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久生十蘭 (ひさお・じゅうらん) 1902〜1957。 |
『顎十郎捕物帳1・捨公方』 (青空文庫) |
短編。長大な顎(あご)から付いた“顎十郎”のあだ名を持つ風来坊・仙波阿古十郎の活躍を描いた捕物帳シリーズ。十二代将軍・家慶(いえよし)に双生児(ふたご)の兄弟がいたという秘事を知った大老・水野越前守の悪だくみ…。預けられていた寺から逃げ出した家慶の子・捨蔵の居所は一体どこ? 「ところもあろうに評定所から目安箱を盗み出すなどというのは、少々、申訳がないが、国の乱れを防ぐというのでありゃあ、それも止むを得んさ。…まあまあ、やって見ることだ」。軽快な筆致ですこぶる楽しく、長さも短くて読みやすい。 |
『顎十郎捕物帳2・稲荷の使』 (青空文庫) |
短編。北町奉行所の与力筆頭である叔父・森川庄兵衛の計らいで、例繰方(れいくりかた=刑律や判例を調べる役)になった顎十郎だが、いつもサボってばかり。庄兵衛が殺人事件の証拠物件である印籠を紛失してしまったと知った顎十郎は…。「印籠がなくなったのが五日前で、万年青(おもと)が枯れはじめたのがやはり五日前。…この二つの間に、なにかの関連があるのではねえのでしょうか。…ひとつ、この万年青を睨みつけて、じっくりお考えさすってはどうです」。知的でユーモラスで、すっかりこのシリーズの虜に。第2話。 |
『顎十郎捕物帳3・都鳥』 (青空文庫) |
短編。馬の尻尾を切って回り、騒動を起した男の切腹事件。支那から仕入れた呉絽(ごろ)で大儲けする呉服屋と、鎌倉河岸にあがった比丘尼(びくに)の水死体との関連は? 「……『馬の尻尾』に『呉絽帯に織出した都鳥』……それに、『比丘尼の身投げ』で三題噺(さんだいばなし)にならねえか」、「なるほど、こりゃ三題噺、みごとにでかしました」──。悲痛な事件の全貌を突き止めていく顎十郎(仙波阿古十郎)の名推理。捕物帳・第3話。 |
『顎十郎捕物帳4・鎌いたち』 (青空文庫) |
短編。「時に叔父上、潮ざしがいいから、釣りにでも出かけましょう。すこし汐風にでも吹かれて、気保養をなせえ」。江戸の市中を騒がせている鎌(かま)いたちの事件(連続殺人事件)のことで苦吟している叔父・庄兵衛(南番所の与力筆頭)を釣りに誘う顎十郎の真意は? 「それで、あなたが釣りたいとおっしゃる、その、めあての魚は?」、「海にはいねえ魚だ」、「そりゃアむずかしい御注文」、「鎌いたちだ」、「えッ」──。捕物帳・第4話。 |
『顎十郎捕物帳5・ねずみ』 (青空文庫) |
短編。伝馬町の堺屋の主人・嘉兵衛ら三人が虎列剌(ころり)に似た症状で死亡した。自分が毒を盛ったと手代の忠助が自白するが…。「よけいなおせっかいのようですが、手前が、ここでこの事件のアヤを解いてお目にかけます」──。江戸で一二といわれる捕物名人・藤波友衛(南町奉行所の控同心)と顎十郎の初対決! 捕物帳・第5話。今回から登場の藤波友衛は、「右門捕物帳」でいえば「あばたの敬四郎」といった感じかな?(笑) |
『顎十郎捕物帳6・三人目』 (青空文庫) |
短編。男を蕩(た)らし込んでいた清元(きよもと)千賀春(ちがはる)が変死した事件。問屋の三男坊・角太郎が、千賀春の乳房の後ろに針を突いて殺したと自白し、按摩(あんま)の杉の市もまた、彼女のぼんのくぼに針を突いて殺したと自白するが…。「ついでだから、言っておくが、杉の市も下手人でなけりゃあ、角太郎も下手人じゃねえ」、「えッ」。二転三転する犯人捜しの結末は? 北番所の顎十郎vs南番所の藤波友衛の対決。第6話。 |
