このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

ここまで、食品残さの発生量について簡単に見てきたわけであるが、いかに宮崎県では酒類製造業による発生量が多いか簡単なイメージを持って頂けたのではないだろうか。

県内の焼酎粕の処理については、大手を中心になにかしらの処理施設を構えている状況である。中小の蔵においても、“ 旭 萬年 ”の
渡邊酒造場や“ 松露 ”の 松露酒造 等が整備を行った汚水処理施設や、“ たちばな ”の 黒木本店 が展開している『甦る大地』といった肥料化施設のように対応している状況が近年見られる。

平成16年酒造年度には233,000tの焼酎粕が宮崎県内で発生しているのであるが、各蔵による努力は見られる(26.2%)ものの、焼酎粕の処理についてはまだまだ業者委託(47.2%)に頼っている現状がある。これについては、各蔵の経営方針によるところが大きいので詳しくは突っ込まないこととする。

ただ、焼酎粕の処理の中心が(処理委託の有無にかかわらず)焼却処理や海洋投棄が主流の中で、このコンテンツを読み進めていく上で中心命題とも言える飼料化に限ってはわずか1割未満にとどまっている実情がある。処理委託については実態は存じ上げないが、処理の仕方によって値段が別れるそうである。おそらくはトンあたりの処理量で万単位で処理委託をしている蔵元もあると思われ、焼酎粕を今後飼料化する上での処理量確保については処理料金等の要因があるものの、焼酎粕の飼料化という技術についてはそれなりの需要を見込めるのではないだろうか。

事実、都城資本が鹿児島に建設した豚舎では焼酎粕を中心としたリキッドフィーディング(液状飼料の給与)による肥育豚経営がなされている様に、畜産、焼酎製造業界に関わらず焼酎粕の飼料化に対しての関心はここ数年高まっている。

リキッドフィーディングをはじめとしたリサイクル飼料の“現場”というのは生産現場の内部に設置されていることが多い。日本海や東シナ海を挟んだ向こうでは豚コレラや鳥インフルエンザといった家畜伝染病の流行が伝えられるところであるが、リサイクル型畜産の主流とも言える養豚場にはそのような伝染病を農場内に踏み込ませないために、そこに立ち入ることは一般の方であるならば不可能とも言える。

以上のような理由で、なかなかリサイクル型の畜産の実態というのは非常に見えづらいのであるが、幸いにも宮崎県内には自社で発生する焼酎粕を原料に牛用の飼料を製造して、宮崎を中心とした西南日本に販路を広げている蔵元がある。

宮崎を代表する総合酒類メーカーである 雲海酒造 である。

同社の飼料事業部では焼酎の焼酎粕を濃縮濾過した物をベースにオーツ(エン麦)やチモシーといった輸入粗飼料、トウモロコシ等の穀物飼料をブレンドして飼料を製造している。“
雲海TMR”という商標で商品展開を行っているのだが、その製造過程は以下の通りだ。

①南九州の各蔵から発生した焼酎粕→②綾工場及び五ヶ瀬工場に設置されている処理プラントに於いて焼酎粕を濾過濃縮処理にかける→③処理産物である凝縮液(肥料原料もしくはエネルギー抽出用のメタン発酵原料として回される)、濃縮液、脱水ケーキ(ペレット飼料の原料もしくは肥料原料となる)→④飼料原料ベースに飼料工場にて調整、混合→製品(飼料形態はTMRと呼ばれる栄養調整を行った混合飼料、ペレット飼料、液状飼料等)→各地の契約農家へのフレコンでの配送といった流れをたどる。このコンテンツのtop画像がその製品だ。臭いを嗅ぐと、微かに焼酎の香りがする。

