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林不忘 (はやし・ふぼう= 牧逸馬 ) 1900〜1935。




釘抜藤吉捕物覚書01・のの字の刀痕  (青空文庫)
短編。小博奕打ちの悪党・栄太が、弟である助三郎夫婦の家で死亡した。家の戸締りがしっかりしてあったことから自殺と断定されたが、不審な点も多く、岡っ引の勘弁勘次は、親分の釘抜藤吉に助けを求める…。「手前、何か、その格子の瑕(きず)ってのはたしかか」──。釘抜のように曲った脚と、噛んだが最後、釘抜のように離れないところから釘抜藤吉という異名を取る凄腕の目明し・藤吉の活躍を描いた時代捕物。シリーズ第1話。

釘抜藤吉捕物覚書02・梅雨に咲く花  (青空文庫)
短編。梅雨のさ中、随全寺の石垣の下で発見された女の屍骸。被害者は茶屋女・お新だと判明するが…。「寺社奉行の係合いを懼(おそ)れてか、(屍骸を)石垣下へ蹴転がすたあ、あまりな仕打ちじゃごぜえませんか」──。石垣の上に折れ散っていた木の小枝から犯人を突き止める目明し親分・釘抜藤吉の名推理。上出来。

釘抜藤吉捕物覚書03・三つの足跡  (青空文庫)
短編。味噌問屋「八州屋」の主人・孫右衛門が、味噌蔵の入口で殺害された。現場に残された三つの足跡に着目した合点長屋の釘抜藤吉は、足跡のトリックを見事に見抜き、意外な犯人を追い込んでいく…。「じゃ、ど、どこを通って逃げたってえんだ? あ、足形が一つもねえじゃねえか!」──。鮮やかな手並みに今回も感心しきり。

釘抜藤吉捕物覚書04・槍祭夏の夜話  (青空文庫)
短編。悪党・卍(まんじ)の富五郎の潜伏先へ踏み込んだ捕方たちだが、富五郎は既に卒中で死亡していた。さらに、富五郎の妻・お若と共に、富五郎の屍体も消えてしまって二度びっくり。「死んだと見せて実のところ、なんて寸法じゃあるめえのう、え、おう?」。小物師・与惣次(よそうじ)の不思議な体験話を聞いた釘抜藤吉は…。「釘抜だ、藤吉だ、神妙に頂戴するか」──。どんでん返しな展開がすこぶる面白い捕物帳・第4話。絶品。

釘抜藤吉捕物覚書05・お茶漬音頭  (青空文庫)
短編。「あれ、見しゃんせ。この近江屋さんは妾(あたき)の店でござんす」。薬種問屋「近江屋」の前で毎日、「家蔵(いえくら)取られた、仇敵(かたき)に近江屋」と小唄を歌う狂女・お艶。なぜ彼女は近江屋に対して根も葉もない因縁をつけるようになったのか? 手の込んだ事件のカラクリを見破る釘抜藤吉の活躍を描いた第5話。

釘抜藤吉捕物覚書06・巷説蒲鉾供養  (青空文庫)
短編。江戸中を脅かしている神隠し事件。酉年生まれの女ばかりが何人も行方知れずになっている謎。「うんにゃ、よくあるやつよ。こりゃあどうも惑信(わくしん)沙汰に違えねえて」。蒲鉾(かまぼこ)屋「磯屋」の女房・おりんが神隠しの犠牲になった後、「磯屋」の蒲鉾の味がめっきり良くなったのは何故?──怪奇幻想ホラー。

釘抜藤吉捕物覚書07・怪談抜地獄  (青空文庫)
短編。「親分はあの清水屋の若主人の大痛事を御存じですかえ?」──。懇意となった浪人・大須賀玄内の宅に一泊した人形問屋の若主人・清水屋伝二郎だが、びしょ濡れの美女の幽霊を目撃してしまう。三千両の大金が隠してあるという「抜地獄」の秘密を知った伝二郎は…。怪談と捕物のミックスは岡本綺堂を彷彿とさせる。