『顎十郎捕物帳7・紙凧』 (青空文庫) |
短編。金座から勘定所まで御用金を船で運ぶ途中、三万二千両の金が古釘にすり替えられるという事件が発生した。金座の長屋に住む子供たちがあげる凧(たこ)が、他の凧より違うあがり方をする理由は? そして、お金と古釘をすり替える手の込んだ方法とは? 「おお、来ました、来ました! …小田原町のほうから三つばかり鳶(とんび)凧がやって来ました。これから凧合戦がはじまりますぜ」──。今回も素晴らしく面白い。捕物帳・第7話。 |
『顎十郎捕物帳8・氷献上』 (青空文庫) |
短編。毎年夏に加賀藩から将軍家に献上される氷(雪)が桐箱ごと盗まれた。大熱の子供のために無性に氷を欲しがっていた浪人・青地源右衛門が犯人なのか? 子供想いの源右衛門を何とかして助けてやりたい顎十郎は、物理的に源右衛門が犯人ではないことを証明してみせ、意外なる事件の真相を明らかにする。「…追いつけるか追いつけないか、これが、青地が罪になるか罪にならないかの境いだ」──。捕物帳・第8話。 →佐々木味津三「右門捕物帳36・子持ちすずり」 |
『顎十郎捕物帳9・丹頂の鶴』 (青空文庫) |
短編。将軍の前で顎十郎と藤波友衛が推理を披露するという前代未聞の捕物御前試合! 将軍寵愛の丹頂の鶴が変死した事件──先番の藤波は、何者かが鶴の飼料(かいりょう)の精米を盗むために鶴を殺したと推察したのに対して、顎十郎は…。「いや、どうも、藤波氏の名論卓説には、手前もうっとりいたしましたが、御高弁にかかわらず、まるきりの見当ちがいかと存じられます」。慈悲深い顎十郎の“名推理”に感動を覚える。第9話。 |
『顎十郎捕物帳10・野伏大名』 (青空文庫) |
短編。「…実は、そのお力によって主家一期の危難をおすくいねがいたいと存じ…」。下総・古河藩の家老・石口十兵衛から、行方不明になった藩主の嫡子・源次郎の捜索を依頼された顎十郎だが、物凄い剣気を放つ人物が立ちはだかって…。「へたにガチ張ったら、たったひとつの命を棒にふる。こういうときは、尻尾を巻いて逃げるにかぎる」──。依頼人の素性を看破する導入部は、「シャーロック・ホームズ」のようで面白い。第10話。 |
『顎十郎捕物帳11・御代参の乗物』 (青空文庫) |
短編。まるで神隠しにでもあったかのように、紀州家の腰元十三人が忽然と姿を消した。「かならず、しおうせてごらんにいれます」、「もし、しそんじたら」、「生きちゃアおりません」。南町奉行・池田甲斐守の直々の命で、事件を調べる控同心・藤波友衛だが、ヘマをやらかせてしまい、腹を切る覚悟をする…。「驕慢で通してきた俺だ。せめて、最後もそれらしく…」──。顎十郎ではなく藤波の視点で展開される趣向が効果的。捕物帳・第11話。 |
『顎十郎捕物帳12・咸臨丸受取』 (青空文庫) |
短編。ここ十日ほどのあいだ、江戸の市中で犯罪がただの一つも起らないという珍現象。なぜ江戸の悪者(わる)どもは鳴りをひそめているのか? 「間もなく、御府下で、どえらいことが起る」──。縁起まわしの大黒絵に隠された暗号の解読に挑む顎十郎の活躍。久しぶりに庄兵衛と花世もちょこっと登場。捕物帳・第12話。 |
『顎十郎捕物帳13・遠島船』 (青空文庫) |
短編。遠島船「三崎丸」に乗っていた囚人や乗組ら二十三人が相模灘の沖で煙のように消えてしまった! 三崎丸が漁船に発見されるちょっと前まで、二十三人がちゃんと船にいたという証拠も! この船でいったいなにが起ったというのか? 「…じゃア、サックリしたところをおたずねしますがね、お静さん、あなたのご亭主の弥之助さんは、いったいどこに隠れているんです」──。江戸時代の知識が楽しみながら自然と得られる時代小説の効用。 |
