このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

column 4 〜「旅」とフェリー〜

 「今度の連休はどこに行ったの?」連休明けに出勤するたびに、このような質問が浴びせられる。「九州」「西」など、私の答えは様々であるが、「九州に行った」と言いながら紅葉饅頭をお土産に渡したりすると、「ホントに九州に行ったの?」と疑わしげな目つきで眺められてしまう。私は確かに九州に行っている。ただ、「出発点から最も遠い場所」が九州であっただけであり、九州のある場所を目指して旅に出たわけではない。しかしそれを理解できない一般の方々からすると、私は「変人」ということになってしまう。「変人」については、私の他のサイト「変人学概論」を参照して欲しい。それはさておき。
 旅には二つの種類がある。一つは「点を目指す旅」であり、ビジネスマンの出張や、盆・年末の帰省がその典型であろう。「大阪支社から東京本社に会議をしに行く」「東京に住んでいる人が、両親の住む北海道の田舎に帰省する」など、「目的地」と「目的」がはっきりとしている旅だ。パックツアーや修学旅行などもこのタイプに含まれる。この旅には、点と点を結ぶ過程は「目的」ではない。目的に支障のない時間に目的地に到着することを最優先にして、移動手段が選択される。移動の時間と空間は必要最小限になるようにしなければならない。勢い、新幹線や飛行機、高速道路といったものが多用されることとなる。移動時間は「休憩」時間にはなり得るが、場合によっては「目的」のための準備時間となってしまうこともある。
 また、会議が終わって「ちょっといっぱい」くらいの息抜きは別として、「目的」を外れた行動は一般的に許されない。日本で行われている旅の多くはこのタイプであり、旅とはこのようなもの、と思い込んでいる人は非常に多いのではないだろうか。
 では、もう一つの旅はどのような旅か?それは、「旅とは点を目指すもの」と思い込んでいる人は、思いもつかない形の旅である。「日常生活を営んでいる時間と空間から離れる」ことを目的とする「旅」である。この旅には「目的」も「目的地」も存在しない。強いて上げるならば、目的地は出発点であり、「出発点に無事に戻ってくること」が目的である。
 この「旅」では、空間の移動と時間そのものが「目的」の一部であるから、新幹線や飛行機に乗ったり、高速道路を無休憩で飛ばしたりすることはなじまない。時間をかけて、空間を楽しみながら移動する。それがこの旅の持ち味であり、様々な楽しみ方を考えながら日長一日を過ごすこともまた、この旅ならではのおもしろさであろう。この時間と空間を提供してくれる最高の手段が、フェリーであると言えよう。
 乗船してから下船するまでの間は、特にすることはない。ゆっくりと海を進むフェリーから見える風景を楽しんだり、これから訪れる地に思いを馳せたり、とりとめのないことを考えたりするにはもってこいの時間と空間だ。車やバイクという自分の「足」を持ち、好きな所に行くことの出来る「自由」と、船旅の持つ時間的・空間的「ゆとり」を同時に満喫出来る、それがフェリー。海峡を一跨ぎにしてしまう「橋」からは、このような「ゆとり」は生まれない。海峡をまたぐ橋やトンネルというのは、「旅は第一の形しかない」という「常識的思考」に固まってしまった人が、移動の時間と空間を「節約」するためには有効なものだ。しかし、第二の旅の形を愛する我々ふぇりい倶楽部部員としては、並行航路が廃止されてしまうということに限りない怒りと悲しさを覚える。
 平成10年4月5日。明石海峡大橋が開通し、その陰で阪神/徳島フェリーと淡路フェリーが廃止された。最後の航海を行う船の上で、海を眺めながらふと思った。

「また旅の味が不味くなるな」

 それでもまだ、日本にも「美味しい」旅の出来る所はたくさんある。何の変哲もない場所を、とびきり素敵なパラダイスにしてしまう「名シェフ」のフェリーもがんばっている。家に帰り着いた時に心から満腹・満足を味わえる、そんな「グルメ」な旅に、あなたも出かけてみませんか?
 何もいきなり第二の旅をしなくてもいい。大阪から東京に行くなら、帰りに時間があれば名古屋で途中下車して、「みそかつ」を食べるだけでもいい。それだけでも、旅にぐっと広がりを与えてくれることだろう。それに飽きたら、第二の旅を目指してほしい。きっと「美味しい」余暇を過ごすことができるだろう。
 えっ?「美味しい」旅をするにはどこに行けばいいかって?
 ……、さっきも言ったでしょう。「目的地は出発点であり、『出発点に無事に戻ってくること』が目的」だって……。

こらむに戻る

このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください