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健論時報
  2001年11月  


■テロ対策を本気でやろうとしない民主党
 民主党、米国テロ攻撃関連後方支援法案に対する態度決定(10月3日)
 報道によると、民主党(鳩山由紀夫代表)は3日、党の外務・安保部門合同会議で、米国同時テロ攻撃事件に関連した後方支援法案について、党としての基本方針を決めた。それによると、犯人特定のために証拠提示をアメリカに求め、武力行使に関して国連安保理決議を求める他、後方支援法案については期限を1年(政府案は2年)の時限立法(延長可)とし、政府には基本計画の国会承認(緊急時には事後承認)と6ヶ月後の国会報告を求め、 周辺事態安全確保法 では認められている自衛隊による武器・弾薬輸送、武器使用基準の緩和も認めないという。
 今回民主党が制定した内容は与党との差異を強調するため政府のテロ対策を更に一歩後退させたものであり、このような後ろ向きの態度を示す政党に政権を任すことは出来ない。こうした方針案を決定した背景には、鳩山代表や若手・保守系議員がテロ対策に積極的である一方で、旧社会党系議員が憲法問題等を理由に否定的な姿勢をとっているからであろう。既に、3日にはアメリカから柳井俊二駐米大使に証拠が開示されており、証拠の問題は解決している他、国際連合のコフィ・アナン事務総長は2日「すでに採択されている安保理決議は、今回のテロ攻撃は国際平和と安全に対する脅威であり、それに対する個別、集団的自衛の権利を認めている」として「新たな国連安保理決議は必要無い」との認識を示した。他方で、後方支援法案の期限を1年に短縮しておきながら、更に基本計画について国会承認を求めるという屋上屋を架す複雑な仕組みを作ったり、 周辺事態法 ですら認められている武力行使と一体化しない武器・弾薬輸送も認めないといった対応は、我が国の対テロ包囲網協力を実質的に無意味にするものでしかない。武器使用基準を緩和しないということならば、パキスタン領内の難民キャンプが武装集団に襲撃された際、自衛隊員は終戦直前の関東軍よろしく保護した難民を放置して逃げ出さなければならなくなる。如何に民主党案が政府との「取引」を考慮したものだとしても、こうしたナンセンス極まりない案を取引材料として置くのは不見識という他ない。これでは、「民主党はテロ対策を本気でやろうとしない」と評されても仕方があるまい。

■「ショー・ザ・フラッグ」に踏み出す第一歩
 航空自衛隊、難民支援物資を載せた輸送機6機をパキスタンに派遣(10月6日)
 報道によると、航空自衛隊のC-130戦術輸送機6機が6日午後1時、小牧基地からパキスタン・イスラマバード空港に向け出発した。6機はアフガニスタン難民に対する支援物資を輸送する「難民救援空輸隊」で、10人用テント315張や毛布200枚、給水容器400個、ビニールシート75枚など計36トンを搭載している。部隊は140人の隊員で構成されるが、全員防弾チョッキを着用する他、短銃40丁を携行しているという。派遣について航空幕僚長の遠竹郁夫空将は「隊員全員が難民救援のための支援の一翼を担えるという誇りをもって、安全、確実にこの任務を完遂する」と述べている。
 今回の派遣は9月の米国テロ攻撃事件を受けて行われる我が国初の具体的な海外活動であり、「ショー・ザ・フラッグ」を実践する第一歩と言える。一部には「2泊3日もかかる空自輸送機を使うより、民間機に搭載したほうがよい」「自衛隊派遣の実績づくり」といった反対論もあるが、こうした論議は結局感情的な自衛隊反対論、反米論でしかない。アフガニスタンやパキスタンの情勢は流動的であるし、何よりも「日本政府として物資を輸送している」ということを示すことが重要である以上、自衛隊機派遣は形式的にも実質的にも最も適切な選択肢である(加えて、民間機に輸送を委託すれば余計なコストがかかるが、自衛隊機ならそもそも政府の航空機なので輸送費を払う必要が無い)。現に、自衛隊機が出発してから1日後米英軍が軍事行動を開始しており、事態は急転している(パキスタン政府が民間航空機の運行を一部で停止すれば、民間NGOは物資すら空輸できなくなる)。湾岸戦争における事例でも明らかなように、我が国の民間航空機は「危ないところにはいかない」という立場を鮮明にしており、イザというときにはまるで役に立たない。「航続距離の短いC-130輸送機では非効率的」というなら、来年度の防衛予算でC-17「グローブマスターⅡ」大型輸送機の導入を認め、国際貢献任務に就航させることに賛同すべきであろう。
 ついでに言えば、アメリカのアーミテージ国務副長官が発言した「ショー・ザ・フラッグ」という言葉について、ハワード・ベーカー駐日米大使は5日、「これは英語の古い言い回しで、『姿を見せて』とか『旗幟(きし)を鮮明にせよ』という意味。具体的に自衛隊の派遣まで求めたとは思えない」と述べたという。こうした発言は、アメリカ政府がこの言葉に「自衛隊派遣」の意味を読みこむことは対日圧力と受け止められかねないと考えたためであろうが、我が国の世界的地位や日米関係を考えれば全面協力は当然であり、「ショー・ザ・フラッグ」という圧力を受けること自体恥ずべきことであろう。この事件において『旗幟を鮮明にする』ということは『軍事的支援をする』ということに他ならない。第一、対米支援反対派は、政府が新法を閣議決定して主体的に取り組めば「アメリカから支援要請も無いのに、前のめりだ」と批判する一方、逆に「ショー・ザ・フラッグ」という言葉には「日本の主体性が無い」等と批判しており、所詮は「為にする反対」でしかない。

■武力行使不参加なら戦後PKO参加を目指せ
 米英軍、アフガンスタンに対する軍事攻撃開始(10月8日)
 報道によると、アフガニスタン周辺に展開する米英軍(仏、独、豪、加の各国軍を含む)は8日午前1時(米東部時間7日午後0時)、オサマ・ビン・ラディンのテロ犯罪組織「アル・カイーダ」及び同国を実効支配するタリバーン政権に対する軍事行動を開始した。軍事行動はアラビア海に展開する米空母機動部隊及び英原潜の発射した巡航ミサイル「トマホーク」約50発の精密攻撃とB1、B2(JDAM衛星誘導爆弾16発を発射)、B52戦略爆撃機(クラスター爆弾30発を発射)約15機、F-14艦上戦闘機25機による空爆で開始され、首都カブール及びタリバーン政権本部のあるカンダハルを攻撃した。今後は、航空攻撃の他ウズベキスタンに展開した米陸軍第10山岳師団や英米特殊部隊も行動に移るものと思われる。ドナルド・ラムズフェルド米国防長官とマイヤーズ米統合参謀本部議長(米空軍大将、元在日米軍司令官)が記者会見で明らかにした。また、ラムズフェルド長官は同日、空爆でタリバーン政権の防空戦力を破壊した後、C-17大型輸送機の安全を確保して人道物資(食糧、医薬品を含む)の空中投下作戦(パラシュートを使わない新たな手法をとるという)も実施するとしている。なお、一部では「米軍の作戦と北部同盟の作戦は無関係」と報じられている。
 これに関連してドイツのシュレーダー首相が無条件の支持を表明した他、小泉首相も記者会見で「英米の行動を強く支持する」と発表した。一方、中東のカタールにある衛星放送会社「アル・ジャジーラ」の取材に応じたウサマ・ビン・ラディン氏は、対米報復テロを言明している(この取材の中で同氏は、アメリカの日本に対する原爆投下についても言及している。この発言からは、同氏が世界史についても相当程度あることを窺い知ることが出来る)。
 ところで、攻撃開始にあたりブッシュ米大統領はテレビ演説を行ったが、その中で同大統領は同盟国として「日本」に言及しておらず、「その他多数の国々」の中に含めて表現していた。小泉首相によれば我が国に対しても事前に攻撃開始の連絡があったというから、これは湾岸戦争当時からすれば進歩であるが、やはり武力行使に参加できないことで欧米の「対テロ包囲網」からは一歩外れている。軍事攻撃は既にはじまっているのに、それを支援する後方支援特別措置法はまだ審議入りしたばかり。強行採決をしてでも同法案の早期成立をはかる他、武力行使に参加していない分、この「対テロ戦争」の後に必要とされるであろうアフガニスタン復興活動(国連平和維持軍乃至多国籍治安維持軍)に我が国として積極的に参加すべきである。
 なお、複数の「ムジャヒディン(イスラム聖戦士)」の亡命組織は7日、パキスタンのペシャワールでタリバーン政権後の新政府樹立を企図した政治運動体「アフガニスタン和平国家統一連合」(APNUF)を発足させている。

■テロを黙認し、世界から孤立した社会民主党
 米英軍のアフガン空爆に全世界が支持(10月9日)
 報道によると、8日に開始された米英軍のアフガニスタン空爆に関して与野党各党が声明を発表した。与党三党はいずれも支持を表明(自由民主党「強い支持」、保守党「断固支持」、公明党「やむを得ずとられた措置として、支持する」)した他、野党でも民主党は「テロ撲滅・米国の自衛という見地から十分に理解できる」と発表した。他方、日本共産党と社会民主党は揃って反対する声明を発表したが、社共両党にはある程度の温度差が見られた。即ち、日本共産党の志井和夫委員長は「アメリカの軍事攻撃開始について」と題する談話を発表し、「国際社会としての的確な告発と制裁という手段がつくされないまま、軍事攻撃と戦争という事態になったことを、残念に思う。」「無実の市民の犠牲が広がることにたいし、深い懸念をもつ。」として米英を強く批判することは避けたが、社会民主党の土井たか子党首は「米、英はアフガン軍事攻撃を直ちに中止せよ」と題する談話を発表。「今回の攻撃は、『軍事報復』であり、宣戦布告なき戦争といわざるをえず、容認できるものではない。」「軍事攻撃に対し、厳重に抗議するとともにただちに中止するよう求める」「米英の軍事攻撃支持を表明したわが国政府に対しても強く抗議し、撤回を要求する。」と主張した。
 今回の空爆に関しては「朝日新聞」も9日の朝刊で『限定ならやむを得ない』と題する社説を掲載し、主要な全国紙は挙って空爆を支持している(もっとも、当初より軍事行動に反対していた同社が支持に回ったのは無節操であり、今回の空爆にも反対する立場を貫くべきであったように思われるが)。国際社会を見渡しても、米、英に加えフランス、ドイツ、カナダ、オーストラリアの4カ国が武力行使参加を表明している他、欧州各国、ロシア、韓国、台湾(中華民国)、フィリピン、タイ、ニュージーランド、インド、パキスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、ヨルダン、メキシコ、ニカラグア、アルゼンチン、チリ等ほとんど全ての国が空爆支持を表明(アメリカに「テロ支援国家」指定されているリビアですら支持に回った)。空爆を非難しているのはアフガニスタン・タリバーン政権の他、フセイン大統領のイラク、レバノンそして「テロ支援国家」指定されているイラン(但し、非難のトーンは弱く、事実上は「黙認」を意味するものとされる)だけで、予想されたよりも少数に留まっている。
 こうした動きを反映してか、日本共産党の声明は「残念」「懸念」といった言葉で飾られ、事実上空爆を黙認したものとも受け止められる。となると、社会民主党と同じ意見を持つ国はタリバーン政権とラディン一派、それにイラクぐらいのものであり、世界から完全に孤立したという他ない。同党は日本国憲法前文の精神を完全に忘却してしまったのであろうか。森政権時代、民主党は自由党と社民党と共闘して自民党からの政権奪回を狙ったことがあるが、このような親テロ・極左政党(無論、土井党首は同時に「テロは許されない」としているが、それは同党の他の主張と完全に矛盾している)が連立政権としてであれ政権入りすることは将来に渡って許されるべきではない。
 なお、アメリカ国内では94%の国民が空爆を支持し、「戦争反対」を叫んでいる市民はほとんど居ない。事実、アメリカのCNNやFOXといったテレビ放送では、国内の開戦反対派のデモはほとんど報道されていない。我が国のマスコミの一部にそうしたデモを報道しているものがあったが、アメリカ世論を歪曲して伝えるものであると言わなければなるまい。

■「テロ」と「特攻」を同列に扱う大橋巨泉議員
 大橋巨泉参議院議員、予算委員会で質問に立つ(10月9日)
 報道によると、9日の参議院予算委員会で質問に立った民主党の大橋巨泉参議院議員は、先の米国同時テロ攻撃事件に関連して「特攻隊に特別な心情を持つ総理は、突入したアラブ青年たちの心情をどう考えるか」と質問。これに対し小泉純一郎首相は「理解を超える。若い特攻隊員たちは戦争のために軍用機で行った。(テロの実行犯は)信じられない」と答えた。これは、小泉首相が予てから鹿児島県知覧町の特攻隊記念館の展示品を見ては涙し、「いやなことがあると特攻隊の気持ちになれと言い聞かせる」と公言していることに絡めて首相を暗に批判したもの、とされる。
 神風特別攻撃隊の突撃は旧軍の戦闘員(軍人)が、組織的な命令系統に従って、米英軍の軍艦(軍事目標)に対して行ったものであり、民間人を道連れにしたわけでも民間人を攻撃したわけでもない。無論、オサマ・ビン・ラディンと「アル・カイーダ」一派の論理や価値観に立てばハイジャック攻撃も「神に祝福される行為」となるだろうが、そうでない限り今回のテロ攻撃と神風特攻隊を同列に扱うことは到底出来ない。大橋議員の見識を改めて疑わざるを得ない。

■部下(駐米大使)が上司(外務大臣)に意見具申して何が悪い
 田中外相、柳井駐米大使の意見書を批判(10月12日)
 報道によると、田中真紀子外相は12日午前、柳井俊二駐米大使がアメリカ同時テロ攻撃事件への対応策の一貫としてイージス護衛艦等の早期派遣などを求める「意見書」を外相に送ったことについて、「テロ対策特別措置法案の成立に全精力を傾注しているのに、非常に迷惑千万だ。不見識だ」と同大使を厳しく批判した。また、これに関連して中谷元防衛相も「意見具申は結構だが、(艦艇の派遣は)あくまでも我が国が主体的に判断して実施することだ」と不快感を示したという。外相は11日の衆議院テロ対策特別委員会でも「新法の成立が第一の優先課題。皆さんに検討していただいている時に、先走って具申してくるのはいかがなものか」と不快感を示している。
 問題とされた「意見書」は、政府が9月に発表した7項目対応措置の一つとして「情報収集のための自衛隊艦艇の速やかな派遣」が盛りこまれたにも関わらず与党内からも慎重論が噴出して中止となったことについてアメリカの見解を代弁。(1)7項目措置は大統領も歓迎し、自衛艦派遣は公約とみなされている、(2) 憲法 上の制約でもないのに、特定の艦船が除かれるのは問題、(3)派遣艦船は、日米間の協議で軍事上の必要性に応じて判断すべきだ、との見解を踏まえて、自衛艦艇の早期派遣や連絡担当の自衛官の米軍派遣を求めているとされる。
 田中外相は、柳井駐米大使の行動の一体何を問題視しているのだろうか。部下である駐米大使が上司である外務大臣に、派遣先の国の政治状況を踏まえ、我が国外交の進路を決定するにあたり必要と思われる情報や意見を上げるのは当然であろう。しかも、その意見書の内容も極めて妥当なものであり、報道されている範囲で何等批判すべき要素を見出すことが出来ない(イージス護衛艦は単に「アメリカの開発したイージス防空システムを搭載した最新鋭の護衛艦」というだけのことであって、原子力艦や航空母艦のように政治的に問題になるような軍艦ではない)。田中外相は「先走っている」というが、これは単に「外相の気に食わない意見だ」ということであって、意見や政策案を提示するのが中央省庁の役割であろう。部下の献策を素直に聞けない上司が居る組織は必ず失敗する。批判されるべきは、駐米大使ではなくて外相の頑なな態度そのものである。

■テロ対策新法は挙国一致で
 テロ対策新法を巡る与野党党首会談、決裂(10月15日)
 報道によると、小泉純一郎首相(自由民主党総裁)は15日夜、首相官邸で鳩山由紀夫・民主党代表と党首会談を行い(山崎 拓・自民党幹事長、菅 直人・民主党幹事長が同席)、自民・公明・保守の与党3党が同日夕に作成した「自衛隊派遣は国会が事後承認し、武器・弾薬の外国での陸上輸送は除外する」とのテロ対策新法について、鳩山代表に法案への賛成を要請した。しかし、鳩山代表は、「自衛隊派遣には国会の事前承認が必要」と主張して譲らず、結局会談は決裂した。与党三党は16日に修正案を提出の上、同日中に関連三法を衆議院に通過させる方針だという。
 今回の修正案について与党側は、「基本計画の事前承認では時間がかかる」として、 自衛隊法第78条 (治安出動)と同様の事後承認とし(活動命令後20日以内に国会に「事後承認」を求め、不承認の場合は撤収する方式)、代りに武器・弾薬輸送については民主党側に譲歩して外国での武器・弾薬の陸上輸送を除外し、海上輸送に限定するとしていた。しかし、鳩山代表側はあくまで事前承認を求めたため決裂となったという。今回の事件に関しては、テロと対決するアメリカの姿勢を支持する圧倒的な国際世論もあって、小泉首相としては与野党一致しての賛成を得たかったが、最後のところで細かい問題で決裂してしまった感がある。民主党も独自案を提出するので本質的には賛成者数はあまり変わらないが、それでも自民・公明・保守・民主の4党が圧倒的多数で賛成したほうが好ましいことは言うまでも無い。報道によれば、民主党の一部保守系議員の中には政府案に賛成する動きもあるというが、この法案はぜひ挙国一致で可決し、我が国国民の明確な意思として世界に表示したいものだ。

■日本でも生物兵器テロ対策を急げ
 米国ニューヨーク他で炭疽菌感染(10月15日)
 報道によると、10月上旬から報じられていたアメリカ・フロリダ州の新聞社の炭疽菌騒動は、14日に入って新たにニューヨークのテレビ局で3人の感染者が発見され、フロリダ州で新たに確認された5人と併せて12人の感染者が特定された。アメリカではこの他に、国内線航空機の中で不審な白い粉が発見された他、ネバダ州リノのマイクロソフト関連会社に送付されてきた不審な手紙からも炭疽菌が確認されたという。16日には、アメリカのトム・ダシュル上院議員(民主党院内総務)宛てに送付された手紙からも炭疽菌が発見されている(但し、炭疽菌そのものは、早い時期に治療すれば治癒する)。
 9月11日の米国テロ攻撃事件以来、オサマ・ビン・ラディンらの国際テロ組織が生物・化学兵器を使ったテロを決行するのではないかという報道はあったが、今回の事件は、それがラディンらの組織と無関係であれ、一つの生物兵器テロとして対策を考えるべきであろう。「テロ組織に生物・化学兵器は製造できない」といった神話は既にオウム真理教の地下鉄サリン事件で崩壊しており、アル・カイーダよりも稚拙な組織形態であったオウムですら化学兵器を製造できたのであるから、アル・カイーダがこれを入手できないと考える理由は無い。また、そうしたテロの被害が我が国に及ぶ可能性を否定する根拠もどこにも無いだろう。その点、わが国の自衛隊や政府が対生物兵器対策を厳重にしているとは思えない(最近になってはじめて、陸上自衛隊内に「部隊医学実験隊」が新設されたぐらいであろう)。今こそ、厚生労働省や防衛庁(それに郵政事業庁)といった省庁の垣根を越え、国民を生物兵器から守る方策を考えるべきである。

■社民党の不可解な海保法改正反対
 テロ対策特措法等、与野党の賛成多数で特別委員会で可決(10月16日)
 報道によると、衆議院テロ防止特別委員会は16日午後、自衛隊による米軍等後方支援・難民支援を可能にする テロ対策特別措置法案 、在日米軍基地等を自衛隊が警備できるようにする 自衛隊法 改正案、船体射撃を可能にする 海上保安庁法 改正案の採決が行われた。その結果、 特措法案 は与党三党等の賛成多数で可決された他、 自衛隊法 改正案は与党三党と民主党等の、 海上保安庁法 改正案は与党三党、民主党と日本共産党等の賛成多数で可決された。18日に衆議院本会議で可決され、参議院に送付されるという。なお、 自衛隊法 改正案は、在日米軍及び自衛隊基地の警備を行う「警護出動」という新たな任務を自衛隊に与える他、昨年9月の海上自衛隊スパイ事件を受け、防衛機密の保持のため「防衛秘密」に指定された機密を漏らした自衛官等に最高5年の懲役刑を科す条項が含まれている。
 今回の特措法案については、最後になって与党側が民主党の求める新法修正を拒否したため与野党一致とはならず、民主党は独自の修正案を出した(自由党は集団的自衛権を正面から認めるべきだ、として反対に回った)。与党側が昨晩の党首会談で譲歩しなかった背景には、連立を組む公明・保守両党がこれ以上首相と民主党が接近するのを恐れて圧力をかけたからだとも報じられているが、ともかく、最後の細かいところで自民・民主両党の対応が別れてしまったのは残念であった。
 もっとも、 自衛隊法 改正案については民主党も賛成した他、 海上保安庁法 改正案については民主、自由に加えて共産党も「(領海での)日本への主権侵害に対応するのは海上保安庁だ。その機能を充実させることは必要だ」という立場から賛成に回っており、事実上挙国一致であった。一体、社会民主党は如何なる理由で 海上保安庁法 改正案に反対したのであろうか。

■野中元幹事長らの不可解な採決欠席
 テロ対策特措法等、与野党の賛成多数で衆議院本会議で可決(10月18日)
 報道によると、衆議院本会議は18日午後、16日に委員会で可決された自衛隊による米軍等後方支援・難民支援を可能にする テロ対策特別措置法案 、在日米軍基地等を自衛隊が警備できるようにする 自衛隊法 改正案、船体射撃を可能にする 海上保安庁法 改正案の採決を行い、特措法案を与党三党等の、自衛隊法改正案は与党三党と民主党等の、また 海上保安庁法 改正案は与党三党、民主党と日本共産党等の賛成多数で可決された。ただ、採決では、 特措法案 について民主党の後藤茂之氏が政府案に賛成し小林憲司氏が棄権した他、逆に自民党の野中広務・元幹事長と古賀 誠・前幹事長も棄権。 自衛隊法 改正案の採決では民主党の今野 東氏が反対に回ったという。
 採決を欠席した理由について自民党の野中元幹事長と古賀前幹事長は「この重要法案を記名採決とせず、起立採決とするのは同意できない」と語っているという。これは、今回の法案採決が民主党の反対に配慮する自民党執行部によって起立採決となり(記名採決にすると民主党から造反議員が更に多く出る危険性があった)、記名採決を求めていた公明党や保守党の主張が受け入れられなかったことを受けたものと思われるが、それにしても欠席は不可解という他無い。なるほど確かに「重要法案は記名採決」という論理は間違ってはいないが、果たしてそのためにこの重要な法案それ自体に棄権するのは如何なものか。昨年秋の「加藤の乱」の際、当時の野中幹事長らは「(森内閣不信任決議案に)欠席した議員も同罪だ(反対票を投じたものと看做す)」と発言しており、それに照らせば今回の野中氏らの行動は事実上の政府案反対である。想像するに、ハト派で知られ、自衛隊による重要施設警備にも反対していた野中氏としては、自衛隊の海外派遣に道を開く今回のテロ支援法案には心情的に反対であり、公明党に対する配慮と併せ、「記名採決」にこじつけて事実上の反対意思を表明したのではないだろうか。しかし、仮にそうだとすれば、野中氏らの行動は、我が国の国際的地位や日米同盟を危うくするものであると評する他ない。
 他方、野党・民主党から、起立採決とはいえ2名の造反者が出たことは、同党の安全保障政策のあいまいさ、「野党版自社さ連立」状態の不安定さを物語るものに他ならない。同党参議院には先日もテロ反対決議案に一人反対した大橋巨泉議員もおり、「造反劇」は今回だけに留まりそうも無い。