『顎十郎捕物帳14・蕃拉布』 (青空文庫) |
短編。蝋燭の灯が消えた僅かの間に、輸入商・佐原屋清五郎が蕃拉布(ハンドカチフ)で絞殺された。開化人を自任する洋物屋たちは、攘夷派の連中の仕業ではないかと不安になるが…。「この蕃拉布が命とりだとは、ちょっと誰でも気がつきますまい。…いま、その証拠をお眼にかけますから、ちょっと、その蕃拉布をお貸しください」。犯人の犯行動機と奇異な殺害トリックは? 顎十郎こと仙波阿古十郎の活躍を描いた捕物帳・第14話。 |
『顎十郎捕物帳15・日高川』 (青空文庫) |
短編。蛇に取り憑(つ)かれ、日に日に窶(やつ)れていく多摩新田金井村の名主・又右衛門の娘・お小夜。「こりゃア、なにか曰くがあるぜ。お布施なんていうケチなことで、お小夜さんとやらをそうまでいじめつけるわけはない」──。夜には現われず、昼の八ツ頃になると欄干を伝う大蛇の意外な正体は? 顎十郎捕物帳・第15話。 |
『顎十郎捕物帳16・菊香水』 (青空文庫) |
短編。高位の人命にかかわる事態につき、極秘に智慧を拝借いたしたく──依頼人・溝口雅之進(大藩の留守居)を待つ間、茶室でご馳走にあずかる顎十郎。彼を接待していた美しい腰元・小波(さざなみ)がいつの間にかいなくなってしまい…。「おいおい、小波さん、引っこんでしまった切りじゃしょうがねえ。化粧なおしなんざ後でもいいから、ともかく、酒を持って来てくれ。…酒がないぞウ。おーい、酒、酒!」──。食い意地の大しくじりの巻。 |
『顎十郎捕物帳17・初春狸合戦』 (青空文庫) |
短編。前回のしくじりで、北町奉行所を追ん出てしまった仙波阿古十郎(顎十郎)。浪人くずれのとど助(雷土々呂進)を相棒にして、にわか駕籠屋を始めるが、どうにもパッとしない。そんな中、人間に化けた狸が駕籠に乗せてくれと現われて…。「毎夜、一匹ずつ豊島ガ岡までお連れねがいたいのでございます。その代り、一匹について、一両ずつ差しあげますが、いかがなものでございましょう」──狸の正体は? 捕物帳・第17話。新展開! |
『顎十郎捕物帳18・永代経』 (青空文庫) |
短編。浅草柳橋の染物屋・京屋吉兵衛の家が全焼し、吉兵衛が焼死した。そして吉兵衛の元妻・おもんも変死してしまう。顎十郎の配下だった神田の御用聞・ひょろ松は、犯人は湯治場料理屋「大清」の藤五郎(吉兵衛の隣人で、おもんの夫)だと確信するが…。「おい、ひょろ松、そいつはいけねえなア。ひょっとすると、そりゃア藤五郎がやったんじゃねえぜ」──。不必要に企みすぎた殺人事件の真相は? 顎十郎捕物帳・第18話。 |
『顎十郎捕物帳19・両国の大鯨』 (青空文庫) |
短編。両国の見世物小屋で大評判になっている大鯨(くじら)が、何者かによって盗まれた! 犯人は何の必要があって鯨などを盗んで行ったのか? 六間半もある鯨を十分足らずの間に盗み出した方法(トリック)は? さらに、盗賊・伏鐘(ふせがね)重三郎の大捕物との関連は? 「たいへんな手間をかけて持って行ったというからには、われわれの知らねえような退っ引きならねえ理由があったのにちがいない。そのへんのところをトックリと考えて見ると、なんのためにこんなことをしたかすぐわかるはずだ」──。シリーズ屈指の面白さ! 捕物帳・第19話。 |
『顎十郎捕物帳20・金鳳釵』 (青空文庫) |
