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(有)渡邊酒造場 宮崎県宮崎市田野町

(2006.12.10)
なんと言うか、ついに来たなぁ・・・・と申しましょうか。平成18年の1月1日に宮崎市と周辺の3町が合併をして以降、この蔵の焼酎のラベルの住所から『郡』の文字が消えて、代わりに『市』となった。

行政の区切りは変わっても、“田野町(たのまち)”の風景は変わることがない。昨秋の台風14号の被災によって雨が降れば川の水が茶色に濁る・・・ということはあるのだが、ちょうど今の季節。全国的にもよく知られている漬け物用の大根の丸干しを架ける見事な櫓があちこちにたつ。

この漬物用の大根干し。宮崎市近郊の形態としては2通りあって、ひとつがこの三角形の櫓を組むというタイプ。もう一つが河川敷や田畑など、風通しの良いところにむしろを渡して、細切りした大根を広げるというタイプである(切り干し)。どちらにしても、強烈な山々から冷たい風(霧島おろし、鰐塚おろし)をぶつけて大根の水分を飛ばす。いつだったか、生乾きの切り干しを食べさせてもらう機会があったが、不思議なくらいに甘い。

後者は清武町の作業風景が全国版のニュースでも紹介されているのだが、冬の風物詩として宮崎を代表する風景はどうしても前者となってしまう。お酢と砂糖、醤油で甘酸っぱく付ける切り干しの漬け物も非常にご飯が進む代物であるのだが・・・。

この麦焼酎。実は以前にも紹介したことがある。以前は蔵の代表銘柄と同一の“ 旭 万年 ”と名乗り、宮崎らしく20度の販売もあった。大学の頃、初めて飲んで常識を覆された様な心地がした麦焼酎。そのころは焼酎については全くの無知であったし、この酒が常圧蒸留の麦焼酎の元祖ではないかという話があることすら知らなかった。

いつのことだったか、蔵で蒸し上がったばかりの麦を見せて頂いたことがあった。麦の粒は微かに温かく、そしてしっかりとした弾力性をもってきらきらと輝いていた。口に含むとほんのりとした甘さがしばらく残る。

コップの中の焼酎が放つ薫りは香ばしく、甘く鼻腔をくすぐる。個性が強いので、表面的には男性的な印象を覚える人も多いのではと思われる。だが、その後続く奥深さ、ふわりとした柔らかさに私はそれとは正反対の性質を感じてしまう。

現在、ラベルは同蔵の主力製品である芋焼酎に合わせた意匠となっている。裸麦を使用した 派生銘柄 も産まれ、蔵のシンボルであった 煙突やボイラー も今年、記憶の中のものとなってしまった。物事が変化していくのは避けられない。その中においても、大根の櫓と同様、封を開ければ変わることなくこの香ばしさを愉しむことができる。

これは、蔵の持つ実力あってのことだろう。
麦麦「旭 万年」
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