販路については西南日本各地と前に書いたところである。事実、今年の3月に八重山諸島に仕事の研修で言った際、島内の多くの農家でこの雲海TMR飼料が使用されていた。離島故の生産コスト削減から粗放型の和牛生産を行っている八重山諸島において、この飼料による労働力削減効果は非常に大きい物があり、地元行政も普及に関心を持っている状況であった。同地域に供給されているのはTMR飼料であることを述べたが、八重山諸島は宮崎県からすれば数百kmの彼方である。飼料の輸送にそれなりの時間を有する事となろうが、興味深かったのが腐敗防止のために地域ごとに水分含有量を変えていることだ。輸送途中に焼酎粕由来の微生物の働きによって飼料の変廃を招くような事があってはならないのは当然のことだろう。

実は、仕事でこの施設を見学する機会を得たのだ。文章だけでもつまらないと思うので、何枚か画像を紹介したい。
飼料製造プラントから見た同社の外観。

ちょうど画像の中央が焼酎粕の燃焼施設だったそうで、完全に処理が飼料化、肥料化にシフトしたこともあって、現在は使用していないのだとか。

左側の塔が焼酎粕の濃縮するプラント。
プラント内部は天井が非常に高く、まさに塔の様な混合機がまず目に付く。

これはその脇にあった焼酎粕と混合する飼料を混ぜ合わせるカッター。

下の画像のカッターで切断長を整えながら飼料が拡販され、ベルトコンベアーで混合機へと送り込まれる。
機械の作動音(この飼料製造ラインではない)であまり説明が聞き取れなかったのだが、これが塔状の焼酎粕との混合機だ。

おそらく、画像上部の円筒状のところで混合され、製品が下に2カ所ある袋詰め口から出てきて、フレコンに詰められるのだろう。

その袋詰めの作業を見てみたかったが
施設見学(当然ながら私一人ではない。数十人がこの機械を取り囲んでいた)のために稼働しておらず、それは叶わなかった。
雲海TMRの場合、混合する粗飼料は国外から輸入されたものとなる。

オーツヘイ等がそれらに当たるのだが、プラント内部の一角にはそういった圧縮梱包された粗飼料を積み上げてある一角があった。

この重さであるが、大体1ブロック(50×30×30cm位の大きさ)で20kg位の重さがある。
見本展示されていたペレット飼料。

上にも書いたが、肉用牛や乳牛といった畜種、TMR飼料やペレット飼料、リキッド等々、様々な商品展開がされている。
雲海TMR飼料はは農家に飼料を供給するだけでは終わらない。雲海酒造飼料製造部では、全酪連等を通しながら給与される生産農場に対しての給与設計、給与指導を行っている。

TMR飼料を給与することのメリットは労働コストの減少効果、栄養管理の徹底にあると思うのだが、その様な背景が広く受け入れられていると言っても、供給量が追いつかないという状況はこのアフターケアにも求めることができないだろうか。

最後に、リサイクル飼料の今後であるが、国の施策や畜産業界の関心が高まりつつある状況に於いて、原料収集の競争は加速していくのではないだろうかと思われる。大都市圏では食品残さ利用、農村の畜産地帯では焼酎粕のような限られた地場産業の原料収集といった具合にだ。しかしながら、その様な実情と国内統一の制度上のギャップが存在している。

リサイクル飼料の取り扱いには食品リサイクル業の許可を取る必要がある。原料を収集する農場がその許可を容易に取ることができれば良いのであるが、そうはいかない。この業の許可は(よくは知らないのだが)産業廃棄物処理の業の許可を受けている事が必要条件であるのだという。ならば、産廃処理も許可を受ければ・・・と言う話になると思うのだが、色々な事情があって許可を受けることが非常に難しいようである。

宮崎の焼酎粕処理については、県内で既に焼酎粕の飼料化を行っている処理業者がいくつかある。そのような所を中心に今後は展開していくだろう。前にも述べたが、焼酎粕の処理施設を蔵元が整備するには非常に大きな支出が必要となる。行政の補助事業を受けるのも難しく、業者への処理委託が主流となるのは必然だろうか。

既に処理施設を立ち上げた焼酎蔵にしても、処理施設の日常的な運転管理、メンテナンス料や施設の減価償却費と経営にとって大きな負担であろうから、今後の焼酎粕の処理の動向は個人的に気になるところである。
>Index

このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください