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菊池寛 (きくち・かん) 1888〜1948。




青木の出京  (青空文庫)
短編。永久の苦手ともいうべき危険性を帯びた男、青木!──雑誌社に勤めている広井雄吉は、銀座で旧友・青木と再会してしまう。学生時代、哲学青年・青木の天才ぶりにすっかり畏敬の念を抱いた雄吉は、身代わりになって青木の危急を救ってやるが、彼はとんでもない悪事の天才であった! 「貴様は青木に対する盲動的感激のために、一度半生を棒に振りかけたのを忘れたのか。強くあれ! どんなことがあっても妥協するな」。またしても青木の術中にはまりそうな予感…。悪友との再会をユーモラスに描いてめちゃ面白い。

仇討禁止令  (青空文庫)
短編。勤王の志のため、佐幕派の家老・成田頼母をやむを得ず暗殺した高松藩の青年武士・天野新一郎。しかし、成田家とは別懇の間柄であり、頼母の娘・お八重は許嫁である新一郎は、心の痛みを感じる。新一郎が親の敵(かたき)だとは知らないお八重と万之助の姉弟を家に引き取り、面倒を見る新一郎だが…。「子細とはなんじゃ」、「万之助は、敵討がしたいのでございます」、「えっ!」、「父頼母を殺された無念は、どうしても諦めることができません」。相思相愛の女性と結婚できない主人公の苦悩を描いて感涙の悲恋話。

仇討出世譚  (四国の山なみ)
短編。但馬出石の藩士・葉田与七郎が鳥を狙って放った矢が、同藩の大石半九郎に当たって死亡したことから、果し合いの悲劇になってしまう。この一件の傍観者であった同藩の立石伊織だが、時のはずみで荷担人になってしまう。葉田や大石らの遺族である少年たちは、立石を仇だと思い込み、敵討の旅に出るが…。「立石殿に逢って、委細がわかれば、拙者等の敵は、立石殿でなくて、御身達かも知れんのじゃ」、「それは、こちらも覚悟している。望みとあらば、今でも立会うてやる」──。犠牲的精神を描いて感動的な時代小説。

ある恋の話  (青空文庫)
短編。不幸な結婚生活から男嫌いになり、十八の年から後家を通して来た主人公の女性。そんな彼女が二十四五の時、図らずも、役者の染之助に恋をして、芝居小屋に通うようになるが…。役者自身には幻滅を感じるも、役者が演じる人物にうっとりするという夢現の恋…。「貴女様はその美しい二つのお眸で、私を悩み殺しにしようとなさいました」──。“事情”を知らない染之助の煩悶が面白い。

ある抗議書  (青空文庫)
短編。多数の人間を殺害した凶悪犯・坂下鶴吉に姉夫婦を惨殺された私(姉の弟)。獄中でキリスト教の信仰を得た犯人は、死刑への恐怖もなく処刑される。「犯罪なるものが、被害者の肉体のみならず、精神をもどんなに苦しめるかを考えたならば、囚人が刑罰の為に肉体的にも精神的にも苦しむと云うことが云わば至当な事ではないかと思います」。刑罰の目的とは何なのかを問題提起した作品。
→菊池寛「若杉裁判長」

入れ札  (青空文庫)
短編。代官を殺し、関所を破り、逃走している侠客・国定忠治とその乾児(こぶん)たち。大勢では目立つため、忠治と行動を共にする三人を、十一人の中から入れ札で決めることに。このままでは自分は選ばれないと思った九郎助は、何とかして選ばれようと、自分で自分に投票してしまうが…。「賭博は打っても、卑怯なことはするな。男らしくねえことはするな」。人間の心理を見事に描いていて秀逸。

M侯爵と写真師  (青空文庫)
掌編。国家の重職にあるM侯爵に気に入られた新聞カメラマン・杉浦辰三。向こう見ずの剽軽者である彼は、平民的と評判のM侯爵にスッポンをご馳走になってすっかり上機嫌になるが…。「やあ! M侯爵に会いに行ってたって。どうだい! いい人だろう。あんないい人はないぜ」。社交辞令を平気で言う者が悪いのか、社交辞令を真に受ける者が悪いのか。社交辞令の良し悪しを描いて面白い。

恩讐の彼方に  (青空文庫)
短編。主人である旗本・三郎兵衛を殺害し、逃亡した下男・市太郎だが、良心の呵責に囚われ出家する。一方、大人に成長した三郎兵衛の倅・実之助は、敵討の旅へ出発するが…。「主(しゅ)を打って立ち退いた非道の汝を打つ為に、十年に近い年月を艱難の裡(うち)に過したわ。ここで会うからは、もはや逃れぬところと尋常に勝負せよ」──。二十余年もの間、一途にトンネルを掘り続ける姿に驚愕! 恩讐も吹っ飛ぶ偉大なる人間力! 「かかる半死の老僧の命を取ることが、何の復讐であるか」。感動・感涙のラスト!!

女心軽佻  (四国の山なみ)
短編。「一生涯決して再婚なんか致しませんわ」。医者で道術の達人である夫・黒川源太主にそう誓った妻・深谷(みたに)だが、源太主が病死してしまうとすぐ、源太主の弟子・道龍と再婚したいと望み、必死になる…。「私があの人に操を守る義理なんか少しもございませんの。貴君(あなた)さえおよろしければ、亡き良人(おっと)の貯えも、皆貴君に差し上げます」。どんでん返しの展開が面白い。

恩を返す話  (青空文庫)
短編。島原の乱で、兵法の同門である佐原惣八郎に命を助けられてしまったことが悔しくてならない熊本藩士・神山甚兵衛。早く恩を返して、不快を取り除きたいと考える甚兵衛だが、その機会が訪れないまま、徒に月日が経ってしまう。ある科で罪人となった惣八郎の討手に選ばれた甚兵衛は、遂に報恩の機会が来たことを喜ぶが…。受けた恩が心の負担となり悩み苦しむ人間心理を描いて面白い。

敵討母子連れ  (四国の山なみ)
短編。武士の体面にこだわるあまり、同輩の高木主馬に果し合いを挑み、斬殺された水戸藩士・浜村左兵衛。左兵衛の妻・貞は、元服した息子・竹之助を連れて敵討の旅へ出るが…。心の優しい竹之助と、親切で慈愛に充ちた老武士との心の交流…。「一目会った時より、そなたが子か孫かのように、なつかしく存じた…」、「拙者とても、同様。父上か、伯父上かのように…」。敵討を超越した感動作。

 (青空文庫)
掌編。「槍(やり)中村」と呼ばれて、敵から恐れられている侍大将・中村新兵衛。トレードマークである猩々緋(しょうじょうひ)の陣羽織と唐冠の兜を、若い士(さむらい)に貸して、出陣する新兵衛だが…。「ああ猩々緋よ唐冠よ」──。「形」も大切だという教訓もの。

狐を斬る  (網迫の電子テキスト乞校正@Wiki)
掌編。二十以上も齢の違う小間使い・おなみを妻として扱うようになった浪人・川路左司馬。おなみと越後屋の手代・清吉との善からぬ関係を知った彼は…。自分の面目を保ち、おなみを救ってやる方法とは? 「何! 清吉! たとい、出入りの町人と申せ、深夜に無断で出入りするとはゆるさぬ! え! 云いわけ無用じゃ。くどい! えっ!」。奇抜で平和的な解決方法が、立派で面白く素晴らしい。

吉良上野の立場  (青空文庫)
短編。公儀から勅使饗応役を命じられた浅野内匠頭は、接待費を切り詰め、指南役の吉良上野介への付届も倹約する。そのために吉良と険悪な関係となり、遂には刃傷事件が起きてしまう…。「わしの言い分やわしの立場は、敵討という大鳴物入りの道徳のために、ふみにじられてしまうのだ」──。忠臣蔵を吉良の立場から描いていて面白い。忠臣蔵って所詮、短気と頑固の喧嘩の代償!?(笑)

勲章を貰う話  (青空文庫)
短編。ワルシャワの小劇場の歌手・リザベッタに惚れたロシア軍の士官候補生・イワノウィッチだが、彼女を巡って上官・ダシコフ大尉と対立する羽目に陥る。彼女と別れれば十字勲章をやるというダシコフを憎悪する彼は、ドイツ軍が迫り来る中、ダシコフを射殺してしまう…。女を完全に自分のものにしようとするエゴ…、戦争がもたらす「人を殺す」という感覚の麻痺…。凄まじい戦場の描写が秀逸。

好色成道  (網迫の電子テキスト乞校正@Wiki)
掌編。勉強しなければという良心はあるものの、ついウカウカと怠慢な生活を送ってきた比叡山の若い学僧。嵯峨に参詣した帰りに、美女の家に泊めてもらった僧は、出家の身であることも忘れて、無性に女と契りたくなってしまう。「ぜひ、勉強して法華経を空で読めるようになって下さい。そうなれば、ぜひもう一度訪ねて来て下さい、いろいろお話もしたいと思いますから」──。私もあやかりたい(笑)。

極楽  (青空文庫)
掌編。安らかな往生を遂げた老女・おかん。望みどおり極楽浄土へ辿り着いた彼女は、死別した夫・宗兵衛と十年ぶりに再会するが、なぜか彼は余り嬉しそうな顔をしなかった…。「何時まで、こうして坐って居るのじゃろう」、「くどい! 何時までも、何時までもじゃ」。未来の楽しみがない、永遠に続く平穏無事な生活…。退屈しのぎに「地獄」の話をする皮肉…。極楽の実態(?)を描いて面白い喜劇。

島原心中  (青空文庫)
短編。京都の色街・島原で起きた心中事件。死に損なった若い男を尋問する検事は、短刀で喉を突いて死亡した娼妓の自殺幇助の事実を自白させ、職務的な満足を覚えるが…。あの若者のような場合に、あの若者のような態度に出ることは、何人からも肯定さるべき、自然な人情ではないか。それが、人間として美しいことではないか──。一人の娼妓の死を通して、法律や尊厳について考える。

俊寛  (青空文庫)
短編。鹿ヶ谷事件で鬼界ヶ島に流刑となった三人。康頼、成経は赦免されて帰京するが、僧・俊寛だけは許されず、孤島での生活を強いられる。絶望のあまり自殺も考える俊寛だが、一人になったことで、逆に人生に対する執着がなくなり、生まれ変わったような晴れ晴れとした気持ちになる…。絶海の孤島での自然生活…、土人の少女との家庭生活…。逆境の中の幸福を描いて印象深い歴史物。
→倉田百三「俊寛」 →芥川龍之介「俊寛」

上意打  (四国の山なみ)
短編。江戸町人を殺した若武士・原兵馬を上意打にすると決めた松代藩主・真田伊豆守。伊豆守の将棋の相手をしている侍医・山田道順は、その事をこっそり原兵馬に伝えるべきか悩む…。「将棋の上では、どんな失礼をしても、お怒りにならない。その代り、将棋以外の事は、何も申し上げないことにしている。将棋以外では、相手はお殿さまで、わしはわずか五十石の医師だからなア」。あっぱれ至極。




  菊池寛・翻訳のモーリス・ルブラン『奇巌城 アルセーヌ・ルパン』は こちら



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