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俳 書

『しぐれ会』(明和7年刊)


明和7年(1770年)、芭蕉の七十六回忌。 諸九尼 が参列している。

祖翁正当忌日は、ふりみふらすみ神無月中の二日也けり。けふや比良・横川の高根もけしきたち、湖の面ところところしくれて、ねくらさためぬ水鳥も、浪間に通ふ千鳥の声も、さなから昔をしたふに似たり。されや「世にふるも更に宗祇の」と先達の観相を称嘆せられしも、まのあたりに尊まれ侍れは、年々此日をしくれの会式と名つけて、時雨の句々を廟前にさゝけ奉るものならし。、

粟津 浮巣庵

右は、古人のさため置し一紙を其儘に、年々此集の序文として、此会式懈怠有へからす。 蝶夢

明和七寅年十月十二日於義仲寺興行

 此塚の松いく度か時雨の日
   汀雨

 坐具に折しく霜のかれ草
   蝶夢

 足る事は覚へす旅を常にして
   後川

 大きな家の物しつかなり
   文下

 鋤鍬をつらりと懸て光らする
   諸九

 堪忍ならぬ春の寒さよ
   魯江



十月八日於岡崎五升庵興行

 こゝろさすけふや時雨の音まても
   文下

 蔦枯のこる壁に夕陽
   蝶夢



      当坐探題

 石蕗の花暖そふに延にけり
   只言

 埋火やつゝめと出る膝かしら
   蝶夢

      文通奉納

 はせを忌や袂は染ぬ硯箱
    二日坊

夕しくれ暮ゆく鳰の物あはれ
   阿雖

 しくるゝやなめかし山に夕日さす
   蝶酔
  豊後
 また落ぬ木の葉ぬらすや初時雨
   蘭里

はせを忌やむかしを今にうつくまり
   旧国
  嵯峨
 夕しくれ急ぬかほて戻る牛
    重厚

      出席捻香

 降ものゝはや消るかと初しくれ
   桐雨
  洛尼
 その椎の木陰にぬるゝ時雨かな
    諸九

 とりとりの筆を時雨に染にけり
   文下

    芭蕉堂の造営も、そこはかとなく一
    年の春秋を歴けれは

 軒にやゝ物ふりにけり夕しくれ
   蝶夢

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