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山本周五郎 (やまもと・しゅうごろう) 1903〜1967。




赤ひげ診療譚 - 第1話 狂女の話  (青空文庫)
連作長編・第一話。意に反して、患者が貧民だらけの施療院「小石川養生所」の見習医にされてしまった長崎帰りの保本登(やすもと・のぼる)は、やり方は手荒く、言葉も乱暴な医長・新出去定(にいで・きょじょう、通称・赤ひげ)に反抗的になる。入院中の狂女・おゆみの世話をしているお杉と親しくなった登は、殺人淫楽症になったおゆみの過去を知るが…。「そのときあたし、この釵(かんざし)をぐっとやったの、ちょうどここのところよ、ここを力まかせにぐっと、力まかせに──」。精神的外傷(トラウマ)を扱ったホラー・ミステリー。

赤ひげ診療譚 - 第2話 駆込み訴え  (青空文庫)
連作長編・第二話。蒔絵師だった老人・六助の死に立会った見習医・保本登は、六助の一人娘であるおくにが、三人の子供を残して、入牢していることを知る。恩賞めあてにやくざ者の夫・富三郎を訴人した彼女だが、人倫にそむく不届き者であると見なされてしまったのだ。あまりに悲痛すぎるおくにの身の上を聞いた医長・新出去定(赤ひげ)は…。「人生は教訓に満ちている、しかし万人にあてはまる教訓は一つもない、殺すな、盗むなという原則でさえ絶対ではないのだ」──。赤ひげの“卑劣な行為”が素晴らしく、感動を覚える。

赤ひげ診療譚 - 第3話 むじな長屋  (青空文庫)
連作長編・第三話。極端に貧しい人たちが住んでいる「むじな長屋」。労咳(ろうがい)で余命いくばくもない職人・佐八を診療する保本登は、佐八が自分の養生のための食料や薬を、長屋の人たちのために貢(みつ)いでいることを知る。なぜ彼は自分を犠牲にしてまで人に尽くすのか? 数十年前に別れた妻・おなかとの凄絶な愛…。「もうすぐにおれもいく、もうまもなくだからな、ああ、そうだとも、もうそんなに待たせやあしないよ」──。大火によって運命が大きく変わってしまう展開は、名作「柳橋物語」を想起させ、涙が止まらない…。

赤ひげ診療譚 - 第4話 三度目の正直  (青空文庫)
連作長編・第四話。新出去定(赤ひげ)に命じられ、気鬱(きうつ)症になった大工・猪之(いの)を診察する保本登。「嫁に貰いたい女がある」といって兄弟子の藤吉に頼んでおきながら、縁談がまとまると逃げ出してしまう猪之。そんなことを何度も繰り返した末に、気が変になってしまったことを知った登は…。「九つぐらいでこんなことを知ってる、女なんておっかねえもんだ、ひでえもんだって、おぞ毛をふるいましたよ」──。女に好かれながら、いつも受身だった男の精神的外傷(トラウマ)とその克服を明るくユーモラスに描いて面白い。

赤ひげ診療譚 - 第5話 徒労に賭ける  (青空文庫)
連作長編・第五話。娼家(しょうか)街へ外診に行く新出去定(赤ひげ)と保本登。劣悪な環境の下で働かされている哀れな女たちを診察して回るが、岡場所の用心棒をしている若い男たちに取り囲まれてしまう…。「この世から背徳や罪悪を無くすることはできないかもしれない。しかし、それらの大部分が貧困と無知からきているとすれば、少なくとも貧困と無知を克服するような努力がはらわれなければならない筈だ」──。“自分の一生を徒労に打ち込んでもいい”という赤ひげの信念が素晴らしく、赤ひげの言葉がいちいち心に響く。

赤ひげ診療譚 - 第6話 鶯ばか  (青空文庫)
連作長編・第六話。俗に「伊豆さま裏」と呼ばれる、松平伊豆守の屋敷裏の一帯の長屋に住む貧しい人々。見えも聞こえもしない鶯の囀りを聞いて過ごす十兵衛…、近所に揉めごとを起こす、ふしだらで恥知らずな元遊女・おきぬ…、殺鼠剤をのんで一家心中する日傭取りの五郎吉の家族…。「──もしあたしたちが助かったとして、そのあとはどうなるんでしょう、これまでのような苦労が、いくらでも軽くなるんでしょうか、そういう望みが少しでもあったんでしょうか」。保本登と五郎吉の子供・長次との交流に涙…。貧困の問題を考える。

赤ひげ診療譚 - 第7話 おくめ殺し  (青空文庫)
連作長編・第七話。家主・高田屋松次郎による突然の立ち退き命令に反発する長屋の人々。先代の与七との間で「松次郎の代まで長屋を無償で貸す」という約束があったといい、それを松次郎は反故(ほご)にしたのだ。そもそも、どうして「店賃なし」などという約束が交わされたのか? 長屋の若者たちから、あることの証人になってくれと頼まれた保本登だが…。「じつは高田屋のことなんですが、十九年まえなにがあったか、ということがわかったんです」。“おくめ殺し”の意外な真相を描いたミステリー。ユーモラスな収束がお見事。

赤ひげ診療譚 - 第8話 氷の下の芽
連作長編・第八話。妊娠した白痴の娘・おえいの子を堕してほしいと養生所にやって来た母親のおかねだが、おえいは子を産むといってきかない。おえいの境遇(親のくいものになる子供の不幸)を知った保本登は…。「先生、──あたいほんとは、ばかのまねをしているのよ」──。赤ひげとの交流や養生所での経験によって、婚約者にそむかれたつらい過去を克服し、立派な人間に成長していく青年医・保本登の姿を描いた青春小説の最終話。感動のラスト。「貧富や境遇の善し悪しは、人間の本質には関係がないと思います」。



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