このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

台湾40 平渓線編(十分大瀑布その2)

  前ページ にも書いたが、何かに引き込まれるように、この隙間に足を踏み入れてしまった。しかも写真まで撮っている。我ながら謎だ。

隙間
 

 中に入ってみると、岩の合間を縫って滝のそばまで行けそうだ。もっと滝の近くに寄って迫力ある写真を撮るのが、ホームページを持っている者の責務ではないか。そんなことを考えながら歩を進めた。

岩の合間に道があった。

 上の写真の奥に映っている岩の右からさらに下りることができる。その先が滝壺である。岩に手を付いてそろそろと足を伸ばした瞬間。

 僕は足を滑らせた。

 岩場で大の字に寝転がった僕の顔に、台湾の雨が降り注ぐ。手に持っていた傘は折れ曲がって燃えないゴミと化した。安ジャケットとズボンには苔が付いて緑色になった。シャツの胸ポケットに入れていたデジカメが滝壺に落ちていたら、その場で泣き崩れていたに違いない。
 おそるおそる立ち上がり、気を取り直して撮ったのが下の写真だ。前ページの写真と比較すると、下から撮っていることがお分かりいただけると思う。

気を取り直して撮った十分大瀑布

 上の写真を撮ってから遊歩道に戻った。雨に濡れた遊歩道は歩きにくかったが、同じ失敗を繰り返すことなく出入口にたどり着いた。転んでもなお側面からの写真を撮った自分を褒めてあげたいと思う。

側面から撮った十分大瀑布

 折れ曲がった傘を持ち、苔のついたジャケットを着た日本人旅行者を見る受付の台湾人青年の眼はどこか悲しげであった。折れた傘を捨てて新しい傘を買おうとしたところ、受付の台湾人青年は手で曲がった骨を伸ばしてくれた。傘はなんとか使用に堪えるレベルにまで戻った。

 台湾人青年に礼を言ってから大華駅までの道を尋ねたところ、出口の左を指差した。僕は出口の右からやってきたのだが、左にはトンネルしか見えない。僕がトンネルを指差すと、青年は力強くうなずいた。合っているようだ。
 線路の上を大華駅に向かって歩き出し、トンネルの中に入った。もちろん明かりは無く、真っ暗だ。しかもトンネルは曲がっているようで、前方に明かりが見えない。周囲に人影も無い。僕は思った。

 自分は今、死に直面しているのではないか。

 単線のトンネルでは逃げ場が無い。一時間に一本も走っていない電車とはいえ、僕がトンネルを抜ける前に電車が来ないとも限らない。

 そのとき電車は僕を発見してくれるのだろうか?
 急ブレーキを踏んで間に合うのだろうか?
 「台湾の平渓線で旅行者轢死」などと新聞に載ったら、悲しまれるというよりも笑われるのではないだろうか?
 
 そんなことを考え出すと恐怖感が大きくなるものの、暗くて足元が見えないので、危なくて走れない。出来るだけ早足で歩いて、トンネルを通り抜け、そのまま歩き続けた。トンネルの写真が無いのはそのような理由による。

トンネルを抜けてから

 十分大瀑布から大華駅までは15分程度だろうか。大華駅に着いたところ、瑞芳駅行きの電車は1時間半待ちであった。もちろんタクシーなど無いし、店も無い。途方に暮れていたところ、 菁桐駅 行きの電車がやってきた。この電車に乗り込んで菁桐駅まで行き、下りずにそのまま瑞芳駅まで行くことにした。
 僕は結局、平渓線を2往復したことになる。

大華駅

 苔の付いたジャケットとズボンを着たまま瑞芳駅に着いた。窓口で台北行きの特急に乗ろうとしたところ、立席しかないという。台北までの約50分間、苔の付いたジャケットとズボンを着たまま、僕は通路に立ち続けた。



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