短編。木場の大物持ち・万屋和助の次女・お米と、金三郎(和助の死んだ長女・お梅の許婚だった)の祝言が近づく中、和助の末娘・利江が顎十郎を訪ねて来た。「あす祝言する小姉(ちいあね)のお米はなんだかほんとうの姉でないような気がしてなりません。いま、あたくしの家になにか怖ろしいことが始まりかけているような気がしてなりませんの」。いちど死にかけたお米が生き返った謎…。中国の怪異小説「剪灯新話」を題材にした第20話。 |
『顎十郎捕物帳21・かごやの客』 (青空文庫) |
短編。開店祝いの祝儀酒が振る舞われた居酒屋「かごや」で起った毒殺事件。店の主人・六平に秘密を握られ、彼の言い成りになっていた三十二万石の大名・藤堂和泉守の娘・加代姫。六平に呼び出されて「かごや」に出向いて来た彼女の仕業だと思われたが…。加代姫の秘密と、真の下手人は? 「それは、言われませぬ」、「あなたが、ひと殺しの汚名をきても」、「それは、もう覚悟しております」。安定した面白さの顎十郎・第21話。 |
『顎十郎捕物帳22・小鰭の鮨』 (青空文庫) |
短編。例によって顎十郎に智慧を借りに来たひょろ松。若い娘ばかり四人が立て続けに行方不明になったというのだ。役作りのため、小鰭(こはだ)の鮨(すし)売りに扮して市中を呼び売りしていた歌舞伎役者・坂東三津五郎が犯人? 「これからすぐ中村座へ出かけて行って、三津五郎を問いつめてみようじゃありませんか。ひょっとしたら瓢箪から駒が出るかも知れない」──。新作の所作事「小鰭の鮨」に絡んだ事件の真相を描いた第22話。 |
『顎十郎捕物帳23・猫眼の男』 (青空文庫) |
短編。町中の灯火が全て消されて行われる府中の暗闇祭のさ中、近江屋の一家四人が弓で射られて殺害された。犯人は、近江屋を逆恨みしていた大酒呑みの清六か、それとも、まっ暗の中でも目が見える猫眼の男・五造か? 「おいおい、見当違いしちゃいけねえ。下手人はそっちじゃねえ、この××のほうだ」。見事などんでん返しが炸裂する会心作! プロの手際を堪能! 第1話から読むのが面倒だという人も、この第23話は読むべき。 →岡本綺堂「半七捕物帳68・二人女房」 →江見水蔭「怪異暗闇祭」 |
『顎十郎捕物帳24・蠑もり』 (青空文庫) |
短編。半年足らずのうちに阿波屋の一家六人が次々に死ぬという奇怪な事件。阿波屋の離れ座敷の天井裏には、何と釘付けになったまま生き続ける蠑(い)もりがいた! 蠑もりの祟りなのか? 阿波屋の居候・新田数負(かずえ)に目星を付ける顎十郎だが…。「いったい、どんな用があって屋根裏なんぞへあがって行ったんです」。 |
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●仙波阿古十郎 主人公。あだ名は顎十郎またはアコ長。シリーズ前半は北町奉行所の帳面繰りだったが、シリーズ後半はしがない辻駕籠屋に転身。 |
●森川庄兵衛 顎十郎の叔父。北町奉行所の与力筆頭。シリーズ前半は、顎十郎が窮地の庄兵衛を助けて、小遣いをせしめるというパターン。 |
●花世 庄兵衛の娘。顎十郎のことを「顎さん」と呼べる唯一の人物。他の人が「アゴ」と言ったら斬られます(笑)。もっと活躍して欲しかった。 |
●藤波友衛 南町奉行所の控同心。江戸で一二といわれる捕物名人。シリーズ中盤は、顎十郎と藤波が捕物対決を繰り広げるというパターン。 |
●ひょろりの松五郎 ひょろ松。神田の御用聞。顎十郎の配下。シリーズ後半は、ひょろ松が顎十郎に智慧を借りに来るというパターン。 |
●雷土々呂進 いかずちとどろしん。とど助。辻駕籠屋に転身した顎十郎の相棒。九州の浪人くずれ。残念ながらいまいちキャラ立ちできず。 |
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