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健論時報
  2001年10月  


■「平和条約で賠償問題解決」は国際法上の常識だ
 米連邦議会に第二次大戦強制労働の賠償を支援する法案が提出される(9月1日)
 報道によると、2001年9月8日のサンフランシスコ講和条約(日本国との平和条約、昭和27年条約第5号)調印50周年を前に、アメリカ連邦議会で、大戦中に日本企業で強制労働をさせられた元米兵捕虜等の損害賠償請求訴訟を可能にする法案が複数提出されている。この問題は元々、1999年に「ナチス・ドイツとその同盟国による強制労働の損害賠償請求の時効を2010年まで延長する」カリフォルニア州法が成立したことに端を発しており、現在、捕虜となって日本企業の炭坑や鉱山で強制労働させられた元軍人や遺族、それに英国・オランダの元連合国軍人や韓国・中国の一般国民も三井物産や三菱商事、新日鉄等の大企業を相手取って複数の訴訟が提起されている。訴訟の内、17件は既に請求棄却の判決が下されているが、この流れを受けて、今年3月には米共和党のデーナ・ローラバッカー下院議員と民主党のマイク・ホンダ下院議員が、「裁判所に対し、講和条約を米国民の請求権放棄を定めたものと解釈して係争中の訴訟を排除しないよう義務づける」法案を提出(上院でも6月に共和党のボブ・スミス上院議員が同様の法案を提出)。更に、ローラバッカー下院議員は、アメリカ政府の連邦裁判所への意見書提出を阻止すべく、7月にも2002会計年度の歳出法案に「元米兵捕虜の訴訟に反対する行為に国務、司法両省が予算を使うことを禁じる修正条項」を盛り込む法案を提出し、408対19の賛成多数で可決させている(上院でもスミス議員が同様の法案の提出を検討)。これに対して在米日本大使館は議会関係者やメディア対策に乗り出しており、柳井俊二駐米大使も「今さら50年前の話を蒸し返すと、せっかく発展してきた日米関係に影を差しかねない」と懸念を示しているという。
 この問題については、既に本誌2000年4月号「 カリフォルニアでの対日企業賠償訴訟に思う 」に詳述したので繰り返さないが、国際法解釈の常識からすれば、講和条約第14条の規定によって日米両国は政府及び国民(企業を含む)が相互に有する請求権を一括して放棄しており、日本・米国いずれの国においても、相手国企業や個人を訴える訴訟は不適法となる(詳しい理由は上記記事を参章して頂きたいが、その理由を示せば簡潔に、講和条約によって両国が外交的保護権を相互に放棄するのは、それ以前の段階で既に両国国民が「国内救済の原則」を満たし得なかったからであり、講和条約締結を以って全てが一括「清算」されるからである)。講和条約第14条は両国政府及び国民が全員で相互に和解契約を締結したようなものであり、一旦締結した契約を破棄するのは不法だということだが、それがきちんと理解されていない(しかも、強者が弱者に無理やり賠償を放棄させたのならともかく、実際には強者である戦勝国が弱者である敗戦国に対する請求権を放棄しており、何等不法な和解ではない)。元捕虜らは「民間人が民間企業を訴えるのは別」「当時の賃金支払いを求めている」「アメリカ政府は裁判所に我々の犠牲と尊厳、正義を無視させようとしている」等と主張しているが、「民間企業を訴えるのは別」ではないのである。日米両政府も、「平和条約で賠償問題は決着ずみ」とする国際法上の常識的な解釈を採用しており、講和条約締結以後の戦時損害賠償については各国政府の国内問題として処理されるべき性質のものである。
 国土を統治する政府が消滅し、東西に分断されて連合国と講和条約を締結することが出来なかったドイツとは異なり、我が国には講和条約で相互の請求権放棄を確認しており、この問題で妥協すれば、講和条約その他の戦後処理条約で一旦は決着していたはずの賠償問題全体に飛び火する可能性もある。それだけに、この問題で安易な妥協はすべきでなく、アメリカ議会への粘り強い説明と説得が必要であろう。ただ、もし現実問題として、アメリカ議会が上記の法案を可決させ賠償問題を蒸し返すような態度をとれば、それは実質的な講和条約破棄に他ならない。その際は、我が国としても独自に法案を作成し、我が国の空爆(史上唯一の原爆投下を含む)に関連して生じた損害をアメリカの兵器関連企業に賠償するよう求めることで、牽制する他なかろう。