■国民の7〜8割は「自衛隊派遣賛成」だ
 読売新聞、テロ事件に関する世論調査の結果公表(10月22日)
 報道によると、「読売新聞」は22日、同社が20日・21日に実施した全国世論調査(面接方式)の結果を公表した。それによると、今回の同時テロ攻撃事件を受け米英軍が軍事行動を開始したことについて、「当然だ」(23%)「やむを得ない」(63%)として支持・容認する意見が83%にのぼった他、我が国の対応については「難民への支援」(63%)、「医療・輸送・補給などの後方支援」(57%)、「アフガニスタンへの復興支援」(37%)、「テロ資金の封じ込め」、「情報の収集・提供」等が選択され、「協力すべきではない」はわずか2%だったという。なお、米英軍の軍事行動については自民党支持層で91%、民主党支持層で84%に上った他、社民党支持層でも7割、無党派層でも8割が「支持」「容認」を打ち出した。また、小泉内閣の支持率は77%と、依然高水準を維持していた。
 一連のテロ攻撃事件に対する世論調査では、先月25日に「日本経済新聞」が「米軍への後方支援賛成8割」等とする調査結果を公表した一方で、「朝日新聞」が1日公表した結果(電話方式)では、自衛隊の米軍後方支援のための海外派遣について賛成が42%、反対が46%(内閣支持率は70%)となり、報道各社の調査結果のばらつきが目立った。なお、10月13日・24日にテレビ朝日番組「ニュースステーション」が実施した電話世論調査でも、米軍の報復攻撃について支持51%・不支持37%、自衛隊派遣について支持55%・不支持35%(内閣支持率76.4%)と結果が新聞社のそれとやや違ったが、それでも自衛隊派遣支持派が過半数だった。各社の内閣支持率がほぼ同じで7〜8割であるのに自衛隊派遣問題について調査結果が異なるのはやや奇異であり、特に「朝日新聞」のそれは時期の違いを考慮しても差が激しい。同社の世論調査は8月の靖国神社参拝問題でも他社の結果と大きく異なっていたという経緯もあり、その設問方法に問題があるように思われる。
 とはいえ、全体として見れば、7〜8割の国民が今回の 後方支援法案 や自衛隊派遣に賛成し、我が国の積極的な国際貢献を支持しているという事実は重要である。少なくとも、如何に外交当局が湾岸戦争当時の失敗を踏まえて国際社会との強調路線を打ち出そうとしても、国民の支持が得られなければそれを実行に移すことは出来ないのである。

■公明党の党利党略にしか見えない選挙制度改革案
 与党三党、2人区・3人区創設の衆議院選挙制度改革案で合意(10月25日)
 報道によると、自民、公明、保守の与党3党の幹事長は24日会談し、公明党が求めていた衆議院の選挙制度改革問題について、市や特別区を分割している小選挙区を合併することで3人区2個と2人区12個を新たに創設することで大筋一致した。30日に開かれる与党選挙制度改革協議会(座長:中山正暉・自民党選挙制度調査会長)で正式に合意した後、今国会で公職選挙法改正を目指す方針という。
 今回の問題は、1選挙区で1つの議席を巡り争う小選挙区制の下では与党第一党(自民党)又は野党第一党(民主党)のいずれかが議席を獲得し、第二党以下の政党が議席を得ることが困難であることを踏まえ、自党の議席を伸ばしたい公明党が中選挙区制度の復活を求めているもので、公明党自身は3人区150選挙区の制度を提唱している。これを受けて与党三党は9月20日に一旦は「大都市部に2—4人区を導入する」という中選挙区制一部復活案をまとめたが、都市部出身の自民党議員を中心に与党内で反対が強く、挫折。その後、自民党が「政令市を除く市と特別区を分割している選挙区を合併して12前後の2人区を作る」との妥協案を示したものの、2人区では議席を自民・民主両党に取られて第三党が勝利する余地に乏しいため公明党側が反対。今回の3人区2個・2人区12個の案に落ちついた。
 しかし、今回の選挙制度改革案は、野党側が指摘するように完全に公明党の党利党略によるものであって到底賛同し難い。「地方公共団体の区域を分割している1人区を併合する」という理念にしても、今回の与党案ではいくつかの「分割された自治体」をなお残しており、徹底していない。報道では川崎市を中心に3人区を作るとしているが、なぜ川崎だけ3人区で他は1人・2人区なのか。納得のゆく説明は何一つなされていない。無論、全ての選挙制度がある政党にとっては有利なものになることは避けられない訳で、選挙制度改革に党利党略が潜んでいること自体は否定し得ないが、それでもこれまでの改革ではそれなりの理念が示されていた(細川政治改革の際は、「金のかかる人物本位の中選挙区から政策本位・政党本位、政権交代可能な小選挙区へ」という理念があった)。公明党がこの案を成立させたいなら、まずはじめに有権者に対して本改革案の理念を明快な言葉で説明すべきである。また、我が国の国際社会における外交的な役割を規定するテロ対策法案やPKO協力法改正案と取引するようなことがあってはならない。
 思うに、今回の選挙制度改革案はその当初から「党利党略」という印象が強く、野党はおろか与党内部にも反対論が根強い。そうした中で与党三党がこの改革案を法制化し、無理矢理次の総選挙を戦ってみたとしても、イメージの悪化する公明党は却って支持を減らし、思ったように議席を伸ばせないのではないか。しかも、改革案を巡って自民党の一部議員と民主党が反対にまわれば、自・公・保連立体制の結束力が揺らぎ自・民提携の流れが一層加速される事態も想定され得る。そのように考えるとき、本件改革案が実は公明党自身にとっても不利に働くような気がしてならないのだが・・・。

■ジェンダーフリーを目指すなら言葉には気をつけるべき
 土井社民党党首、衆議院選挙制度改革を「男の浅知恵」と批判(10月26日)
 報道によると、社会民主党の土井たか子党首は26日、与党三党の幹事長が衆議院の選挙制度改革案で合意したことに関連して同党の会議で発言し、「やり方がひどすぎる。男の浅知恵だ。法案が出たら世の中が廃れる」と述べて与党側の対応を強く批判したという。
 土井党首のこの言葉は、今回の与党の選挙制度改革案に対する強い憤りの念に駆られたものであることは、(25日の記事にも書いたように)理解できる。しかし、如何に与党案に問題があるとはいえ、それを以って「男の浅知恵」等と表現するのは、如何なものか。
 無論私自身は、そうした細かい言葉の使い方を論い、「ジェンダーフリーの世の中に反する」等と糾弾するつもりは毛頭無い。しかしまた、土井党首は、その過去の言動からしても「ジェンダーフリー」という考え方に賛同し、それを積極的に推進する立場にあると思慮される。少なくとも、29日に同党の党大会で新しく幹事長に選任された福島瑞穂参議院議員は「ジェンダーフリー」を主張する弁護士出身議員だ。そうした立場をとる代表的な政党の党首が「男の浅知恵」なる表現を使うことが、果たして「ジェンダーフリー」という考え方と矛盾なく許されるのか。大いに疑問であると言わなければなるまい。それとも同党首は、社会民主党の安全保障政策「土井ドクトリン」に反対する国会議員が同ドクトリンを「女の浅知恵」と表現しても、何等問題視しないつもりであろうか。

■数字による等級区分廃止には反対だ
 「栄典制度の在り方に関する懇談会」、報告書を提出(10月29日)
 報道によると、我が国の叙勲・褒章制度等の見直しを進めてきたた首相直属の「栄典制度の在り方に関する懇談会」(座長:吉川弘之・日本学術会議会長)は、29日小泉純一郎首相に報告書を提出した。これを受けて政府は、2年後を目途に報告書の内容の実施を目指すという。
 報告書の中で懇談会は、現行の旭日章(又は宝冠章)と瑞宝章の上下区別を無くし、12段階ある現在の等級区分を6段階に簡素化した上で、「勲1等」「勲2等」といった数字による等級区分を廃止。それぞれの等級に固有の名称を付けることとしたが、ランクづけそのものは残るとした。受賞者の選定方法については、中央省庁や地方自治体の推薦に加え、一般国民からの推薦も受けつけることで人の目につきにくい重要な業績にも授与できるようにした他、受賞基準の法定化(現在は政令レベルの「褒賞条例」によっている)については否定した。
 同懇談会が叙勲の「官民格差」論について、最終報告でも「数値目標を設定することは不適当」としてこれを否定したことは妥当であろう。むしろ、現行制度では自己の生命を賭けて国防の任務にあたっている自衛官に対する叙勲が比較的不利であり、これを是正することこそ急務である。しかし、俗耳に入りやすい「人に序列をつけているとの誤解を無くす」という議論から明治以来の伝統的な数字による等級区分廃止を打ち出したのは、疑問無しとしない。国家的な業績と地域的な業績を等しく扱うことは却って不平等であるし、数字による区分を廃止しても名称による区分を残せば、同じ批判を受けることに変わりは無い。しかも、叙勲と同時に行われる叙位は「存続が適当」としており、ちぐはくな面が否めない。数字による等級区分は残すべきである。


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