このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

三隈
− 25度 −
○製造元:クンチョウ酒造(株)
       大分県日田市大字石井
       字榎鶴
790番地

○度数:25度

○原材料:清酒粕

○製品の特徴:日田の正調粕取り。
          風味は柔らかであり、
          入門用に。
レッドブック度:現存
■当該銘柄について
 日田市は大分県の西部、北部九州のほぼ中央に位置し、周囲を阿蘇・くじゅう山系や英彦山系山々に囲まれる盆地である。市の中心部を流れる三隈川にはいくつもの小河川が流れこみ、“筑紫次郎”筑後川の上流部を形成している。

 筑後川では水運が発達し、四州(豊前、豊後、筑前、筑後)に接するという交通の要衝。徳川幕府の治世には日田代官所が置かれ幕府天領となっている。当然ながら御用商人も数多く、毎年7月にひらかれる“日田祇園まつり”など独自の町人分化が開花した。また、日田市と言えば広瀬淡窓が文化14年(1817年)に開いた私塾“咸宜園”があり、蘭学者の高野長英や明治期の兵制の基礎を造ったと言われる大村益次郎といった“逸材”がこの塾から巣立っている。

 このように、“天領”として九州の政治・経済・分化の拠点として発達してきた日田である。今日、この歴史を伝えるスポットは市内に上記咸宜園を始め点在するが、この粕取り焼酎を造る“
クンチョウ酒造”は町屋建築が立ち並ぶ豆田地区、花月川のほとりに建っている。創業300年。現在は蔵の一部をフリースペースとして観光客に開放しており、豆田地区観光の核とも言える古い建造物。中では同酒造の資料や所蔵している古い酒造りの道具を見ることが出来る。販売所では数々の清酒、焼酎を試飲できるのはノンべぇとしては嬉しいの一言だ。ちなみに近年全国の鑑評会で数度の金賞受賞を誇るこの蔵の代表銘柄は“薫長”。古い建造物を愛でるのも楽しいが、スッと伸びる煉瓦煙突にはこの銘柄名が入った鉄板がかけられている。

 クンチョウ酒造の粕取り焼酎“
三隈”は、猛牛師の レポート や私自身が行った調査行( その1その2 )をお読みいただければ分かるが、蔵のお膝元である豆田地区はもちろんのこと日田市でもっとも愛飲されている粕取り焼酎である。市内の一般的な酒販店では必ずと言っても良いほど店頭化されており、ディスカウントショップでも重要な商品のようだ。見事なまでに『生活の中の酒』という言葉が当てはまる。

 全国でも珍しい粕取り焼酎の里の『生活の中の酒』の実力は如何に?


■ボトルデザイン
 美しいラベルに目がいく。水運が栄えた日田らしく、銘柄名は船の帆に髭文字がバシッと配される。ライトブルーという色使いは日田市を突っ切る三隈川の流れだろうか。現在の日田市付近の三隈川の風景は立ち並ぶ温泉旅館によるものだろう。非常にゆったりと流れている様に思える。しかしながらこの三隈川(下流で筑後川と名前を変える)は相当の暴れ川であったようだ。流域には氾濫の記録がいくつも残る。

 そのような三隈川の流れを櫂を手にした筏氏が材木筏を巧みに操っている。忘れられた日本の川風景がそこには残っている。


■香り
 爽やかな酸味のある香りである。続いて正調粕取り焼酎の個性の一つである“籾殻”の香りがかすかながらも追いかけてくる。我々慣れた人間にとっては、芳しい以外の何者でもないこの香りも、“粕取り焼酎の里”である地元日田市でも最近は敬遠されつつあるようだ。

■味わい
 手元にある瓶のように透明であるとその白濁とした様子が分かるのだが、瓶のウォーターレベルにリングのようにしてこびりつく油分など何だかショッキングな印象を持つ。それだけ素のままの焼酎といえるのではないだろうか。熱を加えて盃に注いでやると、その表面にはちゃんと玉のような油分が浮く。しかし、温めすぎると粕取りの芳香は一転して暴力の固まりとなるから注意が必要。一度電子レンジで熱しすぎてしまい、飲むのに難儀したことがある。

 風味は25度という度数の割にはつんと来ない。味わいもハードではなく飲みやすいと思う。口に含むとまず甘みが広がるが、その後にはやはり粕取り焼酎。ワラバン紙のような独特の世界観を構成する要素が抜けていく。そして飲み込んだ後にはさらに奥深い甘みが喉にこびりつくようにして残る。

 地元では糖を加えるというポピュラーな飲み方の他にも、生でゴイゴイと飲んだり、ロックやお湯割りで・・・と芋や麦、その他焼酎と同じく普通に愛飲されているようである。


■レッドブック度
 蔵に伺ったところ、原料には普通清酒の粕を使用しているそうだ。そしてそれに水を加え再度発酵させたもろみに、通気性確保のための籾殻を混ぜ込む・・・。文句なしの“正調”の製造法を今に伝えているのである。また、現在も毎年毎年の製造を継続しており、「地元に需要があれば、今後も止めるつもりはない。」というから、当然ながらカテゴライズは『現存』となる。

 粕取り焼酎“三隈”にはこの25度の他にも35度、41度も存在している。41度のボトルはコルク栓に白色という女性を意識した物となっているし、25度には我々にとっても求めやすい4合瓶の存在もあり、1升瓶での商品流通が主流の粕取り焼酎の中では柔軟性に富んだラインナップ。今日日田市内で支持を受ける理由には味はもちろんのこと、こういった部分に起因するのだろう。
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(05.02.04)

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