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Q&Aコーナー

皆さんからのご質問やご意見に一問一答の形でお答えします。


Part 1. 「蒸気機関車の挑戦」は こう読む に関するQ&A

月刊「鉄道ジャーナル」第33巻第4号(1999年4月号)に掲載された小文に対して、元国鉄車両設計事務所の日高 冬比古氏から貴重なご意見をお寄せいただきましたので、以下にご紹介します。以下、Qは日高氏、Aは髙木の見解を示します。

Q.1
髙木氏は、亜幹線用のパシフィックは、1600mm動輪でよいとされるが、形式図を書き、要目をきめ、速度−引張力、客車と貨車での速度−引張重量の線図を発表されてはいかが。
A.1
了解しました。ここではC57形の1600mm動輪版・TC57形を想定しています。

形式図を描きました(下図参照)。


要目も決めました(下記諸元表参照)。

形式C57TC57C58D51
シリンダ数2
シリンダ内径mm500550
シリンダ行程mm660610660
動輪径mm1750160015201400
缶圧kg/cm21614
煙管長mm550045805500
伝熱面積(煙管)m2115.086.0142.7
伝熱面積(火室+アーチ管)m212.410.914.4
伝熱面積(合計)m2127.496.9157.1
過熱面積m241.440.764.4
火床面積m22.532.153.27
動輪上重量(運整)t41.3242.0040.5256.00
機関車重量(運整)t67.5065.7058.7076.80
炭水車重量(運整)t48.0041.5046.20
石炭搭載量t12.006.008.00
水槽容量m317.0020.00
シリンダ牽引力t12.8214.0512.5716.97

速度−引張力線図は、TC57形は既発表のC57形の線図に対して動輪上重量で決まる10km/h未満、およびボイラ蒸発能力で決まる25km/h以上の領域ではC57形と同一ですが、シリンダ牽引力で決まる10km/h以上25km/h未満の領域では動輪径に反比例してC57形の9%増です。
客車と貨車での速度−引張重量の線図は、速度−引張力線図の縦軸目盛を牽引力から牽引重量に換算すれば済むので、わざわざ別個に作成する必要はないでしょう。

Q.2
朝倉式の機械効率の式には、締切りと動輪回転数がファクタにはいっている。回転数は遅い方、締切りは大きい方が効率がよい。
A.2
朝倉希一著「機関車抵抗並牽引力」は小生も所持しています。
回転数は遅いほうが効率が良いと言っても、例えば低速域で95%のものが高速域で90%となる程度ですから、動輪径に反比例した回転数の9%の差が機械効率に及ぼす影響は1%前後で、整備状態の良否以内の僅差に過ぎません。締切にしても同様で、例えばカットオフの30%と27%の差が機械効率にどれほど影響するものでしょうか。

Q.3
釣合いは、動輪直径の大きい方が、バランス・ウェイトが軽くて済む。
A.3
それは釣り合わすべき連結棒・主連棒などが同一重量の場合で、TC57形は動軸距の1900mmから1750mmへの短縮に伴って連結棒の重量が9%軽減され、また主動軸中心〜シリンダ中心距離の4560mmから4335mmへの短縮に伴って主連棒長も3100mmから2875mmとなり、やはり重量が9%軽減されますので、結局相殺されてバランス・ウェイトは重くせずに済みます。
一方、バランス・ウェイトを除いた動輪の自重は直径の自乗にほぼ比例すると考えられますので、1対当り0.5t、3対で1.5t、連結棒・主連棒などを含むバネ下重量としては1.6t軽減できると見込まれます。
なお、主台枠も短縮されますので、機関車空車重量としては合計1.8t軽減でき、C57形の同60.70tに対して約3%の材料節減となります。

Q.4
どんなボイラをのせるのだろう。
A.4
J誌には、ボイラを変えるとは書いていませんので、ライト・パシフィック(C54形・C55形・C57形)と同等とお考えください。上記諸元表でもあえてC57形と同一としています。
ただし、シリンダ中心が450mm後退しますので、ブラストノズルと煙突がその分後ろにずれ、主蒸気管も短くなります。給水予熱器は煙突前に載せられますので、C57形などのフロントデッキ上よりも保温に有利と思われます。

Q.5
蒸機は部分負荷では効率が悪い。
A.5
蒸機の全効率は缶効率×シリンダ効率×機械効率の相乗積ですが、缶効率は燃焼率の増大に伴って低下しますし、シリンダ効率に関係する指示出力当り蒸気消費量もカットオフの延伸に伴って増大しますので、ご指摘は何かの誤りと思われます。

Q.6
笛を5秒吹くと石炭0.6kgを使う、必要のない笛は吹くな、安全弁を1分吹かせると石炭7kgが無駄になる、火の焚き方、水の送り方に気をつけろ、と注意する程貧乏な日本では、スモール・エンジン・ポリシーが正しかったと考えられる。
A.6
1948年に東北線・宇都宮〜白河間で実施されたC571とC611との性能比較試験では、同じ500t牽引での石炭消費量がC57を100%とするとC61は90%で済んだと報告されています。また、同年の山陽線・糸崎〜八本松間のC5955とC621との性能比較試験では、同じ600t牽引での石炭消費量がC59を100%とするとC62は何と76%で済んだと「業務研究資料」で報告されています。いずれも火床面積が大きく燃焼率が低くて済むことによる缶効率の向上が効いており、ラージ・エンジン・ポリシーのメリットが明白です。
スモール・エンジン・ポリシーは、乗務員に石炭節約の苦労を強いる反面、貴重な石炭の熱エネルギーを人知れず大気中に捨てていたことになるでしょう。

※この件については、

日本の蒸気機関車データ集 第3章 性能関係 2.本線試験結果

を併せてご覧ください。

Q.7
ボイラを共通にすることが、それ程、製作に有利だろうか。型押し物である煙室管板、内火室管板を、種類を増やさないようにし、煙管は、(中略)直径の種類を増やさないようにすれば、予備品を増やさないで済む。
A.7
それに外れることをしたのがC59形です。ボイラ使用圧力をD51形の許容値15kg/cm2から僅か1kg/cm2上げるため、缶胴の板厚が16mmから19mmに増大し、煙室管板の外径が1568mmから1550mmに変わってしまいました。内・外火室も缶圧の増大に伴ってステイのピッチが100mmから95mmに狭まったので別物です。
なお、C59形は定置試験で燃焼率500kg/m2/hにおける缶効率がD51形より5ポイント(55%に対して50%)劣ることが「業務研究資料」で報告されており、蒸発能力増大を狙って6m煙管にしたのが裏目に出ています。

※この件については、

日本の蒸気機関車データ集 第3章 性能関係 1. 定置試験結果

を併せてご覧ください。

Q.8
ボイラには、コムプレッサ、給水ポンプの取付座、歩み板受を取付けるスタッドを植える。砂箱の取付座、ハンドレールもつける。これらの付属品は、重量バランスや、動輪、弁装置との当りや関係を考えてきめる。
A.8
D51形・D52形のボイラを使ってC61形・C62形を造ったときはどうだったのでしょうか?
ご指摘のような付属品の位置をわざわざ変更したとは寡聞にして存じませんが、この程度の小差異は何とか折り合いをつけて共通化を図るのが、プロの設計者でしょう。

Q.9
パシフィックとミカド、モーガルとコンソリデーション、といった組合わせで同じボイラが使えるのだろうか。あまりメリットはないように思われる。
A.9
モーガルとコンソリデーションの組合わせは存じませんが、パシフィックとミカド、テンホイラーとコンソリデーションの組合わせはJ誌に実例を引用してありますので、再度ご確認ください。なお、他にも英国LNERのA1パシフィックとP1ミカド、英国LMSの2P (4-4-0) と4F (0-6-0) 、ドイツ国鉄03-10パシフィックと41ミカド、と枚挙にいとまがないほどです。日本よりはるかに豊かであった第2次大戦前の英・米・独とも、ボイラ共通化のメリットを大いに認めていたと思われます。そもそも共通化・標準化は近代工業の要件であるのに、「メリットなし」とされる理由が判りません。

Q.10
ロング・トラベルの弁装置は、ワイヤー・ドローイング(蒸気の絞り損失、髙木注)を減少させ、効率が高くなると考えられるので、一度はやって見たかったことの一つである。
A.10
ご賛同いただきましたが、ロングトラベル(6in=152mm以上、髙木注)の弁装置は、日本国鉄にも存在しました。最大カットオフの延伸を狙ったC50形・C12形・C56形などがこれに該当します。小生が提唱したのは、「ロングラップ・ロングトラベル」の弁装置です。ロングラップ(1-1/2in=38mm以上、髙木注)でないと、カットオフをつめたときのポート・オープニングが十分大きく取れませんので、絞り損失(特にピストン背圧に関係する排気側)の低減には効果が薄いと考えられます。

※この件については、

日本の蒸気機関車データ集 第1章 各部設計寸法 2. スチーム・サーキット

を併せてご覧ください。

Q.11
C53の連動大テコに穴をあけたのは誤りだ、というのはうなづけない。曲げを受ける部材では、断面の中央が応力0で、端程大きくなるから、応力の低い部分の肉を取って軽量化するのは、当然の手法である。幅を広くし、端の肉を厚くして剛性を上げる。
A.11
一般論としてはご指摘の通りですが、この部分の軽量化の効果は、図面からの概算ではせいぜい8kgで、機関車重量の約1万分の1です。
 連動大テコの長い方の孔径: 40mm, 50mm, 60mm, 70mm, 80mm, 90mm, 100mm, 110mm 計8個
 連動大テコの短い方の孔径: 85mm 計1個
 連動大テコの肉厚: 22.5mm
この程度の軽量化より、ヴァルヴ・イヴェントを正確に保持することの方が、連動大テコの設計上は重要と考えますが、いかがなものでしょうか? それに、C53形の連動大テコは8200 (→C52) 形ほど幅も広くありませんし、端の肉もさほど厚くありません。ことグレズリー式弁装置の設計に関する限り、8200形のほうがポイントを抑えていたと言えるでしょう。

