤田五郎は敬一を見ながら普通の表情で黙って頷いた。
敬一は美味しそうにお茶を飲み始めた。
藤田五郎は敬一を普通の表情で黙って見ている。
敬一はお茶を飲み終わると、藤田五郎に微笑んで話し出す。
「剣道の稽古を就けてください! よろしくお願いします!」
藤田五郎は敬一を見ながら普通の表情で黙って頷いた。
それから少し後の事。
藤田五郎と敬一は、剣道着を着て練習場に居る。
藤田五郎は敬一に普通の表情で竹刀を手渡した。
敬一は藤田五郎から真剣な表情で竹刀を受け取った。
藤田五郎と敬一は、少し距離を置いて向き合った。
敬一は藤田五郎に真剣な表情で話し出す。
「よろしくお願いします。」
藤田五郎は敬一を見ながら普通の表情で黙って頷いた。
敬一は真剣な表情で、藤田五郎に向かって竹刀を構えた。
藤田五郎は普通の表情で、敬一に向かって竹刀を構えた。
敬一は前へ出ると、藤田五郎に向かって勢い良く竹刀を打ち込もうとした。
藤田五郎は普通の表情で竹刀を構えながら、敬一の前に足を出した。
敬一は藤田五郎の足の動きを見ると、歩調を変えて、藤田五郎の足を避けた。
藤田五郎は敬一の動きを普通の表情で見ている。
敬一は歩調を変えたため、僅かだが体勢に変化が出た。
藤田五郎は片手で竹刀を持つと、片手で敬一の背中を強く押した。
敬一は藤田五郎に背中を押された勢いで、前に向かって倒れた。
藤田五郎は竹刀を構え直すと、敬一に普通に話し出す。
「敬一。もう休憩か?」
敬一は直ぐに立ち上がると、藤田五郎に強い調子で話し出す。
「休憩なんてしていません!」
藤田五郎は竹刀を構えながら、敬一に普通に話し掛ける。
「竹刀を構えずに話しをしているという事は、休憩している以外の何物でもないよな。」
敬一は直ぐに竹刀を構えると、藤田五郎に向かって竹刀を打ち込もうとした。
藤田五郎は敬一の動きを見ながら、素早い動きで避けた。
敬一は藤田五郎の動きを見ながら、再び竹刀を打ち込もうとした。
藤田五郎は自分の竹刀で、敬一の竹刀を強い力で払った。
敬一は前に向かって倒れた。
藤田五郎は竹刀を構えながら、敬一を普通の表情で見ている。
敬一は直ぐに立ち上がると、藤田五郎に向かって竹刀を打ち込んだ。
藤田五郎と敬一の稽古は続いている。
青い空の中を白い雲がゆっくりと動いている。
時折優しい風が吹いている。
十月桜の花は、陽の光に当たって透き通っている。
十月桜も、青空も、敬一の気持ちも、真澄の鏡のように透き通っている。
〜 完 〜
はじめに
前編
中編
後書き
目次
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