このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |
林不忘 (はやし・ふぼう=
牧逸馬
) 1900〜1935。 |
『仇討たれ戯作』 (青空文庫) |
短編。荒唐無稽な敵討の読物が流行していることに慨嘆している国学者・石川雅望(まさもち)。生活のために敵討物を書いているという戯作者・式亭三馬に腹を立てた六樹園(雅望)は、いい気になっている戯作者どもに一泡吹かせるため、自ら敵討物を書いてみせるが…。「調子を下ろしさえすればいいと思っていやすから、読む者の心がすこしもわかっていやせん。あの仁には戯作は無理でげす。可哀そうでげすよ。総じて文学者は学が鼻にかかり、己れに堕ちて皆あんなものでげす」──。でたらめに見えてでたらめにあらず。 |
『稲生播磨守』 (青空文庫) |
短編。戯曲。家臣・税所(せいしょ)郁之進の妻・お加世を、理不尽にも奪い取った藩主・稲生播磨守(はりまのかみ)。愛妻を奪われたにもかかわらず、郁之進にまったく異心がなく、忠義心も変わりがないと知り、満足する。しかし、刀相の名人・久保奎堂から、郁之進の刀に“主君殺しの相”があると聞き…。「おれはこれを探していた。おれの望んでいたものは、これだったのだ! どんなにそれを捜し求めたことか、おれのその味気ない胸中は、だ、誰も知らぬ」──。同じく“封建制度”を題材にした菊池寛「忠直卿行状記」もチェック。 |
『口笛を吹く武士』 (青空文庫) |
短編。「三日やると止められんのが、乞食と居候の味でな」。吉良上野介の護衛をしている弟・清水一角の部屋に居候している、ぐうたらな浪人・狂太郎。赤穂浪士たちの動向を探るよう頼まれた狂太郎は、神奈川の宿屋「佐原屋」に、江戸へ上る途中の大石内蔵助など赤穂浪士たちが、町人に身をやつして潜伏していることを突き止めるが…。「なに、口笛が——?」、「うむ、聞える。耳をすまして——ほら! どこからともなく、口笛が——ほら!」。討ち入り成功は狂太郎のおかげ!? 楽しい忠臣蔵もの。 →吉川英治「無宿人国記」 |
『元禄十三年』 (青空文庫) |
短編。江戸へ下る公卿(くげ)を接待する勅使饗応役を命じられた岡部美濃守(泉州岸和田藩主)は、接待に詳しい高家(こうけ)・吉良上野介(きらこうずけのすけ)へ賄賂を贈る慣わしを堂々と破ってしまう。案の定、性悪な吉良の嫌がらせを受ける中、美濃守は饗応役をまっとうできるのか? 美濃守の弟・辰馬は、妻・糸重(いとえ)を、妾(めかけ)奉公と称して吉良邸に忍び込ませるが…。「兄者は、吉良に怒らせられて、きっと殿中で刀を抜く。刃傷(にんじょう)——」、「斬りなどせんよ、大丈夫——ただ、逆を往くのだ。ははは、は、万事、吉良のいう逆を、な」。糸重が吉良に抱かれてしまう大ピンチ! 浅野事件の前年(元禄十三年)を舞台とした痛快時代小説。 |
『つづれ烏羽玉』 (青空文庫) |
長編。 水茶屋・嬉し野のおきんを名乗る、懐中に五百両の大金を隠し持った謎の女・お蔦(つた)──。捕り方の追跡を逃れるため、鎧櫃(よろいびつ)の中に隠れる彼女だが、それがために、旗本・饗庭(あいば)亮三郎の影屋敷に監禁されたり、井戸の底にある謎の集会所に潜伏したり、めまぐるしい運命の手にもてあそばれる破目に…。 「うれし野のおきんとは、世を忍ぶ仮の名、ほほほほ、はばかりながら茶くみ女に見えますかねえ。あたしゃ宿なしのお蔦というふつつか者、幾久しくお見限りなく——」 毒花を使って夜な夜な幕府の役人どもを暗殺する水戸浪士・篁(たかむら)守人(もりと)の大義と、その「死に花」の下手人である守人を追跡する岡っ引き・いろは屋文次の境地! 「おいたわしい。このお方は御自分を犠牲にして、何かしらもっと大きなもの、もっと正しいもの、もっと明るいもののために、働いておらるる、それをお邪魔だてしようとする自分は、取りも直さず古いものの力によって動かされているのではないかしら。——こいつあ一つ考えねばならぬ」 大老・井伊直弼の首を狙う水戸浪士、黒装束の強盗団・烏羽玉組(うばたまぐみ)、隠密まわり同心・税所(さいしょ)邦之助たち幕府方──「桜田門外の変」の直前に繰り広げられた三つどもえの闘いの結末は? そして守人とお蔦の恋の成就は? ユーモラスな場面をふんだんに盛り込んだ、楽しさ面白さ満喫の時代小説。 |
『早耳三次捕物聞書01・霙橋辻斬夜話』 (青空文庫) |
短編。江戸の市中を震撼させている連続辻斬り事件──。袈裟斬りに殺され井戸に沈められた若い娘・お菊。その向かいに住む中年男・蜻蛉(とんぼ)の辰(たつ)が怪しいと睨んだ捕物名人・早耳三次だが…。「お殺(や)んなせえ。右の肩から左乳下へざんぐり一太刀、ようがす。立派に斬られやしょう。だがねお侍(さむれえ)さん、皮一枚だきゃあ残しておいて下せえよ」──。短いので、空いた時間にサラッと読めて、しかも面白い。 |