※この件については、

Q&Aコーナー(2)

を併せてご覧ください。

Q.12
上ばね、下ばね、で動揺周期が違うという点、ここで云う動揺とは、どの向きの振動だろうか。車両の運動には、前後軸、左右軸、上下軸、それぞれの方向、それぞれの軸のまわりの運動の6つがある。支点の高さの差は前後軸周りの運動、すなわちローリングにあらわれるのだろうか。
どの運動が、どのように下ばねにすることで改善されるのか、知りたいものである。
A.12
ご賢察の通り、重心からバネ位置までの距離の増大によるローリングの長周期化です。
ときに、日本国鉄の技術陣は「高速になると、人間が長時間乗れるものではなくなっていた」と久保田 博氏も言われるほどひどい蒸機の乗心地について、どの向きの振動に対して、どのように改善しようとしたのか、知りたいものであります。

※当会で独自に日本国鉄蒸機の乗心地の悪さの原因分析を試みました。

日本の蒸気機関車データ集 第2章 重量関係 2. 運動部分の質量

をご覧ください。

Q.13
車入れ作業が、上ばねか下ばねかを選択する要素とは思えない。
A.13
小生も同感ですが、日本国鉄内部の方々や蒸機の参考書が上バネ式採用の理由に挙げているのです。9900(→D50)形が初期の22両(通説の29両は誤り)は下バネ式であったのに、以後上バネ式に設計変更された背景もそのように説明されています。9900形は同一形式で下バネ・上バネの両方式を有する世界でも稀な例ですが、乗務員の評価は「断然下バネ式が乗心地が良かった」とされています。加速度計を搭載しての比較試験を行う価値は十分あったと思われます。

※この件については、

Q&Aコーナー (3)

を併せてご覧ください。

Q.14
棒台枠になって、ペデスタル・タイ・バー(蒸機の主台枠ではホーン・ステイと称するのが一般的。日本語では軸箱守控、髙木注)に、ばねつりを通す穴をあけることが難しいことも考えられる。
A.14
何が難しいのですか? 棒台枠のC10形・C11形・C12形・C56形・E10形の最後位動軸は下バネ式ですが、軸箱守控にバネ吊を通す孔がちゃんと開いています。もちろん当該部分は断面が減少しないよう、左右に広げています。ドイツ蒸機も棒台枠ですが、J誌にも書いたとおり、動軸はすべて下バネ式です。

Q.15
支持については、現場に居た人間として、断然3点支持を支持する。例えばB6(→2120形など、髙木注)では、各軸単独で8点支持となっている。各軸の分担荷重を調整するのは大変だった。(中略)半日もかかることがあった。
A.15
製造や修繕だけが現場ではありません。乗務員の評価はどうなのですか? 毎日乗務し、命を預ける人たちのことを第一に考えるべきと思います。定年退職後の平均余命約4年と言われた日本国鉄蒸機乗務員の短命の理由が、乗心地のひどさにも起因していたのではないでしょうか。

Q.16
イギリスではどのような方法で調整しているのだろう。ばねが軟らかければ(中略)少し楽になるのだろうか。
A.16
英国でも当然ダブルナットで各軸ごとに軸重を調整しています。J誌にも担バネを十分柔らかくし、と書きましたので再度ご確認ください。ちなみに、最も乗心地が良いとされるLNERクラスA4の動軸担バネは1英トン当り0.26インチ(約6.5mm)のたわみ量です。日本国鉄蒸機ではどのくらいであったのか、定量的にご教示いただければ幸いです。
なお、3点支持でも米国機のようにバネ吊がコッタ(かんぬき、髙木注)式ですと個々に軸重調整ができず、6両全機の実測値が記録されている8200形の8200号機では第1動軸(15.28t)と第3動軸(17.51t)とで最大2.33tの差が生じています。

※8200形の軸重実測値については、

日本の蒸気機関車データ集 第2章 重量関係 1. 重心位置

をご覧ください。

Q.17
レールの太さ、マクラ木数、バラストの厚さのそれぞれを変えた試験、そのデータに基く計算値を見ると、全部を総合的に上げるのが効果的、一つだけを向上させるのは効果が少ない、となっていた。
A.17
従来より、日本は雨が多いとか、地盤が岩盤でなく沖積層であるとかの理由で許容軸重を小さく抑えていると説明されてますので、J誌ではこれに異議を唱え、何が許容軸重に対して支配的か、について小生の見解を明らかにしたわけです。欧米や南アでも路盤がすべて直接岩盤に達してるわけではなく、築堤や橋梁も多数存在します。

※この件については、

Q&Aコーナー (2)

を併せてご覧ください。

<付記>
日高氏は1999年4月12日に上記をJ誌編集部宛に投稿されましたが、J誌では同年6月号(4月21日店頭発売)の斎藤氏の意見発表をもって誌上論争を打切りとしたため、今回初めて日の目を見ることになりました。日高氏も「こうした討論は公開で誌上ですることに意味がある」と言っておられますので、これに準じたネット上への公開をご了解いただけると思います。


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