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「関西三空港問題」を考える
その2・関空を巡る国と利用者の「対立」





伊丹空港


写真は2005年4月、7月、8月、11月、12月、2006年2月、3月、5月撮影

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●関空救済としての関空シフト
国土交通省による伊丹発着便の「関空シフト」が2005年4月からスタートしました。
北海道、南九州などへの発着便の1日10往復のシフトで、2006年4月からは伊丹の3、4発機規制もスタートしました。名目は伊丹の騒音問題とはいえ、大型機を使用する路線を事実上伊丹から関空にシフトさせることで、関空国内線の発着回数を増加させることで関空の収入を増加する「関空救済策」であるということは衆目の一致するところでしょう。

そもそもこの「シフト」は、関空二期工事の予算配分がゼロ査定になりかけた時、離発着回数の増加目標を達成することと引き換えに予算配分を認めさせたことと密接に結びついています。
二期工事の必要性を証明するための離発着回数を確保するために、伊丹から関空にシフトさせて回数を増やした結果としての回数増というのが正直なところでしょう。

関空のセキュリティエリア


●関空シフトへの乗客の反応
2005年6月2日の大阪朝日夕刊は1面トップで、「便は移れど人まばら 関空シフト、視界不良」と掲げ、関空シフトで関空便が増えても、乗客は残った伊丹便にシフトしてしまい、実質の利用者増にはつながっていないという記事を掲載しています。

関空の利用者数の実数は、便の増加に伴い確かに増えているのですが、その源泉となるはずのシフト対象便を見ると、これまで伊丹時代に利用していた乗客が関空便には来ないケースがはっきりと出たと言うことです。
記事によると、例えば伊丹時代6往復だったJALの札幌便は、関空にシフトした2往復は伊丹時代比で2割減少。伊丹に残った札幌便は便数は2/3の4往復になったのに、乗客は3割増加とあります。

2005年度の数字について、神戸効果が入る第四四半期を除く9ヶ月ベース(4〜12月)で前年度と比較すると、札幌、那覇ともに伊丹便は座席提供数の減少幅よりも搭乗者数の減少幅が下回り、関空便は逆に座席提供数の増加幅に搭乗者数の増加幅が付いて行っていません。
ですから大阪(伊丹+関空)−那覇で見ると、関空は確かに実数で28%の高い伸びですが、全体では10%程度の伸びにとどまっており、関空シフトが集客に寄与したとは言いがたいです。
さらに記事の大阪−札幌で見ると、伊丹と関空の合計の実数で1%落としており、関空シフトが全体としての客離れを招いたと言う指摘が出来ます。

関空到着時の風景

また、2004年12月13日付日経(関西経済面)で、伊丹や羽田発のビジネスマンへのアンケートで、伊丹便が関空に移転した場合の対応を問うと、伊丹発の65%、羽田発は実に74%が新幹線に移行すると回答し、関空を使うと答えたのは2割程度にとどまっています。今回の長距離便のシフト結果はこうした予測を裏付ける結果になっており、航空会社は今後の関空シフト要請にはより慎重になることは必至です。

●便の多寡ではない結果
関空開港後に伊丹から大幅に関空にシフトした反動とも言える「伊丹シフト」で関空発着の国内線が減少し、使い勝手が悪くなったから利用が減少している、という話はよく聞きますので、「関空シフト」も関空の便数をある程度確保しないといけないという説明で利用者に理解を求めている点があります。

搭乗口に並ぶ人は無く(ANA羽田行き最終便)

しかし、関空シフトにより「便数が減少」して「不便」になったはずの伊丹の搭乗率上昇を見る限り、さらに2005年3月から1年間就航していたスカイマークの羽田−関空線の低迷を見る限り、便の多寡は問題ではないというしかありません。

特にSKYの羽田線は、便が無いから利用出来ないと言う声に答えた格好での日中便を含んでいましたが、結果は惨憺たるもので30%程度の搭乗率となっています。
それでも羽田−関空の実数としては2005年度の実績を伸ばす方向には働いていますが、機材が767と中型機だったから搭乗率が悪いと言う指摘にしても、機材に比例する着陸料を関空では事実上免除してもらっていたのに、商業ベースに乗るだけの搭乗率は確保できなかったのです。

ただ、注意したいのは、羽田−関空の実数は大手のみベースでは04年度から06年度にかけて低落傾向に歯止めがかかっていません。SKYの就航とともにSKYの分だけ増加して、撤退とともに減少したといえるトレンドを描いていることから、価格競争力のほうが重要視されたと見ることも出来ます。

●利用者が見せた「神戸シフト」
こうした国による「関空シフト」に対し、利用者は当初残った伊丹便に集中する形での自己防衛を見せていましたが、2006年の伊丹4発機規制では新しい動きを見せました。

神戸空港の搭乗口で登場を待つ人達

つまり、国が目論む「関空シフト」の裏をかく様に「神戸シフト」に動いたのです。
各社の4-6月データを見ますと、札幌線における伊丹の減少分は神戸が受け皿になり、かつ関空まで食われた。沖縄線は関空へのシフト数が多かったこともあり関空に相当数移行したものの、やはり神戸が相当数食ってしまったのです。まだ最初の四半期だけですから何ともいえない面がありますが、受け皿が関空と神戸でこれほどまでに対照的な動きを見せると言うことを見せつけられると、「関空」に対する利用者の「評価」は疑う余地がないといえます。

一方で羽田−大阪3空港での大手の実数は微増もしくは横ばいであり、神戸地区、阪神間の需要が伊丹、関空からシフトしたと言う評価になります。SKYの数字はそれに上積みとも言えるわけで、どちらかと言うと新規需要の掘り起しかもしれません。
このあたりは羽田−関空線と類似の傾向ともいえるわけで、関空線よりも安い運賃で、都市部に近いと言う相乗効果が特に出だしの絶好調を呼んだと見ます。

スカイマーク機内(神戸線)


●利用者と関空の「実際の距離」
関空の不人気の原因というと、絶対的な距離から来るアクセスの問題が大きいとされていますが、地図や時刻表で見ると、大阪市内からの時間距離と言う意味ではそこまで悪くはないように見えます。
しかし、利用者はなぜ関空を嫌い、今回の「関空シフト」でも露骨に数字に表れるのか。

少し古い資料ですが、2002年11月に定期航空協会がまとめた「『大阪国際空港の在り方』に関する定期航空協会の意見」の資料を見てみましょう。
http://www.teikokyo.gr.jp/pdf/hearing04.pdf
http://www.teikokyo.gr.jp/pdf/hearing04sub.pdf

ここから大阪府北、兵庫は遠い

決定的だと思われるのは、伊丹、関空両空港の利用者数の地域別内訳です。
つまり、大阪府北、兵庫で全体の80%近くを占めるのです。大阪府内で見ても大阪府北、府南の比率は72:28であり、府南の数字は兵庫県の半分強、そもそも関空に限定しても和歌山県が遠い兵庫の6割しかおらず、お膝元の大阪府南ですら兵庫の1.5倍「しか」いないわけです。つまり、関空が近い、という利用者は、関西における都市や人口の展開と相反して少ないのであり、関空の立地は利用者ベースで見た場合、「最悪」に近いと言えます。

ですから関西における航空需要がそもそも関空から一番遠い北に偏っているという前提があるなかで、なぜ南も南、和歌山県境に近い大阪泉南の地を選んだのか。選定そのものが間違いだったと断ずるほかありません。

●代替交通機関の脅威
足下の「関空シフト」は、伊丹と言う受け皿があったため利用者が移らなかったと言う批判があります。利用者が本当にどうしても北海道や南九州などに行きたいのであれば、若干の不便は甘受して関空にシフトするという見立てです。

しかし、現実はどうでしょうか。
全体としての目的地への需要が減退していない、だから完全に関空にシフトすれば良いとも見ることもできますが、航空便の設定時間よりも伊丹であることを優先していることから、伊丹があれば時間にこだわらずに利用する、つまり「どうしても(北海道や南九州などに)行きたい」という需要は実は少ないという見立ても可能です。

関空・セキュリティエリア入口付近

このあたり、2005年度の 「航空輸送サービスにかかる情報公開」 を見てみましょう。

路線別データには一部記載されていない(伊丹−庄内、伊丹−但馬)ものがありますが、これを見ますと、伊丹、関空の合計に対する伊丹の利用者数は77%程度となります。
これを路線別で見るのですが、北海道、北東北、南九州、南西諸島といった代替交通機関がないエリアと、代替交通機関があるエリアに分けて見ましょう。東北では仙台、花巻、新潟は代替あり、九州では熊本、佐賀、大分はありと見ます。

この時、伊丹発着に占める代替交通機関があるエリアへの利用者は全体の約68%となります。ちなみに「関空シフト」の対象となったエリアは約26%しかないわけです。
伊丹、関空合計で見ても、代替交通機関のあるエリアへの利用者が全体の約64%となっており、常に代替交通機関との競合を考慮する必要があります。

もし最終的に代替交通機関がないエリアは関空に渋々シフトするとしても、その数は伊丹全体の約32%であり、残り68%についてはザルから水が漏れるように他の交通手段に移行する危険性があるわけです。ちなみにその「32%」のうち9%に相当する数字は長崎と鹿児島であり、九州新幹線の進捗如何では逸走も有り得ます。

●「関空シフト」がもたらす結果は
荒っぽい仮定ですが、代替交通機関がある前提で関空を選ぶ数字は、代替交通機関があるエリアでは先の日経アンケートの数字を加味して1/3と考えると(67%が逸走すると仮定)、関空の国内線需要は現状の約3倍に増えますが、関西全体の国内線総需要は九州新幹線が全通前で約65%、全通後では約60%にまで落ち込む計算になります。
なお、代替交通機関がないエリアの場合は、目的地を見ると観光需要が多いと目されるわけで、そうなると「不便な関空」が出発だと観光自体を手控えるという傾向は否定出来ないわけです。
そうなると、関空への全面シフトは、それが代替交通機関がない航空独占エリアである北海道や南九州ですら、「利用の抑制」という選択肢を回答することになる可能性が強いわけで、全体のパイを著しく減少させるだけで終わりかねません。

羽田に着いた伊丹からのシャトル便

それが顕著なのは上記のビジネス需要であり、代替交通機関が存在するなかで関空シフトを強行すれば、現状の6割〜75%が新幹線に逸走するという利用者の意向を踏まえると、航空会社のドル箱が一夜にして消滅する危険性があるわけです。

こうして見ると、関空救済策としての関空シフトという発想が、伊丹と関空のゼロサムゲームという有り得ない前提に基づいていることは明白であり、利用者から見ると、「関西圏から国内線の空港を無くす」という施策と同義と言っても過言ではありません。


その3へ続く  



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