■栄典制度に「官民格差」があるのは当然、是正の必要なし
 「栄典制度の在り方に関する懇談会」、最終報告書の原案まとめる(9月5日)
 報道によると、我が国の栄典(叙勲・褒章)制度の見直しを議論している政府の「栄典制度の在り方に関する懇談会」は5日、最終報告書の原案をまとめ10月29日に小泉首相に提出する方針を固めた。原案は、「人間に1等、2等という区別はおかしい」等としてこれまでの「勲一等」「勲二等」といった数字による等級表示を廃止するものの、ランク付けそのものは残った他、政治家や官僚が受章者の7割を占める「官尊民卑」の傾向についても、「官には治安を守る警察官や自衛官などが含まれるため、官が民の2倍という議論や、比率を設定することは適当ではない」として特段の改善策を示していないという。
 そもそもこの懇談会は、最近になって「栄典制度に官民格差がある」「人生に等級をつけるのはおかしい」等といった風潮に乗せられて設置されたもので、その結論は一部を除いて妥当であろう。少なくとも、官民比率を1:1に是正すべしとした昨年4月の自民党懇談会よりはまともな答申である。「叙勲に官民格差がある」というが、栄典制度は国家・社会のために尽くした内外国民を表彰するものであり、私的利潤の追求ではない公的分野において働いている公務員に結果として手厚くなるのは当然の理であって、何等非難すべきことではない。「国民に勇気を与えた」といった積極的な貢献については既に「国民栄誉賞」がある以上、栄典制度は専ら「彼・彼女のその行動によって、国家的な損害を回避できた」といった消極的な貢献を対象とし、さてこそは警察官や自衛官に受賞者が多くなるわけである。また、国家に対する勲功といっても、小は地域社会における活動から大は国家非常事態における命懸けの任務まで様々であり、事の重大性に応じてランクを分けて栄典を授与しないと却って不公平なことになりかねない(「人生を数字でランク付けはよくない」というのは、浅薄な発想だと言わざるを得ない)。我が国の栄典制度は明治時代にはじまる長い歴史を持つものであり、軽々しく数字による等級配置を廃止したり名称を変更したりすべきではないと考える。「栄誉を与えるべき者にはきちんと栄誉を与えること」は信賞必罰のもう一つの重要な側面であり、それなくして健全な組織運営は有り得ないのではないだろうか。

■「報復反対」は「テロ屈服」「テロ黙認」と同義だ
 護憲団体、国会周辺でデモ行進(9月17日)
 報道によると、「許すな!憲法改悪・市民連絡会」(奥平康弘・東大名誉教授)ら各地の護憲団体は17日、「武力報復は何も解決しない」等して国会周辺をデモ行進し、アメリカの報復攻撃を批判した。同団体らはこれまでのアメリカの軍事行動を批判した上で、これ以上の報復行動は「更なる暴力の連鎖を生むだけ」とアメリカに自制を求めたという。また、日本共産党と社会民主党も17日、アメリカの報復攻撃を批判する声明を発表した。
 今回のテロを決行したグループは、言わば「軍事力のみによって存在する亜国家」であり、普通の国のように合理的な交渉が可能な相手ではない。そうした相手に対して対話や通常の逮捕を模索するは不可能で、外交・経済の諸手段は副次的なものであり、問題を根本的に解決するには正に軍事力によって威嚇するか、彼らの存在そのものを抹殺する他無い。少なくとも今のアメリカは、アフガニスタンにおける地上戦のリスクを負ってでも、テロ撲滅に向けた意味ある行動に出ようとしている。またアメリカは、社共両党が懸念するような「報復の連鎖」を起こさないようにするために、はじめから全国力を挙げ、圧倒的な戦力と外交力でテロ組織を殲滅せんとしているのであり、心配は無用である。共産党が主張する「国連による捜査・逮捕」は一見正論に聞こえるが、国連自身に捜査機関や強制手段が無い以上、結局は加盟国の警察力や軍事力に依存せざるを得ず、例え国連が正面に出てきても実際は現状とあまり変わらない。ましてや、護憲団体が主張するようにテロ攻撃を受けても犯人らを放置しておくというのはテロに屈服すること、テロを黙認することと同義であり、到底正常な意見とは捉え難い(ラディン一派がアフガニスタンのタリバーン政権に匿われている以上、タリバーン軍を排除してラディンを逮捕するには軍事的手段による他ない。「軍事的手段によらず逮捕せよ」というのは、「毒ガスで反撃するテロ組織に防毒マスクなしで逮捕に向かえ」というようなものである)。タリバーン側が18日になっていくつかの条件をつけながらもラディン氏の身柄引渡しに応じるかのような態度を示し始めたのも、アメリカが戦術核兵器の使用を含めた報復軍事行動を本気で準備し圧力を加えているからに他ならない。テロの原因をブッシュ政権の中東政策に求める意見もあるが、ラディンらは湾岸戦争以降ずっとアメリカに対する敵意を暖めつづけてきたテロリストであり(今回の事件も長い時間をかけて準備されていた)、政権交代で突然テロをはじめたのではない(問題は、むしろクリントン民主党政権の無軌道な外交政策にあるとすら言える)。そして、イラクのクウェート侵攻を容認し得ない以上、湾岸戦争当時サウジアラビアに多国籍軍を展開させることは不可避であった。報復反対を叫ぶ「市民」らは、このことを一体どう考えているのだろうか。彼らは、厳しく糾弾されるべきである。
 ましてや、19日のテレビ番組「ニュースステーション」(テレビ朝日)でキャスターの久米宏氏が述べたような、「日本は憲法があるから人は出せないという信念を持って、資金援助だけすればよい。信念を貫いて国際社会の批判を甘受しよう」といった言説は正気のものとは思えない。久米氏は、自らの言論を信ずるならば、自らや自らの家族が犯罪の被害にあっても、警察官による強制力(有形力)を使った逮捕を拒絶するのであろうか。「日本がイスラム世界との対立に巻き込まれる」と懸念するむきもあるが、「イスラム対キリスト」の構図を立てることはテロリスト側の思う壺であり、そのような見解を提示することはテロの味方になることと同義である(無論、アメリカが絶対的正義というわけではないが、この時点でイスラム側の論理につくべきか、アメリカ側の論理につくべきかは明かである)。

■テロと闘う軍用機の騒音ぐらい我慢したらどうか
 厚木基地の臨時夜間発着訓練で騒音の苦情が1000件殺到(9月18日)
 報道によると、アメリカでの同時テロ攻撃事件を受けて、在日米軍厚木基地では空母艦載機による夜間発着訓練が急増。市民から苦情が殺到しているという。普段、艦載機の訓練は硫黄島の他厚木基地でも地元自治体に通告された後、平日に限って実施されることがあるが、今回は事前通告も無く、休日にも実施されたことから苦情が出たものと思われる。
 軍用機は、最近の民間機とは異なり騒音を抑制するよう設計されていないので、特に騒音がひどい。そうした騒音を夜間聞かされるのは苦痛であることは理解できるが、だからといって在日米軍を批判する等というのは、今回の全米テロ攻撃事件に対する認識があまりにも甘いと言わなければなるまい。「テロはひどいと思う」という言説と米軍を批判する態度は矛盾しているのであって、特に今回被害を受けたアメリカ国民からすれば、基地周辺住民のこうした態度は「テロ組織の存続を容認した」と受け止められかねない。

■「対米協力法案」を政争の具にするな
 厚木基地の臨時夜間発着訓練で騒音の苦情が1000件殺到(9月19日)
 報道によると、小泉純一郎首相は19日記者会見し、今回のテロ攻撃事件に対する政府の当面の対応措置7項目を発表した。それによると、①国連安保理決議に基づいて行動する米軍に対して、医療・輸送・補給等の支援活動を行うため自衛隊派遣に必要な措置を早急に講じる、②インド、パキスタンに対する緊急経済支援、③国内の米軍施設など重要施設警備強化のための自衛隊法改正、④情報収集のための自衛隊艦船の派遣(イージス護衛艦「きりしま」を派遣。 防衛庁設置法第5条第18号 による)、⑤出入国管理に関する国際協力、⑥自衛隊を含むアフガン避難民支援、⑦経済システムの混乱回避のための措置、等を行うとしており、特に①については、「米国において発生した国際テロリズムに対処するため国連安全保障理事会決議及び国連憲章25条の規定に基づく米国に対する協力に関する法律」を制定。 周辺事態法 (周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律、平成11年法律第60号)では出来ない武器・弾薬の提供や戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機への給油・整備も含めて後方支援を行う他、「海上自衛隊支援艦隊(仮称)」を編成して大型輸送艦とこれを護衛する護衛艦、対潜哨戒機をインド洋に派遣するという。
 従来の我が国政府からすれば相当思い切った措置で、仮にこれらの措置が完全に実施されれば高く評価し得るものだが、新法が今回の事件に適用を限定した特例法としているところに疑問が残る。「テロ対策のためには武器弾薬の輸送が出来るのに、朝鮮半島有事では一切できないといのは不自然だ」という声も上がってこよう。一日も早い成立が望まれるが、この法案を巡っては日本共産党、社会民主党が反対する姿勢を示している他、あろうことか自由党までもが「国連決議の無い段階で対米支援に踏み込むのは拙速」等として反対する姿勢を示しており、原則賛成の民主党もいくつかの条件をつけるとしている。テロに屈服した社共両党が断固テロと闘う法案に反対するのはまだわかるが、なぜ自由党は今回の法案に反対するのであろうか。国際連合は国家を単位とする国際機構であって世界政府ではない。国際連合は国家を上回る地位を有するものではなく、その法人格も条約(国連憲章)によって特別に認められたものに過ぎない。そうした存在の国連に過度な期待をするのは危険だし、第一、今回の事件では我が国自身も直接被害を蒙っているのであって、国連決議が絶対条件になるわけではない。民主党は新法上の自衛隊の活動について「国会承認」を求めるようだが、今回の事態に限って制定される新法は既に「法制定」という形で国会承認を与えているわけであり、これに加えて更に国会承認を要求するのは屋上屋を架すだけだ。与党内でも意見にばらつきがあるというが、法案の迅速な成立を望みたい。

■国際法上の根拠は後から出来るものもある
 福島瑞穂参議院議員、国会で米国軍事報復の法的根拠を質問(9月19日)
 報道によると、福島瑞穂参議院議員(社会民主党)は19日、閉会中審査を行っている参議院予算委員会で質問に立ち、小泉純一郎首相に対して、予想されるアメリカによる報復軍事行動の国際法上の根拠についての認識を正した。「自衛権の行使のためには正規軍が侵略したというような武力の攻撃が必要。今回のテロは犯罪であり、戦争ではない」とする福島氏に対して小泉首相は「米国は戦争状態と認識している」と回答。これに対して福島氏は「ある国が軍事行動だと考えれば、(報復のための)軍事行動ができるわけではない」と反論したものの、結局首相が「米国は戦争状態と認識しているわけだから、米国が判断する。あらゆる手段を講じてこのテロに立ち向かうといっているのだから、可能だと私は思う」と押し切る形となった。
 福島議員は専ら「法適用」を仕事とする弁護士出身ゆえ、世の中の物事には必ず法律上の裏付けがあると信じて疑わないようだが、特に国際法の世界においては、そのような「弁護士の常識」は全く通用しない(恐らく、福島氏は、5000人以上の犠牲者を出した今回の事件を窃盗や詐欺と同様のものとして位置付けることで事態の重大性を隠蔽し、我が国の危機管理体制の整備を遅らせようと企図したのであろう)。何故ならば、国際社会においては、主権国家は原則として無制限の行動の自由を持ち、各国が合意した範囲内において国際法上の拘束の下に置かれるのであって、各国は法に服する主体であると共に法を創造する(立法する)立場も有するからである。従って、例え現時点で国際法上の根拠が無かったとしても、それを国際社会が慣行として法的確信を以って追認すればそれは新たな慣習国際法として成立するわけで、それで何も問題は無い(これについて『朝日新聞』は「福島氏が求める法的根拠は示せなかった」と報じているが、そのような書き方は読者に誤解を与える)。「法律上の根拠がなければ行政作用を発動してはならない」とする「法律による行政の原理」は、あくまで国内法だけの話である。恐らく、今回の事件でのアメリカの行動は、今後「国外からの組織的・大規模な犯罪は戦争行為と看做す」とする新たな国際法が定立され、それを根拠とした自衛権の発動が認められるようになっていくのではないだろうか。小泉総理が現段階で従来の国際法上の概念を使ってアメリカの行動を説明できないのは、当然のことなのである。

■国際法の常識に従った妥当な判決だ
 米サンフランシスコ連邦地裁、対日戦時補償を求めた訴訟を棄却(9月19日)
 報道によると、アメリカのサンフランシスコ連邦地裁は19日、第2次世界大戦中の強制労働に対して日本政府や企業側に補償を求めたフィリピン人たちの訴訟について、「アメリカの法廷で損害賠償を争うことはできない」とする決定を下した。同地裁はまた、中国や韓国などからの同様の訴訟についても言及し、「連邦政府の外交権を侵す」として、戦時中の残虐行為の犠牲者は世界のどこからでもカリフォルニア州の裁判所に訴訟を提起できるとした同州州法を無効であるとした。フィリピンはサンフランシスコ平和条約には参加していないが、1956年に二国間で平和条約を締結。補償請求権を放棄している。
 最近、サンフランシスコ平和条約を巡って、相互に放棄されたはずの補償請求権を蒸し返し、国際法上の妥当な解釈に合致しない論理で在米日本企業に損害賠償を認めるかの動きがあるが、今回のサンフランシスコ連邦地裁の決定はそうした動きに釘をさし、妥当な法解釈を求めるもので、高く評価したい。

■日米同盟を体現する空母護衛
 海上自衛隊、米空母「キティーホーク」戦闘群を護衛艦で護衛(9月21日)
 報道によると、海上自衛隊は21日、横須賀港から出港したアメリカの航空母艦「キティーホーク」他数隻の米軍艦を護衛する形で護衛艦「あまぎり」「しらね」を派遣。浦賀水道を南下したという。護衛には他に海上保安庁の船艇や特殊部隊も参加した。護衛艦がアメリカ海軍の空母を護衛することは日米合同演習ではよく見られる光景だが、実戦で行われるのははじめて。根拠条文は 防衛庁設置法 (昭和29年法律第164号) 第5条第18号 「防衛庁の所掌事務の遂行に必要な調査・研究を行うこと」だという。
 今回の護衛には「イスラム過激派が空母を襲うことはない」「海上保安庁の警備で十分」といった批判もあるが、湾岸戦争当時には実現しなかった護衛艦による護衛が実現したことは、確固たる日米同盟関係の存在を体現するものとして高く評価し得る。防衛庁設置法第5条を根拠条文とすることに批判もあるが、海上自衛隊は常日頃から警戒監視活動を行ったり基地間を移動したりしており、その一貫と捉えれば問題は無い( 同法第5条第18号 のいう「調査・研究」は「偵察・情報収集」ということである)。元来自衛隊や日米安保条約に批判的な一部の評論家(例えば、『朝日新聞』9月22日9面・高成田享アメリカ総局長の署名記事「まず外交の包囲網を」。同記事は直接この問題に触れたわけではないが、既に「外交の包囲網」は完成した段階でなおこのように「外交」を強調することで、問題の本質が亜国家との新しい戦争であることを隠蔽しようとしている)は相変わらず批判を続けているが、もはやそうした批判は国民世論の中では少数派であろう。

■アメリカ世論を誤解させる朝日新聞の記事
 朝日新聞、「平和望む」と題する記事を掲載(9月22日)
 「朝日新聞」は22日、夕刊一面に「NY『平和望む』」とする見出しを掲示。米野球大リーグのニューヨーク・メッツの選手らが犠牲者に祈りを捧げる写真と、タイムズ・スクエアで開催された反戦集会の様子を撮影した写真を掲げた記事を掲載した。特に、「若者数百人、反戦訴え」と題する後者の記事では、21日開催された反戦デモの模様を二段に渡って報道。「世界貿易センタービルで亡くなった人々の死を、戦争で汚すな」とする参加者の声を掲載した。
 しかし、こうした報道は現在のアメリカ世論を反映しているものとは到底言えず、同紙の紙面構成は読者に米世論の動向を誤解させる虞があると言わなければならない。少なくとも、私が事件後滞在していた際に見聞した限りでは、アメリカ世論の中で「報復を不要」とする意見はほとんど聞かれず、「報復軍事行動反対」を呼号しているのはごく少数の異端者であったと言える(報復軍事行動をしないということはテロの論理に屈服することを意味する以上、NY市民がそうした不正義を受容しないのは当然であろう)。現に、軍事報復を何度も主張しているアメリカのブッシュ大統領は国民から米史上初の90%という圧倒的な支持を得ており、アメリカの世論は明かに報復賛成に傾いている。それを、あたかもニューヨークで反戦の気運が高まっているかのような紙面構成をするのは、「我が国世論を対米支援反対に向かわせるための情報の恣意的な歪曲」と断罪されてもやむを得まい。

■対米後方支援は世論の支持を得た
 世論調査で国民の7割が「後方支援支持」を表明(9月25日)
 「日本経済新聞」が実施した世論調査によると、全米テロ攻撃事件を受けて制定が検討されている対米後方支援について、有権者の7割が自衛隊による米軍後方支援(賛成70%)と在日米軍基地警備(同76%)に賛同しているという。また、特殊法人改革の具体化やテロ対策に対する首相の陣頭指揮を受けて、小泉内閣の支持率は先月の約7割(69%)から約8割(79%)に再び上昇。「小泉人気」が一過性のものでないことが明かになった(なお、「朝日新聞」が28日・29日に実施した世論調査では、自衛隊派遣は賛成42%・反対46%となったが、何故このように極端な差が出たのかは不明)。
 この結果は今回のアメリカに対する一連のテロ攻撃事件に対して、多くの国民が憤りテロ撲滅に決意を新たにしていることを示しており、良識を反映していると言える。一部報道機関と政党はアメリカの報復軍事行動に強く反対しているが、そうした反対がテロに屈服すること意味する空理空論であり、テロに同情的な反米主義の発露であることは、日本共産党を除く全ての政党の支持層で後方支援法に賛成が反対を上回っていることからも明かだ。対米後方支援法を巡っては民主党以外の野党三党はいずれも消極的な姿勢を示しているが、こうした世論の動向は27日から開催される国会審議にも大きな影響を与えるのではないだろうか。当の小泉首相は24日渡米し、25日にはジュリアーニ・ニューヨーク市長、パタキ・ニューヨーク州知事らと記者会見を行って英語で我が国のアメリカ支持を強調したが、「CNN」や地元テレビ「NY1」でのこの模様が報道されたことは我が国外交にとって極めて収穫の多いものであった。


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製作著作:健論会・中島 健 無断転載禁止
 
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