釘抜藤吉捕物覚書08・無明の夜  (青空文庫)
短編。暴風雨の夜、高利貸の伊兵衛が矢で射られて殺された。死体を発見した鋳掛け屋・佐平次の愛犬・甚右衛門の活躍で、弓の名人である小悪人・御家新の存在を突き止めるのだが…。「彼男(あれ)だ、俺にゃあもうわかってる!」。百合の花を一つ残らず河へ捨てさせる釘抜藤吉の真意は? 今回もドンデン返し系で面白い。

釘抜藤吉捕物覚書09・怨霊首人形  (青空文庫)
短編。竹の先に突き刺さった男の生首が染物屋「桔梗屋」の軒で発見された。普請場の壁土の中から胴体が見つかり、被害者が判明するが…。「ゆうべお前に殺された嵐翫之丞の亡霊だ。よくも、よくも、私を、わたしの首を──うう、怨めしやあ!」。犯人のアリバイ工作も、藤吉親分にかかったら自縄自縛(みからでたさび)でござい。

釘抜藤吉捕物覚書10・宇治の茶箱  (青空文庫)
短編。葉茶屋「徳撰」の主人・撰十が首吊り自殺した現場に駆けつけた藤吉親分は、首吊りの踏台に使われたと思われる宇治の茶箱の不審から、縊死に見せかけた他殺だと見抜く。行方不明になっている撰十の息子・徳松の一件に絡んだ事件の罪状は? 「踏台から足がついたってね、どうだい、親分、この落ちは?」。第10話。

釘抜藤吉捕物覚書11・影人形  (青空文庫)
短編。色物席「柳江亭」で人気を呼んでいる力自慢の武右衛門が、高座を退った直後に何者かに絞殺された。「しかし親分、どうして人がいねえで、影だけ見えたんでごわしょう」、「さあ、そのことよ」。武右衛門が殺された廊下の障子に写っていたという影法師の正体は? 八丁堀合点長屋の岡っ引釘抜藤吉の活躍を描く第11話。

釘抜藤吉捕物覚書12・悲願百両  (青空文庫)
短編。三つの願い事をかなえてくれるという「竜手様(りんじゅさま)」を入手した惣平次と妻・おこう。面白半分で「百両の金を下せえまし」とお願いしたところ、孝行息子の庄太郎が死に、百両の香典を得るという悲しい結果に。「三つ叶えてもらえるんだろう? あと二つ残ってるじゃあないか」、「竜手様のことか。馬鹿な! 止せ! あの一つで、おれは——もうたくさんだ」。いつもの捕物帳のテイストではないが、出来の良い怪異譚として面白い。

釘抜藤吉捕物覚書13・宙に浮く屍骸  (青空文庫)
短編。宿屋の女将・お美野の首吊り屍骸を発見した泊り客の初太郎と宇之吉。「お前ら二人とも、この外の軒先に、お美野さんが吊る下ってるのを見たてえのだな。それが、ふたりが二階へ上って来る間に、(屍骸が)部屋の真ん中に引き上げられていた」、「そのとおりでございます」、「やい、彦。屍骸が自力で、綱を伝わって上ったとよ。あんまり聞かねえ話さのう」──。足の裏に着目し、不可思議な事件を解決していく藤吉親分の推理力!



<< 主な登場人物の紹介 >>
 釘抜藤吉……この小説の主人公。八丁堀合点長屋の岡っ引。広い江戸にも二人と肩を並べる者のない凄腕の目明し。釘抜のように曲がった脚と、釘抜のような正確な執拗な力強さから「釘抜藤吉」と異名。
 勘弁勘次……藤吉の乾児(こぶん)。下っ引。「勘弁ならねえ」が口癖の鉄火者。
 葬式(とむらい)彦兵衛……藤吉の乾児(こぶん)。下っ引。紙屑拾いになりすまして情報を収集。



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