『早耳三次捕物聞書02・うし紅珊瑚』 (青空文庫) |
短編。「身投げだ、身投げだ、身投げだあっ!」。二十五両もする珊瑚(さんご)の細工物を万引きしたと濡れ衣を着せられてしまい、投身自殺した煎餅屋の女房・お藤。盗んでもいない珊瑚がお藤の帯の間から出てきた謎と、珊瑚に残っていた伽羅(きゃら)油の匂いの不思議…。「お前さんは、どこの誰だい」、「俺か、俺あ早耳三次だ」──。御用聞き・早耳三次の活躍を描いた時代捕物シリーズ。コンパクトで内容充実。素晴らしい出来栄え。 |
『早耳三次捕物聞書03・浮世芝居女看板』 (青空文庫) |
短編。二本立てのような構成。どちらも欲心を題材にしていて、ショートショートならではのオチもあって面白い。一応これも捕物帳?──。隣に引越してきた美しい女の意外な正体を知った差配・源右衛門は…。一方、知人の老婆の遺言で、行方不明の老婆の娘に二百両の大金を渡したいという男の話を聞いた質屋の久兵衛は…。 |
『早耳三次捕物聞書04・海へ帰る女』 (青空文庫) |
掌編。なぜか全身びしょ濡れの姿で毎日、酒を買いに来る白衣(しろぎぬ)の女に興味を持った酒屋「和泉屋」の主人は、彼女を尾行するが…。「わしは人間ではないのじゃ」、「え?」──。海からやって来て、海へ帰って行く妖異な女の正体は? 前回同様、捕物帳といったテイストではなく、欲心をテーマにしたショートショートです。 |
『平馬と鶯』 (青空文庫) |
短編。ことごとに反目しあっている結城藩と下妻藩の若侍たちは、藩同士の威信をかけた剣道の奉納仕合が近づき、殺気立っていた。鶯(うぐいす)が縁となって、下妻藩の若侍・鏡之介の美しい妹・千草と出会った結城藩の最強少年剣士・平馬だが、鏡之介たちが、平馬を出場不能にするために、闇討ちの計画をしていることを知り…。武は勝たんがための武ではない。正しく生き、健(すこや)かに明るくあらんがための武であり、剣である──。「ホウホケキョ!」。二羽の鶯が平和をもたらす、素敵にハッピーエンドな時代小説。 |
『煩悩秘文書』 (青空文庫) |
長編。 遠州相良(さがら)の藩主・祖父江出羽守(そふえでわのかみ)の悪虐非行によって、郷里・田万里(たまざと)を滅亡させられた郷士・伴大次郎は、同郷の友・江上佐助、有森利七と共に、出羽守への復讐を誓うのだが…。 「かの祖父江出羽守は、きゃつ、人間ではござりませぬぞ。鬼畜!──人外でござる!」 煩悩をもって煩悩を制する──煩悩力の結集(大次郎の「名」、佐助の「金」、利七の「女」)によって、煩悩の怪物である出羽守を討ち果たし、多年の恨みを晴らすことができるか? 白覆面・白装束の姿で江戸の町を出歩く出羽守とそっくりそのままの格好に扮して探索する大次郎だが、どっちが出羽守でどっちが大次郎なのか判らなくなってしまって大騒ぎに…。 「おい、おい、おれは伴だよ、出羽は向うだ」 「冗談じゃない。大次郎はおれだ。出羽はそっちだ! そっちだ!」 「何を言やあがる。手前は出羽だ。ややこしくて頭が痛くならあ」 出羽守の悪業によって両親を喪い、姉・小信を浚われ、剣術の師匠・弓削法外(ゆげほうがい)を殺され、伴大次郎自身も刀傷で醜面になってしまうなど、何とも深刻な舞台設定であるにもかかわらず、ストーリー展開は、娯楽色豊かで、すこぶる楽しく、大団円も仕掛けがあって面白い。理屈抜きに楽しめる大衆時代小説。 |
『魔像 新版大岡政談』 (青空文庫) |
長編。 元日の千代田の殿中で起きた刃傷事件! 新参の御書院番・神尾喬之助が組与頭・戸部近江之介の首を刎ね、殺害したのだ。戸部たちの執拗な嫌がらせに堪忍袋の緒が切れた喬之助。復讐魔と化した彼は、自分とそっくりな風貌の喧嘩師・茨右近や、岡っ引き・壁辰(かべたつ)たちの助けを受けながら、残りの御書院番の連中を次々と斬首していく…。 「えッ! その十七人の御書院番衆を、これから、片っ端から首を落して廻るんですって?」 「そうだ。拙者は、一つずつ落してゆくのだッ!」 御書院番衆の用心棒となった無形流の剣主・神保造酒や、御書院番頭(がしら)・脇坂山城守に取り入る極悪の医者・村井長庵なども絡んで繰り広げられるチャンバラ時代小説。果たして名奉行・大岡越前は、神尾喬之助の事件をどう始末するのか? 「気が違っても何でも、この人はわたしの、好い人ですもの。わたしは、さっき一眼見た時から——」 愛妻・園絵がいる喬之助に恋をしてしまったお妙(壁辰の娘)の悲恋がとても印象的。ラストの部分がちょっと駆け足になってしまったのは勿体ないところだが、林不忘の“ノリノリ”の筆致が読んでいて快い。 →菊池寛「奉行と人相学」 →浜尾四郎「殺された天一坊」 |
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