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高萩炭鉱、向洋炭鉱専用側線 2
〜安良川操車場と向洋炭鉱専用側線〜
「安良川新町交差点」。
「安良川」と書いて「あらかわ」と読む。意外に読みにくい地名だ。
交差点付近には、いわゆる郊外型のショッピングセンターが建ち並んでいる。この付近だけで大抵の生活物資は手に入るだろう。
GW最中ともいうこともあり、車の通行量が半端ではない。普段見掛けないような地名のナンバーの車が通り過ぎていく。
交差点を過ぎたこの画像の地点付近に専用側線の「安良川操車場」があったと言う。
市道と市道右手の酒屋さんの敷地の辺りが操車場と考えられる。
安良川操車場は資料(常磐地方の鉱山鉄道)によると、4本の線路を有する比較的大規模な操車場であったようだ。
専用側線には最大で4つの炭鉱(石炭積込所)から石炭が搬出されていたので、この操車場に一旦貨車を集めて編成を組んだのであろう。
操車場跡を過ぎた市道は、非常に短い橋を渡る。
「境橋」と呼ばれるこの橋は昭和58(1983)年に架けられた。
現在の境橋は歩道と車道が一体化しているが、先代の境橋に歩道部分は無く、専用側線の橋が残されていたようだ。
境橋を横から見る。
残念な事に、川(境川)の両岸は護岸で固められ、側線時代の痕跡は何一つ残されていない。
境橋を渡った直後、専用側線は「向洋炭鉱専用側線」を分岐する。
画像の右側に見える建物の敷地内に、分岐直後の向洋炭鉱専用側線があったようだ。
専用側線は急な右カーブを描きながら、北西方向に進路を向け炭鉱に向かって進んでいく。
専用側線跡は現在、高萩市道1675線となっている。
側線跡から遠くに視線を向けると、大変カラフルな住宅地が見えた。
「向洋台団地」と呼ばれている。
団地はかつて向洋炭鉱のズリ山(屑炭が集積されたもの)を崩して均された場所である。
向洋台団地から坂道を駆け下り、先程のショッピングセンターに向かう車があるので、市道の交通量はかなり多い。
撮影には安全を確認して慎重に行なった。
向洋炭鉱専用側線は開設当時「山一炭鉱専用側線」と呼ばれていた。
山一炭鉱は古河鉱業傘下であったが、昭和27(1952)年に宇部興産傘下となり、「宇部興産㈱向洋鉱業所」に変わった。
宇部興産(UBE)は現在においてもその名を世界に轟かす山口県宇部市に本社を置く巨大総合化学企業である。宇部興産は山口県に存在した「沖の山炭鉱組合」から発展した企業であり、炭鉱(石炭)とは非常に縁の深い企業である。
古河好間炭鉱
のように宇部興産も常盤炭田内に確固たる地位を築くために向洋炭鉱を運営していたのである。
この項上の航空写真からも分かる通り、専用側線は谷間の一点を目指して突き進んでゆく。
炭鉱の主要施設は谷の上に配し、万石(石炭積込所)は谷の下に置く。
高度差を利用した合理的な設備配置だったのだ。
カラフルな花が民家の軒先を飾る。
専用側線跡はなおも谷間に向かって進んでいく。
遂に民家は途切れ、右手に川(境川)。左手をフェンスに挟まれた細い未舗装路へと変化する。
40年ほど前に、この場所を蒸気機関車が駆け下ってきた様を想像するのは難しい。
左手のフェンスの中には池が見えた。
恐らく谷間に流れた雨水をここに一旦集める為の調整池ではないだろうか。
運炭鉄道と言うよりは、森林鉄道のような雰囲気になってきた。
側線跡の両脇はコンクリートのフェンスによって護られている。
足元の轍は続いているものの、その主は普通の4輪車のものではなく、無限軌道車(キャタピラー)のものにとって替わられている。
道として最低限の整備をする為に入っているのだろう。
所々に顔を覗かせる法面は、ご覧のように比較的滑らかな断面を有している。
しかし、その断面は自然による造形ではなく、専用側線敷設のために土木工事によって削られたものなのだ。
法面はコンクリートによる補強などは成されていないが、崩壊などの差し迫った危険などはないようだ。
石炭増産の為に、戦時中幾多の困難に立ち向かい作られた専用側線だ。流石に法面がどうのこうのとは言っていられなかったのだろう。
未舗装路は次第に先行きが怪しくなり、遂にはこのように二進も三進も行かない状況になってしまった。
谷間にわずかに開けたこの土地に、向洋炭鉱専用側線の万石(石炭積込所)があったのだと言う。
現在は藪に覆われ、万石やそれに付随する施設の跡は見られない。
コンクリート製の電柱が一本聳え立つのみだ。
向洋炭鉱の万石を出発した列車は、分岐点に向かって下り坂をゆるゆると降りていったと言う。
今は草木に囲まれ当時を窺い知る事は難しいが、緩やかにカーブしていく二条の轍と荒削りな法面が此処に鉄道が敷かれていた事を物語っている。
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